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【形勢逆転】

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「最後だぁ!!」

ザシュ!!

 キリスが最後の一体を斬りつけた。

『キュウン』

「はぁ、はぁ。思ったより手強かったな。」

 息を切らすキリスは額の汗を拭う。
  
 そんなキリスに急いでマロンが駆け寄り、先程の傷口に【ヒール】の魔法を唱えた。

「大丈夫?」

「あぁ。ありがとう」

 戦闘後の辺りは既にライトの効果も切れていて暗闇となっていた。

  一方パクストンは父さんに声をかけにいっていた。

 「ネイブル卿、助かりました。まさか貴方がここまでの実力者とは存じませんでした。昔俺達と似たように冒険者稼業でもしていたのですか?」

 父さんは息切れもしておらず至って無傷で、パクストンの問いに笑顔で答える。

 「はは。まぁ似たような事はしてたかな。さて、ひと段落ついたがまだ気を緩めてはいけないよ。この瞬間が一番大切なんだから。」

「そうそう。まだ気をぬいちゃいけやせんぜ。ってよりも俺が仕向けたウルフ供をこんなにしちまいやがって。流石はネイブル卿ですなぁ。」

 その言葉で一瞬にして皆の空気が再度張りつめられ視線は馬車の方へと向けられた。

 そしてそこにいたのは、下卑た表情で俺の首にナイフを突きつける元従者、ドルデがいて、その下には縄でグルグル巻きにされ、猿轡をつけられたプータンもいた。

 くそ!ビビってて完全に油断した。

 ドルデは俺が魔法を使える事を知っていたので、真っ先にレジスト効果のある紐で腕をしばられ魔法が発動できない。

 勿論俺も抵抗してはみたが、大人の力を魔力無しの俺では到底振り解く事は出来なかった。

「ドルデ君。いったいどういうつもりだ?」

 父さんはドルデに問う。

「どういうつもり?見りゃわかんでしょう。人質ですよ、人質。私も仕事でしてね。さぁテメェらの武器捨てなぁ!!」

 ドルデが皆に命令すると、皆は武器を下に置く。

 「ギャァーハッハッハー!!良いねその顔!良いねぇ!お前ら最高だ。おい!野郎ども!!取り押さえろ。」

 ドルデがそう指示を出すと、どこに隠れていたのか暗闇の奥から次々と野党のような見窄らしい服装をした男達がゾロゾロ現れ、父さん達を縄で取り押さえられ全員が危機に陥った。

 おいおい。俺のせいで最悪な展開じゃないかよ。

 父さんの額に汗が滲みでているのが目でとれる。

「誰の差し金だ?」

 父さんはドルデを睨みつけながらもう一度問う。

「あぁ?言うわけねぇだろ。ココねぇのかお前。かかか!」

 ドルデは自分の頭に指先をツンツン当て、舌をだして父さんを嘲笑う。

 父さんは唇を噛み締め悔しさを顔に表す。

 「何が望みだ?」

「そうだなぁ。簡単な事だよ。此方としてはネイブル卿、お前の首さえ貰えればそれでいいんだ。あと、目撃者全員の首とな。おっと女は犯しまくってからだったな。おい!」

 ドルデがテリーネとマロンを取り押さえるように野党に顎を動かすと、野党は事あろうにこの場でテリーネとマロンの胸元をサーベルで切り裂き、見事なまでの双丘が露わになる。

「キャァ!」

 テリーネの悲痛の声が響くとキリスが「やめろ!」と動こうとする。するとそれを取り押さえる野党がキリスの顔面に蹴りを入れ込む。

「うっせぇんだよ!!」

ドガッ!!

