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《番外編:後日談ー島国料理屋の新米メイド》
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こんにちわ、僕の名前はペチェ、リーフエルフのペチェ・クラウスです!
故郷の村を旅立って、もうすぐ一カ月……。
僕は今、王国一大きな町、王都ヴェルハリスにいます。
そこにはいろんな人がいて、いろんな種族がいて、いろんなお店があって、いろんなお仕事があります。
そんな中で、僕が今働いている場所は、島国料理屋『なんくるないさ』です!
始まりはあの日……。
外界に出て、初めて僕が足を踏み入れたのは、港町セレッセでした。
お魚の臭いが沢山する、とっても美味しそうな町です。
僕が右も左もわからずに歩いていると、ある人が声を掛けてくれました。
国営軍セレッセ駐屯所の所長さんである、ローガンさんです。
ローガンさんは、僕に生まれて初めてのお仕事を与えてくれました!
スレーンの森近くにある小麦畑で、野生のミドヌーを討伐するというお仕事です。
僕は最初、「討伐」という言葉の意味を、ちゃんと理解していませんでした。
小麦畑に迷い込んだミドヌーを、森へ返してあげればいいのだと思っていたのです。
けれど、実際の討伐というのは、ミドヌーを殺す事でした……。
小麦畑のお屋敷で、ディーナさんと出会いました!
ディーナさんはカッコよくて、とても強そうで、僕は一目惚れしました!
でも……、ディーナさんは女の人でした。
てっきり僕は、男の人だと思っていて……。
あ! 僕は女ですよ!? 僕って言ってますけど、これはカモフラージュで!
その後は、ディーナさんと一緒に、ご飯を食べたり、お風呂に入ったり、ミドヌーを倒したり……、最後には、とても怖くて悪い獣人に襲われそうになったり……。
とまぁ、いろいろありましたが、無事、悪い人たちはみぃ~んな捕まえる事ができました!
……ディーナさんが、ただの獣人じゃなくて、魔獣フェンリルの一族である、という真実には心底驚きました。
けど、本来の姿に戻ったディーナさんも、とってもカッコよくて、とっても強そうで、僕はもっともっと、ディーナさんの事が大好きになりました!
お仕事も終わって、セレッセの町に返って報酬も貰ったので、とうとうディーナさんともお別れかと、僕は涙を流しました。
けれど、ディーナさんはいつものようにぼんやりした様子で、こんな事を言いました。
「ペチェ、お前も王都に来い。マリスクの店で働け」
僕には全くわけのわからない言葉でしたが、とにかく、ディーナさんと一緒に王都へ行こうと、決意したのです!
港町セレッセを旅立ってから七日後、ようやく僕とディーナさんは王都に辿り着きました。
本当なら、四日前には王都に着いている予定だったのですが……。
途中立ち寄った町や村で、僕もディーナさんも、羽目を外しすぎました。
依頼を達成したお祝いに、酒場で祝杯を上げたのはいいのですが、お酒を飲み過ぎて二人揃って酷い二日酔いになったり……。
ある町の賭博場で、ギャンブルで負けたディーナさんが「いかさまだ!」と言って、酒場の男の人たちみんなと大喧嘩になったり……。
僕はと言えば、初めて食べる美味しいものを食べ過ぎて、何かにあたって、一日中吐き続ける事になったり……。
最終的には馬車に乗るお金がなくなって、僕たちは隣の町から歩いて王都に向かう事になり、二日間の野宿をすることになりました。
とまぁ、すったもんだありましたが、生きていればなんとかなるものです。
僕たちは無事、王都に辿り着くことができました。
王都の街並みは、それはもう豪華なものです!
建物は基本五階建ての煉瓦造りで大きく、それだけでも驚きなのですが、ステンドグラスが綺麗な教会や、大理石で作られた大衆浴場など、どれをとっても一級品のものばかりです!
それに加えて、この国の王様が住むお城は、まるでそれ自体が町のように大きく、城壁は断崖絶壁のようで、城門の前には金色の鎧に身を包んだ衛兵が並んでいたりして……、とにかく想像以上!
僕が思い描いていたお城とは桁違いのものです!
ただ、お城の中には国営軍か貴族でない限り入る事が出来ないので、それはちょっと残念です……。
でも、とにかく、この王都は全てが凄いです!
