異世界強制お引越し 魔力なしでも冒険者

緑ノ深更

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1章

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その後すぐに出発になった。

「俺はルーク。
冒険者だよ。こっちも冒険者でギィ。君は?」
「…百瀬櫂斗です。えっと、名前はカイトです。
高校1年、16才です」

ずっと座っていた姿勢だったので、立ち上がってもヨロヨロして足元がおぼつかない俺を急かすこともなく、人型たちはまずは自己紹介をしてきた。

「カイトね。
コウコウイチネンって、カイトの国の職業かな?
16才なんだね。
(まじか…。こっちから年齢言わなくてよかった)
荷物はある?旅をした経験は?」

高校はやっぱり通じなかった。
2人とも冒険者らしいから、光ってる人を冒険者って呼ぶのかもしれない。もしくは冒険者は光る。とか。俺が小説とかマンガとかで知ってる冒険者は光ったりしてなかったけどな。

「何も持ってないです。旅行をしたことはあるけど、野宿みたいなのはしたことないです」
「ん、わかった。正直に教えてくれてありがとね。
俺たちは慣れているから、できるだけ俺たちの指示に従って欲しい。
宿木を離れると、森には獣もいるし中には襲って来るものもいるから。
カイトを安全に村まで送って行きたい。いいかな?」

たぶん、この人型たちは信用できる。こちらの様子を見て不安にさせない様に気づかうこともしてくれてる。
一緒に行くことは、きっと間違いじゃない。

そう信じて俺は頷いた。



先頭を今朝増えてた人型、ルーク。
次が俺。
後ろに昨日の人型、ギィ。

縦に並んで森を歩く。
昨日は獣道があったけど、今日は道なんて無いところを行く。
ルークの後をついて行くんだけど、眩しくてしっかり前を見られない。ちらっと見て、下を向いて歩いて、何歩か行ったらまたちらっと見る。
そんなんでスピードが出せる訳がない。
速く歩かなきゃと焦るけど、眩しさと道なき道を行く慣れない移動に、休憩を告げられたときにはもうヘトヘトだった。
眩しさに耐えて目を開けていたから、こめかみが疼くように痛んで辛い。

「お昼にしよう。とは言っても、携帯食だけどね」

小さな川の側で、ルークが止まる。
俺は、座ったらもう立てないかもしれないと思いながら、崩れるように座り込む。

体力には自信があったのに…
村まであとどれくらいなのか。保つだろうか。

「水を飲んで、コレを食べろ」
「…ありがとうございます」

ギィが容れ物に小川の水を汲んできてくれて、燻製のようなものと一緒に渡してくれる。

親切で連れて来てくれているのに、迷惑をかけてる。彼らだけなら当然もっと速く進めているだろうし、食糧だって分ける必要もない。

思ってた以上に足手まといな自分が嫌になって、涙が滲んでくる。
16にもなって、泣くなんて。

俯いたまま受け取って、渡された水を見る。
水は、木や草と同じように光ってる。碗は光ってない。
違いを疑問に思いながら一口飲んで、驚いた。
口に入れた瞬間は冷たいのに、喉を通る時には暖かい。というか、熱い。
喉を通って行くのがはっきりわかる程の熱さに、水の碗を取り落としそうになる。

その様子に気づかなかったはずはないのに、ギィもルークも何も言ってこない。

「あの…なんで何も聞いてこないんですか?
俺、怪しいのに…」
「んー。俺たちは色んな場所を渡り歩くんだよね。で、そうすると知らない事もいっぱいある訳。自分たちが知らないからって存在しないって事はないし、カイトは悪い感じしないしね」

冒険者の勘って当たるんだよ。って、確かに俺は善良なただの男子高校生です。
俺は気を取り直して燻製の様なものを観察する。

コレは光ってないな…

ほんの少し齧ってみる。

堅いっ!
噛みちぎれない!

仕方ないからしがんでたら、じわじわ味がしてきて、後は夢中だった。

昨日の夜も今日の朝も何も食べてないんだった!
育ち盛りには厳しすぎた!

気づけば燻製らしきものはなくなってしまっていて、まだまだ満腹になってないのに食べきってしまったことに呆然としてると、ルークが干した果物らしきものを笑いながら渡してきた。

もちろん光る人型なんだけど、ルークはギィよりちょっと細めで大きさもちょっと小さいから、区別はできる。
どちらも俺よりはだいぶ大きいけどな!

「まだ入るならコレもどうぞ。
満腹になりすぎると後が辛いから、ほどほどにね」
「あ、あ、ありがとう」

がっつきすぎが恥ずかしくて、どもりながらも、もちろんいただきます。
溢れんばかりの感謝の気持ちを表したくて、眩しさに耐えて必死で薄目で顔を上げてなんとか受け取った。

「カイトは目が良くないのか」
「いや…その…眩しくて…。
光ってるのに慣れなくて…。
2人は平気…なんですよね?慣れですか?」

ギィの言葉に恐る恐る返す。
光ってるって言っちゃって、大丈夫かな…。怒ったりしないかな…。

「ん?」
「光ってるって何が?」
「えっ?」

いやいやいや。何って周りも粒々も光ってるし、何よりあなたたちが一番光ってますが!?
えっ?俺だけ光って見えてるの??
なんで!?

「昨日も顔を背けてたのは、警戒してるからだと思ってたが、眩しかったのか…」
どおりであっさり寝た訳だ…と、ギィが小さく呟いた。

「眩しすぎてずっと下見て歩いてたのか…」
俺を見るの嫌なんだと思ってた…とは、ルーク。

「眩しいというのはどれくらいなんだ?
いや、顔を上げるのが辛いほどなら相当だな。
ここからは俺が担ぐから、もう目を閉じてろ。
大丈夫だ。ちゃんと村へ送るから」
「ギィ、お前、担ぐって…と思ったけど、いいね。
カイトの疲労も軽減されるし、何なら寝ててもいいよね」
この森程度なら全く問題ないね。と、続いたルークの言葉と近寄って来たギィに慌てる。

いやいや、恥ずかしすぎでしょ!
16の高校男子が担がれて連れてかれるって!

後退りながら思わず顔を上げて、ギィの光を直視してしまい、慌ててぎゅっと目を瞑る。
その隙に、あっさりギィに捕まった!
しかも、ごく自然な感じで膝の後ろに腕を回して持ち上げて、縦抱っこしやがった!

16才!
高校生!!

急に持ち上げられてのけぞって、驚いて目を開けてしまい光を至近で見る羽目になり、うめきながら目を瞑る。
離してくれる様子はなかったので、せめて背中でお願いします。と必死で懇願し、何故かギィはしぶしぶではあったもののおんぶで妥協されることに。

ぐったり目を瞑ってギィの背中に顔を伏せる。
これまでは眩し過ぎて輪郭でしか把握できてなかったけど、触るとしっかり筋肉がついていることがわかった。広くてがっしりした背中は抜群の安定感だ。
足音ひとつ立てずに滑るように進む歩き方は、揺れを感じることもなく。
あれだけ騒いだくせに、あっさり寝落ちた俺は、たぶん悪くない。
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