 「ぶぅぁ!!」

 キリスの鼻から鼻血が滴る。

「き、‥汚いぞ。」

 キリスが睨みを効かしてそう言うとテリーネを抑えつける男が言葉を返す。

「汚い。そりゃ褒め言葉かぁ?俺たちはそれが快感なのさ。」

 そう言ってテリーネを品定めするよう見回しヨダレを垂らす。

 テリーネは目線すら合わしたく無いようで、目を瞑り背けた。

「ゲヘヘヘヘ。おぉう。おぉう!股間が立ってきたぜ!お頭ぁ!!もうやっちまいましょぉや!!」

「ガハハ!!盛りついてんじゃねぇよぉ。その2人は俺が先に味見してから回してやんよ!オイコラ!可愛がってやっからまってろよぉ!!ギャハハハ!!」

 その笑い声に不快感を感じない奴はいないだろう。

 キリスが歯をくいしばり、ドルデを睨みつける。

 それを見たドルデはニタァと広角をあげる。

「ほぉう。取り押さえられているのに威勢が良く正義感の強い奴だなぁお前。良いねぇ。そのウザさ。あっ、そうだ。俺は今良い事を思いついたぞ。」

「何をいって‥。」

「お前にとって、とっても良い相談だ。此奴ら残してお前だけ逃してやるよ。どうだ?悪い相談じゃないだろ?」

「‥な!!?」

 その発言に皆が息を飲んだ。その瞬間をドルデは見逃さない。

 「あっ!今一瞬迷ったろ?迷ったよなぁ?」

 そのドルデの嫌みたらしい言葉にキリスは握り拳を作り言葉を返す。

「迷ってない!!馬鹿にするな!!」

「おいおい、吊れないじゃ無いか。いいんだぜ。それが人間だよ。人間誰だって死にたかねぇんだからよ!かかかか!」

「くっ!!俺は、‥俺はそんな人間じゃない!!!それにさっき目撃者は殺すと言っていただろ!どの道俺を殺そうという腹なのは見え透いているぞクズが!!」

「あら?バレてたか。くくく。なかなか察しがいいじゃないかよ。まぁいい。余興はこれぐらいにして、おい!野郎ども!!ネイブルを俺の前にに連れてこい!」

 ドルデの指示で父さんは二人の野党に引きずられドルデの前で跪かされる。

 父さんはドルデを見上げる体制になる。

「けけけ。伯爵ともあろうお方がいい身分だなぁ。おい!!」

 ドガァ!!!

 ドルデはいきなり父さんの顔を蹴りつけた。

「父さん!!」

 衝撃で父さんのメガネは割れて飛んでいったが、父さんは俺を見るなりニコっと笑顔をみせる。

「大丈夫だ。」

「あ?何が大丈夫だ?ふざけんじゃねぇぞタコ!」

ドカッ!!

「状況わかってんのか?」

ドカッ!

「前から‥」ドガ!「気にくわなかったんだよな‥」ドガ!「お前のその顔がよぉ!」ドガァ!!

 最後の一撃で父さんは吹き飛び、地面に転げた。

 既に顔は晴れ上がり、すごい状態になっていた。

 酷い。ここまでする必要があったのか?それよりなんで父さんやりかえさないんだよ!

「父さ‥「心配するな!!」

 俺の声を遮る様に父さんが言葉を返し、父さんはゆっくりと立ち上がった。

「‥何で?何でやられっぱなしなんだよ!!」

 俺がそう父さんに問いかけると、腫れ上がった顔でよく分からないがニコっと笑顔を返された。

「お前を‥大切に思ってるからだよ。」

 ‥バカ。

 バカだよ父さん。そんなに顔を腫らして今から首をとられるかも知れないのに。
 
 それに皆んなだって律儀に何してんだよ?

 俺なんて他人だぞ?会って日だって浅い。正義感だけで命を捨てるのか?そんな事したってその後俺がどうなるかわからないんだぞ?

 バカだよ皆んな。自分の命大切にしろよ。

 そう思うたび、自分の非力さに嫌気がさし目に涙が込み上がってきた。

「さぁ。首切断の時間だ。お前ら抑えとけ!」

 野党2人が父さんを押さえつけると、「「「クービ斬り、クービ斬り!」」」と首斬りコールがなる。

 それをただ見る事しか出来ぬ皆んなの表情は逆らえぬ悔しさが溢れ出ていた。

 そしてついに野党が下卑た表情で手に持つサーベルを振り上げた。

 その瞬間、俺の中の時間が止まるかの様にスローモーションになる。

 おいおい。‥ちょっと待てよ。

 俺は‥。俺はこれを黙って見てないといけないのか?

 ‥冗談じゃないぞ。

 あれは俺の父さんだ。この世界に来て俺に愛情を注いでくれるとても大切な人だ。

 このまま何も出来ないとか終わってる。

 俺はこの世界の天才様だぞ?ふざけんじゃねえ!
 
 どうにか‥

 考えろ!考えろ!考えろ俺!

思考がどんどん加速されていく。

 俺は天才だ!!!この世界の天才なんだぞ馬鹿野郎ががぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!、

 その一瞬、脳が覚醒するかのように閃き、身体中の魔力が溢れ出し気づいた時には縄は解け動きだしていた。

瞬間転移テレポート

 一瞬にして父さんの側に移動。そしてアイテムボックスから農業様フォークを取りだし、【浮遊レビテーション】を使って野党の身体に突き刺す。

 ザシュウ!!

「グエ!!な、なんだ?」

  野党は崩れ落ちる。その一瞬の事で困惑するもう一方の野党には無詠唱でファイヤーボールを放つ。

 グォォォン!!

