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第21話 僕はアイテムプランナーじゃない!?(2)
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「それでは、時間です。皆様、投票をお願いします。皆様にお配りした三枚の票のうち、一枚を選んで箱に入れて下さい」
フィークさんが試飲タイムの終了を告げ、段取りを進めた。会場の人々が次々と票を入れていく。
「あの、私はハルガード君の『ヒールタブレット』の方が便利だと思います。だから、その、自信を持ってください」
投票を終えたラディアさんが、僕を励ましてくれた。しかし、勝負は多数決だ。ラディアさんの票だけで決まるわけじゃない。フィークさんの話が僕に重くのしかかり、不安は拭いきれなかった。
「それでは皆様、投票はお済みですね。開票は、ラディアさんとカミーユさんにお願いしましょう」
フィークさんの指名で、向こうの作業員の一人が前に出てきた。
「私も、頑張ってきます!」
ラディアさんが気合いを入れて開票に臨む。しかし、もう結果は決まってしまった。いまさら、頑張れることなんて何も無いじゃないか。
「開票を務めさせていただきます、カミーユです」
「あ、ラディアです。よろしくお願いします」
ラディアさんはカミーユさんに促されて自己紹介すると、ぺこりと頭を下げた。
「それでは、開票に入ります。まずは一つ目……フィークさんの『ライフポーションH』!」
カミーユさんが、粛々と開票を行い始めた。僕は、固唾を飲んで成り行きを見守る。
「えっと、次は……フィークさんの『ライフポーションH』、です……」
続いてラディアさんが開票し、ホワイトボードに票を貼った。また、フィークさんか……。
その後も、交互に開票が進められていった。滞りなく、全ての票が開かれた結果は……?
「今回の投票の結果は……ハルガード君の『ヒールタブレット』が九票、フィークさんの『ライフポーションH』が四票で、ハルガード君の勝ちです!」
ラディアさんが、歓喜しながら結果を読み上げてくれた。や、やった! フィークさんに勝った!
「やりましたね、ハルガード君!」
「良かったー、ホントに! すっごく不安だったよぉー」
僕は嬉しさのあまり、思わずラディアさんと抱き合ってしまった。でもすぐに我に返ると、恥ずかしさからお互いにパッと離れた。公衆の面前で、何やってんだろ僕ら……。
フィークさんは、面白くなさそうな顔でホワイトボードを睨みつけている。
「それでは、講評に入らせていただきます。今後の参考のため、皆様のご意見をお聞かせください」
フィークさんは苦虫を噛み潰したような顔をしてはいるものの、努めて冷静な口調で司会進行をしている。表情と声音が一致しないって、凄い芸当だな……。
「あ、それなら私からよろしいですか?」
ラディアさんが、率先して手を挙げた。フィークさんが、どうぞと促す。
「まずは、今回の企画に参加させていただきありがとうございます。どちらも大変優れた品物で、甲乙つけがたいハイレベルな対決だったと思います。その上で、僭越ながら私の見解を述べさせていただきます」
なんだか、途端にラディアさんが大人っぽく見える。あ、社交の場ではこういう風に振る舞えばいいのか。なるほどなぁ……。
僕は隣で演説するラディアさんを見ながら、場違いなことを考えていた。そんな僕をよそに、ラディアさんは講評を続ける。
「私は冒険者として、こちらでお作りされている『ライフポーション』にいつも助けられておりました。そちらは大変便利な商品ではあるのですが、ふたつの不満な点がございました。ひとつは、持ち運びについて。もうひとつは、回復量についてです」
ラディアさんが挙げた問題点は、僕が立案の相談をしていた時の内容だ。今回、僕はそれらの問題点をクリアするよう企画したんだ。ラディアさんはさらに言葉を続ける。
「フィークさんのお作りになった品は、回復量を上げることでその問題をクリアされていました。一方で、ハルガード君のは複数粒を飲めるように工夫することで、この問題をクリアしました。また、どちらも飲みやすく、使いやすい薬品だったと思います。
