溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル

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【5章】アルファとオメガ

疑い2

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スマホを置いた途端、着信が入り千歳の心臓は縮み上がる。相手はレグルシュの同期で、共同経営者である宇野木うのきからだった。

「はい。周防です」
『もしもし。いきなり電話してごめんね。今忙しい?』
「いえ……今家にいるので大丈夫です」

レグルシュのことだろうかと思っていたら、案の定その通りだった。今は席を外しているらしく、隙を見て千歳に電話をかけたのだと言う。話を聞くに、どうやらレグルシュの様子が誰の目から見てもおかしいとのことだった。

『まるでユキくんが悪さをしたときみたいな怒り方だったよ……みんな空気読んであえて遠巻きにしてるから、今のところ被害ゼロだけど』
「そ……そんなことが。すみません。僕のせいで……」

今朝のことをレグルシュが話しているのかと思いきや、そうでもないらしい。宇野木は事情が分からないようで、それと千歳のことを心配して電話を寄越してくれた。

『いやいや、和泉さん……じゃなくて、周防さんのせいじゃないでしょう。普段、仕事でこっちに愚痴吐かれるのも珍しいことじゃないからね。学生時代からそうだったし、俺は慣れてるから大丈夫。だから周防さんも気にすることないよ』

宇野木はあえて喧嘩をした事情には触れず、千歳を励ましてくれた。

『俺からレグに何か言ったら……余計に拗れそうだよね。まあでも、何でも力になるから言って。レグに殺されない程度の範囲なら』

宇野木の冗談に、千歳は今日初めて笑えたような気がした。

「ご心配をおかけしてすみません」
『大丈夫だよ。気にしないほうが難しいかもしれないけれど。……あ、噂をすればボスが帰ってきた。周防さんまたね』

宇野木は早口でそう言うと、電話をすぐに切った。副社長である宇野木は、社長のことを「ボス」と呼ぶことがある。話していた向こう側に、レグルシュがいた事実に、千歳の身体は恐怖で震えた。

──大丈夫、大丈夫。

千歳はまじないをかけるように唱える。的場から千歳への恋愛感情は一切ないからだ。男でオメガであり、働いていない千歳に恐らくマウントを取りたいだけなのだろう。

仕事をしながら送迎をしている的場は素直にすごいとは思うけれど、勝手に比べられて見下されるような謂れはない。

斗和を迎えに行くと、何やら人の輪ができていた。女性の主婦達に囲まれているのは的場だ。男で背が高いので、遠くからでもよく目立っている。

ストールの入った紙袋を早く返してしまいたいのに、千歳はなかなか近付けない。

「毎日お迎え大変ですねぇ。うちの旦那にも見習ってほしいくらい。仕事帰ってからゲームして寝るだけなんだから」
「的場さん、本当にすごいわ。奥さんの具合は大丈夫? 困ったことがあったら私達に言ってね」

的場は苦笑いをしながら四方に頭を下げている。近付いた千歳に気がつくと、「周防さん」と名前を呼ばれた。

「お借りしていたものです。昨日はありがとうございました」
「別にすぐじゃなくてもよかったのに。どういたしまして」

的場は袋の中身を確認して、そう言った。主婦達は千歳に突き刺すような視線を向けてくる。そして、斗和が寄ってくると、ひそひそと何やら話を始めた。

「あの周防さんじゃない……? ほら、五年前くらいに問題を起こした」
「外国人のキツそうなお母さんだったわよね、確か。私の姉の子が同級生だった気がする。園長先生にイジメを訴えて退園させたんでしょ?」
「えー……確かにイジメはよくないけど、そこまでするもの……?」

明らかにこちらへ聞こえるように言っているものだった。千歳は斗和を連れて足早に園を出た。
途中で友達に「バイバイ」を言っていないと斗和は言い出して、戻りたいとごねられた。

「今日は早く帰らないといけないから」
「そんなのぼく聞いてない!」

車に乗せてもなお、抜け出して戻ろうとする斗和に、千歳は感情的になって叱りつけた。

「明日も会えるでしょう。我儘言わないで」
「だって、挨拶はしないといけないってママも先生も言ってたもん」
「レグと話さないといけないから! 何で分かってくれないの……!?」

千歳は車内で声を荒げた。斗和はわんわんと泣き始めたが、千歳は構わずに車を出す。

このままぎくしゃくするままで、レグルシュと番を解消するかもしれない……最悪な結末だけが頭に浮かび、とても冷静になれなかった。斗和に簡単な食事を与えて、二階で先に眠るように言った。

日が落ちて夜が更けた頃、玄関の鍵を回す音が聞こえ、千歳は夫を出迎えた。

「……お帰りなさい」

レグルシュは千歳の顔を見て、呆気に取られたような表情をしたが、すぐに険しいものへと変えた。

「レグ……あの、ごめんなさい。レグが心配しているようなことはないから……」
「……また、あのアルファの匂いがする」
「え?」

最初、何を言われているのか分からなかった。ストールは返したし、話していた距離も近くはなかった。
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