「お前の席ねーから」とパーティーを追放された俺、幼い聖女の守護騎士になる

35話 作戦

　とにかく、抜け出す方法を考えなければいけない。

　現在、牢を脱出できる状況下にあるかと考えると、非常に厳しいと言わざるを得ない。

　カンツァスとミエの監視。硬い手錠、硬い檻。

　二人の監視は非常に隙が少なく、目を盗むことは困難に思えた。

　何とかして、分身が使えるようになれば……あるいは……。

　しかし今の状態で使うのは……。

　いや待て？

　案外、使えなくはないかもしれない。

　この牢の上と下には部屋がある。壁の向こうにも、部屋があるようであった。
　分身は、基本的に普通に使えば、真横に出てくるが、出す場所を指定すれば、そこに出せるのだ。

　この牢以外に、出してしまえば二人にバレることはない。

　問題は出した場所に、誰かいないかだな。
　騒ぐ前に仕留めれば、それも問題ないかもしれない。

　さらに分身スキルでは、自分の意識を一定時間、分身に移すということが出来る。

　これをすれば、この部屋まで来ることも可能だろう。武器を探すことも可能だ。

　問題はこの二人を倒すことが可能なのかどうかだな。

　俺を逃さなくする結界と、カンツァスの動きを読むスキル。

　勝てる気がしないのである。

　何か弱点があれば……。

　俺は以前奴との戦闘の風景を思い出していた。

　弱点、弱点、弱点、弱点………。

　そういえばあの時、奴は……。

　戦闘の風景を思い出して、俺や奴に癖みたいなのがあったと気づいた。
　あれが仮に、奴のスキルを発動させるトリガーになっていたのなら……勝てるかもしれない。

　スキルさえ封じれば、カンツァスはそれほど強くはない。動きの精度は俺と同程度だろう。
　分身と同時でかかれば、勝利の可能性も高い。
　俺は手錠があるから戦えないからな。
　檻と、手錠の鍵はカンツァスが所持している。
　奴と戦っている時、こっそり分身に取らせて、俺に渡させれば解くことも可能か。

　ただ、檻に関しては開くタイミングが分かっている。三日経った時、俺にあの液体を飲ませに来るだろうから。その時は間違いなく檻を開ける。

　ギリギリのタイミングになるが、そこで分身を作り、武器などを集めた後、檻が空いたタイミングで、分身を突入させる。

　そして、分身二体で戦いながら何とか鍵を取り、俺の手錠を開けて、三体一で戦う。
　まあ、奴のスキルを無効化するためには、本体の俺はあまり積極的に攻撃できなくなる。
　結局は分身二体の戦闘力にかけることになるだろう。

　作戦を練った後、俺は3日経つのを待った。


　○

「さて、三日経った。答えを聞かせてもらおうか」

　三日後、ミエがそう尋ねてきた。
　彼女の傍には、いつもと同じくカンツァスが佇んでいる。

　ようやくきたと思い、俺は

「あと、少しだけ時間をくれないか？」
「今決めろ」
「一時間くらいでいいんだ。こんだけ待ってくれたんだから大丈夫だろ？」
「……一時間だけだぞ」

　俺は約束を取り付けて、分身を使い、それを壁の向こうの部屋へ。分身には中に誰かいた場合、なるべく音を立てないよう、排除しろと命令してある。

　俺は目をつぶる。目をつぶらないと、分身に意識を移せない。悩んでいると相手も思っているだろうから、目をつぶっていても、さほど不自然な行動だと思われないはずだ。

　意識が分身に移る。壁の向こうの部屋に人はいなかったみたいだ。誰も倒れていない。

　まず武器を探さなければ。

　物凄く慎重に、ほんの少しの物音も立てずに歩く。
　守護騎士は耳もいい。聞かれるとまずいかもしれん。

　冒険者として、耳のいい魔物を相手取ることもよくある。耳のいい魔物は得てして目が悪いので、音を立てずに歩くすべを身につけていれば、楽に倒せる。そのため、俺は物音を立てずに歩く方法に長けていた。

　慎重に歩き、色々と部屋を歩く。

　途中、信者の男に出くわした。

「ぉ……」

　相手が声を出す前に、首の骨を折り絶命させた。
　嫌な音がなったが、牢からそれなりに離れた場所なので大丈夫だろう。

　その男が、武器を持っていた。剣である。
　それを回収し、死体は見つかりにくい場所に隠す。

　それから別の部屋に入ると、剣が一本壁に掛けてあった。装飾用の剣に見えたので、刃を確認すると割と切れそうだったのでそれも回収する。
　分身に二体分の武器は、回収した。
　出来ればもう一本、自分用の武器が欲しい。

　だがあまり時間はないな。
　諦めるか？
　そう思っていた時、俺がいた部屋に信者と思わしき男が入ってきた。
　目があったので、これまた口が開く前に首に剣を指して、絶命させた。

　この男も剣を持っている。俺はそれを回収。

　よし、行くか。

　牢がある場所へ、意を決して向かった。