しかし、両者の大きな違いは携帯のしやすさです。フィークさんの方は『ライフポーション』と同程度の大きさの瓶でしたので、冒険へ持っていく際にはそれなりの荷物になります。あまり沢山持ち運びが出来ないという欠点があります」
そこで、フィークさんが手を挙げた。ラディアさんは言葉を切ると、どうぞとフィークさんに発言を許可する。
「なるほど、ラディアさんのおっしゃる通りかと思います。しかし、『ライフポーション』よりも効果の高いこちらの品は、同程度の回復量を想定したなら、相対的に本数が少なくなるはずです。携行性についてはそれで改善されると考えますが?」
「いえ、そういう訳でもありません。私の場合ですけれど、回復量の違うアイテムが複数ある時は、念のため使える強めの回復薬を数本と、普段使う弱めの回復薬を持っていこうと考えます。すると、結局荷物が多くなるので、他のアイテムの枠をどうするか考える事になるんです」
ラディアさんの説明を聞いて、フィークさんは眉をひそめた。なるほど、もっともな意見だ。僕の方も目からウロコだった。ラディアさんは更に言葉を続ける。
「でも、ハルガード君の方は同じ瓶でもたくさん入ります。たぶん『ライフポーション』四十本分くらいが一瓶で済んでしまいます。複数の薬瓶を持ち歩くより、これひとつ持ち歩いて調節出来た方が、はるかに便利だと私は思いました」
フィークさんはぐうの音も出ないようだった。忌々しげに、ラディアさんを睨みつけている。ラディアさんは、毅然とした態度で続きを述べた。
「加えて、回復量の大きい薬品なら『エリクシール』があります。たぶん、荷物の面とか取捨選択の面倒くささから、私は『エリクシール』の選択を考えると思います。新商品として発売し、差別化を図るなら『エリクシール』と同じ土俵で戦ってはいけないと思います」
周りの作業員も、一様にうなづく。もっともな意見なんだけど、なんだか、ラディアさんもすっかり工場『オリカフト』の一員みたいだ。
ラディアさんはひとつ咳払いをして、発言を締める。
「ここにお集まり頂いた皆様と意見交換をして、私なりにまとめた意見が以上になります。私も、貴重なお話を皆様から聞けて大変勉強になりました。重ねて、ありがとうございました。私からは以上です」
そう言ってラディアさんはぺこりと一礼する。周りからは拍手がわきおこった。
いや、ホントに僕の方も勉強になった。実際に使ってる人の意見は、やっぱり参考になる。なるほどなぁ……。
「ラディアさん、ありがとう」
「えへへ、ありがとうございます。私の方も根回しを頑張らせて頂きました」
僕は素直に関心して、ラディアさんに拍手を贈る。たぶん、作業員の皆にも同じような話をしてまわってたんだと思うんだけど、根回しだなんてとんでもない。利用者として立派な意見だったと思う。あのフィークさんが文句を挟む余地も無いほどだったし。
こうして、社内コンペは僕の勝利で幕を閉じた。その後、事務室に通された僕らは、フィークさんと対談することになった。
「お疲れ様でした、ハルガードさん。素晴らしい品をご提供いただき、ありがとうございます。書類を用意いたしましたので、こちらの案件については今後『オリカフト』へ一任していただけるよう、許可を頂きたく存じます」
そう言って、フィークさんは契約書とペンを差し出してきた。それよりも、僕はフィークさんに確認しておきたいことがある。
「フィークさん、以前お話させて頂いたことの確認になりますが。『ライフポーションS』の製造は止めて下さるんですよね?」
「仕方ありませんね。どのみち、提供いただいた品が流通すれば『ライフポーション』は市場から淘汰されるでしょう。それほどに、そちらの『ヒールタブレット』は素晴らしい品物です」
賛辞の言葉を述べながら、フィークさんは契約書に二重線を入れていく。っておい、ちゃっかり何か変な文言入れてたんじゃないか。本当に油断ならないな、この人は。
「他に確認しておきたいことはありますか?」
「そろそろ、この【調印】を消して貰えませんかね」
「ああ、これは失礼しました。はい、どうぞ」
フィークさんがパチンと指を鳴らす。すると、僕の右手に描かれていた魔法印がゆっくりと消失していった。これで当面の憂いは無くなったかな。一応、他に何か変なことが書いてないか契約書をしっかり読み込んでおこう。
