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【8章】溺愛アルファは運命の恋を離さない
二次会2
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──大丈夫。菫さんが知りたいのは、嘘や誤魔化しではなくて。本当のこと。
自分のことをよく思ってもらおうなんて、そんな見栄はない。受け入れてもらえないかもしれない。けれど、迷いはなかった。
「結婚式は……レグルシュさんと一緒に、しようと決めたのです。斗和を出産してから……思い出を残したいと」
菫は千歳の揺れる瞳を、まっすぐに見つめている。
「僕は、ユキくんのシッターとして働いていました。元婚約者の会社で働いていて、彼に不貞を疑われて……もちろん、疚しいことは何もありませんでした。職が見つからず困っていたところに、レグルシュさんが、声をかけてくれたのです」
菫はレグルシュの反応を窺った。レグルシュは千歳の言葉を、頷いて肯定する。
「シッターが終わって、ユキくんと離れたくないと思ったら……は、発情期に、なってしまって」
「千歳の発情期は予期しないものだった。俺も万が一のため抑制剤を使用していたが……」
千歳とレグルシュは言葉を詰まらせた。その先は語らなくても、菫は察しがついたのだろう。成り行きを聞いた菫は、椅子に背をつかせた。
「……二人の馴れ初めは分かりました」
菫は静かに告げる。続けて口を開こうとしたところ、いつの間にか菫の側まで来た斗和が声をかける。
「おばあちゃま、だぁれ?」
「と、斗和……!」
宇野木や義姉夫婦は顔馴染みだが、菫と顔を合わせるのは初めてだった。菫は少しびっくりしたようだったが、すぐに破顔した。
「おばあちゃまは周防 菫という名前なの。レグとエレナのお母さん」
「えー!? 全然似てないね!」
レグルシュの容姿をそっくり受け継いだ斗和が、菫の髪と瞳を見て言った。純日本人らしく、黒色だ。千歳とレグルシュは、菫から斗和を離そうと立ち上がった。
「でも、おばあちゃま。すっごく可愛い! ぼくのパパはかっこいいけど、おばあちゃまとママはかわいいねー」
「え、ええ……そうかしら?」
「うんっ。斗和くんはパパとお揃いだけど、おばあちゃまはママと似ててうらやましい! ぼく、どっちも好きだからね」
斗和は時折どちらに似たのか分からない発言や素振りをすることがある。菫の張り詰めた表情が和らいだのが、傍から見ていても分かった。菫は孫を抱き締めると、千歳にも柔らかい黒色の瞳を向けた。
「斗和くんというのね。素敵なお名前。……千歳さん」
「……はい!」
菫は目尻に皺をつくりながら、千歳に柔和な表情を見せた。婚前にレグルシュとフェロモンの事故という形で、子供を身籠ってしまった。オメガである千歳のほうがわざとアルファのレグルシュを誘ったのではないかと、そう捉えられてもおかしくない。それに、菫はオメガのせいで、愛するパートナーを失ったのだから……。
「あなたのような素敵な方とご家族と、ご縁が結べて光栄です。瑚雪のシッターをしていたことは、エレナから聞いていましたよ。千歳さんのお人柄は、瑚雪や斗和くんを通してよく分かりました。それに……あのレグルシュが選んだのだから」
菫の言葉に、目と頬がじんわりと温かくなる。レグルシュのほうも、白い肌を千歳と同じように染めていた。
「千歳さんに一つ、お願いがあるのだけれど、聞いてくれるかしら?」
「はい。何でしょうか?」
「いつでもいいから、斗和くんを連れてうちに遊びに来てちょうだい。独居の老人は結構寂しいものなのよ。エレナと樹さんもね」
「ママ……」
「エレナとレグはオメガの方と結婚したから、私に遠慮していたのでしょう? でも、そのような気遣いは不要よ。可愛い孫達に会わせてくれないほうが意地悪だわ」
義姉夫妻と新郎新婦は、揃って頷いた。離れたところで、式に来賓した人達にスピーチを褒められていたユキも、こちらに戻ってきた。デザートか何かをもらっていたのだろう。口の周りには食べた跡が残っている。
「あらあら。ユキちゃん。こんなに大きくなって!」
菫は久しぶりの孫との再会に喜ぶ。が、ちゃん付けを嫌っているユキは、可愛い顔にくしゃっと皺をつくり、むすっとした声を出した。
「ちゃんじゃなぁい!」
「ごめんなさいね。ユキくん」
「ばあば間違えないでね!? 斗和も男の子だからねっ」
式が終わった後、しばらく離れていたユキと斗和は、磁石が引き合うように抱擁を交わした。千歳とレグルシュよりも熱烈だ。
「にいぃー!」
「とわー!」
数時間程、お互いに姿が見えなかっただけなのに、まるで数年ぶりに会ったかのように、ハグをしたり頬をくっつける。ガーデンテラスに差し込んだ日が二人を照らし、まるで洋画のワンシーンのようだった。
ふいにテーブルの下で手を握られて、千歳は自然と隣にいるレグルシュのほうを向いた。午後のたおやかな日差しに包まれ、花の蜜の香りをのせた風が吹く。
「千歳。これからもよろしく頼む」
「はい。こちらこそ。末永くよろしくお願いします」
交換したばかりのリングを指でなぞりながら答える。レグルシュの手は、最後に千歳の腹部を優しく撫でて去っていった。
初夏に咲く花は、千歳とレグルシュの新しい未来を祝福してくれているかのように、咲き誇っていた。
fin.
