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【2章】ユキと斗和
ライバル1
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「斗和は僕とレグがいないとだめだから、お世話しないといけないんだ」
「ちーは、斗和のシッターさんなの?」
「うーん……シッターさんじゃなくて、斗和のママなんだ」
ユキは可愛らしく小首を傾げる。ややあって、千歳の言葉の意味を飲み込んだのか、両手を頬に当てて驚いた顔をしてみせる。
外国人のようなユキの風貌とオーバーなリアクションが合わさると、愛らしさが倍増する。自分の母親であるエレナと千歳を、不思議そうに交互に見比べた。
「パパは……もしかして、ユキ?」
エレナと樹に笑いながら「何でなの」と突っ込まれている。
「斗和のパパはレグだよ」
「そーなのぉ!?」
ユキは腕を組んで何やら考え込んでいる。つい最近まで千歳はユキのシッターであったし、レグルシュはその雇い主だ。
仕事上の関係であった二人がパパとママになって……という経緯は、まだ小学生になったユキにとっては、複雑な思いがあるのかもしれない。
──でも、僕にとっては運命だと思うんだ。ユキくんが倒れた僕に気付いてくれなかったら……。
レグルシュとは今もこうして運命の恋では結ばれていない。レグルシュと過ごす毎日はどれだけ忙しくてすれ違っても、一日一日が宝物だ。
「え、じゃあ。ちーとレグは結婚したの?」
「え……えっと。うん。式はまだなんだけど」
「なぁんでレグと結婚したのぉ!?」
ユキの「なぁんで?」口撃を浴びせられて、千歳は苦々しく笑った。ユキはポン、と手のひらを叩いて、思いついたばかりの妙案を話して聞かせてくれる。
「じゃあ、ちーと斗和がユキの家に来ればいいじゃない」
「そ、それは。ユキくんのパパとママのお邪魔じゃないかなぁ……?」
「だぁいじょうぶ! ユキのお家広いから、ちーと斗和来てもいいよ!」
ユキは早速エレナと樹の元へ行き、「いいよね?」と目を輝かせながら問いかけている。愛息子に甘い二人だが、首を縦に振ることはなかった。ユキ自身は許可が下りるものだと思っていたらしく、信じられないと言いたげに目を丸くしている。
「それだとレグが一人になってかわいそうでしょ」
「えー? でもレグはユキといるとき、一人になりたい、って言ってたよ」
「あら? そんなこと言ってたの?」
ユキから詳しい話を聞こうとしたところ、玄関のほうから鍵を開ける音がした。出迎えようと席を立った千歳より早く、ユキがだっと走っていく。
ユキもレグルシュと久しぶりに会えるのが嬉しいのだろう。レグルシュだって、義姉夫妻とユキをもてなすためにいろいろと準備をしていたのを、千歳は知っている。
「ユキが一番最初にちーと結婚しよって言ったんだよ!?」
「あ? 何だいきなり」
──ゆ、ユキくん……!?
レグルシュのスーツを強く握り、ユキが膨れっ面になりながら遠いところにある不機嫌な顔を睨んでいる。同じ色の瞳を歪ませ、互いに瞬き一つしない。
「レグ。お帰りなさい」
二人の間に流れる不穏な空気をどうにかしようと、千歳は窺うように声をかける。レグルシュはユキに不敵な表情をした後、その片鱗を残すことなく穏やかな瞳を千歳に向けた。
「ただいま。千歳」
「あ……」
もう、と唇を寄せられた頬を押さえた。
足元で千歳とレグルシュの足に手をかけて、ぐっと割り込もうとするのはユキだ。力を込めているせいで、顔が赤くなっている。二人の間にいるユキを、樹がすみませんと抱き上げた。
「小学生になったのだから、少しは大人しくなったかと思ったが。野生児の頃と変わらんな」
「レグルシュさん……お久しぶりです。ユキがいつもお世話に……」
低頭する樹に、レグルシュは何と声をかけたらよいのか戸惑っている。樹に対する彼の反応が、千歳の見たことのないもので、内心疑問に思った。
「斗和は?」
「ベッドの中で寝てます。今日はご機嫌さんだったよ」
「そうか」
レグルシュは格好を綺麗にすると、足早に斗和のほうへ向かう。手足の肉付きが増し、時たま天使のように笑う斗和は、我が家のアイドル的な存在だ。
特にレグルシュは、千歳が声をかけなければ、何時間も斗和の側にいてずっと見つめていたりする。斗和の額に手のひらを置いてその上にキスを施すと、名残惜しい表情を残し料理の支度に取りかかった。千歳も手伝おうとキッチンのほうへ向かう。
「何か手伝いましょうか?」
「千歳は休んでいてくれ。料理はほとんど仕込んでおいたから、後は仕上げだけだ」
「でも」
テーブルでは義姉夫妻が人数分の皿と箸を並べている。レグルシュに促され、千歳はそちらを手伝おうとしたところ、ユキがとことことキッチンまでやって来た。
「何だ、つまみ食いでもしに来たか?」
「ユキもお手伝いする!」
レグルシュは「いらん」と断ると、ユキは地団駄を踏んだ。せっかくやる気になっているのにかわいそうだ。千歳は顔にくしゃっと皺をつくっているユキを抱き上げ、洗い場で手を洗わせてやる。
