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1章
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目が覚めたのはまだ夜も明けきらない頃だった。
意識が覚醒すると目を開ける前にギィの匂いを感じた。
視覚が塞がれて嗅覚が鋭くなったのか。匂いを感じるほど近くに他人がいたことがなかったからか。ここまで不安を退け続けてきてくれた匂い。ずっと側にあった匂い。ギィの匂いに安心する。
抱え込まれるような形で寝ていた頭をそっと上げると、こちらを見下ろしているギィと目があった。
「起きてたの?ちゃんと寝れた?」
「あぁ。まだ早い。立つ前には起こすから寝てていいぞ」
「もう起きる。おはよう。
…ギィとルークに話したいことがあるんだ。ルーク起きてるかな」
身支度をして部屋を出る。
ギィは一度自分の部屋に戻って元の服を着てきた。ルークも既に起きていたらしい。
ギィと夜が明けたばかりの外へ出るとルークが鞍を付けた駱を2頭連れて来た。
「おはよう。
ハク殿が駱を用意してくれたよ。裏手から高台に行けるそうだから少し散策しないか?」
「ルーク、おはよう。
駱乗る!昨日乗ったとき楽しかった!」
ルークがおさえてくれている駱に乗ろうと鞍に手をかけたけど、よじ登る前にギィに後ろから持ち上げられて鞍に乗せられそのまま後ろにギィが跨る。
「…俺が乗せて行こうと思ってたのになー。お前カイトの事になるとほんと心狭いよな」
ブツブツ言ってるルークを無視してギィは駱の向きを変えて進ませた。
早朝の空気は澄んでいて気持ち良かった。
駱は小走りくらいのスピードで軽快に進み、やがて屋敷を見下ろせる高台の上に着いた。
駱から降りて伸びをする。
駱は手綱を離しても勝手にどこかへ行ってしまうこともなく、近くの草地に座り込んで太陽の方を向いてのんびり日向ぼっこの体勢。
見下ろした屋敷ではハクが外廊下で何かを運んでいて、タチが広い裏庭らしきところに居るのが見える。
反対側に目をやるとどこまでも続く森が見えた。
ビルもアスファルトも車もない世界。
俺は込み上げてくる寂しさを耐えてグッと奥歯を噛み締めた。
「俺たちが向かうのはあちらの方角だ」
ギィが右側を示す。
「今はギィも俺もエリカという街にいて、そこのギルドに報告に戻るんだよ。俺たちだったら5日くらいで着くかな」
「大きな街なの?」
「都ほどの大きさはないが、この辺りでは一番大きな街だね」
「そっか。そこに2人は住んでるんだね」
「住んでいるというよりは留まっているというだけだ。カイトが気に入らなければ他へ移るし、街が嫌なら森に家を作ってもいい」
ギィがなんでもないことのように言うから笑ってしまった。
ほんとうに一緒にいてくれるつもりなんだってわかったから。
冒険者は自由だからね。ってルークも笑う。
俺のことを話したら離れていってしまうかもしれない。どう考えても普通じゃないし変な妄想にはまってる危ない奴だとか、不気味だとか思われても仕方がないと思う。
でもだからこそただの親切なだけでなく大事にしてくれる2人にちゃんと全部話しておきたかった。
話して離れていってしまったらそれまでだ!
次からはもう誰にも話さないようにすればいいだけ。
…この2人みたいに想える人がまた現れるとは思えないけど、でも隠したままは嫌なんだ。
「ギィ、ルーク、俺を拾ってくれてありがとう。俺、ここのこと何もわからないし目もこんなだし、怪しいところしかないのにここまで連れてきてくれて、助けてくれて感謝してます」
2人に向かって頭を下げる。
「それでね、聞いてほしいことがあるんだ。どうしたらいいかわからなくてまだ誰にも言ってないんだけど聞いてほしいんだ」
ギィが無言で側の木陰に移動して座り、横の地面を叩く。
あそこに座れってことかな?
