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二人の天使
二人の天使1
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今日はママとパパの結婚式。二人はいつもかっこいいかわいいけれど、今日はぼくもびっくりするくらいかっこよくてかわいかった。
ユキくんはしばらくみんなとお話して、またどこかへ行ってしまった。ぼくも着いていこうとしたけれど、いつの間にかいなくなってしまったのだ。ママとパパもみんなも、ずーっとおしゃべりをしている。飽きないのかな、ってぼくは心配だ。
「まぁーま」
ママの服をつんつんと引っ張って、ぼくはもう帰りたいと言った。ママは優しく抱っこしてくれる。
「斗和。もう疲れちゃった? ホテルでねんねする?」
「ママも!」
「ママはまだいないといけないから。ねんねだけしに行く?」
疲れたんじゃなくて、ユキくんがいないからママとパパと遊びたいのに。それを言ったら甘えんぼうみたいだから、ううんと首を振った。
今度はパパのお膝の上に乗せられる。
「おいで。斗和」
「きゃあ」
パパはぎゅーっとしたり、ぼくの頭の匂いをかいだりする。家では許してあげてるけれど、みんなの前でそういうことをされると恥ずかしい。パパはいつもべたべたに甘くて優しい。でも、ぼくの気持ちをちっとも分かってない!
ぼくはパパのお膝から飛び出すと、どこかへ行ってしまったユキくんを探す旅に出た。
「斗和……!」
「大丈夫だよ、レグ。ユキくんのところへ遊びに行くだけだから」
──ぼくのことなんて、全然心配してくれてないっ!
振り返っても追いかけようとはしてくれず、二人はおしゃべりに戻っている。今さらパパのお膝に帰れなくて、ぼくは庭をひたすら走った。
──ママとパパラブラブし過ぎ!
ぼくにはほっぺにキスしかしないのに、口にちゅーっとしたりしている。二人はこっそり隠しているつもりなのかもしれないが、実は気付いている。ぼくは空気を読んで、知らないふりをしてあげているのだ。
「わあ! お花が落ちてる!」
拾ってみると、それは花びらが重なったものだった。綺麗なお庭には、いろんな色の花びらが落ちている。
あとでパパとママにも見せてあげよう!
拾い集めるのに夢中で、いつの間にか知らないところまで来てしまった。二人のところへ帰ろうと、来た道を戻っていたつもりだったけれど、いつまでも同じ景色で、帰れなくなってしまった。
「ママぁー! パパぁー!!」
──斗和くんのこと忘れて帰ってたらどうしよう……!
ずっと歩いていたせいで足も疲れてきた。不安でえんえんと泣いてしまい、ぼくは花壇の近くに座った。
「うわあぁん……! パパ、ママどこぉー!?」
迷子になるなら、ママの言う通りにしておけばよかった。一人が怖くて不安で、ママに怒られてもいいから、今は一秒でも早く会いたい。
「とーわ? 斗和ー! どこにいるのー?」
──この声は……ユキくんだ!
ぼくは最後のチャンスかもしれないと思い、せいいっぱいユキくんの名前を呼んだ。花壇の陰からユキくんがひょこっと顔を出すのが見えたとき、ぼくは自分でも知らないうちに走っていた。あんなに重かった足が、羽をつけたみたいに軽い。
「にいいぃー!!」
「もー。心配したんだよ? 一人になったらダメだからね?」
「うん……うんっ」
ぼくを叱るユキくんの声が優しく聞こえる。ぼく達は夕日でオレンジ色になったお庭を、手をつなぎながら歩いた。
「今日のちー。すっごく可愛かった! ちーは毎日見ても可愛いしキレイだし優しいよね」
「ちー?」
「あっ。そっか。ちーっていうのは、ちとせっていうお名前で、斗和のママだよ!」
ユキくんが教えてくれる。パパのお名前がレグルシュでレグだから、ママは「ちとせ」でちーらしい。
「ねえねえ、ユキにぃ。けっこんしきで言ってたシッターさんってなに?」
「あー、あれね。シッターさんっていうのはぁ、お世話をしてくれる人だよ! ちーは俺のシッターさんだったんだ」
「えー!? すごい!」
ユキくんは何でも詳しい。シッターさんはご飯をつくったり遊んでくれたりするけれど、パパやママとは違うらしい。ユキくんはシッターさん……ママとの思い出をたくさん話してくれる。
「でね、ちーと俺は結婚しそうになってたんだけど」
「えっ!? ユキにぃとママが?」
「そう! でもレグと結婚したの……」
いつもニコニコ顔のユキくんは、しゅんと悲しい顔になっている。レグというのはぼくのパパの名前だ。ぼくはしょげているユキくんの背中を撫でて、よしよしと励ましてあげた。
「でもね。レグは最初、ちーのこと好きじゃなかったんだよ。ちーだって、レグより俺のことのほうがぜーったい! 好きだった!」
「そうなの!? でも、パパはめちゃくちゃママのこと大好きだよ!」
「それぜーったい、俺のマネだからね!? だって、俺がちーのこと好きって言ってから、いちゃいちゃしだしたもんっ」
ユキくんはぼくのママのことは大好きだけれど、パパのことはあんまり好きじゃないらしい。ユキくんはそのへんの石ころを、思いきり蹴っ飛ばした。
びゅっと飛んだ石ころは、大きな噴水の真ん中にぽちゃりと落ちる。それがちょうど真ん中で、結構いい音だったので、ぼく達は「おおー」としばらく水面を見つめていた。
「斗和。レグにいじめられてない? 俺、それだけが心配なの」
「え? パパに?」
ユキくんの言っていることが分からなかった。あんなに優しくてぼくにいつもすりすりするパパが、いじめるなんて。
ユキくんはしばらくみんなとお話して、またどこかへ行ってしまった。ぼくも着いていこうとしたけれど、いつの間にかいなくなってしまったのだ。ママとパパもみんなも、ずーっとおしゃべりをしている。飽きないのかな、ってぼくは心配だ。
「まぁーま」
ママの服をつんつんと引っ張って、ぼくはもう帰りたいと言った。ママは優しく抱っこしてくれる。
「斗和。もう疲れちゃった? ホテルでねんねする?」
「ママも!」
「ママはまだいないといけないから。ねんねだけしに行く?」
疲れたんじゃなくて、ユキくんがいないからママとパパと遊びたいのに。それを言ったら甘えんぼうみたいだから、ううんと首を振った。
今度はパパのお膝の上に乗せられる。
「おいで。斗和」
「きゃあ」
パパはぎゅーっとしたり、ぼくの頭の匂いをかいだりする。家では許してあげてるけれど、みんなの前でそういうことをされると恥ずかしい。パパはいつもべたべたに甘くて優しい。でも、ぼくの気持ちをちっとも分かってない!
