令嬢に転生したと思ったけどちょっと違った

しそみょうが

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4 公爵令息アシュフォード

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「あら?これはアシュフォード様ではありませんか。ごきげんよう。私服姿も素敵でいらっしゃるのね!私服ということは、本日は非番でいらっしゃいますの?」

「これはシルフィ嬢、ごきげんよう。実は以前から希望を出していた西方騎士団への移動が叶ったのです。たしかに非番ですが、諸々の手続きのために登城したのですよ」

「ええっ!?アシュフォード様、近衛を辞めてしまわれますの!?公爵家の後継ですのにっ」

「ええ。公爵家の為にも、色々な経験を積んでおきたくて」

あれから5年が経って、僕は20歳になった。

見た目は誰がどう見ても青年の僕だが、股間に大きなイチモツはなく、かわりに女性のアレがついている。前世のエロ媒体で見たことあるやつだ。令嬢に生まれたとばかり思っていたらまさかこんなことになるなんて…これ、知識があった僕だったからまだよかったものの、普通の令嬢だったら発狂ものなんじゃないの。僕が転生したのはそういう知識があって普通の令嬢よりもショック受けなさそうだからとかだったら泣ける。

こんな身体で令嬢と言い張るのは無理があるので、家族と話し合った結果、令嬢アシュリーとしての僕は平民の商人と恋仲になり遠い異国に駆け落ちしたことになった。死んだことにしたら殿下が悲しむかと思って。いや駆け落ちでも悲しむだろうけど、死んだことにするよりはマシなはずだ。

どのみち令嬢じゃなくなった僕は当然イーライ殿下の婚約者でいられないのだ。殿下も令嬢の僕を綺麗だと褒めたたえていたし、ぱっと見は男の、こんな僕の姿を見せてがっかりする彼の顔を見たくなかった。王家に僕の駆け落ちを報告すると、殿下との婚約は公爵家有責での破棄となった。

僕自身はほとぼりが冷めるまで領地に引っ込み、王都での僕の噂がそこそこ風化したタイミングで、遠縁の男爵家から養子として引き取られた令息アシュフォードとして生まれ育った公爵家に戻り、少しだけあった剣の才能を活かして王宮の近衛騎士になった。まあ、ほとんど公爵家のコネで採用されたみたいなものだけど。

「ところでシルフィ嬢、今日はやけに王城内にご令嬢方がいらっしゃいますね」

僕に話しかけてきた顔見知りのシルフィ嬢を含む、歳若い令嬢の姿が廊下や庭園のあちらこちらにいる。ほとんどが伯爵家以上の家格で、皆やけに着飾ってどこかそわそわした様子だ。

「あら、アシュフォード様ったらご存じありませんの?隣国にご遊学されていらした第2王子殿下が帰国されること」

「それは⋯存じ上げております」

殿下は当初の留学期間の3年が過ぎた後さらに2年隣国に滞在されて、近日中にようやく帰国されると騎士団で聞いている。

「その王子殿下が帰国後すぐに婚約者を探されると噂になっていますのよ。ウエストウッド公爵家のアシュフォード様の御前では大変申し上げにくいのですけど、第2王子のイーライ殿下といえば以前の婚約者⋯アシュフォード様には義姉にあたられる、アシュリー様が平民と駆け落ちなさったでしょう?それですっかり荒れてしまわれた殿下は、隣国で夜な夜な街に繰り出されていたとか」

「あー⋯はい。それも存じております」

僕の心変わりにショックを受けた殿下は隣国でグレてしまったらしい。完全に僕のせいなんだけど、殿下が隣国の美女と遊びまわっているところを想像して、僕もショックで泣いた。

「素行がお悪いと評判のイーライ殿下ですけど、ご遊学前は他に類を見ないほど優秀な方で、容姿もたいへん秀麗でいらっしゃったでしょう?そこへ婚約者探しの情報を聞きつけて、我こそは新たな婚約者にと、殿下と年齢が釣り合う皆様が登城許可を取って乗り込んでいらっしゃっていますのよ。半数以上の方は婚約者をお持ちの方ですけれど、やはりお相手が王子とあってはね」

その殿下の婚約者探しの噂を聞いたから、僕は近衛騎士から西方騎士団への転属願いを出していたのだ。このまま王宮にいて他の令嬢とラブラブしている殿下を見たら、きっと涙が止まらなくて仕事なんてできない。

僕の4つ下のイーライ殿下は16歳だ。きっとめちゃくちゃカッコよくなってるんだろうな。もう帰国されて王宮にいらっしゃるなら、遠目からちょっとだけでも成長されたお姿を拝見できないだろうか。