「ところで、ハルガードさん。こちらのサンプルをいくつか試飲させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。構いませんよ」
フィークさんはコンペで余った『ヒールタブレット』を一粒とって飲み込む。
「ふむ。味は問題ないようです。ですが、これでは即効性が期待できませんね。戦闘中に使うには、少し役不足かもしれません」
フィークさんは言って、もう一粒つまむと今度は噛み砕いた。あ、たぶん噛み砕くとすごく苦いと思う。案の定、フィークさんはとたんに顔をしかめた。
「なるほどなるほど。この味をマスキングするための糖衣だったわけですか。良い工夫だと思います。しかし、飲み込んでから効果を発揮するまでにタイムラグがあります。今の回復薬の主流が液剤なのは、効果発現の面で優れているからなのですよ。こんな風に薬品を閉じ込めたのでは、その利便性が大幅に落ちてしまいます」
フィークさんの嫌味がまた始まった。なんだよ、僕に負けたくせに。いちいち癪に障る人だな、ほんと。
「ハルガードさん、この品物はぜひ私共に預からせてください。世に送り出すため、全力で問題点を洗い出し、改善して差し上げますよ。まずは、口腔内からの吸収を考えて舌下錠や口腔内崩壊錠あたりの剤形で試してみましょうか」
何やら専門用語が出てきたけど、やっぱり凄いなこの人は。こうやって、問題点とそれに対するアプローチがポンポンと出てくるんだから。その知恵と技術を、もっと世の人たちの役に立つよう振舞ってくれれば良いのに。
とは言え、なんだかんだで僕はフィークさんのこういう所は尊敬にあたいすると思った。割り切り方は凄いけど、契約書さえ交わしてしまえば心強い味方にも化ける。性格のクセも凄いけれど、確かな技術力と知識がある。
世の中、こんな人もいるんだな。
僕は契約書にサインをして、フィークさんに渡した。フィークさんもサインを確認し、代表者印を押す。これで、契約が締結された。
「ついでに魔法印も結んでおきますか? そちらの方が強制力がありますよ」
「必要ないですよ。どうせ、フィークさんの都合のいいように付け外しできるんでしょ?」
「ふふっ。それもそうですね。冗談です」
フィークさんがにやけながら宣う。この人が言うと、どこからが冗談かも分からないんだから。正直、僕としてはもうあんまり関わりたくないんだよ。
「それでは、話はこれでおしまいです。お疲れ様でした、ハルガードさん。これからも、アイテムプランナーとして益々のご活躍を期待してますよ」
いやー、もうヤダよ、面倒くさい。それに、今回はたまたま関わっただけで。僕は冒険者になるんだから……。
フィークさんが試飲タイムの終了を告げ、段取りを進めた。会場の人々が次々と票を入れていく。
「あの、私はハルガード君の『ヒールタブレット』の方が便利だと思います。だから、その、自信を持ってください」
投票を終えたラディアさんが、僕を励ましてくれた。しかし、勝負は多数決だ。ラディアさんの票だけで決まるわけじゃない。フィークさんの話が僕に重くのしかかり、不安は拭いきれなかった。
「それでは皆様、投票はお済みですね。開票は、ラディアさんとカミーユさんにお願いしましょう」
フィークさんの指名で、向こうの作業員の一人が前に出てきた。
「私も、頑張ってきます!」
ラディアさんが気合いを入れて開票に臨む。しかし、もう結果は決まってしまった。いまさら、頑張れることなんて何も無いじゃないか。
「開票を務めさせていただきます、カミーユです」
「あ、ラディアです。よろしくお願いします」
ラディアさんはカミーユさんに促されて自己紹介すると、ぺこりと頭を下げた。
「それでは、開票に入ります。まずは一つ目……フィークさんの『ライフポーションH』!」
カミーユさんが、粛々と開票を行い始めた。僕は、固唾を飲んで成り行きを見守る。
「えっと、次は……フィークさんの『ライフポーションH』、です……」
続いてラディアさんが開票し、ホワイトボードに票を貼った。また、フィークさんか……。
その後も、交互に開票が進められていった。滞りなく、全ての票が開かれた結果は……?
「今回の投票の結果は……ハルガード君の『ヒールタブレット』が九票、フィークさんの『ライフポーションH』が四票で、ハルガード君の勝ちです!」
ラディアさんが、歓喜しながら結果を読み上げてくれた。や、やった! フィークさんに勝った!