 野党の胴体部分が吹き飛び、下半身のみが崩れ落ちる。

そして続け様に魔法を発動。

目標捕縛ロックオン

 野党達の目の前に小さな光る魔方陣が浮かびあがる。

「な、なんだこれ!!?」

 慌てて野党達はそれを払おうとするがどこに動いても払っても野党の目の前に魔方陣は浮いたままだ。

 その隙に俺は長さ10センチ程の細長い光の矢を野党の人数分、計10本を自分の周りに生成させ、それを一気に放つ。

聖なる矢ホーリーアロー

  光の矢は逃げようと真っ直ぐに魔方陣目指し、全野党の脳天を貫く。

「ぐぇ!!」バシュン!!

 「た、たすけ‥」バシュン!!

 「ぎゃぁー!つ、付いて来やがるぅ!」ババババババシュン!!!!

 貫通した野党達は呆気なく崩れ落ちていく。

 その様子にドルデは口を大きく開け驚愕する。

「な、なんだよこりゃ!?い、いいいったいどうなってやがる!?」

 キリス達や父さんも唖然とし、この状況を飲み込めないでいた。

 「ごめん父さん。俺が直ぐに動ければこんにゃ事にならなかったのに。」

 俺は直ぐに父さんへ【治癒ヒール】を掛けて、一瞬にして父さんの怪我を治す。

 俺の状況判断が遅かったせいで皆んなを危険な目にあわしてしまった。

 本当にごめんなさい。

 皆には、皆が持っていた武器にレビテーションを使いキリス、パクストン、テリーネ、マロン、そして父の前に浮かせた。

 父さんはそれを受け取ると、俺に何か言いたげにしたがそれを辞め、直ぐに立ち上がり近くにいたキリスの縄を紐解。

「キリス君。皆の縄を」

「は、はい!わかりました!」

 キリスは皆の縄を自分の剣で斬り解放した。

 その間に父さんはドルデに再度視線を戻し、レイピアの先端を向ける。

「どうやら形勢逆転したようだな。さぁ誰の差し金だ。吐いてもらおうか?」

「ちっ。ふ、ふざけやがって!舐めんじゃねぇぞ!!」

 ドルデはいきなりナイフ片手に突っ込んできた。

 それを父さんは軽く否し、ナイフを持つ片手を切り落とす。

 ザン!!

「ぐぅぁぁぁぁ!!!」

 痛みで顔を歪めるが、歯を食い縛りドルデは気迫で堪え、懐からもう一本の隠しナイフを取り出し本命の俺へと襲いかかってきた。

 だが俺はテレポートで馬車の前へと即座に移動して躱す。

「な!?」

  驚くドルデは無視し、馬車の前でロープを巻きつけら猿轡を付けられているのにもかかわらず、呑気に寝るプータンを蹴り起こす。

 ガッ!

『な!何だど?もう終わったどか!?』

「よくこの状況で寝れるね。お前」

  状況を把握したのかプータンが関心するかの様な表情を作る。

『ほう。どうやら目が覚めて‥』ゲシッ!!『グエ!』

 プータンのケツに蹴りを入れてやった。性格にはケツの穴だ。

『な!何するど!?』

「ちょっとムカついた。そんなことよりちぇっかくだからお前に仕事チゴトを与えてやる。お得意の魔法でドルデを眠らせてくれないか?」

『は!なんで俺がど?‥』

「お前が使えるかどうかを見るんだよ。なんてったってお前の魔法いっこも効かなかったもんなぁ。」

 俺は少し嘲笑うようにプータンへそう言うと、案の定プータンはムキになった。

『そ、そんなことないど!俺様の【スリープ】は絶対なんだど!!!』

「じゃぁ見せてもらおうかその魔法を!」

 俺がそう言うのをドルデはきいていたのか、頭に血管を浮き上がらせる。

「おい!舐めるのも大概にしろよ!!俺にスリープなんぞという下級魔法が効くわけねぇだろぉがぁぁ!!!」

 ドルデは勢いよく俺に突っ込んでくる。
その瞬間にプータンが魔法を唱える。

「【スリープ ー改ー】」

「だからスリープなんぞき‥く‥か‥。Zz」と言う言葉を残しドルデは一瞬にして眠りに落ちた。

 呆気ないものだ。

 それを確認した俺は直ぐにドルデの腕を【ヒール】で止血し、父さんと一緒にドルデの身体全身をロープで巻き付けた。

 死なれたら元も子もないからな。

 とは言ったものの初めて人間を殺した感覚はあまり良いものではない。

 それに今回の事は完全に俺のせいだ。

 俺自身常に警戒態勢をはっておく必要があった。

 こんな事は二度とごめんだ。

 


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