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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
633:五百年前の真実
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『彼の大魔導師アーレイク・ピタラスは、かつての大陸を分断した後、神の力を失いて、邪なる神に滅ぼされたノコ』
水を張った小さなお椀の中で寛ぎながら、リュフトはそう言った。
「神の力を失った? 邪なる神に滅ぼされた?? ……どういう事ポ???」
そう小さく呟いたノリリアの声は、少しばかり震えていた。
夕食を終えた後、俺とグレコ、カービィとギンロ、それからロビンズとインディゴは、リュフトを傘帽子に乗せたカサチョと共に、ノリリアのテントへと向かった。
そこには既にパロット学士がいて、ノリリアと墓塔の探索について打ち合わせをしている最中だった。
ノリリアは、部屋の中央にある作戦会議用のテーブルの真ん中に、小さなお椀を乗せて、水で満たし、リュフトを案内した。
そして、満足げな様子で体を水に浸したリュフトは、ゆっくりと語り始めたのだ。
五百年前の真実を……
『五百余年前の当時、このピタラス諸島の前形であるムームー大陸は、アーレイクが到着する数百年もの昔から異界より現れし悪魔共の影響で、非常に混沌とした、荒廃した大陸であったノコ。今尚このピタラス諸島において、主要五諸島と呼ばれる各島で繁栄する五種族、イゲンザ島の有尾人族、コトコ島の鬼族、ニベルー島のケンタウロス族、ロリアン島の竜人族、そしてここアーレイク島のハルピュイア族……、この者達によって、永年に渡るとも思えよう、長く激しい戦いが繰り広げられていたノコ。元々その五種族は、各々に縄張り意識が強く、また好戦的ではあったが、無駄に争う事は無かったノコ。しかし、一度争いの種が撒かれてしまえば、それは火の如く素早く、大陸全土に広がっていったノコ。かつての大陸における種族間の争いは全て、大陸に巣食う悪魔共が元凶であったが……、当時の五種族には、それを知る者は誰一人として居なかったノコ。互いを憎ませ合い、争わせ、殺し合わせる……。悪魔共は、なんとも汚いやり方で、大陸全土を血で染めていったノコ』
リュフトの言葉に、俺達はみんな沈黙していた。
続きの言葉を、みんな静かに待っていた。
『当時の大陸には、我が蘑菇族のように、争いを嫌い、また戦う力を持たぬ種族も沢山いたノコ。しかし、それらの種族は皆、深い森や谷に身を隠し生き延びるか、或いは滅びる運命だったノコ。今このピタラス諸島に暮らす五種族以外の様々な種族は、その当時の生き残りノコ。しかしながら、当時と比べてもその数は半数ほど……、ノココ、七割方滅んでしまい、激減してしまったノコ……。それでも、アーレイクとその仲間達の勇気と決断によって生き延びる事の出来た種族は存在するノコ。アーレイク達の選択した道は、正しかったノコ』
「ポポ……、蘑菇神様、一つお尋ねしてもよろしいですポか?」
リュフトはまだ話の途中だろうに、その語り口が焦ったく感じたのだろう、ノリリアが口を挟んだ。
『良い、申せノコ』
「先程、故アーレイク・ピタラスについて、非常に興味深い事を仰っていましたポね。大陸大分断の後、神の力を失って、邪なる神に滅ぼされたと……。それはいったい、どういう意味なのですポ?」
ノリリアの問い掛けに、リュフトは体を水に浸したまま、答える。
『そのままの意味ノコ。かつての大陸に存在した、異界とこの世界とを繋ぐ大穴を塞ぐ為には、大陸を崩壊させる必要があったノコ。しかしながら、大陸を分つ事は並大抵の魔導師では為せぬ所業ノコ。故にアーレイクは、使者である自らの神の力でもって、巨大な大陸を分断したノコ。だが、それを神は良しとしなかった……。大陸を分断した後、アーレイクはその神の力を失ってしまったノコ。故に、この世界に残ってしまった悪魔共の始末を、己の弟子に託す事にしたノコ。神の力を失ったアーレイクには、あまり時間が残されていなかったノコ。それでもいつか来る未来の為に、この島にあの塔を築いたノコ。天を貫く巨大な塔……、封魔の塔を』
「すみません、少し宜しいですか?」
次に口を挟んだのはパロット学士だ。
リュフトがまだノリリアの質問に全て答えていないというのに、割って入ってきたではないか。
「その……、今の話だと、故アーレイク・ピタラス大魔導師は、己の為に塔を築いたのでは無いという事ですか? 我々の祖国では、大魔導師が己の知識と見聞を残す為に、その塔は築かれたのだと伝わっているのですが……。未来の為というのは、具体的にどういう事なのでしょう??」
『封魔の塔には、確かにアーレイクの残した遺産が保管されているはずノコ。しかし、塔を建てた理由は別にあるノコ。アーレイクは、未来を予知する力を持っていたノコ。つまり、彼には見えていたノコ。数百年の後に起きる未曾有の出来事と、それを防ぐ手立て……。アーレイクは、今この時、五百余年後の未来で、再びこの地に時空の歪みが生じ、異界への大穴が開かれる事を予見していたノコ。そしてそれを防ぐ為、或いはその手助けをする為に、封魔の塔を築いたノコ』
ふむ、つまり……、ん? どういう事だ??
