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第1章 魔王辺境へ降り立つ
辺境都市デルザ
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日は中天をやや過ぎたあたり、街道はその先のデルザの街とやらへと向かうのであろう人がポツポツと見て取れる。
(テンプレとしては、そろそろ女性の悲鳴が聞こえてくる頃なんだが)
役に立たない異世界の知識にのっとり、右手を耳に添えて聞き耳を立てる。
しかし、女性の悲鳴らしきものは聞こえてこなかった。
代わりに聞こえたのは、ブーンという大型の輸送機のような低い音だ。
大型のレシプロエンジンの航空機の音によく似ている。
徐々に大きくなる音。
「この音は、飛空艇かっ!?」
プロペラを回して進む異世界の乗り物といえば飛空艇だ。
まだ見ぬ未知の乗り物との遭遇に、期待しながら空を仰ぎ見るが、遠くを飛ぶ鳥の姿以外に動くものは見えない。
その間にも、音は更に大きくなっていた。
同時に、音源の方向もはっきりしてくる。
「左か!」
音のする方へ勢い良く頭を巡らせると、目の前には黄色と黒の縞模様の物体が浮いていた。
「うわっ」
思わず右手のフルスイングで叩き落とす。
街道の石畳に、勢いよく叩きつけられた黄色と黒の縞模様の物体は動かなくなった。
(し、死んだかな)
足先でつついてみるが、動く気配はない。
マジマジと見つめる。
「は、蜂だよな?」
そこに転がるのは、大きさが手のひら程もある蜂であった。
「いやー、いいものを見せてもらったよ」
後ろを歩いていたであろう旅人風の男が声を掛けてきた。
「え?」
「ああ、馬殺しを素手で叩き落とす奴なんか初めて見たよ」
「いや、咄嗟のことだったんで」
「そうかい。ま、普通は逃げるがね」
「危険、なんでしょうね」
容易に想像がつく、馬殺しなどという名前だ。
馬みたいに大きい動物が殺せるのだから、人も殺せるのだろう。
「ま、それほどでもないかな」
「確かに毒性が強くて、刺されると危険なんだが、基本こいつらは人は襲わないんだよ」
「へえ」
「しかし、街道沿いじゃ馬車を引いてる馬が被害に遭うからな。討伐依頼が常時でてるってわけだ」
「討伐依頼?」
「ああ、見つけたら退治してくださいってこったな」
そう言いながら男は、蜂の頭を踏み潰した。
「とどめは確実にってね」
そのまま、腹の部分に足を載せ、重みをかける。
すると腹の先端から針が出て来た。
男はその針をつまんで引き抜いた。
「ほれ、これが討伐証明になる馬殺しの針だ」
針も大きい。爪楊枝かと思う程の大きさだ。
「針についてるのが毒の袋だ。変質したり漏れると厄介なんで普通は捨てるんだが、街が近いからこのままだな」
「付いてるとどうなるんです?」
「毒自体にも価値があるからな、ギルドの買い取りの価格がちょいと上がるな」
値段どうこうよりも【ギルドの買い取り】の部分が重要だ。
ギルドってのは、あのギルドのことなのだろうか?