そんな王都の中でも、比較的平民層の人々が暮らす地区があって、そこにマリスクさんのお店がありました。
小さな小さなお店ですが、ちゃんと看板も掛かっていますし、お客さんも数名……、入っています。
正面から行くと気まずいから、裏口から回ろうと言うディーナさんの言葉に従って、僕たちは建物の中に入りました。
そしてそのまま、店の厨房で働くマリスクさんに挨拶をする事もなく、ディーナさんは二階へ続く階段を上り始めます。
「……え? ディーナさん? いいんですか?」
そう言った僕の声で、マリスクさんが僕たちに気付きました。
「あぁ? 誰だお前? ちっせぇエルフだなぁ。どっから入った?」
どちらかと言うと乱暴な口調に聞こえるでしょうが、お顔はずっと笑顔でした。
マリスクさんは、思っていたよりも若くて、背の高い男性でした。
茶色い短髪に、頬には切り傷、そして左足は義足とも言えないような質素な棒でした。
後で聞いたところによると、歳は三十七歳で独身……、だそうです。
出身はこの国ではなく、もっと遠くの島国だという事で、その故郷の郷土料理をメインにお店をしているという事でした。
……で、僕が声を掛けられて困っていると、階段途中で止まっていたディーナさんが言いました。
「名前はペチェ。雇ってやってくれ」
その声に、マリスクさんはようやくディーナさんを目に捉えて……。
「……お前っ!? いつの間にっ!? なっ!? 今までどこに行ってたんだっ!?」
先ほど僕に向けていた笑顔が嘘のように、いっきに火山が噴火したような顔になるマリスクさん。
すぐさまお店を閉店し、その後は二階の自宅で大騒動でした。
「なんでお前は毎回毎回いきなり姿を消していきなり帰ってくるんだっ!?」
「腹が空いた」
「今日までどこほっつき歩いてたんだよっ!?」
「……ん~」
「あ~もうっ! なんだってこんな風に育っちまったんだっ!? この子は誰だっ!? まさか……!? 隠し子かっ!?」
「……馬鹿か?」
「なんだとぉっ!? じゃあちゃんと説明しろよっ!? 俺にわかるようにちゃんとっ! 全部っ! せ・つ・め・い・しろぉっ!!」
激怒するマリスクさんと、いつも通りぼんやりしているディーナさんの遣り取りに、あぁ~これが親子ってもんなのかな? と僕は思いました。
けど、このままだと、マリスクさんが本当に噴火しそうなので……。
「……あの、僕が説明しますっ!」
こうして、僕がこれまでの経緯を全て話して聞かせた事によって、マリスクさんはようやく冷静になってくれました。
「なるほどな……。でも、雇ってやってくれと言われてもなぁ……。うちの店にそんな余裕は……」
苦い顔をするマリスクさん。
やはり、世の中そんなに甘くはないという事でしょうか?
僕は俯き、これからどうしようかと考え始めます。
しかし、次のディーナさんの一言で、事態は一変しました。
「マリスク……。ペチェは女だ。念願のメイドだぞ?」
その一言で、苦い顔をしていたはずのマリスクさんは、「えっ?」と一瞬戸惑ったものの、満面の笑みになったのです。
こうして僕は無事、王都の島国料理屋『なんくるないさ』で、メイドデビューが決まったのでした。
故郷のエルフの村を旅立ってもうすぐ一カ月。
メイドの仕事には徐々に慣れてきたものの、まだまだな日々が続いています。
今日は初めて貰ったお給料を持って、ディーナさんと一緒に、町の魚屋さんに干物を買いに行きました。
ディーナさんは「またすぐ旅に出る」と言っていたのですが、二日以上帰らない事はありません。
どこか近場で小金を稼いでは、ちゃんとマリスクさんの元に帰ってくるようになりました。
僕も……、あ、私も、ディーナさんがいてくれた方が安心なので、嬉しいです!
帰り道で、ディーナさんがぽつりと零しました。
「……マリスクは心配性過ぎる。私はもう、二十八だ。大人だぞ?」
まぁ、それには同感です。
ディーナさんがちょっと怪我をして帰ると、大慌てで手当てを始めるし、僕が……、あ、私が買い物に行くと言うと、ディーナさんを護衛ににつけるくらいですから。
「まぁ、仕方ないんじゃないですか? 僕くらい……、あ、私くらい歳をとれば、きっと大人と認めてもらえますよ」
何気なく言ったつもりでしたが、ディーナさんは首を傾げます。
「あ、そっか! 年齢を教えてませんでしたね。私、今年で五十七歳なんです」
ディーナさんの呆気にとられた顔……、私は一生忘れないでしょう。
兎にも角にも、私の王都での生活は始まったばかりです。
これからも一生懸命働いて、故郷のエルフの村に、魚の干物をたくさん届けなくちゃ!