そう思いながらも動けない俺の背中をルークが優しく押してギィの横に座らせると、俺を挟んで反対側にルークも座った。
一度大きく深呼吸して俺は話しだす。
あの日裏山の木の下で起きたこと、こっちに来ることになった経緯を全部。
話し終わっていつのまにか俯いてた顔を上げた。
2人は一度も口を挟まずに最後まで聞いてくれた。
何を言われるか不安でドキドキしてくる。また視線が下がって立てている膝の間に頭がはまっていく。
「カイトは弟と妹がいるのか。かわいいだろうな」
「カイトが我慢強いの納得だなー」
えっと、俺の話を聞いた感想がそれなの!?
「俺は末子で兄たちの横暴に耐えてきたが、カイトが兄なら懐いて離れなかっただろうな」
「俺んとこは姉だけど今も理不尽ばっかりで振り回されっぱなしだわ」
「あの、俺、違う世界から来たんだと思うんだけど…」
「うん?そうだね。神との契約ということになるのかな?自分が結んだ訳でもない契約に縛られて突然連れて来られるなんてどうなんだ?
カイトは頑張ったと思うよ」
「俺はカイトに出会えて良かったが、次またやって来て連れて行こうなどとするなら神といえど追い払ってやる」
ギィが肩に腕を回してぎゅっと握ってくる。
ルークは俺の頭をかき混ぜるように撫でる。
俺の話を聞いても変わらない2人に安心して涙が出そうになった。ほんとはすごく不安だったんだな、俺。でも頑張れそう!
2人が見ててくれるなら大丈夫。頑張れる!
「そろそろ戻ろうか。ハク殿が呼んでる」
屋敷をみると裏庭でハクが手を振ってた。
立ち上がり手を振り返して駱に近づく。
「カイト、1人で乗ってみる?」
「いいの!?乗りたい!」
俺が跨った駱の手綱をルークが引いて、ギィはもう一頭の手綱を引いて。のんびり歩いて屋敷に戻った。
これ、1人で乗ってるって言うのか???
意識が覚醒すると目を開ける前にギィの匂いを感じた。
視覚が塞がれて嗅覚が鋭くなったのか。匂いを感じるほど近くに他人がいたことがなかったからか。ここまで不安を退け続けてきてくれた匂い。ずっと側にあった匂い。ギィの匂いに安心する。
抱え込まれるような形で寝ていた頭をそっと上げると、こちらを見下ろしているギィと目があった。
「起きてたの?ちゃんと寝れた?」
「あぁ。まだ早い。立つ前には起こすから寝てていいぞ」
「もう起きる。おはよう。
…ギィとルークに話したいことがあるんだ。ルーク起きてるかな」
身支度をして部屋を出る。
ギィは一度自分の部屋に戻って元の服を着てきた。ルークも既に起きていたらしい。
ギィと夜が明けたばかりの外へ出るとルークが鞍を付けた駱を2頭連れて来た。
「おはよう。
ハク殿が駱を用意してくれたよ。裏手から高台に行けるそうだから少し散策しないか?」
「ルーク、おはよう。
駱乗る!昨日乗ったとき楽しかった!」
ルークがおさえてくれている駱に乗ろうと鞍に手をかけたけど、よじ登る前にギィに後ろから持ち上げられて鞍に乗せられそのまま後ろにギィが跨る。
「…俺が乗せて行こうと思ってたのになー。お前カイトの事になるとほんと心狭いよな」
ブツブツ言ってるルークを無視してギィは駱の向きを変えて進ませた。
早朝の空気は澄んでいて気持ち良かった。
駱は小走りくらいのスピードで軽快に進み、やがて屋敷を見下ろせる高台の上に着いた。
駱から降りて伸びをする。
駱は手綱を離しても勝手にどこかへ行ってしまうこともなく、近くの草地に座り込んで太陽の方を向いてのんびり日向ぼっこの体勢。
見下ろした屋敷ではハクが外廊下で何かを運んでいて、タチが広い裏庭らしきところに居るのが見える。
反対側に目をやるとどこまでも続く森が見えた。
ビルもアスファルトも車もない世界。
