溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル

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【2章】ユキと斗和

久しぶりのユキ2

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「千歳くんは優しいからそう思っちゃうのよ。レグのほうが惚れてるんだから、多少は甘えても大丈夫なものなのよ。α達って、パートナーに甘えてもらえるのが幸せな生き物なんだから」

優しい言葉が身に沁みる。エレナや樹との会話に夢中になっていると、ユキが千歳が座るすぐ横に、身体を割り込ませてきた。

「ちー! あのね、ユキね。幼稚園の発表会で、王子様やったんだけど、見てくれた?」
「うん。樹さんに動画で見せてもらったよ。ユキくんすごく格好よかったね」
「でしょお? あとね、小学校でクラスの委員長もしてるんだぁ」

ちょうど悪阻が酷い時期で、幼稚園の発表会には行けず、ユキに怒られてしまったのだ。動画では、ユキは王子様の役に扮しており、ドラゴンを玩具の剣でやっつけて、平和を取り戻した国でお姫様と結婚した。

「ユキの組は、なかなかお姫様役が決まらなかったんだよね」

樹の裏話に、千歳はくすっと笑う。組の男の子は恥ずかしがりやが多く、あまり王子様役をやりたがる子がいなかったらしい。

対して女の子は皆がお姫様をすると揉めに揉めた結果、何と全員がお姫様役になったというので驚きだ。動画の最後では王子様役のユキが代わり代わりに、全員の女の子とハグをして、観客達に手を振って劇は終了した。

ユキに「もう一度見て!」とせがまれて、千歳は動画が流れているスマホを見つめた。

「ユキ、ここでドラゴンをやっつけるの! かっこいいでしょ!?」
「ユキくんすごく目立ってるね。お姫様役の女の子も皆可愛い」
「でも、ちーが一番可愛いけどね」

千歳の言葉を借りるように、ユキがさらっとそんなことを言う。何気なく、でも不意を突かれて、千歳の頬は熱を持った。

エレナが「あらあら」と喜色めいた声を上げたことで、はっと我に返る。「そんなことないよ」と否定しようとしたら、斗和の泣き声にかき消されてしまった。
時間はちょうど午後の一時で、授乳の時間ぴったりだ。

「お腹空いちゃったね。斗和だけ先にご飯にしようか」

ミルクを人肌くらいに温め、斗和が泣くために口を開けた隙に、哺乳瓶の先を口に入れた。

「斗和くん本当に可愛い。レグみたいにならないことを祈るわ」
「どうでしょう。今のところはレグにそっくりですから。斗和、皆に可愛がってもらえて幸せ者だね」

ぷくぷくになった頬を、指の背で優しく撫でる。身じろいだので、千歳は「よしよし」と抱いている腕を揺らしてやる。

「ねえねえ、ちー。ユキね、小学校でね」
「斗和が眠りそうだから後で聞かせてね」
「……うん」

樹もエレナも千歳の周りに集まり、斗和はされるがままに手や足を触られている。くすぐったいのか、時々びくっと動くのが面白い。

「斗和くんはよく寝るいい子ねー。ユキなんか、夜泣きで毎日大変だったわ」
「そうだね。家の中だとぐずるから、交代で近くの公園に連れて行ってたのが懐かしい」

エレナと樹が楽しそうに思い出話に花を咲かせている。始めのうちは自分のことが話題に上がり、得意げにしていたユキだったが、斗和と比べられるとやけに静かになった。

「ユキくん眠たくなっちゃった? お布団敷いてあげるから、寝ててもいいよ」
「……いい」
「……そう?」

何だかぎこちない空気になってしまった。ユキと出会ってからもう一年も過ぎているのだ。ユキもそろそろ子供なりに自立心が芽生え始める頃だし、何でも甘やかしたり構うのは、対応としては適切ではなかったかもしれない。

ユキが両親と離れていた頃は、素直に千歳に甘えていたし、少しでも寂しい気持ちが紛れれば、とユキには愛情を与えていたつもりだ。

──ちょっと、寂しい気持ちのほうが強いかも。

心の中に影を落とすと、それが伝播したようなタイミングで、斗和がぐずり始めた。千歳はよしよしと宥めて、再び抱き上げようとした。

「わっ……!」

下に引っ張られるような力が突然かかり、千歳は咄嗟に斗和を胸へと抱き留めた。

「何やってるの! ユキ!」

斗和のお包みから手を離したユキが、エレナに叱られて、今にも泣きそうな顔をしている。千歳は斗和を一旦ベッドへと降ろし、ユキと同じ目線になるようにしゃがんだ。

ユキは自分のシャツの裾を握り、千歳の前で項垂れている。

「ユキくん。急に引っ張ったら危ないよね。斗和はまだ一人で立てないし、落ちちゃったら怪我するんだよ」

レグルシュと同じ色の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。ユキは声を上げずに、小さく鼻を啜りながら泣いていた。

「ちー……ごめんなさい」
「ユキ。どうしてこんなことしたの?」
「……だって。ちーは赤ちゃんとばっかり遊んでるもん。ちー、ユキと全然遊んでくれないっ」

思っていたよりも可愛らしい理由で、大人達は顔を見合わせると小さく微笑んだ。笑われたユキは、額に皺を寄せてむっとした表情になる。

大声を出そうとしたところで、眠っている斗和へ意識がいったのか、そのまま大きく開けた口を閉じた。ユキは悪いことをしたとちゃんと理解していて、斗和を思いやってくれている。千歳にはそれで十分だ。

「ごめんね。最近会えなくて寂しい思いしてたんだね。僕も、ユキくんどうしてるかなー、って毎日思ってるよ」
「うん……ユキもね、ちーと同じだよ」

千歳の言葉を聞いて安堵したのか、ユキの涙は早々に引っ込んだ。
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