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【3章】運命の恋
愛しいという気持ち1
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チョコレートでつくられたプレートに「1st Anniversary」と綴られている。
「わあ……すごい……。ありがとう。レグ」
「言いにくいんだが、それを用意したのは姉貴と樹だ。俺からのプレゼントはこっちだな」
「え?」
花束を受け取ったレグルシュが、千歳の前で片膝をついた。周囲からの視線が気恥ずかしい。レグルシュが胸元で抱えている薔薇は、どれも色鮮やかで美しい。中でも目を引くのは、見つめた先の瞳の色と近い色のライムグリーンの薔薇だ。
「プロポーズが家の前でおざなりだったからな。ここでもう一度、仕切り直させてくれ」
レグルシュと義姉夫婦からのサプライズに、千歳は上手く声が出せない。真剣なレグルシュの顔に、ゆっくり頷いた。
「千歳と出会う前の俺は、オメガと番うなんてあり得ない未来だと思っていた。俺の中のオメガへの偏見を変えてくれたのは、千歳だ」
「僕は、そんなことをしようとは思ってなくて……」
「ああ。下心を感じなかったから、お前の側にいるのは心地よかったのかもしれないな。ユキもそういった心の機微には敏感だったから、千歳を信頼していたのだろう」
婚約者に捨てられ、最悪の形で出会ったレグルシュとユキの信頼を築けたのが嬉しい。
レグルシュから花束を受け取った千歳の視界は、涙で濡れている。周りの席から温かな拍手を送られ、レグルシュとともに軽く会釈をした。
「エレナさんと樹さんと、他の人達にもお祝いされて幸せですね」
「ああ。千歳が幸せなら、俺も幸せだ」
結婚一周年記念の日に、千歳はネクタイピンのプレゼントを用意していた。どのスーツやネクタイでも合うように、天然石が一つついたシンプルなデザインのものだ。
身につけるものが千歳の知らないブランドやオーダーものばかりなので、レグルシュに装飾品を贈るのは緊張する。手に取ると、レグルシュの顔が綻ぶ。
「ありがとう。千歳。この石は……ラピスラズリか」
「はい。仕事運が向上するって教えてもらったんです。落ち着いた色で仕事でもつけやすいと思って」
「そう言われたら、頑張らないわけにはいかないな」
「体調を崩さない程度にお願いします」
「俺は頑丈だから、風邪を引けと言うほうが難しいぞ。千歳に頼まれても叶えられないかもしれない」
冗談を言いながら笑う。喜んで受け取ってもらえてよかった。レグルシュからも贈りものを渡されて、開けてみるように促される。
「これ……」
中に入っていたのは、オメガの項を守るチョーカーだった。アルファがオメガにこれを贈るのは、プロポーズと同義だ。レグルシュが千歳の項に、チョーカーを当てられると、冷たい感触に肩が上がった。触れ合っただけで、締めつける感触がいつまで経ってもやって来ない。
「お前の項に、噛み跡を残してからこれをつけたい」
欲を孕んだ表情で、レグルシュは千歳の耳にそう囁いた。
……────。
思えばその一言が、千歳の発情期とレグルシュのヒートを起こす引き金になったのかもしれない。初めてのときもそうだった。千歳がレグルシュやユキを愛しいと、引き止めたいと願ったら都合よく発情期がきたのだ。
──は、恥ずかしかった……。
春先だが夜風はまだ冷たい。先に身体を温めるようにと、レグルシュは千歳に風呂へ入るよう言った。湯船でのんびりと寛いでいたら、千歳と同じように裸になったレグルシュが来て……。
斗和がいるときは挿入を伴わないスキンシップだけだった。レグルシュも歯止めが効かなくなるのを避けるためなのか、後孔にはあえて触れず、前だけに刺激を送る。
物足りなさを感じていたが、産後の身体でレグルシュが気を遣ってくれているのだと思うと、「もっと」とは言えなかった。
「可愛い……千歳」
水気が残る潤んだ肌を、レグルシュの手が這う。寝室へ移動するまでに着せられたバスローブは、胸元に手を差し込まれただけで、簡単にはだけた。
「ん……んっ、あ……」
無意識に甘い声が漏れ出てしまう。甘ったるい矯声と吐息ごと、レグルシュは飲み込むように口付けを深くした。
「お前はしっかりしているのに危なっかしいところがあるから……他のアルファに拐われるのではないかと、気が気でなかった」
「そんなこと……あり得ません。僕には、レグだけです。斗和にとっても」
「その台詞は、愛を誓い合うときにもう一度聞きたい」
どういう意味なのだろう、と発情期で微熱を起こしている頭で考える。
