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12月
少女
しおりを挟む「少女」
少女は歩いている。商店が立ち並ぶ大通り。目は前髪で隠れていて、丸い眼鏡が彼女を地味に見せる。
少女はある一角の古い建物の前で立ち止まった。彼女が見上げると、前髪がその眼球を見せる。ターコイズブルーの瞳だった。
彼女の黒い髪はどこの遺伝なのだろうか。誰も知らない。
屋敷の壁には蔦がへばりつくようにして這っている。蜘蛛の巣もあった。明らかに異質なその建造物を見て、少女は小さく笑った。
建物に入ると、少女は慣れた様子で木造の廊下を靴下で歩く。真っ白なソックスが黒くならないほどには手入れがされていた。
黒猫が彼女の後ろについていく。彼女は知らん顔で、ある部屋に入った。
その空間は、薬品の臭いで充満している。
「おじさん:」
凛とした声だった。淡い声色だった。
中から、ハゲ頭の中年が頭をかいて出てきた。少女は小さな手のひらを、中年に見せた。
小銭を受け取ると、中年はにやにやと笑ってまた部屋に戻る。少女はそれが可笑しかった。
「いくらたまりましたか」
中年の背中にそうたずねると、中年は嬉しそうに言う。
「500円」
「そうですか……」
500円では何が買えるのか。棒状の駄菓子だったらそれなりには買える。それで何が嬉しいのだろうか。
少女は500円玉を考えた。そういえば小学生の頃、あるジンクスを聞いたことがある。コインを空に投げて、裏目が出たら願い事が叶う。
少女は親指で、制服のポケットにら入れていた100円を投げた。
くだらないことを、と自分を嘲った。この願いが叶うならば。手の平を顔の前に掲げて、宙を掴んだ。
コインが床に落ちる。
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