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1巻
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六月一日――俺、鳥島善治の五月病は一向に治る兆しがない。
入学して僅か二か月だが、高校生活が憂鬱で憂鬱で仕方がない。特に今みたいに、教室前の廊下を歩いている時なんか、胃が痛くなってくる。
今すぐ家に帰りたいという気持ちをなんとか抑えて、一年C組の教室へと入った。
すでに大勢のクラスメイトが登校しており、雑談をしている。俺が教室に入っても挨拶をしてくる者はいない。それどころか俺の顔を見るや否や、目を逸らしたり、侮蔑を含んだ表情を浮かべたりする。
簡単に言うと、俺はこのクラスで嫌われていた。
クラスメイトほぼ全員が、俺に対して何かしら悪感情を持っている。
原因は……ずばり顔だ。
俺は子供の頃から、可愛さや愛嬌とは無縁の顔だった。目つきの悪い、典型的な悪人面なのである。大抵の人から生理的な嫌悪感を持たれるような、どうしようもない容貌なのだ。
他に何か原因があるのかと思うかもしれないが、本当に顔のせいだ。
だって入学してから、特に悪いことはしていない。
最初は嫌われるというより、怖がられるという感じだった。それがいつの間にか、嫌いに変わっていた。俺が薬をやったとか、女を襲ったとか、盗撮したとか、変な噂が流れだしたのだ。
事実無根のデマだが、人と話すのが苦手な俺は弁解出来ずにいた。コミュ力などかけらも持っていない俺は、クラスメイトから嫌われる一方だった。
誤解されたり、嫌われたりすることに慣れてはいる。それでも毎日たくさんの人間から嫌悪や敵意を向けられると、流石に気持ちが落ち込む。
俺は急いで自分の席に向かった。教室の角にある、俺にとっては最高の席だ。
席に座ると、「ねぇ観た?」と隣から声をかけられた。
声の主は、赤いショートヘアーの女子だ。顔は可愛いのだが、美人という感じではない。容姿には幼さが残っている。
クラスメイトほぼ全員から嫌われている俺だが、一人だけ例外がいた。それがこの女子、桜町メイだ。
「お前のアホ面なら今見ているぞ」
「ボクみたいな美少女を捕まえてアホ面とはなんだね。今ゼンジに何を観たか聞くとするならば、『漆黒の双剣士』のアニメに決まってる」
「別に決まってはないけどな」
メイは、昨日も漆黒の双剣士を観ろと騒いでいた。
ちなみに漆黒の双剣士ってのは、マイナーな漫画雑誌に載っている漫画を原作にしたアニメだ。メイは原作のコアなファンで、アニメ化されると聞いて飛び上がって喜んでいた。
しつこく観るよう勧められたので、俺もなんとなく観ている。
内容はとにかく中二病な描写満載だ。
メイは所謂オタクというやつで、女ではあるが少女漫画には興味がなく、少年漫画系が特に好きだという。
真剣にメイが聞いてくる。
「どうだった?」
「普通」
これは正直な感想だ。つまらないというわけではないが、メイみたいにドはまりするほど好きにもなれない。
「ぐ……いや、確かにそうなんだ……冷静に観てみれば普通のような気もするんだ……それでも、何か知らないけど凄いボクの琴線に触れてくるんだ。主人公のアルガはメチャクチャかっこいいし」
お前それ、作品じゃなくてアルガが好きなだけじゃね? という野暮なツッコミはしない。
「そもそも俺、あーいう中二病っぽいのそんなに好きじゃないんだわ」
「じゃあゼンジはどういうのが好きなの?」
「うーん、最近流行りの異世界転生系かな」
「な、なんだと!」