「それは……、もしかして、今またその、魔界へ繋がる時空穴が、ここで……、このピタラス諸島で、開こうとしているという事ですポか?」
『そういう事ノコ』
うえぇえっ!? そういう事なのかっ!??
……え、それってヤバくないっ!?!?
「こりゃ~、魔連(世界魔法連盟の略)の見立てが正しかったって事だな。ローズが言ってたろ? 時空の歪みが起きてるから、ついでに調査して来いって、魔連に言われたって」
ヘラヘラしながらカービィが言った。
「ポポゥ……、団長の恐れていた事が現実になったという事ポね……」
冷や汗をかくノリリア。
その様子からして、今ここで新たに魔界へ繋がる大穴が開いてしまえば、いくら白薔薇の騎士団とはいえ対処しきれないという事だろう。
『ノココ、案ずる事は無いノコ。確かに、この地にはこれまで幾度と無く時空の歪みが生じてきたノコ。しかし、それがすぐさま異界へ繋がる大穴になる心配は無いノコ。それを防ぐ為の、封魔の塔ノコ』
ふむ、つまり……、今すぐ危険が降りかかる事はない、という事か。
「邪なる神というのは? そいつは何者なのかしら??」
相手の見た目がキノコだからか、神様だというのにタメ口で話し掛けるグレコ様、さすがです。
『邪なる神……、つまり、我のような八百万の神がこの世に生まれる以前より存在した、未知なる神々の事ノコ。アーレイクは彼の者を、旧世界の神、または神代の悪霊と呼んでいたノコ』
なぬっ!? 旧世界の神!??
神代の悪霊だとぉっ!???
それってもしかして……、いやもしかしなくても、イグの事なんじゃ!?!!?
『その者の名はクトゥルー。アーレイクを亡き者とした……、血も涙もない、化け物のような風貌の神であったノコ』
イグじゃなかったぁ~!?
てか……、え、アーレイクを殺した!??
アーレイク・ピタラスは、旧世界の神々の一人に殺されたって事!?!?
どうして!?!!?
もう何がなんだか……、頭がこんがらがっちゃうぅっ!!!
「クトゥルー? その名前って……、あっ!? 確か、グノンマルが死ぬ間際に口にしていた!??」
えっ!? そうなのグレコ!??
俺、全然覚えて無いっ!!!
「ポポッ!? グレコちゃんの言う通りポ! 何処かで聞いた名前だと思っていたポが……。となると、あの悪魔サキュバスのグノンマルと、その旧世界の神クトゥルーが、何らかの形で繋がっていたという事になるポが……」
そこまで言ってノリリアは、口を噤んで青褪めた。
パロット学士もロビンズもインディゴも、ノリリア同様、顔色を悪くして沈黙している。
ど……、どうしたのさ?
みんなして黙ったら、こ、怖いんだけど??
いったい、何がどうなって……???
「つまりこういう事だな。五百年前に、大魔導師アーレイク・ピタラスを亡き者にした神代の悪霊その名もクトゥルーは、現代に蘇っている。そして今回もまた、時の神の使者を狙っている……」
え? カービィ、何言ってんの??
クトゥルーが、蘇っている……???
「やはりそういう事か……。我も、そうではないかと案じておった」
え? ギンロも何言ってんの??
てか……、あんたの場合は完全なる勘でしょう???
「そういう事ね……。これで筋が通ったわ。モッモ、あなたがこのピタラス諸島で数々の危険に見舞われたのはきっと、そのクトゥルーって奴のせいよ。奴は、時の神の使者の命を狙っている……。モッモ、あなたの命を狙っているのよ」
え? グレコまで??
……え??? 待ってよ。
俺、また命狙われてんの????
口が半開きのポカンとした表情の俺に向けられる、カービィ、ギンロ、グレコの真剣な眼差し。
なんかもう、何が何だが……
えぇえぇぇ~~~?????