「そうなんですね。貴重な知識をありがとうございます」
「礼を言われるほどのこっちゃねえよ、ほら」
男は、針を渡して来た。
「いえ、知識のお礼ということでお納めを」
「え?いいのかい?酒手ぐらいにはなるぜ?」
「そのかわりと言ってはなんですが、デルザの街まで話相手になってくれませんか」
「ああ、そんなことでいいなら、お安い御用だ」
二人並んでのデルザへの道行きとなった。
話の内容は、所謂世間話だったが、それすらも貴重な情報源だった。
話し相手になってくれている男も、馬殺しの素材を譲ったことで、こちらの質問にも機嫌良く答えてくれる。
「つー訳でな、その領主様の大伯母様てぇお方のおかげで、デルザの街は、辺境の都と呼ばれるほどに発展したってわけだ」
「へえ、すごい人だったんだな。その、領主様の大伯母様って人は」
「だった? いやいや、まだご存命だよ。何しろエルフだってことだからな。今でもギルド員の最高峰なんじゃないかな」
「ギルド員?」
「ああ、ギルドも知らねえのか。ギルドってのは、元々傭兵とかの口入屋みたいなもんだったんだが、魔術やら、錬金術やらの戦争や魔物退治に必要な技術を持ついろんなギルドを吸収してできたって話しだ。今じゃ鍛冶やら通商やらのギルドも統合されて、でっけえ組織になった。戦争が減ったのもギルドが止めるからなんだとかいう噂もあるぐらいだ。
まあ、色々取り込んだおかげで、組織の名前をどうするかって何時も揉めてるのさ。で、ただのギルドって呼ぶ奴がほとんどだ。実際、俺もギルドの正式名称なんか知らねえしな。
なにしろ、そのでっけえ組織に入ってる奴はギルド員ってことで、何かしらの技術を持ってる。その中でも領主様の大伯母様は戦闘の技能を持っている連中のトップクラスの実力を持ってるぐらい強いだろうってことさ」
「へえ、ギルド員になるためには、強くないとダメなんですね」
「いいや、申請すれば誰でも入れるぞ。言ったとおり、魔法はともかく、錬金術やら鍛冶やらのギルドも一緒になってるからな。強さとか関係ねえよ」
「そうなんですか」
「魔物の討伐依頼なら強さは必要だけど、防具の修理依頼とか魔道具の作製依頼なんか腕っぷしは関係ねえだろ」
「確かにそうですね」
「だから、腕っぷしに自信がある奴も、腕前に自信がある奴もこぞってギルド員になる。そして、依頼を出す側もギルド員としての方が安いから、ギルド員になる。なんだかんだで、デルザ街の住人の殆どはギルド員なんじゃねえかな?」
男の話を聞いて、規模の大きい互助組織みたいなものかと一真は納得した。
「そうこう言ってる間にデルザに到着だ。あんたはギルド員じゃないからあっちの列だ」
そう指差された方には50人ほどの列があった。
「機会があったらまたな。ま、近い内に会えそうな気もするが」
そう言うと男は、別の入口へと向かい、門番に何やら見せると一度振り返り、こちらに大きく一度手を振って門の中へと消えていった。
恐らく、男が使った入口はギルド員用の入口なのだろう。
そう考えながら、列の後ろに並ぶが列の進みの遅さに辟易する。
これは、ギルド員になることも考えざるを得ない。
長時間並んだ割には、門番の検査は簡単に済んだ。
荷物を何も持っていなかったせいである。
身分証明がなかったため、通行税として銀貨一枚を徴収された一真はゾルダの街へと入った。
目の前には、近代的とまではいかないが、計画的に作られたであろう整った街並みが広がっていた。
門から延びるメインストリートを歩く。
目指すは、街の中央付広場に隣接すると門番が言っていたギルド館だ。
門から街の中心部へは緩やかな上り傾斜で、馬車2台が余裕を持ってすれ違うことのできそうな広い道路は、左に緩やかなカーブを描いている。
街並みは整然としていて、行きかう人々には活気がある。
人々の服装もこざっぱりとしていて、想像していた中世の都市よりは遥かに衛生的に見える。
確か、上水道と下水道が整備されて、疫病が劇的に減ったとも聞いた。
元の世界の中世とはえらい違いだ。
建物自体は石積みと焼きレンガっぽい全体的に石造りの建物ばかりだ。
門の近くには、行商人や旅人相手の大口の雑貨や食料品を商う店が目立つ。
少し進むと道の両脇には、商店や宿屋と思しき建物が連なり、多数の人が行き交っていた。
肌の色も、髪の色も様々だ。
中には、明らかに獣の耳が付いている者も、尻尾のある者もいる。