「やりましたね、ハルガード君!」
「良かったー、ホントに! すっごく不安だったよぉー」
僕は嬉しさのあまり、思わずラディアさんと抱き合ってしまった。でもすぐに我に返ると、恥ずかしさからお互いにパッと離れた。公衆の面前で、何やってんだろ僕ら……。
フィークさんは、面白くなさそうな顔でホワイトボードを睨みつけている。
「それでは、講評に入らせていただきます。今後の参考のため、皆様のご意見をお聞かせください」
フィークさんは苦虫を噛み潰したような顔をしてはいるものの、努めて冷静な口調で司会進行をしている。表情と声音が一致しないって、凄い芸当だな……。
「あ、それなら私からよろしいですか?」
ラディアさんが、率先して手を挙げた。フィークさんが、どうぞと促す。
「まずは、今回の企画に参加させていただきありがとうございます。どちらも大変優れた品物で、甲乙つけがたいハイレベルな対決だったと思います。その上で、僭越ながら私の見解を述べさせていただきます」
なんだか、途端にラディアさんが大人っぽく見える。あ、社交の場ではこういう風に振る舞えばいいのか。なるほどなぁ……。
僕は隣で演説するラディアさんを見ながら、場違いなことを考えていた。そんな僕をよそに、ラディアさんは講評を続ける。
「私は冒険者として、こちらでお作りされている『ライフポーション』にいつも助けられておりました。そちらは大変便利な商品ではあるのですが、ふたつの不満な点がございました。ひとつは、持ち運びについて。もうひとつは、回復量についてです」
ラディアさんが挙げた問題点は、僕が立案の相談をしていた時の内容だ。今回、僕はそれらの問題点をクリアするよう企画したんだ。ラディアさんはさらに言葉を続ける。
「フィークさんのお作りになった品は、回復量を上げることでその問題をクリアされていました。一方で、ハルガード君のは複数粒を飲めるように工夫することで、この問題をクリアしました。また、どちらも飲みやすく、使いやすい薬品だったと思います。
しかし、両者の大きな違いは携帯のしやすさです。フィークさんの方は『ライフポーション』と同程度の大きさの瓶でしたので、冒険へ持っていく際にはそれなりの荷物になります。あまり沢山持ち運びが出来ないという欠点があります」
そこで、フィークさんが手を挙げた。ラディアさんは言葉を切ると、どうぞとフィークさんに発言を許可する。
「なるほど、ラディアさんのおっしゃる通りかと思います。しかし、『ライフポーション』よりも効果の高いこちらの品は、同程度の回復量を想定したなら、相対的に本数が少なくなるはずです。携行性についてはそれで改善されると考えますが?」
「いえ、そういう訳でもありません。私の場合ですけれど、回復量の違うアイテムが複数ある時は、念のため使える強めの回復薬を数本と、普段使う弱めの回復薬を持っていこうと考えます。すると、結局荷物が多くなるので、他のアイテムの枠をどうするか考える事になるんです」
ラディアさんの説明を聞いて、フィークさんは眉をひそめた。なるほど、もっともな意見だ。僕の方も目からウロコだった。ラディアさんは更に言葉を続ける。
「でも、ハルガード君の方は同じ瓶でもたくさん入ります。たぶん『ライフポーション』四十本分くらいが一瓶で済んでしまいます。複数の薬瓶を持ち歩くより、これひとつ持ち歩いて調節出来た方が、はるかに便利だと私は思いました」
フィークさんはぐうの音も出ないようだった。忌々しげに、ラディアさんを睨みつけている。ラディアさんは、毅然とした態度で続きを述べた。
「加えて、回復量の大きい薬品なら『エリクシール』があります。たぶん、荷物の面とか取捨選択の面倒くささから、私は『エリクシール』の選択を考えると思います。新商品として発売し、差別化を図るなら『エリクシール』と同じ土俵で戦ってはいけないと思います」
周りの作業員も、一様にうなづく。もっともな意見なんだけど、なんだか、ラディアさんもすっかり工場『オリカフト』の一員みたいだ。
ラディアさんはひとつ咳払いをして、発言を締める。
「ここにお集まり頂いた皆様と意見交換をして、私なりにまとめた意見が以上になります。私も、貴重なお話を皆様から聞けて大変勉強になりました。重ねて、ありがとうございました。私からは以上です」
そう言ってラディアさんはぺこりと一礼する。周りからは拍手がわきおこった。
いや、ホントに僕の方も勉強になった。実際に使ってる人の意見は、やっぱり参考になる。なるほどなぁ……。
「ラディアさん、ありがとう」
