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第17話 皇帝
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ルトヴィア帝国、帝都。
世界最大の都市である、帝都の中央には皇帝の住う、ルトヴィア城がある。
皇帝の威厳を示すかのような、強大な城であった。
「ライルは自ら逃げたとのことです。後のことは手筈通りに行いました」
そう報告したのは、皇帝の右腕であるプラント・ハンクトア宰相である。
政治の手助けを行う存在だ。
非常に切れもので、皇帝の信頼も厚い。
「自ら逃げた? 気力は完全になかったようすだったが。まあ、予定通りにやったというのなら、何よりだ」
少し意外そうだという表情で、皇帝はつぶやいた。
「はい、ライルはまず兵を殺して逃げ出した後、その後、逃げ込んだ先の村人を殺して、なおも逃走中。そういう噂がきちんと流れております」
現在帝国内では、ライルは罪を着せられたと、思っている人々はそれなりにいる。
ライルの行った犯行は、はっきり言ってライルには何のメリットもない。
証拠はあるのだが、でっち上げることはその気になれば可能だ。
不信感を持つなというのが、無理がある。
皇帝はそうなることを予期しており、策をうっていた。
わざとライルを逃した後、兵士などを殺したり、逃げ出した場所の近くの村で殺戮を起こしたりして、それを逃げ出したライルの仕業にするというものだ。
ライルは英雄ではなく、イカれた殺人者。
そう帝国民に思わせる必要があった。
皇帝は、ライルの名誉を完全に消し去るつもりだった。
「それでは奴を指名手配するから、絵師に手配書を書かせて、それを全国に配れ」
「手配書ですか……しかし、顔は実物を見ないと、似せることができませんよ?」
「似てるか似てないかなどどうでもよい。こいつは悪い奴だと、見た瞬間わかるような絵を描かせて、それがライルの本当の顔だと、万民に知らしめるんだ。実際に奴が見つかるかどうかは、どうでもいい。今のやつは魔法の使えないから、何もできんしな」
「かしこまりました。すぐに着手いたします」
プラントはそう言って、絵師に仕事を頼みに行こうとする。
そして、皇帝の間を出る前で、
「皇帝陛下、一つお聞きしたことがございます。何故、ライルに冤罪をかけたのですか? 今回の件はバレると、非常にデメリットがあります。魔法兵全体に不信感が出ると、帝国のために魔法を使って貰えなくなります。それだけのリスクを犯すくらいなら、ライルに土地でも爵位でもくれてやればよかったのでは?」
「愚問だな。皇帝であるこのわしが、あんなスラム街の虫ケラに救われたという事実が、気に入らんのだ。奴に会うたびに、屈辱的な思いをすることになる。だから奴には、二度とわしの目に入らぬよう、しなければならんのだ。そして、奴の名誉も回復できないほど、消し去らねばならん」
深い怒りを感じる口調で皇帝は言った。
プラントは、
(どれだけライルの存在を否定しようとも、事実を変えることはできませんよ)
そう思ったが、口にすることは出来なかった。
○
帝都にあるとある酒場。
飲んだくれて、机に突っ伏す初老の男一人。
「なあルベルトさん。良い加減、そうやって飲んだくれるのやめろよ。酒は飲みすぎるとダメだって、あんたが言った言葉だぜ」
その男を隣で若い男が宥めていた。
初老の男はルベルト・バッドン。
ライルの教育係を務めていた男だ。
若い男は、彼の部下であるアッシュ・テーマンである。
「これが飲まずにおられるか! この国を救った英雄で、わしの子供みたい思っていたライルが、島流しに会うんじゃぞ!? わしは何も出来んかった……ううぅ……ライル……」
ルベルトは酒を口にしながら、ボロボロと涙を流していた。
「仕方ねぇーよ。やつは罪を犯したんだから」
「犯しておるわけないじゃろ! あんなもん陰謀じゃ!!」
「しかしよう、証拠はあったわけだし……」
「でっち上げたんじゃ!!」
「誰が? 魔法の使用記録何て、そう簡単に誤魔化せるもんじゃないぞ」
「それは、皇……」
そこまで言いかけたルベルトの口を、アッシュがふさいだ。
「滅多なことはいうもんじゃねーぞ。誰が聞いてるかわからねーだろ」
「ぐ……」
そう忠告され、ルベルトは口を噤んだ。
「クソ……わしに出来ることはないのか……」
そう呟いたその時、
「なあ、あのライルが脱走したらしいぜ」
「兵士を殺した後、そのあと、村人も殺しまくったらしい。やっぱクズだぜあいつは」
その噂を耳にした。
「な、なんじゃそれは! ライルがそんなことするわけないじゃろ!」
「う、うわっ! 何だこのじぃさん!」
「何かこえーし逃げようぜ!」
噂を口にした男二人は、店から逃げだして行った。
「困るよルベルトさん、うちの客を怖がらせんのはさ」
「う、す、すまん。じゃが、聞き逃せなかったから遂」
ルベルトはしゅんとうなだれて、椅子に座る。
「今の噂、もしかして本当じゃ……」
「お、お前までそのようなことを」
「いや、逃げ出したってところだよ。殺したってのは嘘だろうけど」
「む……確かにな……ガセかもしれんが……探してみる価値はあるか」
「探す気なのか? 仕事はどうする」
「そんなものは、この際どうでもいい。とにかく探しに行く! 行くと決めたら行く! 明日から行く!」