「普通にいるもんなんだな」
独り言ちて、自分勝手に思い描いていた獣人のレア度を下方修正する。
一件の建物が目に止まった。
日本に住んでいては、目にすることはできない「武器屋」だ。
数人の客がいて、思い思いに物色しているように見える。
「異世界感満載ってね」
これは冷やかしだけでも入っておかなければと間口をくぐる。
「いらっしゃい」
声をかけてきた店員は背が低くがっしりとした体躯の髭を蓄えた中年の男性だった。
ドワーフだ。
本当は、違うかもしれないが、これはもうドワーフでいい。
いきなりドワーフの武器屋とは、胸熱の展開である。
店の中はカウンターを境にして二つに分かれる造りになっていた。
カウンターの外側には、ベルトや肩当てなどの装身具と剣や槍、短剣などが雑多に置かれている。
一方、カウンターの内側は、剣や槍、金属製の鎧などが整然と陳列されており、素人目に見ても、カウンターの内と外では品質が大きく違うのが判る。
現在の装備は、貫頭衣とサンダル、まあ普段着だ。
武具と呼ばれる物は、何一つ身につけていない。
何から買ったものかと店内を見回し、他の客と自分を比較してみる。
武器や鎧の有無は当然だが、一真が見ているのはそれ以外のところだった。
先ずは足元、サンダルなどという足の大半が露出するものを履いているは店内に一真だけだ
「まずは靴か」
膝下まで覆うタイプの革製のブーツを手に取る。
「あとは剣帯か」
短剣にしろナイフにしろ、武器を佩くためには剣帯が必要である。
また、腰回りに付ける小物を入れるための袋なども剣帯に括られているようだ。
「おう、駆け出しかい?」
不意に、カウンターの奥から声が掛かった。
「はい。すいません」
初心者お断りの店だったのかもしれないと、思わず謝る。
「謝ることはない。見たところ初めて武具を揃えるように見えたんでな」
「そうでしたか。おっしゃるとおりです」
見栄を張っても、すぐにボロがでるだろうし、素直に認める。
「得意な武器とかあんのかい?」
「いえ、ですが魔術師になろうと思っています」
「ほう、魔法の素養があんのか。んじゃ、武器はここじゃなくて魔道具屋に行った方がいいな」
「魔導具屋ですか」
「そうか、知らねえか。普通の武器はうちみたいな武器屋、魔法に関する武器を扱うのは魔導具屋だ」
「そうなんですね」
「とはいえ、魔法使いといえども、この辺りは必要だろうぜ」
ドワーフがカウンターの上に置いたのは、大ぶりのナイフと丈夫そうな剣帯だった。
「魔術師といえども、素材の採取や調理などナイフを使う場面は多い。こいつは剥ぎ取りナイフと呼ばれる物だ。剥ぎ取りナイフはある程度の大きさが必要だ。こいつなら駆け出しの内に仕留める獲物に不足はない。あとは剣帯だが、こいつは武器と違って、そうそう買い換えるもんでもないから頑丈な物がいい。それに魔術師なら鎧なんか着ねえだろうから、心臓をカバーできるこのタイプにしときな」
見れば、剣帯は腰ベルトにタスキがかかるような形をしたタイプで、左胸の上に金属製のバックルが来るようにデザインされていた。
「わかりました。これをいただきます」
「おう、締めて銀貨18枚だ」
小銭の入った袋をカウンターでひっくり返す。
数えると、銀貨が18枚と銅貨が6枚あった。
「じゃあ、これで」
銀貨18枚をドワーフの方に押しやる。
「ふん。17枚にまけてやる。ギルドの登録に1枚必要だからな」
ツンデレドワーフとか誰得だよ。
声には出さず、礼を言って、靴と剣帯を身につけて、今度こそギルド向かって店を出た。
---------------------------------------------------------------------------------------
その頃、一真が潜った門では、小さな騒動が起こっていた。
「こいつを見てみろ。随分と細工の細かい銀貨だ。今まで見たことのない銀貨なんて、上手くすれば大儲けだろ?」
騒動の発端は、一真の支払った銀貨だった。
詰所に戻った門衛は、一真の支払った銀貨を見せびらかす。
国や時代が違えば貨幣も変わる。
その価値は基本的に変わらないのだが、金や銀などの希少金属の含有量、歴史、その表面の細工の美しさなどでその貨幣一枚以上の価値をもつ物も存在する。
一真の支払った銀貨は、含有量こそ不明ではあったが、希少性という面ではこの上ないものだった。