「サラダだけ先に出しますね。後はお願いしていいですか?」
「……ああ。頼む」
「ちーは、斗和のシッターさんなの?」
「うーん……シッターさんじゃなくて、斗和のママなんだ」
ユキは可愛らしく小首を傾げる。ややあって、千歳の言葉の意味を飲み込んだのか、両手を頬に当てて驚いた顔をしてみせる。
外国人のようなユキの風貌とオーバーなリアクションが合わさると、愛らしさが倍増する。自分の母親であるエレナと千歳を、不思議そうに交互に見比べた。
「パパは……もしかして、ユキ?」
エレナと樹に笑いながら「何でなの」と突っ込まれている。
「斗和のパパはレグだよ」
「そーなのぉ!?」
ユキは腕を組んで何やら考え込んでいる。つい最近まで千歳はユキのシッターであったし、レグルシュはその雇い主だ。
仕事上の関係であった二人がパパとママになって……という経緯は、まだ小学生になったユキにとっては、複雑な思いがあるのかもしれない。
──でも、僕にとっては運命だと思うんだ。ユキくんが倒れた僕に気付いてくれなかったら……。
レグルシュとは今もこうして運命の恋では結ばれていない。レグルシュと過ごす毎日はどれだけ忙しくてすれ違っても、一日一日が宝物だ。
「え、じゃあ。ちーとレグは結婚したの?」
「え……えっと。うん。式はまだなんだけど」
「なぁんでレグと結婚したのぉ!?」
ユキの「なぁんで?」口撃を浴びせられて、千歳は苦々しく笑った。ユキはポン、と手のひらを叩いて、思いついたばかりの妙案を話して聞かせてくれる。
「じゃあ、ちーと斗和がユキの家に来ればいいじゃない」
「そ、それは。ユキくんのパパとママのお邪魔じゃないかなぁ……?」
「だぁいじょうぶ! ユキのお家広いから、ちーと斗和来てもいいよ!」
ユキは早速エレナと樹の元へ行き、「いいよね?」と目を輝かせながら問いかけている。愛息子に甘い二人だが、首を縦に振ることはなかった。ユキ自身は許可が下りるものだと思っていたらしく、信じられないと言いたげに目を丸くしている。
「それだとレグが一人になってかわいそうでしょ」
「えー? でもレグはユキといるとき、一人になりたい、って言ってたよ」
「あら? そんなこと言ってたの?」
ユキから詳しい話を聞こうとしたところ、玄関のほうから鍵を開ける音がした。出迎えようと席を立った千歳より早く、ユキがだっと走っていく。
ユキもレグルシュと久しぶりに会えるのが嬉しいのだろう。レグルシュだって、義姉夫妻とユキをもてなすためにいろいろと準備をしていたのを、千歳は知っている。
「ユキが一番最初にちーと結婚しよって言ったんだよ!?」
「あ? 何だいきなり」
──ゆ、ユキくん……!?
レグルシュのスーツを強く握り、ユキが膨れっ面になりながら遠いところにある不機嫌な顔を睨んでいる。同じ色の瞳を歪ませ、互いに瞬き一つしない。
「レグ。お帰りなさい」
二人の間に流れる不穏な空気をどうにかしようと、千歳は窺うように声をかける。レグルシュはユキに不敵な表情をした後、その片鱗を残すことなく穏やかな瞳を千歳に向けた。
「ただいま。千歳」
「あ……」
もう、と唇を寄せられた頬を押さえた。
足元で千歳とレグルシュの足に手をかけて、ぐっと割り込もうとするのはユキだ。力を込めているせいで、顔が赤くなっている。二人の間にいるユキを、樹がすみませんと抱き上げた。
「小学生になったのだから、少しは大人しくなったかと思ったが。野生児の頃と変わらんな」
「レグルシュさん……お久しぶりです。ユキがいつもお世話に……」
低頭する樹に、レグルシュは何と声をかけたらよいのか戸惑っている。樹に対する彼の反応が、千歳の見たことのないもので、内心疑問に思った。
「斗和は?」
「ベッドの中で寝てます。今日はご機嫌さんだったよ」
「そうか」
レグルシュは格好を綺麗にすると、足早に斗和のほうへ向かう。手足の肉付きが増し、時たま天使のように笑う斗和は、我が家のアイドル的な存在だ。
特にレグルシュは、千歳が声をかけなければ、何時間も斗和の側にいてずっと見つめていたりする。斗和の額に手のひらを置いてその上にキスを施すと、名残惜しい表情を残し料理の支度に取りかかった。千歳も手伝おうとキッチンのほうへ向かう。
「何か手伝いましょうか?」
「千歳は休んでいてくれ。料理はほとんど仕込んでおいたから、後は仕上げだけだ」
「でも」
テーブルでは義姉夫妻が人数分の皿と箸を並べている。レグルシュに促され、千歳はそちらを手伝おうとしたところ、ユキがとことことキッチンまでやって来た。
「何だ、つまみ食いでもしに来たか?」
「ユキもお手伝いする!」
レグルシュは「いらん」と断ると、ユキは地団駄を踏んだ。せっかくやる気になっているのにかわいそうだ。千歳は顔にくしゃっと皺をつくっているユキを抱き上げ、洗い場で手を洗わせてやる。
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