その疑問は、声に出せなかった。油断していると、レグルシュが千歳の片足を抱え上げた。目の前のアルファに逆らえないまま、千歳はこみ上げる羞恥に耐える。
「わあ……すごい……。ありがとう。レグ」
「言いにくいんだが、それを用意したのは姉貴と樹だ。俺からのプレゼントはこっちだな」
「え?」
花束を受け取ったレグルシュが、千歳の前で片膝をついた。周囲からの視線が気恥ずかしい。レグルシュが胸元で抱えている薔薇は、どれも色鮮やかで美しい。中でも目を引くのは、見つめた先の瞳の色と近い色のライムグリーンの薔薇だ。
「プロポーズが家の前でおざなりだったからな。ここでもう一度、仕切り直させてくれ」
レグルシュと義姉夫婦からのサプライズに、千歳は上手く声が出せない。真剣なレグルシュの顔に、ゆっくり頷いた。
「千歳と出会う前の俺は、オメガと番うなんてあり得ない未来だと思っていた。俺の中のオメガへの偏見を変えてくれたのは、千歳だ」
「僕は、そんなことをしようとは思ってなくて……」
「ああ。下心を感じなかったから、お前の側にいるのは心地よかったのかもしれないな。ユキもそういった心の機微には敏感だったから、千歳を信頼していたのだろう」
婚約者に捨てられ、最悪の形で出会ったレグルシュとユキの信頼を築けたのが嬉しい。
レグルシュから花束を受け取った千歳の視界は、涙で濡れている。周りの席から温かな拍手を送られ、レグルシュとともに軽く会釈をした。
「エレナさんと樹さんと、他の人達にもお祝いされて幸せですね」
「ああ。千歳が幸せなら、俺も幸せだ」
結婚一周年記念の日に、千歳はネクタイピンのプレゼントを用意していた。どのスーツやネクタイでも合うように、天然石が一つついたシンプルなデザインのものだ。
身につけるものが千歳の知らないブランドやオーダーものばかりなので、レグルシュに装飾品を贈るのは緊張する。手に取ると、レグルシュの顔が綻ぶ。
「ありがとう。千歳。この石は……ラピスラズリか」
「はい。仕事運が向上するって教えてもらったんです。落ち着いた色で仕事でもつけやすいと思って」
「そう言われたら、頑張らないわけにはいかないな」
「体調を崩さない程度にお願いします」
「俺は頑丈だから、風邪を引けと言うほうが難しいぞ。千歳に頼まれても叶えられないかもしれない」
冗談を言いながら笑う。喜んで受け取ってもらえてよかった。レグルシュからも贈りものを渡されて、開けてみるように促される。
「これ……」
中に入っていたのは、オメガの項を守るチョーカーだった。アルファがオメガにこれを贈るのは、プロポーズと同義だ。レグルシュが千歳の項に、チョーカーを当てられると、冷たい感触に肩が上がった。触れ合っただけで、締めつける感触がいつまで経ってもやって来ない。
「お前の項に、噛み跡を残してからこれをつけたい」
欲を孕んだ表情で、レグルシュは千歳の耳にそう囁いた。
……────。
思えばその一言が、千歳の発情期とレグルシュのヒートを起こす引き金になったのかもしれない。初めてのときもそうだった。千歳がレグルシュやユキを愛しいと、引き止めたいと願ったら都合よく発情期がきたのだ。
──は、恥ずかしかった……。
春先だが夜風はまだ冷たい。先に身体を温めるようにと、レグルシュは千歳に風呂へ入るよう言った。湯船でのんびりと寛いでいたら、千歳と同じように裸になったレグルシュが来て……。
斗和がいるときは挿入を伴わないスキンシップだけだった。レグルシュも歯止めが効かなくなるのを避けるためなのか、後孔にはあえて触れず、前だけに刺激を送る。
物足りなさを感じていたが、産後の身体でレグルシュが気を遣ってくれているのだと思うと、「もっと」とは言えなかった。
「可愛い……千歳」
水気が残る潤んだ肌を、レグルシュの手が這う。寝室へ移動するまでに着せられたバスローブは、胸元に手を差し込まれただけで、簡単にはだけた。
「ん……んっ、あ……」
無意識に甘い声が漏れ出てしまう。甘ったるい矯声と吐息ごと、レグルシュは飲み込むように口付けを深くした。
「お前はしっかりしているのに危なっかしいところがあるから……他のアルファに拐われるのではないかと、気が気でなかった」
「そんなこと……あり得ません。僕には、レグだけです。斗和にとっても」
「その台詞は、愛を誓い合うときにもう一度聞きたい」
どういう意味なのだろう、と発情期で微熱を起こしている頭で考える。
その疑問は、声に出せなかった。油断していると、レグルシュが千歳の片足を抱え上げた。目の前のアルファに逆らえないまま、千歳はこみ上げる羞恥に耐える。
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