「売るにしても、買い手が付くかどうかだな。欲の深い上の住人に目を付けられないようにしないと」
同僚の一人が、やっかみ半分で警告をする。
好事家というのは、何処にでも存在する。しかし同時に他人の命と自分の財産を簡単に天秤に乗せてしまう者がいるのがこの世界である。
「無駄に危険な場所に踏み込む必要はないさ。安全なのは領主様へ届け出るこった」
別の同僚も同様に警告する。
「わ、解ったよ。領主様のところへ届けることにするよ」
「何かありましたか?」
門衛がそう発言するのを待っていたかの様に、詰め所に一人の老紳士が現れた。
「これはティエレ様、今お知らせに行こうと思ったところで。珍しい銀貨を使った者がおりまして」
門衛は、一真の支払った銀貨を老紳士に渡す。
「これは……随分と昔の銀貨ですね……」
「か、価値のある物なのでしょうか?」
「この時代の物は出回っている数が少ないはずですね。使ったのはどんな人物でしたか?」
「古めかしい貫頭衣を着た、背の高いエルフの青年でした」
老紳士の問いに、門衛は一真の特長を告げる。
「ふむ、話を聞いてみるとしましょうか。銀貨を払ったということは身分証を作るためにギルドに行くでしょうね」
「捕らえますか?」
「それには及びません。正しい手続きをして街に入ったのですから」
「そ、そうでした……」
「領主様にはこちらから報告しておきます。これは、ご苦労賃です」
老紳士はその場にいる門衛と同じ数の銀貨を差し出す。
「あ、ありがとうございます。領主様への報告よろしくお願いいたします」
「心得ました。あと、この事は他言無用でお願いしますよ」
「「わかりました」」
一真の使った銀貨を手にしたティエレと呼ばれる老紳士は、領主館への道を足早に進んでいった。
(テンプレとしては、そろそろ女性の悲鳴が聞こえてくる頃なんだが)
役に立たない異世界の知識にのっとり、右手を耳に添えて聞き耳を立てる。
しかし、女性の悲鳴らしきものは聞こえてこなかった。
代わりに聞こえたのは、ブーンという大型の輸送機のような低い音だ。
大型のレシプロエンジンの航空機の音によく似ている。
徐々に大きくなる音。
「この音は、飛空艇かっ!?」
プロペラを回して進む異世界の乗り物といえば飛空艇だ。
まだ見ぬ未知の乗り物との遭遇に、期待しながら空を仰ぎ見るが、遠くを飛ぶ鳥の姿以外に動くものは見えない。
その間にも、音は更に大きくなっていた。
同時に、音源の方向もはっきりしてくる。
「左か!」
音のする方へ勢い良く頭を巡らせると、目の前には黄色と黒の縞模様の物体が浮いていた。
「うわっ」
思わず右手のフルスイングで叩き落とす。
街道の石畳に、勢いよく叩きつけられた黄色と黒の縞模様の物体は動かなくなった。
(し、死んだかな)
足先でつついてみるが、動く気配はない。
マジマジと見つめる。
「は、蜂だよな?」
そこに転がるのは、大きさが手のひら程もある蜂であった。
「いやー、いいものを見せてもらったよ」
後ろを歩いていたであろう旅人風の男が声を掛けてきた。
「え?」
「ああ、馬殺しを素手で叩き落とす奴なんか初めて見たよ」
「いや、咄嗟のことだったんで」
「そうかい。ま、普通は逃げるがね」
「危険、なんでしょうね」
容易に想像がつく、馬殺しなどという名前だ。
馬みたいに大きい動物が殺せるのだから、人も殺せるのだろう。
「ま、それほどでもないかな」
「確かに毒性が強くて、刺されると危険なんだが、基本こいつらは人は襲わないんだよ」
「へえ」
「しかし、街道沿いじゃ馬車を引いてる馬が被害に遭うからな。討伐依頼が常時でてるってわけだ」
「討伐依頼?」
「ああ、見つけたら退治してくださいってこったな」
そう言いながら男は、蜂の頭を踏み潰した。
「とどめは確実にってね」
そのまま、腹の部分に足を載せ、重みをかける。
すると腹の先端から針が出て来た。
男はその針をつまんで引き抜いた。
「ほれ、これが討伐証明になる馬殺しの針だ」
針も大きい。爪楊枝かと思う程の大きさだ。
「針についてるのが毒の袋だ。変質したり漏れると厄介なんで普通は捨てるんだが、街が近いからこのままだな」
「付いてるとどうなるんです?」
「毒自体にも価値があるからな、ギルドの買い取りの価格がちょいと上がるな」
値段どうこうよりも【ギルドの買い取り】の部分が重要だ。
ギルドってのは、あのギルドのことなのだろうか?
