異世界強制お引越し 魔力なしでも冒険者

緑ノ深更

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2章

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今日はギィが帰って来る日だけど、どんな顔でいたらいいんだろう。

結婚する(してた?)んだって?教えてくれたらよかったのにー。おめでとう。って?
言えるかな。
いつものように笑いながら?
…まだ、無理だな…。

昨日の夜から何も食べてないけど、お腹空かないからいいか。

また少し大きくなってた木に水を遣って、いつもより早い時間に家を出た。
いつも通りだとギィが帰って来るのは夜遅めだし、それまでに何て言うか考えておこう。って思いながらギルドへ行く道に出る角を曲がったところで、俺は足を止めた。慌ててちょっと戻って角から頭だけを出して道の先を見る。

家具屋さんの前にギィが立ってた。
距離はかなりあるけど見間違えるはずはない。
あそこは1階に置く棚を一緒に選んだお店だから、家具屋さんだ。

朝に帰って来れたんだ。って嬉しく思いながらも声をかけれず近寄ることもできない。
だってまだ、どんな顔したらいいかわからないし…。

そうやって角から覗いてたら、家具屋さんから店員らしき人が椅子を2脚持って出てきた。後ろから若い女の人も。

心臓が嫌な感じにドキドキする。

ギィはそのまま椅子を2脚とも受け取って女の人と一緒に遠ざかって行く。
遠目だけど並んで歩いていく2人は仲良さそうに見えた。

…そっかー。そっかー…。
椅子かー。新居に置くやつだよねー…。

俺、まだどこかでティナの見間違え。とか、女の人は依頼人だった。とか、そういうこともあるかな。って思ってた。
好きな人ができたんだったらギィは俺にはちゃんと言ってくれるだろうとも思ってた。いつでも正直だし直球だから隠したまま普通に過ごしたり出来ないタイプだろうと思ってたんだけどな。ちょっと違ったのかな。

そのまま角に座り込んで顔を立てた膝に埋める。

そっかー。見ちゃったなー。すごいショックだな。

「カイト?どうした?」

ノロノロ顔を上げたら、心配そうに見下ろすグレンがいた。

「体調悪いのか?顔色良くない。家に帰る?」

家…か…。

「ん、大丈夫。ちょっと立ち眩み。
朝ごはん抜いちゃったから、お腹空きすぎたみたい」

差し出してくれた手を掴んで立ち上がりながら、元気そうな声を意識して出す。

「依頼に出る前に屋台で食べるわ。グレンはギルド行くの?」
「いや、俺は早朝の配達依頼終わらせたとこで一回風見鶏に帰るとこだけど」
「そっか。じゃあ、俺ギルド行くね。声かけてくれてありがと!」
「…本当に大丈夫?ギルドまで一緒に行く?」
「大丈夫、大丈夫!食べれば治るって!じゃあ、またな!」

グレンはまだ何か言いたそうだったけど、強引に会話を終わらせて笑顔で手を振って歩き出す。
今日は依頼を受けても遂行出来る気がしないけど、家にはいたくないし、ギルドには昨日また明日って言って来ちゃってるから一度顔を出しておかないと心配されるかもしれないしな。

とりあえず目についた採取依頼を受ける。
いつもより早い時間だったからカウンターが混み合ってて雑談する余裕がなかったのが助かった。
査定カウンターにいるマリアンヌさんがこっちを見てたから手を振って、サッとギルドを出た。

門を出て目的地も決めずにただ歩く。適当なところで街道を外れて脇の林に入って奥に進むと、ちょっと開けた場所に出た。
初めて来た場所だけど、方角はわかってるから帰り道は大丈夫だ。
帰ってもいいのかはわからないけど…。

考えるのに疲れて、仰向けに転がって目を瞑る。
1人で考えてたって答えが出ないことはわかってるんだ。だって俺の中に答えはない。答えはギィが持ってるんだから。

そのまま意識が薄くなって浅い眠りに引き込まれていき、久しぶりのあの空間にやって来た。

「種植えてくれてありがとうねー!すくすく育ってるでしょ。成長するほど僕の力も強くなるから毎日水遣りよろしくね!」

今日の神様はご機嫌だな。
ピヨちゃんがくれた種は神様の種だったのか。

「あれ?どうしたの?元気ないね。ちょっと見せてごらん?」

頭に伸びてきた神様の手を避ける。頭を掴まれると記憶を見られる?みたいなんだよな。でも今は頭の中を見られたくない。

「神様、もう一度引っ越ししたいって言ったらできますか?」
「もう一度引っ越し?前は嫌がってたのに引っ越ししたくなったの?
うーん、今の僕の力じゃあんまり遠くには行けないなー。世界を渡るのは無理だし…頑張って隣の国くらいかなー」

すぐ引っ越しする?って聞いてくれるけど、隣の国だとギィだと普通に来ることありそうだしな。どうせならもっと遠くがいいな。

「いえ、今すぐはいいです。もうちょっと考えます」
「わかった。いつでも言ってね。
お前にくっついてるあの男も僕を遠ざけようと色々試してるみたいだけど、無駄だって言っといて。
ヒトが作るような物で僕を拒めるはずがないんだよ。僕の力を侮りすぎだよね」
「たぶん、ギィはもうすぐいなくなります。大丈夫です」
「そうなの?お前はそれでいいの?
お前がいいなら僕は大歓迎だよ。お前の子や孫が増えていくのが楽しみだしね。あの男じゃそれは無理だからさー」

僕はいつでもお前の味方だよ。水遣り忘れずによろしくね。って神様の声が遠ざかって、パカッと目が覚めた。
空は日が傾いてすっかり夕焼けになってた。

帰るか…。
依頼は期限までに達成すればいいからこのまま帰ろう。
全くお腹は空かないけど、さすがに何か食べないとだし、ギィが帰って来るから晩御飯用意しときたい。…食べて来るかもだけど、ギィが食べなければ俺が明日食べればいいし。

屋台で適当に焼き串を買って拠点に戻る。
足を引き摺るようにポーチを上がって扉を開けたら、ギィがいた。
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