メイは飛び上がらんばかりに大げさに驚く。
「い、いかんぞそれは!」
「嫌いなのか?」
「うん、嫌い」
「即答だな」
「だって異世界転生みたいな、努力もなしに強くなるなんてあり得ないんだ、ボクとしては。いい? 弱点を抱えた主人公が、努力して、頑張って、仲間に支えられて、それで一人前になっていく過程が面白いんじゃないか……!」
メイは熱く語る。
「でも、漆黒の双剣士もたまたま得た暗黒の力とやらを使って、無双してね?」
「うっ……! ア、アルガはいいんだ。カッコいいから!」
「一貫性のない奴め」
他愛のない話をメイと続ける。こんなにペラペラ喋っているメイだが、実は俺を凌駕するほどのコミュ障だ。俺以外の奴とは、ほとんど口をきけない。なので、友達も俺しかいない。
メイが俺と友達になったきっかけは、漆黒の双剣士の主人公のアルガが、俺と似ているとか言って、メイから話しかけてきたことだ。アニメを観たところ、確かに目つきが怖いところだけは似ているような気がする。
俺にとってもメイは唯一の友達だ。恋心を抱いているわけではないが、メイと話をするのは楽しい。
もしかしたらメイがいなければ、クラスメイトの視線や、嫌な噂に耐えかねて不登校になっていたかもしれない。だからある意味、メイは俺の恩人ということになるな。
しばらくすると、教室に黄色い声が上がった。毎日のことなので、特に気にはならない。クラスメイトの一人、坂宮徹が登校してきたのだろう。
「皆、おはよう」
笑顔でクラスメイトに挨拶をする坂宮の顔を俺はちらりと見る。相変わらずとんでもないイケメンである。モデル事務所にいても全く違和感がないというか、むしろモデルと比べても抜きんでているかもしれないくらい、顔が整っていた。その上、背も高く頭もいい。コミュ強で会話も上手い。
ここまでの存在がいると、ほとんどの女子は坂宮に夢中になる。このクラスの女子は、一名を除いて彼に恋心を抱いている。ちなみに一名とはメイだ。こいつは三次元に興味がないらしい。
女子だけでなく、男子にも人気がある。というより、男子は坂宮と仲良くすると女子と仲良くなれると思って、積極的に取り巻きになっている節がある。
「あれの何がいいんだか、ボクには分からん」
メイが坂宮を見ながら呟いた。
「そうか? 男の俺から見ても超イケメンだと思うが」
「あんな少女漫画に出てくる男みたいなのの何がいいんだ」
「少女漫画に出てくる男みたいなのがリアルにいるのがいいんだろ?」
「むう、でもボクとしてはゼンジの方がイケメンだと思うけど」
「え?」
「……っは! ち、違うんだからね! 単純に顔は良いと思っているだけで、べ、別に好きじゃないんだからね!」
「なんだそのレベルの低いツンデレは」
……メイは変わった感性をしている奴だ。
どれだけ贔屓目に見ても、俺と坂宮の顔では月とスッポンだ。
それから先生が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。
午前の授業が終わり昼休みになる。購買に行っていた俺が教室に戻ると、何やら騒がしい。
「こ、怖いよぉ」
「誰がこんなこと! 許せないわ!」
女子が一人泣いており、その友達が怒っている。
「メイ、何があったんだ?」
まだ弁当を食べていたメイに尋ねた。
「あの泣いてる女子が体操着を盗まれたらしいよ。よくやるよねー」
そんなことをやる奴が、身近にいるとは。いや、外部犯の可能性もあるか。いずれにせよ盗まれた女子は可哀そうだ。
しかし、メイめ。「あの泣いてる女子」って、まさか同じクラスの女子の名を知らんのか?