「そうなんですね。貴重な知識をありがとうございます」
「礼を言われるほどのこっちゃねえよ、ほら」
男は、針を渡して来た。
「いえ、知識のお礼ということでお納めを」
「え?いいのかい?酒手ぐらいにはなるぜ?」
「そのかわりと言ってはなんですが、デルザの街まで話相手になってくれませんか」
「ああ、そんなことでいいなら、お安い御用だ」
二人並んでのデルザへの道行きとなった。
話の内容は、所謂世間話だったが、それすらも貴重な情報源だった。
話し相手になってくれている男も、馬殺しの素材を譲ったことで、こちらの質問にも機嫌良く答えてくれる。
「つー訳でな、その領主様の大伯母様てぇお方のおかげで、デルザの街は、辺境の都と呼ばれるほどに発展したってわけだ」
「へえ、すごい人だったんだな。その、領主様の大伯母様って人は」
「だった? いやいや、まだご存命だよ。何しろエルフだってことだからな。今でもギルド員の最高峰なんじゃないかな」
「ギルド員?」
「ああ、ギルドも知らねえのか。ギルドってのは、元々傭兵とかの口入屋みたいなもんだったんだが、魔術やら、錬金術やらの戦争や魔物退治に必要な技術を持ついろんなギルドを吸収してできたって話しだ。今じゃ鍛冶やら通商やらのギルドも統合されて、でっけえ組織になった。戦争が減ったのもギルドが止めるからなんだとかいう噂もあるぐらいだ。
まあ、色々取り込んだおかげで、組織の名前をどうするかって何時も揉めてるのさ。で、ただのギルドって呼ぶ奴がほとんどだ。実際、俺もギルドの正式名称なんか知らねえしな。
なにしろ、そのでっけえ組織に入ってる奴はギルド員ってことで、何かしらの技術を持ってる。その中でも領主様の大伯母様は戦闘の技能を持っている連中のトップクラスの実力を持ってるぐらい強いだろうってことさ」
「へえ、ギルド員になるためには、強くないとダメなんですね」
「いいや、申請すれば誰でも入れるぞ。言ったとおり、魔法はともかく、錬金術やら鍛冶やらのギルドも一緒になってるからな。強さとか関係ねえよ」
「そうなんですか」
「魔物の討伐依頼なら強さは必要だけど、防具の修理依頼とか魔道具の作製依頼なんか腕っぷしは関係ねえだろ」
「確かにそうですね」
「だから、腕っぷしに自信がある奴も、腕前に自信がある奴もこぞってギルド員になる。そして、依頼を出す側もギルド員としての方が安いから、ギルド員になる。なんだかんだで、デルザ街の住人の殆どはギルド員なんじゃねえかな?」
男の話を聞いて、規模の大きい互助組織みたいなものかと一真は納得した。
「そうこう言ってる間にデルザに到着だ。あんたはギルド員じゃないからあっちの列だ」
そう指差された方には50人ほどの列があった。
「機会があったらまたな。ま、近い内に会えそうな気もするが」
そう言うと男は、別の入口へと向かい、門番に何やら見せると一度振り返り、こちらに大きく一度手を振って門の中へと消えていった。
恐らく、男が使った入口はギルド員用の入口なのだろう。
そう考えながら、列の後ろに並ぶが列の進みの遅さに辟易する。
これは、ギルド員になることも考えざるを得ない。
長時間並んだ割には、門番の検査は簡単に済んだ。
荷物を何も持っていなかったせいである。
身分証明がなかったため、通行税として銀貨一枚を徴収された一真はゾルダの街へと入った。
目の前には、近代的とまではいかないが、計画的に作られたであろう整った街並みが広がっていた。
門から延びるメインストリートを歩く。
目指すは、街の中央付広場に隣接すると門番が言っていたギルド館だ。
門から街の中心部へは緩やかな上り傾斜で、馬車2台が余裕を持ってすれ違うことのできそうな広い道路は、左に緩やかなカーブを描いている。
街並みは整然としていて、行きかう人々には活気がある。