ぼくはパパのお膝から飛び出すと、どこかへ行ってしまったユキくんを探す旅に出た。
「斗和……!」
「大丈夫だよ、レグ。ユキくんのところへ遊びに行くだけだから」
──ぼくのことなんて、全然心配してくれてないっ!
振り返っても追いかけようとはしてくれず、二人はおしゃべりに戻っている。今さらパパのお膝に帰れなくて、ぼくは庭をひたすら走った。
──ママとパパラブラブし過ぎ!
ぼくにはほっぺにキスしかしないのに、口にちゅーっとしたりしている。二人はこっそり隠しているつもりなのかもしれないが、実は気付いている。ぼくは空気を読んで、知らないふりをしてあげているのだ。
「わあ! お花が落ちてる!」
拾ってみると、それは花びらが重なったものだった。綺麗なお庭には、いろんな色の花びらが落ちている。
あとでパパとママにも見せてあげよう!
拾い集めるのに夢中で、いつの間にか知らないところまで来てしまった。二人のところへ帰ろうと、来た道を戻っていたつもりだったけれど、いつまでも同じ景色で、帰れなくなってしまった。
「ママぁー! パパぁー!!」
──斗和くんのこと忘れて帰ってたらどうしよう……!
ずっと歩いていたせいで足も疲れてきた。不安でえんえんと泣いてしまい、ぼくは花壇の近くに座った。
「うわあぁん……! パパ、ママどこぉー!?」
迷子になるなら、ママの言う通りにしておけばよかった。一人が怖くて不安で、ママに怒られてもいいから、今は一秒でも早く会いたい。
「とーわ? 斗和ー! どこにいるのー?」
──この声は……ユキくんだ!
ぼくは最後のチャンスかもしれないと思い、せいいっぱいユキくんの名前を呼んだ。花壇の陰からユキくんがひょこっと顔を出すのが見えたとき、ぼくは自分でも知らないうちに走っていた。あんなに重かった足が、羽をつけたみたいに軽い。
「にいいぃー!!」
「もー。心配したんだよ? 一人になったらダメだからね?」
「うん……うんっ」
ぼくを叱るユキくんの声が優しく聞こえる。ぼく達は夕日でオレンジ色になったお庭を、手をつなぎながら歩いた。
「今日のちー。すっごく可愛かった! ちーは毎日見ても可愛いしキレイだし優しいよね」
「ちー?」
「あっ。そっか。ちーっていうのは、ちとせっていうお名前で、斗和のママだよ!」
ユキくんが教えてくれる。パパのお名前がレグルシュでレグだから、ママは「ちとせ」でちーらしい。
「ねえねえ、ユキにぃ。けっこんしきで言ってたシッターさんってなに?」
「あー、あれね。シッターさんっていうのはぁ、お世話をしてくれる人だよ! ちーは俺のシッターさんだったんだ」
「えー!? すごい!」
ユキくんは何でも詳しい。シッターさんはご飯をつくったり遊んでくれたりするけれど、パパやママとは違うらしい。ユキくんはシッターさん……ママとの思い出をたくさん話してくれる。
「でね、ちーと俺は結婚しそうになってたんだけど」
「えっ!? ユキにぃとママが?」
「そう! でもレグと結婚したの……」
いつもニコニコ顔のユキくんは、しゅんと悲しい顔になっている。レグというのはぼくのパパの名前だ。ぼくはしょげているユキくんの背中を撫でて、よしよしと励ましてあげた。
「でもね。レグは最初、ちーのこと好きじゃなかったんだよ。ちーだって、レグより俺のことのほうがぜーったい! 好きだった!」
「そうなの!? でも、パパはめちゃくちゃママのこと大好きだよ!」
「それぜーったい、俺のマネだからね!? だって、俺がちーのこと好きって言ってから、いちゃいちゃしだしたもんっ」
ユキくんはぼくのママのことは大好きだけれど、パパのことはあんまり好きじゃないらしい。ユキくんはそのへんの石ころを、思いきり蹴っ飛ばした。
びゅっと飛んだ石ころは、大きな噴水の真ん中にぽちゃりと落ちる。それがちょうど真ん中で、結構いい音だったので、ぼく達は「おおー」としばらく水面を見つめていた。
「斗和。レグにいじめられてない? 俺、それだけが心配なの」
「え? パパに?」
ユキくんの言っていることが分からなかった。あんなに優しくてぼくにいつもすりすりするパパが、いじめるなんて。
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