☆おわり☆
故郷の村を旅立って、もうすぐ一カ月……。
僕は今、王国一大きな町、王都ヴェルハリスにいます。
そこにはいろんな人がいて、いろんな種族がいて、いろんなお店があって、いろんなお仕事があります。
そんな中で、僕が今働いている場所は、島国料理屋『なんくるないさ』です!
始まりはあの日……。
外界に出て、初めて僕が足を踏み入れたのは、港町セレッセでした。
お魚の臭いが沢山する、とっても美味しそうな町です。
僕が右も左もわからずに歩いていると、ある人が声を掛けてくれました。
国営軍セレッセ駐屯所の所長さんである、ローガンさんです。
ローガンさんは、僕に生まれて初めてのお仕事を与えてくれました!
スレーンの森近くにある小麦畑で、野生のミドヌーを討伐するというお仕事です。
僕は最初、「討伐」という言葉の意味を、ちゃんと理解していませんでした。
小麦畑に迷い込んだミドヌーを、森へ返してあげればいいのだと思っていたのです。
けれど、実際の討伐というのは、ミドヌーを殺す事でした……。
小麦畑のお屋敷で、ディーナさんと出会いました!
ディーナさんはカッコよくて、とても強そうで、僕は一目惚れしました!
でも……、ディーナさんは女の人でした。
てっきり僕は、男の人だと思っていて……。
あ! 僕は女ですよ!? 僕って言ってますけど、これはカモフラージュで!
その後は、ディーナさんと一緒に、ご飯を食べたり、お風呂に入ったり、ミドヌーを倒したり……、最後には、とても怖くて悪い獣人に襲われそうになったり……。
とまぁ、いろいろありましたが、無事、悪い人たちはみぃ~んな捕まえる事ができました!
……ディーナさんが、ただの獣人じゃなくて、魔獣フェンリルの一族である、という真実には心底驚きました。
けど、本来の姿に戻ったディーナさんも、とってもカッコよくて、とっても強そうで、僕はもっともっと、ディーナさんの事が大好きになりました!
お仕事も終わって、セレッセの町に返って報酬も貰ったので、とうとうディーナさんともお別れかと、僕は涙を流しました。
けれど、ディーナさんはいつものようにぼんやりした様子で、こんな事を言いました。
「ペチェ、お前も王都に来い。マリスクの店で働け」
僕には全くわけのわからない言葉でしたが、とにかく、ディーナさんと一緒に王都へ行こうと、決意したのです!
港町セレッセを旅立ってから七日後、ようやく僕とディーナさんは王都に辿り着きました。
本当なら、四日前には王都に着いている予定だったのですが……。
途中立ち寄った町や村で、僕もディーナさんも、羽目を外しすぎました。
依頼を達成したお祝いに、酒場で祝杯を上げたのはいいのですが、お酒を飲み過ぎて二人揃って酷い二日酔いになったり……。
ある町の賭博場で、ギャンブルで負けたディーナさんが「いかさまだ!」と言って、酒場の男の人たちみんなと大喧嘩になったり……。
僕はと言えば、初めて食べる美味しいものを食べ過ぎて、何かにあたって、一日中吐き続ける事になったり……。
最終的には馬車に乗るお金がなくなって、僕たちは隣の町から歩いて王都に向かう事になり、二日間の野宿をすることになりました。
とまぁ、すったもんだありましたが、生きていればなんとかなるものです。
僕たちは無事、王都に辿り着くことができました。
王都の街並みは、それはもう豪華なものです!
建物は基本五階建ての煉瓦造りで大きく、それだけでも驚きなのですが、ステンドグラスが綺麗な教会や、大理石で作られた大衆浴場など、どれをとっても一級品のものばかりです!
それに加えて、この国の王様が住むお城は、まるでそれ自体が町のように大きく、城壁は断崖絶壁のようで、城門の前には金色の鎧に身を包んだ衛兵が並んでいたりして……、とにかく想像以上!
僕が思い描いていたお城とは桁違いのものです!
ただ、お城の中には国営軍か貴族でない限り入る事が出来ないので、それはちょっと残念です……。
でも、とにかく、この王都は全てが凄いです!