「えへへ、ありがとうございます。私の方も根回しを頑張らせて頂きました」
僕は素直に関心して、ラディアさんに拍手を贈る。たぶん、作業員の皆にも同じような話をしてまわってたんだと思うんだけど、根回しだなんてとんでもない。利用者として立派な意見だったと思う。あのフィークさんが文句を挟む余地も無いほどだったし。
こうして、社内コンペは僕の勝利で幕を閉じた。その後、事務室に通された僕らは、フィークさんと対談することになった。
「お疲れ様でした、ハルガードさん。素晴らしい品をご提供いただき、ありがとうございます。書類を用意いたしましたので、こちらの案件については今後『オリカフト』へ一任していただけるよう、許可を頂きたく存じます」
そう言って、フィークさんは契約書とペンを差し出してきた。それよりも、僕はフィークさんに確認しておきたいことがある。
「フィークさん、以前お話させて頂いたことの確認になりますが。『ライフポーションS』の製造は止めて下さるんですよね?」
「仕方ありませんね。どのみち、提供いただいた品が流通すれば『ライフポーション』は市場から淘汰されるでしょう。それほどに、そちらの『ヒールタブレット』は素晴らしい品物です」
賛辞の言葉を述べながら、フィークさんは契約書に二重線を入れていく。っておい、ちゃっかり何か変な文言入れてたんじゃないか。本当に油断ならないな、この人は。
「他に確認しておきたいことはありますか?」
「そろそろ、この【調印】を消して貰えませんかね」
「ああ、これは失礼しました。はい、どうぞ」
フィークさんがパチンと指を鳴らす。すると、僕の右手に描かれていた魔法印がゆっくりと消失していった。これで当面の憂いは無くなったかな。一応、他に何か変なことが書いてないか契約書をしっかり読み込んでおこう。
「ところで、ハルガードさん。こちらのサンプルをいくつか試飲させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。構いませんよ」
フィークさんはコンペで余った『ヒールタブレット』を一粒とって飲み込む。
「ふむ。味は問題ないようです。ですが、これでは即効性が期待できませんね。戦闘中に使うには、少し役不足かもしれません」
フィークさんは言って、もう一粒つまむと今度は噛み砕いた。あ、たぶん噛み砕くとすごく苦いと思う。案の定、フィークさんはとたんに顔をしかめた。
「なるほどなるほど。この味をマスキングするための糖衣だったわけですか。良い工夫だと思います。しかし、飲み込んでから効果を発揮するまでにタイムラグがあります。今の回復薬の主流が液剤なのは、効果発現の面で優れているからなのですよ。こんな風に薬品を閉じ込めたのでは、その利便性が大幅に落ちてしまいます」
フィークさんの嫌味がまた始まった。なんだよ、僕に負けたくせに。いちいち癪に障る人だな、ほんと。
「ハルガードさん、この品物はぜひ私共に預からせてください。世に送り出すため、全力で問題点を洗い出し、改善して差し上げますよ。まずは、口腔内からの吸収を考えて舌下錠や口腔内崩壊錠あたりの剤形で試してみましょうか」
何やら専門用語が出てきたけど、やっぱり凄いなこの人は。こうやって、問題点とそれに対するアプローチがポンポンと出てくるんだから。その知恵と技術を、もっと世の人たちの役に立つよう振舞ってくれれば良いのに。
とは言え、なんだかんだで僕はフィークさんのこういう所は尊敬にあたいすると思った。割り切り方は凄いけど、契約書さえ交わしてしまえば心強い味方にも化ける。性格のクセも凄いけれど、確かな技術力と知識がある。
世の中、こんな人もいるんだな。
僕は契約書にサインをして、フィークさんに渡した。フィークさんもサインを確認し、代表者印を押す。これで、契約が締結された。
「ついでに魔法印も結んでおきますか? そちらの方が強制力がありますよ」
「必要ないですよ。どうせ、フィークさんの都合のいいように付け外しできるんでしょ?」
「ふふっ。それもそうですね。冗談です」
フィークさんがにやけながら宣う。この人が言うと、どこからが冗談かも分からないんだから。正直、僕としてはもうあんまり関わりたくないんだよ。
「それでは、話はこれでおしまいです。お疲れ様でした、ハルガードさん。これからも、アイテムプランナーとして益々のご活躍を期待してますよ」
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