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第3話:せめて僕よりも強くて頼れる人を!
しおりを挟む「うわぁ~! この部屋いいなぁ! 僕、この部屋が良かったです~!」
リーフエルフのペチェは、ディーナの部屋に入るなり黄色い声を出した。
そんなにいいなら変わってやろうか? と言いそうになったが、案外ベッドの寝心地が良かったのでディーナは口を噤んだ。
玄関ホールでディーナを見つけたペチェは、なんてカッコイイ人なんだろう! とディーナに一目惚れし、勇気を振り絞ってペアを申し込んだのだ。
物を深く考えないディーナの事だ、他に探すのも面倒なので、あっさりとその申し出を了承した。
討伐隊隊長に任命されたカミ―は、夜の十時に玄関ホールに再集合との命令を下して、その場を解散した。
特にやる事のない討伐隊の者たちは、夕食を食べたり、風呂に入ったりと、各々好きに行動を始めたのだが……。
夕食を食べると言ったディーナにペチェは「僕も!」とついて行き、部屋に戻ると言ったディーナにペチェは「僕も!」と言ってついて来たのだった。
また変な奴に好かれたもんだと、ディーナはベッドの上に寝転がった状態で、椅子に座って外を眺めているペチェを見る。
すると、くるっと頭を回したペチェと、ディーナの目が合った。
「ディーナさんは何の種族ですか?」
ニコリとした可愛らしい笑顔でペチェが訊ねる。
ペチェは今まで、ディーナのように、人間の顔をした獣人には会った事がないらしい。
こんなに美しい獣人がいるんだ……、何という種族の獣人なんだろう? ペチェはそう思ったのだ。
困ったのはディーナの方だ。
お決まりの無表情を崩しはしないものの、一番苦手な質問をされてしまったと内心焦る。
ディーナは、一見獣人に見えるが、本当はフェンリルという名の魔獣なのだ。
しかし、魔獣が人化の術を使って、人に紛れて町で暮らしているなどという事は、口が裂けても言えない事実……。
実際のところ、そういった魔獣はこの世界に多数いる。
もはや人化の術が当たり前になってしまい、本来の姿に戻れなくなってしまった奴もしばしばいると聞く。
その場合は、もう魔獣の姿に戻れないのだから、獣人だと言ってしまえばいいのだろうが……。
ディーナは今のところ、戻りたい時に魔獣の姿に戻れるし、人になりたい時には人化の術を使える。
もっぱら人の姿でいる理由は、そちらの方が慣れているし、生きていきやすいからだ。
だったら、もう獣人という事でいいじゃないか、とも思うが……。
育ての親であるマリスクの口癖は「魔獣である事に誇りを持て!」という、よくわからないものだった。
きっと、本当の自分を偽るなと言いたかったのだろうが……。
その言葉を聞き過ぎたせいか、ディーナは魔獣である自分を偽る事に強い抵抗を感じるようになってしまっていた。
生真面目というか、なんというか……、つまりは嘘をつくのが苦手なのだ。
けれどもさすがにここで、自分はフェンリルという魔獣の一族だ、などと馬鹿正直に答えれば騒ぎになり兼ねない。
しばしの沈黙の後、どう切り返せばいいものかと悩んだ末に、ディーナは質問には答えずに、逆に質問するという戦法に出た。
「……ペチェは何の種族だ?」
ディーナの言葉に、ペチェが怪訝な表情になる。
「えっ!? ……僕、さっき、リーフエルフだって言いませんでしたか?」
おっと、そうだったな……、とディーナは反省する。
「……すまない」
一応の謝罪、しかし、後に続く言葉が見つからない。
ローザンやカミ―のような、一方的に喋り続ける者が相手なら楽なのだが、自分が喋るとなるとどうも苦手だと、ディーナは思う。
「まぁ、聞いた事ないですよね、リーフエルフなんて種族……」
ペチェの表情が暗く沈む。
重い空気が部屋に流れる。
相手の顔色を伺ったり、周りに合わせたりといった事は普段全くしないディーナだが、さすがにこの空気は居たたまれない。
「……どういった、種族なんだ?」
絞り出した言葉を、ディーナは口にする。
すると、ディーナが自分に興味を持ってくれたのだと勘違いしたのだろうか、ペチェの表情がパッと明るくなる。
