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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

745:照れ笑い

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「うっ!? 眩しっ!!?」

 俺は思わずそう言った。

 時空穴を発生させる為の力場パワー・スポットと、それを封印する為の魔法陣が消え去り、真っ暗闇と化した封魔の塔の地下から、カサチョが得意の空間魔法で作った穴を通って、塔の外の地上へと戻った俺が最初に目にしたのは、燦々と輝く太陽であった。
 東の空より登るその光は、辺りを煌々と照らしながら、長い長い夜の終わりを告げていた。
 スンとした朝の空気に、俺は深く息を吸った。

 本当に、終わったんだなぁ……

 周りには、騎士団メンバー全員の姿が確認出来る。
 先程まで気を失っていたはずのロビンズ、インディゴ、マシコット、チリアン、エクリュの5人は、無事に意識を取り戻したようだ。
 未だ気を失ったまま、茶色い岩だらけのゴツゴツとした地面に横たわるサン、カナリー、ライラック、ブリックの4人は、先に目を覚ました5人と、地上で待機していたパロット学士と現地調査員であるボナークが、手分けして介抱している最中である。
 その様子から察するに、今のところ、死人は出ていないようだと、俺は安堵する。

「ポポ? 扉が……??」

 ノリリアの声が聞こえて、後ろを振り返ると、そこには巨大な赤銅色の塔が聳え立っていた。
 世界ではアーレイク・ピタラスの墓塔と呼ばれている、内部では魔法を使う事が許されない摩訶不思議な塔……、その名も封魔の塔。
 しかしながらその姿は、俺が知っているものとは少し違っている。

 塔の唯一の入り口であり、出口であったはずの金の扉。
 それが綺麗さっぱり無くなって、代わりに大きくて歪な穴が空いているのだ。
 それはまるで、何者かが外側から爆破魔法で扉を吹き飛ばし、無理矢理に空けられたもののように見える。

「あぁ、えっとね……。カービィが吹き飛ばしたのよ」

 あははと笑いながら、答えるグレコ。
 
「ポポッ!? 吹き飛ばしたっ!!?」

「こうな、バッコーーーン! って感じで……、のぉ?」

 バッコーーーン、とかいう非常に解り辛い表現をするテッチャ。
 両手を大きく広げているけれど、それだけじゃ意味が分からない。

「なははっ! おいら様にかかりゃ~あんなもの……、屁でもねぇぜっ!!」

 てやんでいっ! て感じで、決めポーズをするカービィ。

「毎度の事ながら、無茶するポねぇ~」

 渋い顔でカービィを睨むノリリア。

「他に方法が無かった故、致し方ない。モッモの命の危機を救うは、我ら守護者ガーディアンの使命故な」

 ドーンと胸を張り、カッコいい事を言うギンロ。
 だけどたぶん……、自分達の事を、守護者って言いたかっただけだと思う。

「これを、拾った」

 片言でそう言い、ノリリアに向かって、ティカはそれらを差し出した。
 一つは、ついさっき、塔の地下にて水溜りの中から拾い上げていた、古代魔道書レメゲトンの第一部、悪魔の書ゴエティア。
 血のように真っ赤な色をした背表紙からは、おどろおどろしい雰囲気がバンバン出ているが、手にしているティカは全然平気そうだ。
 そしてもう一つは、年季の入った分厚い書物。
 此方も何やら、見覚えがあって……

「ポポポッ!? 解呪術全書!!? どこでこれをっ!?!?」

 ゴエティアの方は完全スルーして、年季の入った分厚い書物へと手を伸ばすノリリア。
 それは、封魔の塔の頂上階で出会った、謎エルフのプラティック・リバイザデッドがノリリアに授けた、アーレイク・ピタラスが残した遺産である。
 なんでも、様々な呪いを解く方法が記されているとかなんとか……
 つまりは、ノリリアが探し求めていた物であり、今回のプロジェクトにおける最も重大な戦利品なのである。
 
「落ちていた。拾った」

 ……うんティカ、それは分かったんだけどね。
 
「ポポゥ、なんでもいいポ。ありがとポォ~!」

 ティカから解呪術全書を受け取ったノリリアは、満面の笑みでそれをギュッと抱き締めた。

「そっちはどうすんだ? 悪魔の書ゴエティア」

 珍しく、真剣なお顔、真剣な声のトーンで、尋ねるカービィ。

「……出来れば、触りたくも無いポね」

 めちゃくちゃ素直に拒否るノリリア。
 そんな、ノリリアでも触る事を嫌がるほどの代物を、平気な顔して持っているティカはいったい何者なんだ……?