そんな王都の中でも、比較的平民層の人々が暮らす地区があって、そこにマリスクさんのお店がありました。
小さな小さなお店ですが、ちゃんと看板も掛かっていますし、お客さんも数名……、入っています。
正面から行くと気まずいから、裏口から回ろうと言うディーナさんの言葉に従って、僕たちは建物の中に入りました。
そしてそのまま、店の厨房で働くマリスクさんに挨拶をする事もなく、ディーナさんは二階へ続く階段を上り始めます。
「……え? ディーナさん? いいんですか?」
そう言った僕の声で、マリスクさんが僕たちに気付きました。
「あぁ? 誰だお前? ちっせぇエルフだなぁ。どっから入った?」
どちらかと言うと乱暴な口調に聞こえるでしょうが、お顔はずっと笑顔でした。
マリスクさんは、思っていたよりも若くて、背の高い男性でした。
茶色い短髪に、頬には切り傷、そして左足は義足とも言えないような質素な棒でした。
後で聞いたところによると、歳は三十七歳で独身……、だそうです。
出身はこの国ではなく、もっと遠くの島国だという事で、その故郷の郷土料理をメインにお店をしているという事でした。
……で、僕が声を掛けられて困っていると、階段途中で止まっていたディーナさんが言いました。
「名前はペチェ。雇ってやってくれ」
その声に、マリスクさんはようやくディーナさんを目に捉えて……。
「……お前っ!? いつの間にっ!? なっ!? 今までどこに行ってたんだっ!?」
先ほど僕に向けていた笑顔が嘘のように、いっきに火山が噴火したような顔になるマリスクさん。
すぐさまお店を閉店し、その後は二階の自宅で大騒動でした。
「なんでお前は毎回毎回いきなり姿を消していきなり帰ってくるんだっ!?」
「腹が空いた」
「今日までどこほっつき歩いてたんだよっ!?」
「……ん~」
「あ~もうっ! なんだってこんな風に育っちまったんだっ!? この子は誰だっ!? まさか……!? 隠し子かっ!?」
「……馬鹿か?」
「なんだとぉっ!? じゃあちゃんと説明しろよっ!? 俺にわかるようにちゃんとっ! 全部っ! せ・つ・め・い・しろぉっ!!」
激怒するマリスクさんと、いつも通りぼんやりしているディーナさんの遣り取りに、あぁ~これが親子ってもんなのかな? と僕は思いました。
けど、このままだと、マリスクさんが本当に噴火しそうなので……。
「……あの、僕が説明しますっ!」
こうして、僕がこれまでの経緯を全て話して聞かせた事によって、マリスクさんはようやく冷静になってくれました。
「なるほどな……。でも、雇ってやってくれと言われてもなぁ……。うちの店にそんな余裕は……」
苦い顔をするマリスクさん。
やはり、世の中そんなに甘くはないという事でしょうか?
僕は俯き、これからどうしようかと考え始めます。
しかし、次のディーナさんの一言で、事態は一変しました。
「マリスク……。ペチェは女だ。念願のメイドだぞ?」
その一言で、苦い顔をしていたはずのマリスクさんは、「えっ?」と一瞬戸惑ったものの、満面の笑みになったのです。
こうして僕は無事、王都の島国料理屋『なんくるないさ』で、メイドデビューが決まったのでした。
故郷のエルフの村を旅立ってもうすぐ一カ月。
メイドの仕事には徐々に慣れてきたものの、まだまだな日々が続いています。
今日は初めて貰ったお給料を持って、ディーナさんと一緒に、町の魚屋さんに干物を買いに行きました。
ディーナさんは「またすぐ旅に出る」と言っていたのですが、二日以上帰らない事はありません。
どこか近場で小金を稼いでは、ちゃんとマリスクさんの元に帰ってくるようになりました。
僕も……、あ、私も、ディーナさんがいてくれた方が安心なので、嬉しいです!
帰り道で、ディーナさんがぽつりと零しました。
「……マリスクは心配性過ぎる。私はもう、二十八だ。大人だぞ?」
まぁ、それには同感です。
ディーナさんがちょっと怪我をして帰ると、大慌てで手当てを始めるし、僕が……、あ、私が買い物に行くと言うと、ディーナさんを護衛ににつけるくらいですから。
「まぁ、仕方ないんじゃないですか? 僕くらい……、あ、私くらい歳をとれば、きっと大人と認めてもらえますよ」
何気なく言ったつもりでしたが、ディーナさんは首を傾げます。
「あ、そっか! 年齢を教えてませんでしたね。私、今年で五十七歳なんです」
ディーナさんの呆気にとられた顔……、私は一生忘れないでしょう。
兎にも角にも、私の王都での生活は始まったばかりです。
これからも一生懸命働いて、故郷のエルフの村に、魚の干物をたくさん届けなくちゃ!
☆おわり☆
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