……でも、ぶっちゃけ俺も自信がない。確か県の名前だった気がする。それも関東圏の。埼玉さんか、千葉さんだったような気が……
珍しい苗字だなと思った記憶があるから、確か埼玉さんだ。千葉って結構いそうだしな。
「とにかく絶対にグンマーちゃんの体操着を盗んだ奴を見つけるわよ!」
群馬だったようだ。グンマー呼ばわりされているが、多分例のネタを知っているわけでなく、なんとなくで呼んでいるのだろう。
こうして、犯人捜しが始まった。
……嫌な予感がする。こんな時いつも疑われるのは、そう――
「鳥島、君が盗んだんだろ」
俺である。
厄介なことに俺に疑いをかけてきたのは、クラス一の人気者、坂宮だった。
「そうだ、鳥島だ」
「そいつしかいない」
クラスメイトからも同調の声が上がった。
「俺じゃない」
否定しているにもかかわらず、坂宮は完全に俺がやったと決めつけているようで、蔑んだ目で見ながら言ってくる。
「君の素行が悪いのは皆が知っている。今回も君の仕業だろ?」
「俺じゃない。断じて違う」
もっと話すのが上手ければ、納得させられたかもしれないが、これしか言葉が出てこない。
クラスの連中はみんな疑わしい目でこっちを見ている。すると――
「ゼンジは良い奴だ。素行も悪くない。絶対に違う」
メイが俺を擁護した。俺にしか聞こえないほどの、小さな声で。
メイを責めないでやってほしい。コミュ障のこいつにやれるのはこれが精いっぱいだ。
リア充の男と論争するなんて、ハードルの高いことが出来るような奴ではないのだ。
「自分でないというのなら、その証拠を出せ」
「……どう考えても逆だろ。そっちが俺がやったって証拠を出せよ」
「それもそうだな。荷物を調べさせてもらう」
そう言って坂宮は、勝手に机にかかってる俺のカバンを手に取る。
無断で手荷物の中身を見るというデリカシーに欠けまくった行為なのに、止める者は誰もいない。俺がやったと全員が信じているのだろう。中にやましいものは入っていないし、見られても困りはしない。だからといって、勝手に見られるのは不愉快だ。
「ないな」
当然ない。あるわけがない。
「分かっただろ。俺じゃない」
教室が静まり返る。犯人が俺ではないと分かったのが、そんなに嫌なのか。
「冷静に考えたら、自分のカバンに入れるなんて、すぐにバレるようなマネはしないか。どこかに隠しておいて、あとで取りに行くつもりなんだろう」
坂宮が勝手に決めつけると、再び俺を罵る声があがった。言いがかりも甚だしいが、それでもクラスメイト達は、坂宮の言い分を信じているようだ。流石に耐えかねて坂宮に反論する。
「もう一度言うが、証拠はないだろ。見た奴がいるっていうのか?」
「今は確かに証拠はないが、そのうち間違いなく見つかる。今のうちに返して謝罪をすれば、大事にはならないかもしれないぞ?」
坂宮の言葉に、クラスメイト達も同調する。
「そうだそうだ」「早く出して謝れ!」「このクズ野郎!」と言いたい放題である。
俺は思わずため息を吐く。
「……とにかく俺はやってねぇ。そういうことは証拠を出してから言え」
少し睨みをきかせながら告げる。
「あくまでしらを切るつもりなのは分かった。バレた時になんて言うのかが楽しみだ」
坂宮はそれ以上追及しなかった。流石に明確な証拠もないのに、先生に言ったり警察に通報したりはしないらしい。まあ、坂宮の中では完全に俺が犯人だということになっているようだがな。
坂宮は被害に遭ったグンマーさんを慰めに行った。
はぁ……全く、顔が悪いってだけでなんで疑われなきゃならんのか。分かっていたが、世の中は理不尽だ。
