異世界強制お引越し 魔力なしでも冒険者

緑ノ深更

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2章

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ギルド証を受け取って、明日からの依頼も決まって、次はご飯だ!お腹空いた!

ギルド横の食堂は前回と打って変わって混雑してた。ルークが合図をすると前は居なかったホール担当っぽい子がやってきて、予約席の札が立ってるテーブルに案内してくれた。

「給仕も依頼を受けた冒険者がやってるんだよ」
「へぇー。そういう依頼もあるんだ。俺もできるかな?」
「カイトはやめとけ。酔っ払いに絡まれた時に手加減がまだ出来ないだろう?」

確かに。全力で投げてしまうな…。
店員がお客をノックダウンしたら大問題だ。

ダスさんが飲み物を持ってやって来た。

「ほら、2人には軽いやつとカイトには今日の分だ」
「ダス自ら給仕してくれるなんて、何か怖いな。変な物入ってないだろうな?」

ルークが自分の前に置かれたジョッキを覗き込みながら笑う。俺の前には、そう、あれだ。ミルク。ただ、前回はガラスのコップだったけど今日は2人と同じ金属のジョッキに入ってて、容器だけはお揃いになってる!ミルクって子どもの飲み物っぽいから出来れば隠したかったんだよ。ダスさん、男心のわかるできる人!

「お任せでおすすめのやつ幾つか頼むよ」
「任せとけ。新鮮なのが入ってるから用意してやる。カイトも食べたい物があれば言えよ」
「はい!」

じゃんじゃん持って来るからちょっと待ってろ。ってノシノシ調理場へ戻って行くダスさんを見送ってまずは乾杯。

「カイトの冒険者生活の始まりに乾杯!」
「乾杯」
「ありがとー!」

くーっ!牛乳が沁みるぜ!
直ぐに給仕が持って来たフライドポテトをつまみながら周りを眺める。
隣のテーブルは昨日もいたおじいちゃん達だ。毎日ここで食事してるのかな?

「ルークさーん、お久しぶりですー」
「ギィさん、いつ戻ってたんですか?今度ご一緒させてもらえませんか?」
「お2人がギルド食堂って珍しいですよね!今日はラッキーだなぁ」

色んな人が入れ替わり立ち替わりギィとルークに声をかけてくる。冒険者って男の人ばっかりかと思ってたけど、意外と女の人もいる。2人はああ。とか、そうだな。とか何か適当そうな返事をして話しかけて来た人達を帰してた。

とりあえず俺には関係ない感じだから、俺はどんどん運ばれてくる料理を勝手に食べる!
ここの焼き鳥も美味しーぃ!
一応野菜も食べるぞ!成長には必要な栄養だ!ぁー新鮮なやつの味がするぅ…緑臭い。けどそこがいい!

「ギィさん、ルークさん、もっと飲みましょうよー!」

いい感じに酔っ払ったお兄さんがやって来てちょっとよろけて隣のおじいちゃん達のテーブルにぶつかった。
テーブルの上のフォークが転がり落ちそうになったのを空中で捕まえる。

ナイスキャッチ!俺!

「ありがとな、坊主」
「いえい「穀潰し共が邪魔なんだよ!」え?」

自分がぶつかっておきながらこの酔っ払いは何を言ってるんだ?

「いつまでも見苦しく冒険者にしがみつきやがってよ!こんなとこに居座ってる時間あんなら狩りのひとつでもして来いよ!どうせ出来ないんだろうが!動けないのにいつまでも冒険者やりやがって恥ずかしいわ!」

え?何これ?何でおじいちゃん達はこんな事言われるの?何で周りの人は止めないの?絡んでるのは酔っ払いの方じゃね?

「いい加減にしろ。酔ってるにしてもその言い様は許されるものではないぞ」
「いや、ギィさん、ほんとの事じゃないですか。碌に仕事もしないのに冒険者名乗られて、俺らいい迷惑…なにするんだよ!離せ!おぃ!」

ギィがチラッと視線を向けると給仕をしてた人達が寄って来て酔っ払いを強制的に連れて行った。言われてたおじいちゃん達は食事の手を止めてしまってる。

「騒がせて悪かった」
「いや、いつものことだ。坊主も気にすんな。たくさん食えよ」

そう言っておじいちゃん達は食堂を出て行った。

「彼らはベテランのC級だよ。今はもうそう頻繁に依頼を受けることはないようだけどね。俺らも世話になったこともあるんだ」
「戦闘力が全てだと思い違いをしているような奴もいる。もしカイトがその手の奴に絡まれたら全力で投げ飛ばして構わん」
「ダスさんがお客として対応してるんだし、おじいちゃん達が悪口言われるような人じゃないって俺でもわかるのに」
「…ダスへの信頼感がすごいな…」
「ははは。そうかそうか。カイトは人を見る眼があるな!
ほら、今日のメインだ!うまいぞ!」

おぉぉぉ!すごい塊肉が来た!
ギィが切り分けてくれる。
これは…これはすごい新鮮なやつだ。いけるかな…。
一口分切りとって口に入れる。

あぁー…野生の味が濃い。すごい獣!って感じ。

「お前昨日訓練場で模擬戦やってた奴だろ?」

グラスを持ったお兄さんが隣のテーブルにやってきて、ニコニコ話しかけてきた。

「フリオを吹っ飛ばしてるとこ見たぞ!なかなかやるじゃないか!」

あれちょっと失敗したんですよね。

「聞いたら登録したてのE級だっていうし、将来有望だな!はははは」

ありがとうございます。
ちょっと今口にお肉入ってるんで返事できなくてすみません。

「ギィさんとルークさんが目をかけてるのも納得ってもんですよ!」

お兄さんは俺が返事しなくてもご機嫌だ。
俺はこの口の中の獣をなんとかしないと…。

「お前、依頼はいつから受けるんだ?俺はC級だからE級が行くようなところならどこでも連れて行ってやれるし、俺のとっておきの場所も教えてやってもいいぜ」

俺が外の依頼を受けるときはもれなくギィかルークが付いてきますよ。

「カイト?どうした?飲み込めないのか?」

いつまで経ってもモグモグやってる俺にルークが気づいた。

ちょっと野生味が強すぎて飲み込めないんだよね…

眉毛の下がった困り顔でルークを見る。

「ここへ出せ」

いやいやいや、ギィさん、口に入れて噛んだ物をこんなとこで出すとか出来るわけないだろ!

口を結んで頭を横に振って全力で拒否する。

じゃあ飲み込めるのかって言うと、今はまだ無理だけどさ。

出せって顔でギィがお皿を突きつけて来る。俺が首を横に振る。が何度か繰り返されて、俺が獣味に耐えられなくて涙目になっても拒否を続けてたら突然ギィが立ち上がった。
周りのテーブルの目が一気にギィに集中して話し声がおさまる。
ギィはテーブル越しに両手で俺の頭をがっちり掴んで引き寄せた。

「強情なカイトが悪い」

囁かれた瞬間、俺はギィにキスされてた。

ギィの舌が口の中で飲み込めずにいたお肉を攫っていく。唇の離れぎわにわざと大きなリップ音をたてたギィは、ごちそうさん。って…笑ってる場合じゃないだろぅぅぅ!

食堂中の人から悲鳴だか何だかわからない叫び声が溢れ出る中、ギィは俺に話しかけてたお兄さんの肩を叩きながら

「誘う相手はよく考えないと寿命が縮むかもしれんぞ」

って、嘘くさい笑顔で教えてあげてた。
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