「はい! 主には深い森の中で暮らすエルフなんですけれど、植物の力を借りる魔法を使えるんです! 花を咲かせたり、蔓を操ったり、時には木の成長を速めたり! 僕の故郷は、ここからずっと南のワルバンの森って所なんですけど、そこにはリーフエルフの村があって、森の自然と共に沢山の仲間が暮らしています!」
キラキラと輝くミントグリーンの瞳が、ディーナには少々眩しいようだ、その目を細めている。
エルフという種族は、だいたいが尖った長い耳と白い肌を持ち、人やその他の種族よりも長い年月を生きることが出来る者たちである、とディーナは認識していた。
現に、今目の前にいる、自らをリーフエルフだと言うペチェも、耳が尖っていて肌が白い。
ミントグリーンの瞳はおそらく、リーフエルフという種族の特徴なのだろう。
推定年齢は、見た目だけで判断するのならば十歳にも満たないが、見た目よりも落ち着いた雰囲気というか、自分よりも巨体である討伐隊の者たちの中に平気で潜り込む図太さから考えると、もう少し上なのだろうとディーナは考える。
しかしそれでも、魔物討伐に参加するには年が若すぎるだろうし、何よりどこをどう見ても、貧弱ですぐに殺られそうだ……。
「なるほど……。でも、なぜ? ……どうして討伐隊に?」
質問する機会は与えまいと、必死に言葉を発するディーナ。
こんなにも、他者との会話を成り立たせる努力したのは久しぶりの事なので、少しばかり疲れてきている。
「はい。森で暮らすのは、別段不自由ではないのですが、さすがに物資は限られているので……。僕のような若いエルフは、外界で働いて、お金を得て、町でいろんな物資を手に入れて、村に持って帰るのが役目なんです! 昨年までは僕の兄がその役割を担っていて、今年から僕が引き継いだんです。ただ……、僕は兄とは違って、あまり器用ではないし……。どうやって町で働けばいいのかもよくわからなくて……。そんな時に、ローザンさんが声をかけてくれたんです! 僕、魔法が得意中の得意なんです! それを言ったら、いい仕事があるって紹介してくれて!」
ふ~ん、と鼻で返事をしながら、ローザンも無茶をさせるもんだな、ミドヌーの討伐を私のような手練れの者に依頼したかと思えば、こんなに非力そうな者にまで依頼を紹介するだなんて……、と思うディーナ。
ペチェの、魔法が得意だという言葉は完全に聞き流してしまっている。
「ディーナさんは、その……。きっと、とても強いんですよねっ!?」
ペチェは、憧れの眼差しをディーナに向ける。
この質問には素直に答えられる、もちろんイエスだ、ディーナは首を縦に振った。
「やっぱり! 僕、一目見た時から、絶対にこの人強い! って、思ったんです! 良かったぁ~。初めてのお仕事が魔物討伐だなんて、僕すごく緊張して……。せめて僕よりも強くて頼れる人を! って、思っていたんです!」
ニコニコと笑顔をこぼすペチェのその言葉に、ディーナはいささか疑問を抱く。
ペチェは何と言うか、どこからどう見ても弱者で、全く頼りになりそうにない。
そんなペチェより強くて頼れる者など、討伐隊の誰でも良かったはずなのだ。
なぜ自分が選ばれたのだろうと、ディーナは不思議に思った。
しかしまぁ、討伐隊の中で一番自分が強いだろうと確信していたディーナは、ペチェは案外鼻の効く奴なのだと結論付けて、自らの疑問を無理矢理掻き消した。
けれども、ペチェとペアになったという事は、この依頼が達成されるまでの間は、共に行動しなければならないという事だ。
さすがに、ディーナの部屋にペチェが常に在住するなどという事にはならないと思うが、ミドヌーとの戦闘時は必ず傍にいるのだろう。
だとするとディーナには、ミドヌーを仕留めるという単純な作業だけでなく、ペチェを守りながら戦う、という使命が加わるわけだ。
それを考えると、安易にペアを組んだのは間違いだったのかも知れない……、などとディーナが考えるわけもなく。
ペチェは素直でいい子そうだし、外見は超絶癒し系で、暑苦しい筋肉質な男と一緒にいるよりかはよっぽどいい。
とりあえず、常人とは懸け離れた嗅覚を持つ自分の隣にいても、男特有の油っぽい嫌な臭いなど一切してこないペチェの事を、案外ディーナは気に入ったようだ。
ペチェと話をしながら、ディーナは自然と微笑んでいた。
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