執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海

文字の大きさ
39 / 66
第7章 夏休みは安全快適?

1. 引きこもりライフ

しおりを挟む
「…………暇だ」

 ベッドに大の字になって呟く。
夏休みが始まってかれこれ2週間、わたしは家族で田舎の領地にやってきていた。別荘周りは一面大自然で、初めこそ走り回って楽しく過ごしたが、こうも暑いとそれも面倒になってきた。
文化祭が終わってすぐさま夏休みに突入したのは、たぶん秋ぐらいまで次のイベントがないからなのだと思う。それにしてもあまりにも急すぎた。ジルから手紙がきていた気がするけれど、開封する隙すら与えられなかった。
父曰く、超マイナー領地なのでたぶんほぼ知られていないだろうとのこと。領地がそれでいいのかとは思ったが、住民が幸せそうなので良しとする。まあ、つまりわたしがここにいることは友達はもちろん、レイやケイトなんかも知らない、というわけで。攻略対象たちから逃れた安全ライフを送っているのである。ただ、唯一気掛かりなのが……

「ローズ、今日は一日何をして過ごそうか。外で日向ぼっこでもいいし、川で遊ぶのもいいね。何したい?」

 そう、この兄の過保護っぷりである。もはやそのセリフは5、6歳児に向けるような言葉な気がする。毎日満面の笑みで部屋を訪れては、お遊びのお誘いをしてくるのだ。
ちなみに両親もここぞとばかりにいちゃついている。メイドたちもリラックス気味で、基本わたしやナインのことは放置気味である。

「えっと……じゃあ、湖に行って涼みたいです」
「分かった。用意しておくよ」

 兄はにっこり笑って部屋を出て行く。わたしは大きくため息をついた。以前、この質問に「じゃあ、市場に行ってみたいです」だとか「一度家に戻りたいです」とか言ったら「それは無理かな」と返された。目が笑ってなくて怖かった。ここ最近わたしは驚異のヒロイン力で危険な目にあってばかりだったこともあり、敷地外にあまり出てほしくないらしい。シスコンっぷりに拍車が掛かっている気がする。

「あー、でもシスコンの方がまだマシ、なのかな?」

 恋愛対象になるよりは。わたしは頭を捻らせる。すると、ドアが開いて兄が顔を出した。どうやら用意ができたらしい。


 それにしても敷地内に湖があるなんて、さすが伯爵家だ。
わたしと兄は木陰で軽いティーパーティをしている。冷たいレモンティーを飲みながら、水浴びをする鳥たちを眺めて頬を緩ませる。

「もう少しで夏休みも終わりですねえ」
「そうだね。また生徒会で忙しくなると思うと少し憂鬱かな」
「そうですね、おにいさまとは学園でなかなか会いませんものね」

 やめたいなあ、なんて冗談まじりに言う兄にわたしは苦笑した。
乙女ゲームの舞台だけあって、のんびりしていられる時間が少ない。日々の勉強だって大変なのに、文化祭まであって。兄にしてみればその上、妹が事件に巻き込まれまくっているとなると心労も半端ないと思う。

「ローズは巻き込まれ体質なのかな? そろそろ僕も予測出来なくなってきて大変なんだけど……」

 予測、とは。けれど中等部のときの合宿から始まって、兄が駆けつけるのは異常に早い気もする。この前のケイトに誘拐されたときも見つけるのが早いなあ、などと思っていたけれど。

「例えば、今後もわたしが事件に巻き込まれる可能性は、と聞けば分かるんですか?」

 探るような目を向けると、兄はそれにものともせずに頷く。

「まずローズは花の乙女だからね。危険に巻き込まれる可能性は他の人よりも多いだろうね」
「ですよね……」

 うーん、だいぶベールに隠されているような。危険人物がいるだとか、何月何日に起こるだとかはさすがの兄でも分からないのだろうか。そんな風に考えていると、兄がふいに真面目な顔つきになる。

「僕がローズのことを守るよ」

 ひぇ、と声が出かけた。我が兄ながら整った顔すぎる。そんな顔からそんなイケメンなセリフが出てきたらひっくり返りそうだ。

「……頼もしいおにいさまがいて、わたしは幸運ですね」

 これはきっと妹を心配するあまり出たセリフ。兄がうん、と応えた気がするけれど、わたしは湖に視線を戻して表情は見なかった。


 こんこん。

 夜中、目を覚ますと窓の方から音がした。風が吹いていて枝でも当たっているのだろうと思ったわたしはまた寝ようとするけれど、音は大きくなって行く。

 刺客、とか?
ヒロインだし、夜襲われる可能性は大いにある。けれど、こういうときのために鍛えてきたのだ。わたしはベッドの下から剣を引っ張り出して、壁際に沿って窓へと近づいていく。

「曲者、覚悟!!」

 なぜか武士のような声を上げて、わたしは窓に振りかぶる。

「ぎゃああ、ストップストップ!! 俺だよ、俺!」
「怪しい奴の常套句なんだよ、それは!!」

 もう一度剣を振ろうとして、聞いたことがある声だと少し動きを止めた。窓を覗くと、黒尽くめの男が木に登っているのが分かる。目を凝らすと、その男が亜麻色の髪を持つことに気がついた。

「ケ、ケイト様……?」

 なんで、と言いかけたわたしに、黒い男――ケイトはいたずらっぽく笑って見せた。

「来ちゃった」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...