人々の服装もこざっぱりとしていて、想像していた中世の都市よりは遥かに衛生的に見える。
確か、上水道と下水道が整備されて、疫病が劇的に減ったとも聞いた。
元の世界の中世とはえらい違いだ。
建物自体は石積みと焼きレンガっぽい全体的に石造りの建物ばかりだ。
門の近くには、行商人や旅人相手の大口の雑貨や食料品を商う店が目立つ。
少し進むと道の両脇には、商店や宿屋と思しき建物が連なり、多数の人が行き交っていた。
肌の色も、髪の色も様々だ。
中には、明らかに獣の耳が付いている者も、尻尾のある者もいる。
「普通にいるもんなんだな」
独り言ちて、自分勝手に思い描いていた獣人のレア度を下方修正する。
一件の建物が目に止まった。
日本に住んでいては、目にすることはできない「武器屋」だ。
数人の客がいて、思い思いに物色しているように見える。
「異世界感満載ってね」
これは冷やかしだけでも入っておかなければと間口をくぐる。
「いらっしゃい」
声をかけてきた店員は背が低くがっしりとした体躯の髭を蓄えた中年の男性だった。
ドワーフだ。
本当は、違うかもしれないが、これはもうドワーフでいい。
いきなりドワーフの武器屋とは、胸熱の展開である。
店の中はカウンターを境にして二つに分かれる造りになっていた。
カウンターの外側には、ベルトや肩当てなどの装身具と剣や槍、短剣などが雑多に置かれている。
一方、カウンターの内側は、剣や槍、金属製の鎧などが整然と陳列されており、素人目に見ても、カウンターの内と外では品質が大きく違うのが判る。
現在の装備は、貫頭衣とサンダル、まあ普段着だ。
武具と呼ばれる物は、何一つ身につけていない。
何から買ったものかと店内を見回し、他の客と自分を比較してみる。
武器や鎧の有無は当然だが、一真が見ているのはそれ以外のところだった。
先ずは足元、サンダルなどという足の大半が露出するものを履いているは店内に一真だけだ
「まずは靴か」
膝下まで覆うタイプの革製のブーツを手に取る。
「あとは剣帯か」
短剣にしろナイフにしろ、武器を佩くためには剣帯が必要である。
また、腰回りに付ける小物を入れるための袋なども剣帯に括られているようだ。
「おう、駆け出しかい?」
不意に、カウンターの奥から声が掛かった。
「はい。すいません」
初心者お断りの店だったのかもしれないと、思わず謝る。
「謝ることはない。見たところ初めて武具を揃えるように見えたんでな」
「そうでしたか。おっしゃるとおりです」
見栄を張っても、すぐにボロがでるだろうし、素直に認める。
「得意な武器とかあんのかい?」
「いえ、ですが魔術師になろうと思っています」
「ほう、魔法の素養があんのか。んじゃ、武器はここじゃなくて魔道具屋に行った方がいいな」
「魔導具屋ですか」
「そうか、知らねえか。普通の武器はうちみたいな武器屋、魔法に関する武器を扱うのは魔導具屋だ」
「そうなんですね」
「とはいえ、魔法使いといえども、この辺りは必要だろうぜ」
ドワーフがカウンターの上に置いたのは、大ぶりのナイフと丈夫そうな剣帯だった。
「魔術師といえども、素材の採取や調理などナイフを使う場面は多い。こいつは剥ぎ取りナイフと呼ばれる物だ。剥ぎ取りナイフはある程度の大きさが必要だ。こいつなら駆け出しの内に仕留める獲物に不足はない。あとは剣帯だが、こいつは武器と違って、そうそう買い換えるもんでもないから頑丈な物がいい。それに魔術師なら鎧なんか着ねえだろうから、心臓をカバーできるこのタイプにしときな」
見れば、剣帯は腰ベルトにタスキがかかるような形をしたタイプで、左胸の上に金属製のバックルが来るようにデザインされていた。
「わかりました。これをいただきます」
「おう、締めて銀貨18枚だ」
小銭の入った袋をカウンターでひっくり返す。
数えると、銀貨が18枚と銅貨が6枚あった。
「じゃあ、これで」
