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第22話 僕は英雄じゃない!?
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『ライフポーション』の一件が落着し、僕らはいよいよ次の街に向かうための準備を始めることにした。フィークさんからは謝礼として二十万ルフを即金でもらっている。手持ちもまだそれなりにあるから、これだけあれば次の街へ行っても困らないだろう。
「ナクトル達は、もうとっくに次の拠点に着いてるよね。後追いという形になるけど、仕方ないかな……」
僕は街の往来で地図と睨めっこし、次の拠点へのルートを確認する。山を避けて西方向に平坦な道を行くのがセオリーになるかな。途中に小さな農村もあるから、休憩も出来そうだし。野宿は出来るだけ少なくしたい。
「ところで、ハルガード君は何で冒険者になろうと思ったんですか? やっぱり、魔王討伐が目的ですか?」
隣で一緒に地図を見るラディアさんが質問してきた。
僕はアカデミーを卒業する時点でナクトル達と冒険にいくつもりだった。だから必然、彼らの目的である魔王討伐に同行するつもりだったんだ。ところが、結局パーティーから追い出されてしまって、こうしてラディアさんと冒険に行く準備をしている。
僕がまだアカデミーにいた時、ナクトル達とした会話を思い出す。ナクトルとレグサはアカデミーに入る前から知り合いだったと言っていた。そして、ナクトルは人間たちの生活を脅かす魔王の存在をレグサから聞き、魔王討伐を決意したそうだ。ニルバがそれに賛同し、僕もナクトルの話を聞いて力になりたいと思ったんだ。僕らは【S級スキル】を持つ者同士の集まりで、いずれ魔王討伐の要になる存在だと、その当時は信じて疑わなかった。
でも、実際はこの通りだからね。
現実は厳しいよ、トホホ……。
「一応、魔王討伐が目的かなぁ。今現在の魔王の拠点はずっと遠くにあるらしいから、ここまで被害が届いてないけれど。とりあえず、昔に魔王軍との大きな戦いがあったっていう『戦争跡地』を目指すつもりだよ。海を超えてずっと南に行ったところにあるんだって」
僕は地図に指を走らせて、ずっと南を指した。南に真っ直ぐ移動しようとすると海を渡らなきゃ行けないけど、西から迂回して行けばそこまでずっと陸続きだ。船で何泊もするのは嫌だし遭難の危険も高いから、とりあえず船を使わずに行こうと思ってる。
「魔王の居所って、分かってないんですか?」
「うん。魔王は定期的に拠点を移動してるらしくて、現在もどこかに進軍中だって話。魔王自らあちこちに出向いてるから、『戦争跡地』を目印に探していくしかないって聞いたよ」
「定住しない魔王様なんですね。変なの」
ラディアさんは、この話題にあんまり興味無いのかな。そこで話が終わってしまった。
まあ、僕もナクトル達から聞いた情報しかないから、地道に探してくしかないんだよな。なんだか、魔王ってふわっとした存在なんだよね。どこに居るかはっきり分かってないけど、被害は確実にあるっていう。
言われてみれば、変な気はする。
まあでも、それはそれとして。もしかしたら陸続きに歩いていけば魔王と遭遇することもあるかもしれない。常に万全を期しておかなきゃ。
「情報収集もあるけれど、魔王討伐の準備も早いうちに進めなきゃいけないからなぁ。とりあえず『エリクシール』を買っておこう」
僕はオシャレなアイテムショップに向かった。ラディアさんは成り行きで着いてきてくれてるけど、今後どうするつもりなんだろう。一緒に来てくれるのかな? でも、さっきの様子を見る限りだと、あんまり興味無さそうなんだよなぁ……。
僕はそんなことを考えながら『エリクシール』を手に取った。
【エリクシール】
効能:治癒力を引き上げ、体力および魔力を全回復する。また、自然回復する状態異常全般も治る。
副作用:回復量に依存して寿命短縮。大量摂取で多臓器不全を引き起こす。
レアリティ:★★
僕はスキルによる『エリクシール』の解説に驚愕した。この副作用は、かなり重篤じゃないか。こんなものを何本も使用したら、あっという間に死んでしまう。
僕が驚いている間に、男性の冒険者が棚から『エリクシール』を三本ほど持って、レジに向かっていった。
いけない、止めなきゃ!