水を張った小さなお椀の中で寛ぎながら、リュフトはそう言った。
「神の力を失った? 邪なる神に滅ぼされた?? ……どういう事ポ???」
そう小さく呟いたノリリアの声は、少しばかり震えていた。
夕食を終えた後、俺とグレコ、カービィとギンロ、それからロビンズとインディゴは、リュフトを傘帽子に乗せたカサチョと共に、ノリリアのテントへと向かった。
そこには既にパロット学士がいて、ノリリアと墓塔の探索について打ち合わせをしている最中だった。
ノリリアは、部屋の中央にある作戦会議用のテーブルの真ん中に、小さなお椀を乗せて、水で満たし、リュフトを案内した。
そして、満足げな様子で体を水に浸したリュフトは、ゆっくりと語り始めたのだ。
五百年前の真実を……
『五百余年前の当時、このピタラス諸島の前形であるムームー大陸は、アーレイクが到着する数百年もの昔から異界より現れし悪魔共の影響で、非常に混沌とした、荒廃した大陸であったノコ。今尚このピタラス諸島において、主要五諸島と呼ばれる各島で繁栄する五種族、イゲンザ島の有尾人族、コトコ島の鬼族、ニベルー島のケンタウロス族、ロリアン島の竜人族、そしてここアーレイク島のハルピュイア族……、この者達によって、永年に渡るとも思えよう、長く激しい戦いが繰り広げられていたノコ。元々その五種族は、各々に縄張り意識が強く、また好戦的ではあったが、無駄に争う事は無かったノコ。しかし、一度争いの種が撒かれてしまえば、それは火の如く素早く、大陸全土に広がっていったノコ。かつての大陸における種族間の争いは全て、大陸に巣食う悪魔共が元凶であったが……、当時の五種族には、それを知る者は誰一人として居なかったノコ。互いを憎ませ合い、争わせ、殺し合わせる……。悪魔共は、なんとも汚いやり方で、大陸全土を血で染めていったノコ』
リュフトの言葉に、俺達はみんな沈黙していた。
続きの言葉を、みんな静かに待っていた。
『当時の大陸には、我が蘑菇族のように、争いを嫌い、また戦う力を持たぬ種族も沢山いたノコ。しかし、それらの種族は皆、深い森や谷に身を隠し生き延びるか、或いは滅びる運命だったノコ。今このピタラス諸島に暮らす五種族以外の様々な種族は、その当時の生き残りノコ。しかしながら、当時と比べてもその数は半数ほど……、ノココ、七割方滅んでしまい、激減してしまったノコ……。それでも、アーレイクとその仲間達の勇気と決断によって生き延びる事の出来た種族は存在するノコ。アーレイク達の選択した道は、正しかったノコ』
「ポポ……、蘑菇神様、一つお尋ねしてもよろしいですポか?」
リュフトはまだ話の途中だろうに、その語り口が焦ったく感じたのだろう、ノリリアが口を挟んだ。
『良い、申せノコ』
「先程、故アーレイク・ピタラスについて、非常に興味深い事を仰っていましたポね。大陸大分断の後、神の力を失って、邪なる神に滅ぼされたと……。それはいったい、どういう意味なのですポ?」
ノリリアの問い掛けに、リュフトは体を水に浸したまま、答える。
『そのままの意味ノコ。かつての大陸に存在した、異界とこの世界とを繋ぐ大穴を塞ぐ為には、大陸を崩壊させる必要があったノコ。しかしながら、大陸を分つ事は並大抵の魔導師では為せぬ所業ノコ。故にアーレイクは、使者である自らの神の力でもって、巨大な大陸を分断したノコ。だが、それを神は良しとしなかった……。大陸を分断した後、アーレイクはその神の力を失ってしまったノコ。故に、この世界に残ってしまった悪魔共の始末を、己の弟子に託す事にしたノコ。神の力を失ったアーレイクには、あまり時間が残されていなかったノコ。それでもいつか来る未来の為に、この島にあの塔を築いたノコ。天を貫く巨大な塔……、封魔の塔を』
「すみません、少し宜しいですか?」
次に口を挟んだのはパロット学士だ。
リュフトがまだノリリアの質問に全て答えていないというのに、割って入ってきたではないか。
「その……、今の話だと、故アーレイク・ピタラス大魔導師は、己の為に塔を築いたのでは無いという事ですか? 我々の祖国では、大魔導師が己の知識と見聞を残す為に、その塔は築かれたのだと伝わっているのですが……。未来の為というのは、具体的にどういう事なのでしょう??」
『封魔の塔には、確かにアーレイクの残した遺産が保管されているはずノコ。しかし、塔を建てた理由は別にあるノコ。アーレイクは、未来を予知する力を持っていたノコ。つまり、彼には見えていたノコ。数百年の後に起きる未曾有の出来事と、それを防ぐ手立て……。アーレイクは、今この時、五百余年後の未来で、再びこの地に時空の歪みが生じ、異界への大穴が開かれる事を予見していたノコ。そしてそれを防ぐ為、或いはその手助けをする為に、封魔の塔を築いたノコ』
ふむ、つまり……、ん? どういう事だ??
