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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

634:五人目

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 毎度毎度のこの展開。

 【モッモ、命を狙われる】

 読者もさすがに飽き飽きしているんじゃないでしょうか?
 なのに、作者はまたも俺を、命の危機に晒したいらしいです。
 なんて酷い作者なのでしょう、人格を疑います、はい……

 五百年前、時の神の使者の先輩でもある大魔導師アーレイク・ピタラスは、クトゥルーという名の旧世界の神によって殺害され、更にそのクトゥルーは現代に蘇っており、同じく時の神の使者である俺の命を狙っている、だとぉ~?

 思えばこれまで、本当に俺は、九死に一生とやらを何度も体験して参りました。
 幻獣種族故に拉致されたり、海に放り出されて溺れ死にかけたり、食べ物に間違えられたり、神の力を抜き取る為に殺されそうになったり、挙句は生贄にされたり……
 えぇもう本当に、今ここでこうして生きている事が不思議なほどの、数々の死線を乗り越えて、なんとか今日まで生き延びてきたわけですよ。

 それなのに、またですか?
 俺は、また命を狙われなければならないのですか??
 しかも、神様ですら得体が知れないと仰っていた、世にも恐ろしい旧世界の神とやらにですか???

 ……うむ、もはや、俺の未来には死しか見えない。

 チーン

『その可能性は低いノコ』

 ありゃ?

 沈黙する俺達に向かって、リュフトはそう言った。
 どうやらもう満足したらしく、水の入ったお椀から外へと出てきている。

「可能性は低いって、どこの部分が?」

 もはや敬語など微塵も使う気がないグレコ。

『クトゥルーがこの者の命を狙っている、という部分ノコ』

 おおっ!? マジで!??
 俺、命狙われずに済むのっ!?!?

「おまいさん、なんでそう言えるんだ? 残念ながら、おいら達は既に、ここに来るまでに何度も悪魔に襲われてんだ。モッモだって、何度も危険な目に遭ってる。それら全てが、時の神の使者であったアーレイク・ピタラスを殺害した、クトゥルーとかいう名の悪霊のせいだってのは、かなりいい線いってると思うがな??」

 キノコとはいえ神様なのに、おまえ呼ばわりするカービィ。
 だけどリュフトは気にせず続ける。

『もし仮に、クトゥルーが現代に蘇っていたとして……。この見るからにひ弱で無力な時の神の使者を死に追いやる事など、ものの数秒で出来てしまうノコ』

 なっ!?
 なんて事言うんだ!??
 このウンコキノコめぇっ!!!

『しかし奴はそれをしていない……。即ち、何か別の目的があるはずノコ。悪魔を唆し、時の神の使者を襲わせて、その先に達成したい何かが……』

 リュフトはそう言うと、短い腕を胸の前で組んで、むむむという顔で固まってしまった。
 
「その先に達成したい何か? 蘑菇神様、何か思い当たる節がありますポか??」

 ちゃんと丁寧に喋るノリリア。
 リュフトは、うーんうーんと考えている。
 そんなに考え込むって事は、思い当たる節など特に無いのでは?

『……ある、ノコ』

 あるのかよっ!?!?

『アーレイクは大陸を分断した後、逃げた悪魔共を討伐する為に、己の弟子を各島に向かわせたノコ。しかし、この島にも悪魔は残っていたノコ。先程そなた達が退治したカイム……、アーレイクは、奴を封印する為に戦わなければならなかったノコ。だが既に、大陸の分断に己の全てを注いだアーレイクには、神の力は愚か、魔力も殆ど残っていなかったノコ。故にアーレイクは、弟子の一人を自らの元に残して、その弟子の力を分けてもらい、共闘する事で、悪魔カイムを滅ぼしたノコ』

 ……え? 弟子??
 アーレイク・ピタラスの弟子って、四人じゃなかったの???

「ポポ? その弟子とは誰の事ポ?? フーガの史実文献には、故アーレイク・ピタラスの弟子は……、イゲンザ・ホーリー、コトコ・レクサンガス、ニベルー・パラ・ケルースス、ロリアン・マーヤ、この四人のみと記されていたポ。まさか……、五人目がいたポか???」

 疑問を投げ掛けるノリリア。
 他の騎士団メンバーも、ノリリア同様、困惑した様子でリュフトを見つめている。

『ノコ……。その史実文献とやらには、真実は残されていなかったという事ノコ。我が知り得る限りでは、アーレイクがこの地にやってきた当時から、彼には五人の弟子が存在したノコ。この目で見て、話をして、共に時間を過ごした故に、断言出来るノコ』

 リュフトは、とても自信満々な様子だ。

『しかし、史実に残されていない理由も、我には理解出来るノコ。彼は、アーレイクの弟子として相応しく無かった、という事ノコ』

 リュフトは、少しばかり悲しげな目をして、そして……

『五人目の弟子の名は、ユディン。何を隠そう彼は……、悪魔の血を引く少年だったノコ』

 あっ!? あああっ!??
 悪魔の血を引く!?!?
 つまり、アーレイク・ピタラスは、悪魔を弟子にしていたって事!?!!?