「ご、ごめん……」
メイが突然頭を下げてきた。
「ゼンジがいわれなき非難を受けているのに、ボクは何も出来なかった。友達失格だ……」
先ほど小さな声しか出せなかったことを、メイは悔やんでいるみたいだ。
「お前は俺が犯人じゃないって思っているのか?」
「うん。だってゼンジはそんなことする奴じゃないでしょ?」
「ならそれでいいよ。信じてさえくれたら、お前は俺の友達だ」
「……ゼンジ」
メイは少し感動したように目を潤ませて――
「そのセリフなんて漫画のセリフ? 面白そうだからボクも読んでみたいな」
前のめりになって聞いてきた。
「オリジナルだ、アホ」
確かに漫画に出てくるような、クサいセリフだったけどな。
いいこと言ったんだから、そこは感動するだけで終わってくれ。
「とにかく今度こういうことがあったら、絶対ちゃんと大きい声で言うから。絶対だからね」
メイは意気込んだ様子で言った。
メイのその気持ちだけで嬉しかった。実際にできるかは、あまり期待はしない方がいいかもな……
昼休みが終わりに近付き、教室にクラスメイト全員が戻ってきた。
クラスメイト達の中では、俺が体操着を盗んだ、と決めつけているようで、「サイテー」だとか、「退学しろ」「というか死ね」だとか、俺に対する罵詈雑言が飛び交っていた。
腹立たしいことこの上ないが、ここで反論してもどうせ聞く耳なんて持ってもらえない。俺は聞こえないふりをしていた。
そして始業ベルが鳴り、教室に先生が入ってくる――その直前、
『君達に決めた!!』
男の声が教室中に響き渡った。
なんだ、この声? 決めたって何に決めた? 幻聴?
でも周りを見いき渡すと、俺以外の生徒も困惑している様子だ。幻聴ではないらしい。
「あれ、開かない。コラ! いたずらはやめなさい!」
先生の声が聞こえる。廊下から教室の扉を開けようとしているが、できないみたいだ。
しかし、誰もカギはかけていないし、扉を内側から押さえているわけでもない。
不可思議な現象が続く。
そして、教室の床からまばゆい光が発せられた。
驚いて目をつむる。そして、次に目を開けた時――
俺は一面真っ白な空間に座り込んでいた。
2 神様
なんだ、ここ? 意味分かんねぇ。さっきまで教室で席についてたよな。
俺は立ち上がって辺りを確認する。クラスメイト達も、全員この謎の空間に来ていた。
俺と同じく何が起こったか分からず、戸惑っているようだ。
「な、何これ?」
俺のすぐ隣にはメイがいた。だいぶパニくっている。
「ど、どうなってんの、ゼンジ?」
「俺も分かんねぇよ。さっきまで教室にいたよな?」
「い、いたよね。てか、どこだよここ」
こんな空間、一度も来た覚えはない。みんな混乱しており、場がざわついている。
すると――
「ようこそ、一年C組の皆」
頭上から声が聞こえてきた。
目を向けると、見ず知らずの男がふわふわと舞い降りてきて、そのまま地上に降り立った。
金色の長い髪の男だ。今時の若者の服を着ていて、顔立ちは外国人じみている。
その場にいる全員が、男を注視する。
「初めまして、僕は神様だよ。よろしくね」
男は貴族のようにお辞儀しながら言った。
頭がおかしい奴……と普段なら思うが、今は超異常事態の真っただ中だ。
異様な登場の仕方といい、嘘とも断言できない。
とにかく、いきなりクラスメイト達と一緒に変な場所に飛ばされて、神と名乗る男が現れて……これってまさか――
「皆には、これから異世界に行ってもらいます」
やっぱり、異世界転移ってやつなのか!?