「ですけれど私は、アシュフォード様のほうが好ましく思っておりますのよ?公爵家の後継になられたというのに驕ったところがなく、女性に対して誠実でいらっしゃるもの。華美過ぎない端整なお顔立ちに、引き締まったお身体⋯近衛の騎士服に身を包まれたお姿にいつも見惚れてしまいますわ」

そう言ってシルフィ嬢は、上目遣いで僕の腕にしなだれかかってきた。いや君も絶対に殿下狙いでここに来たよね。殿下の競争率がすごいものだからたまたま通りかかった倍率の低い僕に切り替えたに違いない。シルフィ嬢は悪い子じゃないけれど、とにもかくにも肉食で、婚約者がいるのに僕だけじゃなく同僚達にぐいぐい行ってるところを城内で何度か見かけたことがある。

そこそこの顔の僕は騎士服を着たら雰囲気イケメンのできあがりだ。元令嬢なので女の子にがっついてないし、前世庶民だから高位貴族にありがちな家格が下の貴族に偉ぶることもない。酒も賭事も嗜まず毎日家と王宮を往復するだけの生活を送る僕は、令嬢の結婚相手としてはお買い得物件なのかもしれない。よく告白とかされるし、家に釣書もバンバン届く。でもごめんね。僕には肝心の大きなイチモツが備わっていないんだ。

「アシュリー!!」

大きな声で誰かに名前を呼ばれて思わずそちらを振り返った。あ、しまった。今の僕はアシュリーじゃなくてアシュフォードだったな。きっとこの中の誰かが前の僕と同じ名前なんだろう。

「見つけたぞアシュリー!遠い異国に旅立ったのではなかったのか?こんなにすぐに見つかるなんて」

声の主はシルフィ嬢がしなだれかかっていない側の僕の腕を掴んだ。175センチはある僕の身長よりもちょっと高い。金髪碧眼のものすごいイケメンだが、ピアスやごついシルバーアクセサリーがジャラジャラで、首や手の甲までいかついタトゥーがゴリゴリに入っていて、髪型も片側だけ編み込みのロングでなんだかすごい。ヤンキー漫画のイケメン強キャラの実写版みたいな人が僕の前に立っている。

「どっ⋯どちら様ですか?」

僕はビビり散らかしながらそう訊ねた。僕にはこんなヤカラ感満載の知り合いはいない。記憶の中のイーライ殿下にほんのちょっぴり似ているような気がするが、殿下の遠縁の似てる人であってほしい。僕が駆け落ちしたことになって殿下が隣国でグレてしまったのを思い出したけど、彼の遠縁の似てる人だと思いたい。シルフィ嬢もわけのわからない状況に小声でずっと「え?」を繰り返している。

「君の婚約者のイーライだよ、アシュリー。ああ、この様な格好をしているから私が誰かわからなかったのだな。すまない」

殿下の名前を名乗った人が軽く手を振ると、一瞬にしてその姿が変わった。アクセもタトゥーもきれいさっぱり消え去って、少し癖のある金髪ショートカットの爆イケ青年が登場した。

「「かっこいいー!!」」

あまりのかっこよさに僕とシルフィ嬢はノータイムでハモる。これから狩猟に出かけるような、シャツにパンツの王族にしてはラフな服装も、スタイルが良すぎてとんでもなくキマっている。

「そうか。アシュリーはこちらのスタイルのほうが好ましいのだな。これからは2度とあのような格好はしないと誓おう。さあ私の部屋へ行こうか。お茶でも飲みながら積もる話をしよう」

成長した殿下に見惚れていた僕はそこでハッと我に返った。これまで誰にもバレなかったのに、僕をひと目でアシュリーだと認識するなんてさすが殿下だな。声変わりだってしてるのに。

だけどこんな身体では殿下の伴侶にはなれないので、全力でしらばっくれさせていただく。それで明日から王城から遠く離れた西方騎士団で働くのだ。

「いえ。失礼ですがどなたかとお間違えかと。私はアシュフォードと申します。本日は非番で騎士服を着ておりませんが、王城で一介の騎士をさせていただいている者です」

臣下の礼を取ろうとしたが殿下が僕の腕をがっちり掴んだままなので出来なかった。

「そうか。では騎士アシュフォードはたった今から私の従騎士に任命する。さあ私の部屋に行こう、従騎士アシュフォードよ」

「えっ。そんな、困ります。僕は明日から西方騎士団での就業が決まっていて」

僕の抵抗もむなしく、まばたきした次の瞬間には見慣れた殿下の部屋にいた。




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