「に……、俄に、信じ難い話ポね……」

 動揺を隠せないノリリア。
 心拍数が上がっているらしい、呼吸が少々乱れている。

『ユディンは、その背格好こそ人の子と同等であったが、額には二本の黒い角、背には鳥のものではない真っ青な翼を有していたノコ。そして、その力の強さは、アーレイクの持つ神の力に匹敵していた……。ユディンは間違いなく、アーレイクを師事した五人の弟子の中で、最も強い力を持った者であったノコ。それ故にアーレイクは、最後の最後まで、彼を側に置いていたノコ』

 最後の最後までって……、死ぬ時までって事?

「仮に、蘑菇神様の仰る事が真実だとして……。そのユディンという者は、今どこにいるのですポ? 五百年前の人物ですポ、もう亡くなっているか……、しかし悪魔の血を引く者であれば、或いはまだ……??」

 ノリリアの言葉に、リュフトは頷くともなく俯いた。

『ユディンは……、悪魔故に、まだ生きているかも知れないノコ。しかし、我が最後に彼を見たのは、瀕死のアーレイクと共に、封魔の塔へと入って行く姿ノコ。つまり、五百余年前のあの日、塔に入ったっきり二人の姿を我は見てないノコ』

 なるほど……、生死不明ってやつですな。

「その……、五人目の弟子ユディンって奴がいて、そいつが悪魔だってのは分かったけど……。それがなんで、クトゥルーがモッモを殺さねぇ理由になるんだ?」

 訳分からんって感じで、首を捻るカービィ。
 なんていうか……、もうちょっと言葉を選んでくれないかね?
 モッモを殺さない理由って、あんた……、聞いてて気分良くないぞ。

『先程も言ったが、ユディンは、アーレイクの神の力に匹敵する力を持っていたノコ。当時はまだ幼さの残る姿だった故に、その力が全てとは考えにくいが、それでも強い力だったノコ』

「それってもしかして、そのユディンって奴は、上級悪魔だったって言いてぇのか?」

 うえぇっ!? じょ、上級悪魔!??
 カービィ、何言ってんだよ!?!?

 上級悪魔って……、つまり、中級悪魔であるハンニやカイムより上、って事だよね?
 ……え、それってヤバくない??

『我は悪魔共の階級については詳しく知らぬ故、明言は避けるノコ。しかしながら、一時的とはいえ、ユディンがアーレイクに授けた力は、一撃でカイムを破滅させるほどの力を持っていたノコ』

 うおぉっ!? やっぱり強いんじゃないか!??
 そのユディンって奴、一体何者なのさっ!?!?

「……で、クトゥルーがモッモを殺さずにいる理由は? 何かあるの??」

 焦ったくなったらしいグレコが、ちょっぴり声を低くして尋ねた。
 するとリュフトは、黒いお顔を更に黒くして(俺にはそういう風に見えた)、静かにこう言った。

『ユディンはあの日、封魔の塔の要となったはずノコ。それ即ち、異界に通ずる穴を二度と開けさせない為の、いわば楔のような存在……。ユディンは今尚、封魔の塔の何処かで、自らが封印の一部となって、この地を……、ノココ、この世界を守っているノコ。邪なる神クトゥルーの狙いがもし、再びこの地に異界へ通ずる穴を開ける事なのであれば……。それが出来るのは、アーレイクと同じ力を持つそなたのみノコ』

 リュフトの小さな瞳が、真っ直ぐに俺を見つめている。
 俺の小ちゃなマイハートが、ドキドキと騒ぎ始める。

『アーレイクが、我に託しし言葉、それは……』

《遥か未来に現れる時の神の使者に告ぐ。ユディンを解放してはならない。さもなくば、世界は再び混沌に陥るであろう。我が残しし邪滅の書アポクティ・ビブリオを手に、我らが大いなる敵よりユディンを守れ。それが唯一、この世界の調和を保つ為の方法である》
 
 リュフトの声、その言葉に、俺の心臓はドクンと大きく鼓動した。
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