「それは……、もしかして、今またその、魔界へ繋がる時空穴が、ここで……、このピタラス諸島で、開こうとしているという事ですポか?」
『そういう事ノコ』
うえぇえっ!? そういう事なのかっ!??
……え、それってヤバくないっ!?!?
「こりゃ~、魔連(世界魔法連盟の略)の見立てが正しかったって事だな。ローズが言ってたろ? 時空の歪みが起きてるから、ついでに調査して来いって、魔連に言われたって」
ヘラヘラしながらカービィが言った。
「ポポゥ……、団長の恐れていた事が現実になったという事ポね……」
冷や汗をかくノリリア。
その様子からして、今ここで新たに魔界へ繋がる大穴が開いてしまえば、いくら白薔薇の騎士団とはいえ対処しきれないという事だろう。
『ノココ、案ずる事は無いノコ。確かに、この地にはこれまで幾度と無く時空の歪みが生じてきたノコ。しかし、それがすぐさま異界へ繋がる大穴になる心配は無いノコ。それを防ぐ為の、封魔の塔ノコ』
ふむ、つまり……、今すぐ危険が降りかかる事はない、という事か。
「邪なる神というのは? そいつは何者なのかしら??」
相手の見た目がキノコだからか、神様だというのにタメ口で話し掛けるグレコ様、さすがです。
『邪なる神……、つまり、我のような八百万の神がこの世に生まれる以前より存在した、未知なる神々の事ノコ。アーレイクは彼の者を、旧世界の神、または神代の悪霊と呼んでいたノコ』
なぬっ!? 旧世界の神!??
神代の悪霊だとぉっ!???
それってもしかして……、いやもしかしなくても、イグの事なんじゃ!?!!?
『その者の名はクトゥルー。アーレイクを亡き者とした……、血も涙もない、化け物のような風貌の神であったノコ』
イグじゃなかったぁ~!?
てか……、え、アーレイクを殺した!??
アーレイク・ピタラスは、旧世界の神々の一人に殺されたって事!?!?
どうして!?!!?
もう何がなんだか……、頭がこんがらがっちゃうぅっ!!!
「クトゥルー? その名前って……、あっ!? 確か、グノンマルが死ぬ間際に口にしていた!??」
えっ!? そうなのグレコ!??
俺、全然覚えて無いっ!!!
「ポポッ!? グレコちゃんの言う通りポ! 何処かで聞いた名前だと思っていたポが……。となると、あの悪魔サキュバスのグノンマルと、その旧世界の神クトゥルーが、何らかの形で繋がっていたという事になるポが……」
そこまで言ってノリリアは、口を噤んで青褪めた。
パロット学士もロビンズもインディゴも、ノリリア同様、顔色を悪くして沈黙している。
ど……、どうしたのさ?
みんなして黙ったら、こ、怖いんだけど??
いったい、何がどうなって……???
「つまりこういう事だな。五百年前に、大魔導師アーレイク・ピタラスを亡き者にした神代の悪霊その名もクトゥルーは、現代に蘇っている。そして今回もまた、時の神の使者を狙っている……」
え? カービィ、何言ってんの??
クトゥルーが、蘇っている……???
「やはりそういう事か……。我も、そうではないかと案じておった」
え? ギンロも何言ってんの??
てか……、あんたの場合は完全なる勘でしょう???
「そういう事ね……。これで筋が通ったわ。モッモ、あなたがこのピタラス諸島で数々の危険に見舞われたのはきっと、そのクトゥルーって奴のせいよ。奴は、時の神の使者の命を狙っている……。モッモ、あなたの命を狙っているのよ」
え? グレコまで??
……え??? 待ってよ。
俺、また命狙われてんの????
口が半開きのポカンとした表情の俺に向けられる、カービィ、ギンロ、グレコの真剣な眼差し。
なんかもう、何が何だが……
えぇえぇぇ~~~?????
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