素材鑑定士見習いの徒然なる日常 〜愛されスピーの村外研修〜

玉美-tamami-

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鑑定結果

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「お~い! 帰ったぞぉ~!!」

   スピー達が二階で休憩を取り始めてしばらくすると、ドアが開く音と、男の低い声が階下から聞こえてきた。
   
「あ、親方が帰ってきました~!」

   笑顔でそう言ったトードは、階段を降りていく。

「おやかた……?」

   初めて聞く単語に首を傾げるスピー。

「ギルドマスターのワリオサの事だよ。採掘師のような職人色の強いギルドだと、ギルドマスターの事を親方って呼ぶところも多いんだ。鍛治師や大工のギルドなんかも大体そうだね」

   ヒロトの説明に、スピーは「なるほど」と小さく呟いた。

「さ~、いよいよお出ましだぞ~。山潰しのワリオサ様だ~」

「そんな事言っちゃ駄目だよっ! 大事なお客様なんだからねっ!?」

   嫌らしくニヤニヤと笑うダッグに対し、マローは苦言を呈す。

「マローの言う通りですわ。ダッグ、失礼の無いように」

   コルトに釘を刺されて、ダッグは緩んだ顔を引き締める。

「ほぉか!? もう終わったってかっ!? あれだけの量をまぁ~早いもんだな~!!」

   豪快な声と、ドスドスという足音と共に階段を上って、スピー達のいる二階にワリオサが現れた。

「待たせたみたいですまんのぉっ! お疲れさんっ!!」

   ガハハ! と大口開けて笑いながら、ワリオサはそう言った。
   そのあまりの迫力に、ヒロト以外の全員が固まった。

   ワリオサは、トードと同じモグラのような風貌をした獣人である。
   ただ、同じ種族とは思えないほどに、トードとはあまりに掛け離れた体格をしていた。

   全身を銀色の短い毛で覆われたその体、その身長は、なんと人間のヒロトよりも頭一つ分大きいのだ。
   トードがヒロトよりも随分背が低いのと比べると、風貌は似ていても、もはや二人は別の種族では無いかとも思えるほどだ。
   ……ちなみに、横幅はヒロトの三倍はあるだろう。
   だが、ただ単に太っているわけではなさそうだ。
   ずんぐりむっくりしたその体は、トードと同じく丸みを帯びて腹が出てはいるが、身につけている丈の短い作業着風の服からのぞく腕や足は、逞しく鍛え上げられた筋肉でパンパンなのだ。
   さすがは採掘師、バリバリの肉体派である。

   顔にかけている黒いサングラスは、トードの丸いものとは違い、三角形に尖っていてガラが悪く、頭に被ったヘルメットはプラチナ製で、光を反射して常に眩しい。
   そして、太い首に下げている金のネックレスが、更にチンピラ感を出していた。

「いえいえ待ってませんよ。この度は、我々に鑑定を依頼してくださり、ありがとうございました」

   立ち上がって、礼儀正しくお辞儀をするヒロト。 
   しかしその隣では、スピーを含めた素材屋アルヨンメンバー四人が、揃いも揃ってこう思っていた。
 
  このワリオサ、何処かで見たことがあるぞ、いったい何処だ? 何処で見たんだ? う~ん……、あっ! そうかっ! この建物の前で見たんだっ! 宝石モグラ団のギルドマーク! 絶対ワリオサがモデルだぁっ!!
 
  そんな事を思いながら、余りに衝撃的なワリオサを、四人は意図せずガン見していた。

「いやいや! こっちが新米ギルドだっちゅうに、わざわざ出向いてくれて感謝しとるんだ! 本当にありがとうっ!!」

   ヒロトと握手を交わしたまま、ブンブンと腕を上下に振るワリオサ。
   ヒロトの細い腕が折れてしまうのでは無いかと、スピーはヒヤヒヤする。

「それで、既に鑑定は終わってますので、下の階で現物を見ながら鑑定結果をお伝えしたいのですが……、今からよろしいですか?」

「勿論だっ! すぐ行こうっ!」

「はい。コルト、一緒に来てくれるかい?」

「はい、勿論ですマスター」

   ヒロトとコルト、ワリオサは、三人揃って一階へと降りていった。
   残されたスピーとマローとダッグ。
   今ここで、特にすべき事はなく、やりたい事もない……

「あの~。良かったら~、お菓子でも食べますか~?」

   遠慮がちに、手製のクッキーを出すトード。
   暇な三人は、無言で頷いた。





「右側の壁際には金銀銅などの金属類が入った箱を、真ん中には宝石の入った箱を、左側の壁際には魔石が入った箱を並べてあります。……あなたほどのお人なら、おそらく僕の説明などなしでも、目視で分かりますかね?」