クラスメイト達がざわつく。
「異世界ってどこだよ」
「お前がここへ連れてきたのか?」
「教室に戻して!」
次々に神と名乗る男に向かって、文句を言いだした。
「な、なぁ。あいつ異世界とか言っちゃってるけど……ガチなのこれ?」
メイが話しかけてきた。
「うーん……でも、今の状況がわけ分からんのは確かだし、夢でもないんなら、ガチとしか……」
「だよねぇ……」
メイは確かめるために自分の頬をつねるというテンプレ行動を取った。
「痛い……夢じゃないっぽい……」
「うーん……じゃあ、ガチなのか? 本当にこれから異世界に行くってのか? それって……」
興奮した俺とメイの声が重なる。
「チート能力貰って無双できるってことか?」
「異世界で魔王を倒すため、正義の勇者になって異世界を冒険するってこと?」
俺は思わずメイに言う。
「お前古くねぇそれ?」
「古くないやい! ゼンジこそなんだ、その気持ち悪い欲望丸出しの異世界観は!」
「これが今は流行ってんだよ! 気持ち悪い言うな!」
こんな異常事態なのに、異世界について口論をしていると、
「はーい!! 皆静粛にー!! 今から詳しい説明をするよー!!」
メガホンで何倍にも増幅させたような声が響いた。
びっくりした俺達は、クラスメイト達を含めて全員が会話をやめ、神を名乗る男を見る。
「説明はいいから、早く教室に帰してくれ!!」
男子生徒の一人が叫ぶ。
「残念ながらそれは無理。戻せないよ。理由は僕が君達を教室に戻す気が、現時点では一ミリもないからね」
戻そうと思えば戻せるが、その気はないということだな。ふざけた話だ。
反発の声が上がると予想していたが、こうもきっぱり言いきられると何も言えないのか、全員が黙り込んだ。
「皆さんにはこれから異世界で領主になってもらいます」
「「領主?」」
俺とメイの声が重なる。
領主になれとは予想外だ。
「初めにこれを見てみてね。今から君達の行く異世界だよ」
神がそう言うと、空中に画面が現れた。地図のようだ。
ただ、異世界の地図というより、どう見てもユーラシア大陸の地図で、右端に日本もあった。
「形は君達にはなじみ深いでしょ? でも魔法があったりこわーい魔物がいたり、ダンジョンがあったり、精霊がいたり、スキルがあったり……形は似ているけど、全く違う場所なんだ」
神を名乗る男はニマニマと笑いながら言う。
「この世界では色々な国や帝国に属する約六十の国があるんだ。そこで色んな人達が領主をやっているよ。君達にはそれぞれ一つずつ領地を与えるから、その領主をやってほしいんだ」
そんないきなり言われても、やれるわけないだろ!
いや、つーかそもそも、元々領主やってた奴の代わりに、俺達が領主やるってことなのか? そんなことが可能なのか? まあ神様だってんなら、どうとでも出来るんだろうか……
クラスメイト達も黙って聞いてはおらず、口々に抗議する。
「ごめんね、君達には選択権はないよ。やるしかないんだ。でも安心してほしい。ほとんどの領地には、それなりに詳しい補佐役の人がいるから、その人のアドバイスを聞いてやっていけば、なんとかなると思うよ。ちなみに王様や皇帝は別にいるけど、その人達とどう付き合うかも君達次第だね」
神を名乗る男は、飄々と告げてくる。聞く耳は全くないようだ。黙って従うしかないってのか。
「これ、本当にもう元の世界に帰れないのかな?」
メイが尋ねてきた。
「分からんけど……こいつがこれから全部ドッキリでしたって言って、教室に帰してくれる可能性もゼロじゃないし……だってあいつが何を考えているのかさっぱり分からないからな」
「う、うーん。でも戻れなかったら困る。漆黒の双剣士の続きが見れない!」
「アニメが最優先かよ……」
俺だって戻れなくていいわけじゃない。家族仲は良くはないが、二度と会えないかもとなると、それは寂しい。なんて思っていると――
「さらに皆さんにはスキルを一人につき一つ与えます。全部、凄いスキルなんだ」
チートスキルキタコレ。一気に期待が高まってしまう。まあでも、皆持ってるなら、無双感は下がっちゃうかもしれないな。