俺は込み上げてくる寂しさを耐えてグッと奥歯を噛み締めた。
「俺たちが向かうのはあちらの方角だ」
ギィが右側を示す。
「今はギィも俺もエリカという街にいて、そこのギルドに報告に戻るんだよ。俺たちだったら5日くらいで着くかな」
「大きな街なの?」
「都ほどの大きさはないが、この辺りでは一番大きな街だね」
「そっか。そこに2人は住んでるんだね」
「住んでいるというよりは留まっているというだけだ。カイトが気に入らなければ他へ移るし、街が嫌なら森に家を作ってもいい」
ギィがなんでもないことのように言うから笑ってしまった。
ほんとうに一緒にいてくれるつもりなんだってわかったから。
冒険者は自由だからね。ってルークも笑う。
俺のことを話したら離れていってしまうかもしれない。どう考えても普通じゃないし変な妄想にはまってる危ない奴だとか、不気味だとか思われても仕方がないと思う。
でもだからこそただの親切なだけでなく大事にしてくれる2人にちゃんと全部話しておきたかった。
話して離れていってしまったらそれまでだ!
次からはもう誰にも話さないようにすればいいだけ。
…この2人みたいに想える人がまた現れるとは思えないけど、でも隠したままは嫌なんだ。
「ギィ、ルーク、俺を拾ってくれてありがとう。俺、ここのこと何もわからないし目もこんなだし、怪しいところしかないのにここまで連れてきてくれて、助けてくれて感謝してます」
2人に向かって頭を下げる。
「それでね、聞いてほしいことがあるんだ。どうしたらいいかわからなくてまだ誰にも言ってないんだけど聞いてほしいんだ」
ギィが無言で側の木陰に移動して座り、横の地面を叩く。
あそこに座れってことかな?
そう思いながらも動けない俺の背中をルークが優しく押してギィの横に座らせると、俺を挟んで反対側にルークも座った。
一度大きく深呼吸して俺は話しだす。
あの日裏山の木の下で起きたこと、こっちに来ることになった経緯を全部。
話し終わっていつのまにか俯いてた顔を上げた。
2人は一度も口を挟まずに最後まで聞いてくれた。
何を言われるか不安でドキドキしてくる。また視線が下がって立てている膝の間に頭がはまっていく。
「カイトは弟と妹がいるのか。かわいいだろうな」
「カイトが我慢強いの納得だなー」
えっと、俺の話を聞いた感想がそれなの!?
「俺は末子で兄たちの横暴に耐えてきたが、カイトが兄なら懐いて離れなかっただろうな」
「俺んとこは姉だけど今も理不尽ばっかりで振り回されっぱなしだわ」
「あの、俺、違う世界から来たんだと思うんだけど…」
「うん?そうだね。神との契約ということになるのかな?自分が結んだ訳でもない契約に縛られて突然連れて来られるなんてどうなんだ?
カイトは頑張ったと思うよ」
「俺はカイトに出会えて良かったが、次またやって来て連れて行こうなどとするなら神といえど追い払ってやる」
ギィが肩に腕を回してぎゅっと握ってくる。
ルークは俺の頭をかき混ぜるように撫でる。
俺の話を聞いても変わらない2人に安心して涙が出そうになった。ほんとはすごく不安だったんだな、俺。でも頑張れそう!
2人が見ててくれるなら大丈夫。頑張れる!
「そろそろ戻ろうか。ハク殿が呼んでる」
屋敷をみると裏庭でハクが手を振ってた。
立ち上がり手を振り返して駱に近づく。
「カイト、1人で乗ってみる?」
「いいの!?乗りたい!」
俺が跨った駱の手綱をルークが引いて、ギィはもう一頭の手綱を引いて。のんびり歩いて屋敷に戻った。
これ、1人で乗ってるって言うのか???
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