溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル

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【5章】アルファとオメガ

不穏な影2

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「今日は外国人の旦那さんはいないんですね」
「はい……昨日は登園初日だったので。斗和も朝にぐずっていたので、心配で来てくれたんです」

レグルシュの話題が上がると、斗和は「パパすごいんだよ!」とすかさず自慢話を披露する。あまり長居をするつもりもなかったので、千歳は斗和にお話は今度と囁く。

「旦那さん。自営業だったんですね」
「え?」
「名前で検索したら経営する会社が出てきたんです。お若いのにすごいですね」

的場はスマホの画面を千歳に見せた。La・Rucheの会社名と周防 レグルシュ、宇野木の名前が概要欄に連ねられている。店のレビューも出てきている。上位レビューのほとんどが、時々店に出ている外国人風の男の容姿を褒め称えるような内容だった。

「いいなぁ、社長夫人。もしかして、お手伝いさんとかもいらっしゃるんですか?」
「い、いませんよ。普通の家庭ですから」

羨ましがる言動には、まるで気持ちがこもっていないことに、千歳はうっすらと気付いた。的場の目には、千歳は「アルファに運よく見初められて玉の輿に乗ったオメガ」と映っているように思えた。

確かにレグルシュとの出会いは偶然だったが、それは結婚したどの家庭にも当てはまることではないだろうか。口にはしていなくても、レグルシュとは釣り合わないと言われている気分だった。

「今日もお仕事だったんですか?」
「ああ、はい。子供の迎えで抜けさせてもらいました。うちは男の人も育休が取れるので。こういうときは融通をきかせてもらえるので便利ですね」

綾乃の母親の影が見えず、千歳は疑問に思う。話題に出さないということは、悲しい事情があるのかもしれない。「大変ですね」と口ぶりだけで同情するのも、綾乃がかわいそうな気がして、千歳は相槌を打つだけに留めた。

「うちも専業するならするで、周防さんみたいに家のことをしてくれたらいいのに」

的場は怖いほどに感情のない言葉を吐いた。

「うちも同じような感じなんですよ」
「同じ、とは……?」
「同性同士の番という意味です」

千歳は目を瞠った。母親は千歳と同じオメガで、男という事実に驚く。ああ、だから、的場は妙に馴れ馴れしくこちらを気にかけていたのだと腑に落ちた。

「そ、そうだったのですね」
「仕事と家事の両立が大変だからって、妊娠と同時に仕事を辞めたんですよ。せめて産休を使ってから辞めればよかったのに」

的場は番に対する愚痴を並べた。的場家の事情を知らないので、千歳は安易に頷くことができない。的場は冗談を言うように話したが、彼の思考に傾いた本音は聞いていて気持ちのよいものではなかった。彼の娘だって隣で聞いているのに。

「私の妹は一人目も二人目もつわりはないって言ってましたよ。男のオメガが妊娠すると、そのへんは違うんですかね」

経験のある千歳に、的場は暗に問いかけた。

「さ……さあ。個人差があるとしか」

千歳は迷いながら答える。まだ的場は話したそうにしていたが、ふいに斗和がくしゅんと何回かくしゃみをした。春だけれどまだ空気は冷たいので、身体が冷えたのかもしれない。過剰に気にかけるふりをして、千歳は「失礼します」と別れの挨拶をする。

「あ、周防さん。……言おうかどうか迷ったのですが」

斗和を両手に抱いた千歳は振り返る。的場は自分の首筋を指でとんと叩き、千歳にジェスチャーを使って教えた。

「さっきから見えてましたよ」
「え……あ」

千歳は指摘された場所を、咄嗟に手のひらで押さえた。その反応が、的場の言葉を肯定することになってしまい、千歳の顔は赤くなった。

「これ、よかったらどうぞ」
「え? いえいえ。車で帰るだけなので大丈夫です。すみません、ありがとうございます」

的場はバッグから薄手のストールを取り出す。遠慮する千歳へ一歩近付くと、首筋の痕を隠すようにそれをふんわりと巻いた。

──……っ。

レグルシュのものではない、アルファの匂いにオメガの本能が刺激される。番になったオメガは、番以外のアルファのフェロモンを嗅いでも発情することはないが、至近距離で別のアルファの匂いを感じたのは初めてだ。動揺してしまった。

すぐに返そうとしたが、的場は綾乃を連れて行ってしまった。明日にでも返そうと、千歳は斗和を連れて車へ乗り込む。ストールを解くと、自分の鞄へと押し込んだ。

「お外寒かったね。冷えてない?」
「ちょっと寒かったー。ママは?」
「ママは大丈夫」

斗和の小さな手は、寒風に晒されてすっかり冷えていた。千歳は車内の暖房を強くして、幼稚園の敷地を出る。

「ママ、首だいじょおぶ? ケガしてるの?」
「怪我じゃないから大丈夫。何ともないよ。ありがとう」

千歳は抑揚のない声で言った。
今晩はレグルシュの帰宅が六時頃なので、今日の夕飯の担当は千歳だ。斗和が夕方のアニメに夢中になっている間に、千歳は準備をする。

今日は豚肉の代わりに鶏の唐揚げを使った、酢鶏をつくる予定だ。斗和はピーマンが苦手だが、濃い味付けにすることで何とか食べてくれる。
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