「ならば、拙者の風呂敷に包んでおくでござるよ。この風呂敷は魔具故、包まれた物は一時的に異空間に囚われる事となり、効力を発揮出来ぬでござる。ゴエティアより溢れ出る邪気も抑えられよう」

 いたのかカサチョ!?
 スッとティカの背後から姿を見せたカサチョが、何の変哲もない緑色の、「の」の字が描かれた正方形の布を取り出して地面に広げた。

「ポッ! 助かるポッ!! ……出来れば、フーガに帰るまで、カサチョがそのまま持ってて欲しいポよ」

「承知したでござる。ささっ、ここへ置くでござるよ」

 カサチョのござる口調が伝わりにくいのか、ティカは数秒間沈黙していたが、意味が理解出来るとすぐに、その真っ赤な書物を広げられた風呂敷の真ん中に置いた。
 カサチョは手早く風呂敷を包み、それを懐へと仕舞い込んだ。

「これが、パターンX……。アーレイクが信じなかった、実現不可能な未来……」

 いつの間にか、俺の真横に立っていたアイビーが、ボソボソとそんな事を呟いた。
 その茶色の瞳で、目の前にいるみんなを一人ずつ、ゆっくりと見つめていき……
 
「まさか本当に、誰一人亡くさない未来があっただなんて……。モッモ君、君は本当に凄いな」

 泣き笑いしているかのような、クシャッとした笑顔を此方に向けながら、アイビーはそう言った。

「ぼ、僕は何も……。そんな、大した事はしていないよ」

 パタパタと両手を振りながら、俺は謙遜する。
 と言うか……、本当に、大した事はしてないはずだ。
 俺のやった事といえば、後に命の樹の枝ビオス・クラディとかいう伝説級の代物だと判明したただの木の棒で、何を勘違いしたのかユディンを吹っ飛ばして、ちょっと開け辛い邪滅の書アポクティ・ビブリオを使って、クトゥルーの倒し方を調べただけなのだ。
 実際にクトゥルーと戦ったのは俺では無く、俺を守ろうとしてくれたみんな……、仲間達なのだ。
 なのに、褒められるなんて、そんなそんな……

「まぁ確かに、モッモにしちゃ~上出来だったなっ!」

 はんっ!? なんだよカービィこの野郎っ!!?
 何様目線だよその台詞!?!?

「うむ。我らが行くまでよくぞ持ち堪えた」

 ギンロまで!? 
 何その、褒めて遣わすぞ的な言い回し!!?
 殿様かっ!?!?
 
「ふっ……、死に損ない」

 なっ!? なんちゅう事言うんだティカまでっ!!?
 てかティカ、今のヴァルディア語だろうけど……、言葉の意味分かって使ってる!?!?

「もぉ~、おりはごめんじゃてぇ~」

 お守りてっ!?
 テッチャは大した事して無いでしょうが!??
 俺より何もして無いでしょうがっ!?!?

 ……と、男共に散々言われて、不機嫌になる俺。
 しかし、最後にグレコと目が合って、こう言われたのだ。

「モッモが居たから、みんなが救われた。きっと、最弱種族のピグモルが、勇気を出してここまで来たから、未来は変わったんだと思うの。だからモッモ、全てはあなたのおかげ。だから……、ふふっ、よく頑張ったね!」

 満面の笑みで、俺の頭を撫でるグレコ。
 それは、いつもなら、触覚が敏感過ぎる故にゾワゾワして、嬉しくともなんとも無い行為なのだが……、今回ばかりは違った。
 目の前に立つグレコ、そして周りにいるみんな、全員の体から溢れ出る、様々な色をした、優しくて温かなオーラ。
 それらが俺の体を柔らかく包み込んで、グレコの手の動きを、心地よいものへと変えていた。
 そして……

「え……、えへへ♪ ありがとぉ~♪」

 俺は、世界一愛らしいピグモルスマイルで、ニカッと照れ笑いした。






 ***

 どうも、作者の玉美です♪
 ここまで読んで下さり、ありがとうございます(^^)

【ピタラス諸島第五、アーレイク島編】いかがでしたでしょうか?
 少々話数が嵩みましたので、アーレイク島編はここまでとしたいと思います。
 次の章で【後日譚】を書きますので、まだまだ残されている謎の解明など、乞うご期待です!

 感想などございましたら、頂けますと幸いです(o^^o)
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