僕はとっさに、弓使い風の男性の肩を掴んだ。
「あの、それ買わない方がいいですよ」
「はぁ?」
何言ってんのコイツ、と言わんばかりに嫌な顔をされた。うん、またやってしまった気がする。僕って学ばないなぁ……。
「あ、すみません……でも、その薬はとんでもない劇薬なんです。そんなに何本も買って使ってたら、すぐに死んでしまいますよ!」
『ライフポーション』や『スキルポーション』の時は、偽物とはいえ所詮、軽度の頭痛や眩暈程度の事だった。しかし、今回のは人命に関わる重大な問題だ。ここで怯んでやり過ごす訳にはいかない。
僕は意を決して弓使い風の男性に訴えかけた。しかし、男性の表情は険しくなるばかり。
「お客様、いくらなんでもそういうのは困ります!」
店員さんが、僕と男性の間に割り込んできた。僕はハッとして、周りを見回す。すっかり注目の的だった。
「あ……、すみません。出ていきますね……」
僕はすごすごと、アイテムショップを後にした。アレは言い過ぎちゃったかもしれない。
「あの、ハルガード君……? どういう事ですか?」
ラディアさんが、困惑しながら聞いてきた。
「ごめん、ラディアさんも目立っちゃったね。でも、コレばかりは見過ごせなくて。はぁ……【薬識】に目覚めてからこんなんばっかりだな……ちょっと、場所を変えて話そう」
僕らは、そのまま噴水のある広場に向かった。ラディアさんとベンチに座る。
「ラディアさん、『エリクシール』は持ってる?」
「はい。一応、一本だけ常にストックしておいてます。私は一度も使ったことがないんですけど、念のためにと思って」
「それは良かった……ちょっと、貸してくれるかな」
僕はラディアさんから『エリクシール』を受け取った。やはり、間違いない。この薬は、使用者の寿命を縮める劇薬だ。こんな危険な薬が、飛ぶほど売れてるなんて……。僕には、そんな現実が信じられなかった。
「ラディアさん、この薬は体力と魔力を全回復する優れた薬なんだけれど……使用者の寿命を縮めてしまう恐ろしい薬なんだ」
ラディアさんが目を丸くして、青ざめる。
今にして思えば、どうして原料である『金包蘭』を見つけた時に気が付かなかったんだろう。もっと言えば、『ライフポーション』や『スキルポーション』を手に取る前。とりあえず『エリクシール』の感覚でコレを手に取っておけば、その時に気が付けたかもしれない。
僕がアカデミーを卒業してもう一週間も経った。ナクトル達も、とっくに次の拠点に行ってしまっただろう。彼らほど優秀で魔力消費も激しいスキル持ちなら、この薬をバンバン使っていてもおかしくない。実際にどのくらいの速度で寿命が縮むかは分からないけれど、こんな薬をガバガバ飲んでたら、ナクトル達も近いうちに死んでしまうんじゃないか。
僕は【薬識】を持つくせに周りを止められない自分の不甲斐なさを自覚して、自己嫌悪した。
「僕って、ホントに駄目な奴だと思う。【S級スキル】を持ってるから、誰よりも活躍して、皆から英雄視されるような冒険者になれるんじゃないかと、心のどこかで考えていたんだけれど……。実際は、こんなにも不甲斐ないんだからさ」
僕は自嘲して、愚痴をこぼした。ラディアさんは、そんな僕の背中にぽんと手を添えて言う。
「……ハルガード君は、立派だと思いますよ。私の時も、『ライフポーション』の件でも……ハルガード君のスキルで問題を解決に導いて来たじゃないですか。まずは、前向きになりましょう。今こうして『エリクシール』が怖い薬だって分かったんですから、これからどうすれば良いか一緒に考えましょう?」
僕はハッとして、ラディアさんの顔を見る。優しく微笑みながら、ラディアさんは僕の顔を覗いていた。
ラディアさんの言う通りだと思う。ここでクヨクヨしてても、この薬の犠牲者は減らない。出来ることからやっていかなきゃ。そのために、僕には【薬識】があるんじゃないか。
「ありがとう、ラディアさん……! よし、今度は『エリクシール』の乱用問題をなんとかしよう!」
「はい!」
僕は拳を握って立ち上がる。隣のラディアさんも一緒に立ち上がった。
まだ、僕らはこの街でやることがある。ナクトル達にも、どうにかして『エリクシール』の乱用を止めてもらわなきゃいけない。今から追いつくのは難しいから、どうにかして伝える手段も考えなきゃ!