「最後に、領主をやってもらう期間について。教えないけど、一応決まっていて、期間内に一番いい領地を作った者の願いをなんでも三つだけ叶えてあげるよ。あ、願いを増やす願いは駄目だからね。領地の良し悪しの判断は、僕の独自の指標を基に決めるよ。領民の数とか、技術力とか、領土の広さとか、それらを総合してポイントにしまーす」
願いを三つ叶えると来たか……某少年漫画の龍神並みじゃないか。
人間ってのは欲の塊なのか、そう言われて目の色を変える奴が出てきた。さっきまで批判していた連中の何人かが、目を輝かせて願いを言い始める。
好きなアイドルと結婚するとか、野球選手になってメジャーで四割打つだとか……
まあ、欲望を垂れ流しにしているのはアホな奴だけで、ほとんどのクラスメイト達は胡散臭すぎて、真面目に受け取っていないようだ……と思ったら、隣でメイが呟く。
「ボクは少年漫画の主人公になりたいなぁ……」
「ここにもアホがいたか……」
「ア、アホってなんだ! ゼンジは願いとかないの!?」
「あるにはある。でも、あんなわけのわからん存在に願うなんてアホらしいだろ。てか、仕組まれてるように感じる。俺達がこれから本当に領主をやることになったとして、普通はどうする?」
「えーと……ボクなら自分の領地で平和に生きる」
「だろ? でも願いが叶うとか言えば、他の領地を蹴落とそうと争いごとを起こす奴が出てくるかもだろ? たぶんあの神は、そんなところが見たくて、俺達を呼んだんじゃないか?」
あくまで俺の言ったことは推測に過ぎない。でも底意地の悪そうな神の態度を見ていると、なんとなく嫌な予感が消えなかった。
メイは目を丸くする。
「な、なんと! そんな歪んだ奴だったのかあいつは。ゼンジ! 奴の言葉に惑わされるなよ! 罠に違いない!」
「最初は乗り気だったくせに、お前が言うかよ……」
それから、神が何かを配ってきた。紙と灰色の丸い石だ。
「この紙には君達が治めることになる領地の情報が書いてあるよ。ちなみに右上にあるSとかAとかは、領地のランクを表しているんだ。Sが最高で、Gが最低な土地だね。配った紙を交換すれば、治める領地を変えることも出来るよ」
紙の説明を終えると、今度は丸い石について言及する。
「こっちはスキル石だよ。今は灰色だけど、異世界に行くとそれぞれスキルに応じた色に変色して、スキルが使えるようになるんだ。スキル石を交換してもいいけど、今はなんのスキルが使えるか分からないから、全く無意味だね。スキル石がないとスキルは使えないから、絶対に取られたり、なくしたりはしないようにね」
こうして神からの説明が終わり、なし崩し的に異世界領地経営が始まろうとしていた。
俺は配られた領地の紙を見てみた。右上にはSランクと書かれている。
他には面積や領民の数が示されている。他の紙を見ていないのでどれだけ凄い数値なのか判断しづらいが、Sというからには凄いのだろう。ちなみに、地図上のどこにこの領地があるのかは、記されていなかった。
「おお、Sだ」
メイが俺の紙を覗き込んで驚いた。
「メイはどうなんだ?」
「ボクはD。普通なのかな」
メイのと比べてみると、領民の数とかが全然違う。俺のは二十万だが、メイのは五千だ。
これちょっと初期の強さ違いすぎないか!?
強い領地にしたら願いを叶えてやるとか言ってたけど、こんなん最初から強い領地に当たった奴の方が断然有利じゃんか。運ゲーになってねぇか、これ。
そんな風に思っていると、一人の男子生徒が叫び声をあげた。
「おい! ふざけるな!!」
見ると、騒いでいるのはイケメン野郎、坂宮徹だった。鬼の形相で、神を睨みつけている。
あいつがあんな声出すの初めて聞いたし、怒り狂った表情をするのも初めて見た。いつも澄ましていて動揺することなんてない奴だから、非常に新鮮だ。
一体何があったんだ……?
2
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