自分のことをよく思ってもらおうなんて、そんな見栄はない。受け入れてもらえないかもしれない。けれど、迷いはなかった。
「結婚式は……レグルシュさんと一緒に、しようと決めたのです。斗和を出産してから……思い出を残したいと」
菫は千歳の揺れる瞳を、まっすぐに見つめている。
「僕は、ユキくんのシッターとして働いていました。元婚約者の会社で働いていて、彼に不貞を疑われて……もちろん、疚しいことは何もありませんでした。職が見つからず困っていたところに、レグルシュさんが、声をかけてくれたのです」
菫はレグルシュの反応を窺った。レグルシュは千歳の言葉を、頷いて肯定する。
「シッターが終わって、ユキくんと離れたくないと思ったら……は、発情期に、なってしまって」
「千歳の発情期は予期しないものだった。俺も万が一のため抑制剤を使用していたが……」
千歳とレグルシュは言葉を詰まらせた。その先は語らなくても、菫は察しがついたのだろう。成り行きを聞いた菫は、椅子に背をつかせた。
「……二人の馴れ初めは分かりました」
菫は静かに告げる。続けて口を開こうとしたところ、いつの間にか菫の側まで来た斗和が声をかける。
「おばあちゃま、だぁれ?」
「と、斗和……!」
宇野木や義姉夫婦は顔馴染みだが、菫と顔を合わせるのは初めてだった。菫は少しびっくりしたようだったが、すぐに破顔した。
「おばあちゃまは周防 菫という名前なの。レグとエレナのお母さん」
「えー!? 全然似てないね!」
レグルシュの容姿をそっくり受け継いだ斗和が、菫の髪と瞳を見て言った。純日本人らしく、黒色だ。千歳とレグルシュは、菫から斗和を離そうと立ち上がった。
「でも、おばあちゃま。すっごく可愛い! ぼくのパパはかっこいいけど、おばあちゃまとママはかわいいねー」
「え、ええ……そうかしら?」
「うんっ。斗和くんはパパとお揃いだけど、おばあちゃまはママと似ててうらやましい! ぼく、どっちも好きだからね」
斗和は時折どちらに似たのか分からない発言や素振りをすることがある。菫の張り詰めた表情が和らいだのが、傍から見ていても分かった。菫は孫を抱き締めると、千歳にも柔らかい黒色の瞳を向けた。
「斗和くんというのね。素敵なお名前。……千歳さん」
「……はい!」
菫は目尻に皺をつくりながら、千歳に柔和な表情を見せた。婚前にレグルシュとフェロモンの事故という形で、子供を身籠ってしまった。オメガである千歳のほうがわざとアルファのレグルシュを誘ったのではないかと、そう捉えられてもおかしくない。それに、菫はオメガのせいで、愛するパートナーを失ったのだから……。
「あなたのような素敵な方とご家族と、ご縁が結べて光栄です。瑚雪のシッターをしていたことは、エレナから聞いていましたよ。千歳さんのお人柄は、瑚雪や斗和くんを通してよく分かりました。それに……あのレグルシュが選んだのだから」
菫の言葉に、目と頬がじんわりと温かくなる。レグルシュのほうも、白い肌を千歳と同じように染めていた。
「千歳さんに一つ、お願いがあるのだけれど、聞いてくれるかしら?」
「はい。何でしょうか?」
「いつでもいいから、斗和くんを連れてうちに遊びに来てちょうだい。独居の老人は結構寂しいものなのよ。エレナと樹さんもね」
「ママ……」
「エレナとレグはオメガの方と結婚したから、私に遠慮していたのでしょう? でも、そのような気遣いは不要よ。可愛い孫達に会わせてくれないほうが意地悪だわ」
義姉夫妻と新郎新婦は、揃って頷いた。離れたところで、式に来賓した人達にスピーチを褒められていたユキも、こちらに戻ってきた。デザートか何かをもらっていたのだろう。口の周りには食べた跡が残っている。
「あらあら。ユキちゃん。こんなに大きくなって!」
菫は久しぶりの孫との再会に喜ぶ。が、ちゃん付けを嫌っているユキは、可愛い顔にくしゃっと皺をつくり、むすっとした声を出した。
「ちゃんじゃなぁい!」
「ごめんなさいね。ユキくん」
「ばあば間違えないでね!? 斗和も男の子だからねっ」
式が終わった後、しばらく離れていたユキと斗和は、磁石が引き合うように抱擁を交わした。千歳とレグルシュよりも熱烈だ。
「にいぃー!」
「とわー!」
数時間程、お互いに姿が見えなかっただけなのに、まるで数年ぶりに会ったかのように、ハグをしたり頬をくっつける。ガーデンテラスに差し込んだ日が二人を照らし、まるで洋画のワンシーンのようだった。
ふいにテーブルの下で手を握られて、千歳は自然と隣にいるレグルシュのほうを向いた。午後のたおやかな日差しに包まれ、花の蜜の香りをのせた風が吹く。
「千歳。これからもよろしく頼む」
「はい。こちらこそ。末永くよろしくお願いします」
交換したばかりのリングを指でなぞりながら答える。レグルシュの手は、最後に千歳の腹部を優しく撫でて去っていった。
初夏に咲く花は、千歳とレグルシュの新しい未来を祝福してくれているかのように、咲き誇っていた。
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