銀貨18枚をドワーフの方に押しやる。
「ふん。17枚にまけてやる。ギルドの登録に1枚必要だからな」
ツンデレドワーフとか誰得だよ。
声には出さず、礼を言って、靴と剣帯を身につけて、今度こそギルド向かって店を出た。
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その頃、一真が潜った門では、小さな騒動が起こっていた。
「こいつを見てみろ。随分と細工の細かい銀貨だ。今まで見たことのない銀貨なんて、上手くすれば大儲けだろ?」
騒動の発端は、一真の支払った銀貨だった。
詰所に戻った門衛は、一真の支払った銀貨を見せびらかす。
国や時代が違えば貨幣も変わる。
その価値は基本的に変わらないのだが、金や銀などの希少金属の含有量、歴史、その表面の細工の美しさなどでその貨幣一枚以上の価値をもつ物も存在する。
一真の支払った銀貨は、含有量こそ不明ではあったが、希少性という面ではこの上ないものだった。
「売るにしても、買い手が付くかどうかだな。欲の深い上の住人に目を付けられないようにしないと」
同僚の一人が、やっかみ半分で警告をする。
好事家というのは、何処にでも存在する。しかし同時に他人の命と自分の財産を簡単に天秤に乗せてしまう者がいるのがこの世界である。
「無駄に危険な場所に踏み込む必要はないさ。安全なのは領主様へ届け出るこった」
別の同僚も同様に警告する。
「わ、解ったよ。領主様のところへ届けることにするよ」
「何かありましたか?」
門衛がそう発言するのを待っていたかの様に、詰め所に一人の老紳士が現れた。
「これはティエレ様、今お知らせに行こうと思ったところで。珍しい銀貨を使った者がおりまして」
門衛は、一真の支払った銀貨を老紳士に渡す。
「これは……随分と昔の銀貨ですね……」
「か、価値のある物なのでしょうか?」
「この時代の物は出回っている数が少ないはずですね。使ったのはどんな人物でしたか?」
「古めかしい貫頭衣を着た、背の高いエルフの青年でした」
老紳士の問いに、門衛は一真の特長を告げる。
「ふむ、話を聞いてみるとしましょうか。銀貨を払ったということは身分証を作るためにギルドに行くでしょうね」
「捕らえますか?」
「それには及びません。正しい手続きをして街に入ったのですから」
「そ、そうでした……」
「領主様にはこちらから報告しておきます。これは、ご苦労賃です」
老紳士はその場にいる門衛と同じ数の銀貨を差し出す。
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地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】
きたーの(旧名:せんせい)
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【毎週火木土更新】
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
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約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。
なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
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三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
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