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1章

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ベッドになんとなく寝転んでる。
お風呂はご飯の前に十分堪能したし、美味しいご飯でお腹はいっぱい。まだ眠くないけどゴロゴロしてるって至福の時間のはずなのに、気分は下降気味。

前向きに頑張ろうって思ったはずなのに、1人になるとダメだった。
ギィとルークはお酒に誘われて残ってた。俺もデザートに誘われたけど、だんだん上手く笑えなくなってきてたからお腹いっぱいなのを理由に先に部屋に戻ってきた。

家族はどうしてるだろう。
急にいなくなって心配してるだろうな…。

どれくらいぼんやりしてたのか、扉がノックされてギィが入ってきた。

「カイト?」

控えめに呼びかけて来る声が沈んでいた淵から心を引き上げる。

「起きてる。この中。入って来て」

布をちょっと持ち上げてこの中って示す。
ベッドは俺が3人は寝れそうなサイズだから、ギィが入って来ても余裕ある。
奥に詰めて場所を空けるとギィはゆっくりベッドに上がって来た。

「この布が魔力を通さないらしくて、この中だと目隠しいらないんだ。あ、魔力がないと苦しくなったりする?」
「魔力を吸って活動してる訳じゃないから大丈夫だ」

寝転ぶ俺の横に胡座で座り込み小さく笑いながらこちらを見てくる。
クリアな視界で見るギィは今まで見てたギィとちょっと違う大人の雰囲気を醸し出して見えた。お酒を飲んで来たから?それとも布に囲まれた小さな空間にいるからこんなにソワソワ落ち着かない気分になるんだろうか。

「どうしたの?」

思っていたより掠れた小さな声が出た。

「途中から元気がなくなってきたように思えたんでな。何かあったか?」
「…大丈夫だよ。ご飯も美味しかったし食べすぎて苦しいくらい」
「そうか。問題ないならいい」

ギィがそっと見上げる俺の顔の横に手を当てて目を覗き込んでくる。

「カイトの目をちゃんと見たのは初めてだ。深く澄んで美しい目だな」

額を合わせるような距離で囁かれて顔が熱くなってくる。
真っ直ぐ見つめてくる視線に吸い込まれそうだ。

「な、な、ななな、何それ!?酔ってる!?
だいたいギィの目の方がきれいな色だろ!?」

緑で!睫毛長いし!と、のまれそうになっていた目線を必死で逸らす。
照れてなんかない!雰囲気に流されそうになってなんかない!っていうかどこに流されるのかもわからないし!

「はは。そうか。そういえばかっこいいと言ってくれてたな」

顔に添えていた手を離し上体を屈めて覗き込む様にしていた姿勢を戻したギィは、もうすっかりいつものギィだった。

1人で意識してあわあわしてた自分が恥ずかしいっ。
上から見下ろされてるのも癪に触って枕の横を叩く。

「酔っ払いめ!ほら!寝て!」
「ん?ここで寝てもいいのか?」
「ギィだってずっと座って寝てたんだから、横になった方がいいだろ。こっちの方が絶対よく眠れるって」
「うん…そういう事ではないんだがな。まあ、カイトがいいならいい」
「ん?どういう事?」
「いや、追々教えてやる」
「??」

ゆっくり片肘をついて寝そべったギィは横になってもやっぱり大きかった。背の高さもだけど厚みがすごい。無駄な肉など一切ない筋肉の塊。俺を片腕に乗せてもびくともしない力強さは同じ男として憧れる。
上位冒険者だって言ってた。戦っても強いんだろうな。

そんなことを思いながらギィの体を視線で辿って頭を上げていくと、黙ってこちらを見下ろしていた穏やかな目とぶつかった。

「俺とルークは明日にはここを立つ事になる。カイトはここに残って魔力に慣れながらこちらの知識を身につけろ」

魔王たちはいい人で、ここでの暮らしは楽しそうだけど置いていかれるのは辛かった。
でもあの木の下でたまたま出会って親切にしただけの俺に懐かれてもギィもルークも困るだろう。

「カイト、思うことは全て言っていいんだぞ。カイトはどうしたい?」
「…大丈夫。魔王やみんなに色々教わって早く1人で生きていけるようになるよ。
俺を拾ってここまで連れて来てくれてありがとう」

大丈夫。ちゃんと笑顔でお礼が言えてるはず。

「はぁ…手離すつもりはないんだがな…。
ギルドへの報告があるから明日立つが、終わればまた戻ってくる。
依頼は受けなければならないからずっとはいられないが終わるたびにここに来て進捗を確認するからな。しっかり学べよ」

あれ?もう会えないってことではないのかな?

「また来るの?」
「もちろんだ。たぶんルークも来るぞ。魔王にはいつでも来れる許可は取り付けた。
目さえ問題なくなれば知識は俺が教えるつもりだったのが魔王に却下された」

興味を惹きすぎたのが敗因だな…。と苦々し気に呟くのがちょっと嬉しい。
早くここから出られるようになってくれ。と、頭を顎の下に引き寄せられて背中をぽんぽんされる。

頑張る。って小さく答えて目を閉じた。
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