   ニコリと笑うヒロトに対し、ワリオサはニヤリと笑う。

「あんまり買い被るんじゃねぇよい。わしの何を知っているかは大体想像がつくが、今は弱小駆け出しギルドのマスターだ。ちゃ~んと説明してくれ」

「分かりました。では、右側の箱から見ていきましょうか」

   ヒロトは、金銀銅、ミスリルやオリハルコン、その他レアな金属類などに分けた箱の中を、一つずつ確認し、説明していった。
   次に真ん中の宝石類の箱、最後に左側の魔石類の箱と、説明を一切省く事なく、懇切丁寧に鑑定結果を伝えた。

「ふむ、嘘はついておらんようだの」

「ははっ! 試しましたね?」

「勿論だ。うちは弱小ギルドだからの。お前さんは全く悪人には見えんが、人には裏の顔があるっちゅうに、用心には用心をだ」

   その外見に似合わず、なかなかに慎重なワリオサに対し、ヒロトは何故か好感を抱くのだった。

「それで……。この間言っとった、お前さんが欲しかった魔石はあったんか?」

「いえそれが……。残念ながらありませんでしたね。しかし、それとは違いますが、なかなか質の良い魔石が多数あったので、良ければ買い取らせてもらえませんか?」

「どれだ?」

「そこの隅の箱にまとめて入れてあるんですが……。ローカドライトと、エフィラ奇石、コバルチウム黄石、マケンダイル、ホト砂岩、ギアノボロジー……、ですね」

「ほぉ? また変わったもんばっかだのぉ~」

「ははっ! 僕の店には一般の客は来ませんからね。宝石やよくある魔石を置いていてもさほど売れないんですよ」

「そうなんかぁ……。よっし! それは譲ってやろう!」

「えっ!?」

   ワリオサの言葉には、さすがのヒロトも驚いた。
   五百万は用意しすぎたなと思ってはいたが、まさか無料で譲ってくれようなどとは、思ってもみなかったのだ。

「失礼ですが、マスターワリオサ。私共もプロとして、さすがにそれだけの魔石を無料で譲り受けるわけにはいきませんわ。確かに、一般的には売れにくい魔石ではありますが、市場に出せばそれなりの値は付きます。それを無料でというのは……、余りに大胆すぎます」

   コルトの言葉は正しかった。
   実際に、さほど大きくはない箱一つ分とはいえ、中身はそれなりにレアな魔石なのである。
   少なくとも百万……、もしくは百五十万ほどの値が付くはずなのだ。
   それを無料でとは……、何か裏があるのではないかと、コルトは考えていた。

「ガハハ! 正直者はわしも好きだでのぉ! でも、いいんだ。数日前に、子分たちが二人で中央地区の鑑定士ギルドまで行ったんだがの……。鑑定依頼をしたら、あいつら何て言われたと思う?」

「……さぁ? 何を言われたんです?」

「裏切り者のワリオサのギルドになど、一億積まれても鑑定しないっ! そう言われたそうだ」

「それは……。酷いですね。どこのギルドですか?」

「いやいや、名前は言わん。しかし、どこの鑑定ギルドも似たような対応だったそうだ。何処にも鑑定依頼を受けてもらえず、しょんぼりしとった子分達を見つけ、声をかけてくれたのがお前さんだった……。わしは感謝しとるんだ。だから、それは貰って行ってくれ。その代わりと言ったらなんだが、またわしらの鑑定依頼を受けて欲しい」

   ワリオサの優しい笑顔に、ヒロトはコルトと目を見合わせる。
   そして……

「分かりました。今後もどうぞ、僕たち素材屋アルヨンを、ご贔屓にしてください♪」

   こうして、ヒロトが銀行から下ろしてきたお金、五百万センスは、結局使われずに終わったのだった。
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