「はぁー……まあ、俺もライルには会って話は聞いておきたいしな。仕方ない。俺も手伝うよ」
二人はライルの捜索を始めることを決めた。
世界最大の都市である、帝都の中央には皇帝の住う、ルトヴィア城がある。
皇帝の威厳を示すかのような、強大な城であった。
「ライルは自ら逃げたとのことです。後のことは手筈通りに行いました」
そう報告したのは、皇帝の右腕であるプラント・ハンクトア宰相である。
政治の手助けを行う存在だ。
非常に切れもので、皇帝の信頼も厚い。
「自ら逃げた? 気力は完全になかったようすだったが。まあ、予定通りにやったというのなら、何よりだ」
少し意外そうだという表情で、皇帝はつぶやいた。
「はい、ライルはまず兵を殺して逃げ出した後、その後、逃げ込んだ先の村人を殺して、なおも逃走中。そういう噂がきちんと流れております」
現在帝国内では、ライルは罪を着せられたと、思っている人々はそれなりにいる。
ライルの行った犯行は、はっきり言ってライルには何のメリットもない。
証拠はあるのだが、でっち上げることはその気になれば可能だ。
不信感を持つなというのが、無理がある。
皇帝はそうなることを予期しており、策をうっていた。
わざとライルを逃した後、兵士などを殺したり、逃げ出した場所の近くの村で殺戮を起こしたりして、それを逃げ出したライルの仕業にするというものだ。
ライルは英雄ではなく、イカれた殺人者。
そう帝国民に思わせる必要があった。
皇帝は、ライルの名誉を完全に消し去るつもりだった。
「それでは奴を指名手配するから、絵師に手配書を書かせて、それを全国に配れ」
「手配書ですか……しかし、顔は実物を見ないと、似せることができませんよ?」
「似てるか似てないかなどどうでもよい。こいつは悪い奴だと、見た瞬間わかるような絵を描かせて、それがライルの本当の顔だと、万民に知らしめるんだ。実際に奴が見つかるかどうかは、どうでもいい。今のやつは魔法の使えないから、何もできんしな」
「かしこまりました。すぐに着手いたします」
プラントはそう言って、絵師に仕事を頼みに行こうとする。
そして、皇帝の間を出る前で、
「皇帝陛下、一つお聞きしたことがございます。何故、ライルに冤罪をかけたのですか? 今回の件はバレると、非常にデメリットがあります。魔法兵全体に不信感が出ると、帝国のために魔法を使って貰えなくなります。それだけのリスクを犯すくらいなら、ライルに土地でも爵位でもくれてやればよかったのでは?」
「愚問だな。皇帝であるこのわしが、あんなスラム街の虫ケラに救われたという事実が、気に入らんのだ。奴に会うたびに、屈辱的な思いをすることになる。だから奴には、二度とわしの目に入らぬよう、しなければならんのだ。そして、奴の名誉も回復できないほど、消し去らねばならん」
深い怒りを感じる口調で皇帝は言った。
プラントは、
(どれだけライルの存在を否定しようとも、事実を変えることはできませんよ)
そう思ったが、口にすることは出来なかった。
○
帝都にあるとある酒場。
飲んだくれて、机に突っ伏す初老の男一人。
「なあルベルトさん。良い加減、そうやって飲んだくれるのやめろよ。酒は飲みすぎるとダメだって、あんたが言った言葉だぜ」
その男を隣で若い男が宥めていた。
初老の男はルベルト・バッドン。
ライルの教育係を務めていた男だ。
若い男は、彼の部下であるアッシュ・テーマンである。
「これが飲まずにおられるか! この国を救った英雄で、わしの子供みたい思っていたライルが、島流しに会うんじゃぞ!? わしは何も出来んかった……ううぅ……ライル……」
ルベルトは酒を口にしながら、ボロボロと涙を流していた。
「仕方ねぇーよ。やつは罪を犯したんだから」
「犯しておるわけないじゃろ! あんなもん陰謀じゃ!!」
「しかしよう、証拠はあったわけだし……」
「でっち上げたんじゃ!!」
「誰が? 魔法の使用記録何て、そう簡単に誤魔化せるもんじゃないぞ」
「それは、皇……」
そこまで言いかけたルベルトの口を、アッシュがふさいだ。
「滅多なことはいうもんじゃねーぞ。誰が聞いてるかわからねーだろ」
「ぐ……」
そう忠告され、ルベルトは口を噤んだ。
「クソ……わしに出来ることはないのか……」
そう呟いたその時、
「なあ、あのライルが脱走したらしいぜ」
「兵士を殺した後、そのあと、村人も殺しまくったらしい。やっぱクズだぜあいつは」
その噂を耳にした。
「な、なんじゃそれは! ライルがそんなことするわけないじゃろ!」
「う、うわっ! 何だこのじぃさん!」
「何かこえーし逃げようぜ!」
噂を口にした男二人は、店から逃げだして行った。
「困るよルベルトさん、うちの客を怖がらせんのはさ」
「う、す、すまん。じゃが、聞き逃せなかったから遂」
ルベルトはしゅんとうなだれて、椅子に座る。
「今の噂、もしかして本当じゃ……」
「お、お前までそのようなことを」
「いや、逃げ出したってところだよ。殺したってのは嘘だろうけど」
「む……確かにな……ガセかもしれんが……探してみる価値はあるか」
「探す気なのか? 仕事はどうする」
「そんなものは、この際どうでもいい。とにかく探しに行く! 行くと決めたら行く! 明日から行く!」
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