「ナクトル達は、もうとっくに次の拠点に着いてるよね。後追いという形になるけど、仕方ないかな……」
僕は街の往来で地図と睨めっこし、次の拠点へのルートを確認する。山を避けて西方向に平坦な道を行くのがセオリーになるかな。途中に小さな農村もあるから、休憩も出来そうだし。野宿は出来るだけ少なくしたい。
「ところで、ハルガード君は何で冒険者になろうと思ったんですか? やっぱり、魔王討伐が目的ですか?」
隣で一緒に地図を見るラディアさんが質問してきた。
僕はアカデミーを卒業する時点でナクトル達と冒険にいくつもりだった。だから必然、彼らの目的である魔王討伐に同行するつもりだったんだ。ところが、結局パーティーから追い出されてしまって、こうしてラディアさんと冒険に行く準備をしている。
僕がまだアカデミーにいた時、ナクトル達とした会話を思い出す。ナクトルとレグサはアカデミーに入る前から知り合いだったと言っていた。そして、ナクトルは人間たちの生活を脅かす魔王の存在をレグサから聞き、魔王討伐を決意したそうだ。ニルバがそれに賛同し、僕もナクトルの話を聞いて力になりたいと思ったんだ。僕らは【S級スキル】を持つ者同士の集まりで、いずれ魔王討伐の要になる存在だと、その当時は信じて疑わなかった。
でも、実際はこの通りだからね。
現実は厳しいよ、トホホ……。
「一応、魔王討伐が目的かなぁ。今現在の魔王の拠点はずっと遠くにあるらしいから、ここまで被害が届いてないけれど。とりあえず、昔に魔王軍との大きな戦いがあったっていう『戦争跡地』を目指すつもりだよ。海を超えてずっと南に行ったところにあるんだって」
僕は地図に指を走らせて、ずっと南を指した。南に真っ直ぐ移動しようとすると海を渡らなきゃ行けないけど、西から迂回して行けばそこまでずっと陸続きだ。船で何泊もするのは嫌だし遭難の危険も高いから、とりあえず船を使わずに行こうと思ってる。
「魔王の居所って、分かってないんですか?」
「うん。魔王は定期的に拠点を移動してるらしくて、現在もどこかに進軍中だって話。魔王自らあちこちに出向いてるから、『戦争跡地』を目印に探していくしかないって聞いたよ」
「定住しない魔王様なんですね。変なの」
ラディアさんは、この話題にあんまり興味無いのかな。そこで話が終わってしまった。
まあ、僕もナクトル達から聞いた情報しかないから、地道に探してくしかないんだよな。なんだか、魔王ってふわっとした存在なんだよね。どこに居るかはっきり分かってないけど、被害は確実にあるっていう。
言われてみれば、変な気はする。
まあでも、それはそれとして。もしかしたら陸続きに歩いていけば魔王と遭遇することもあるかもしれない。常に万全を期しておかなきゃ。
「情報収集もあるけれど、魔王討伐の準備も早いうちに進めなきゃいけないからなぁ。とりあえず『エリクシール』を買っておこう」
僕はオシャレなアイテムショップに向かった。ラディアさんは成り行きで着いてきてくれてるけど、今後どうするつもりなんだろう。一緒に来てくれるのかな? でも、さっきの様子を見る限りだと、あんまり興味無さそうなんだよなぁ……。
僕はそんなことを考えながら『エリクシール』を手に取った。
【エリクシール】
効能:治癒力を引き上げ、体力および魔力を全回復する。また、自然回復する状態異常全般も治る。
副作用:回復量に依存して寿命短縮。大量摂取で多臓器不全を引き起こす。
レアリティ:★★
僕はスキルによる『エリクシール』の解説に驚愕した。この副作用は、かなり重篤じゃないか。こんなものを何本も使用したら、あっという間に死んでしまう。
僕が驚いている間に、男性の冒険者が棚から『エリクシール』を三本ほど持って、レジに向かっていった。
いけない、止めなきゃ!
僕はとっさに、弓使い風の男性の肩を掴んだ。
「あの、それ買わない方がいいですよ」
「はぁ?」
何言ってんのコイツ、と言わんばかりに嫌な顔をされた。うん、またやってしまった気がする。僕って学ばないなぁ……。
「あ、すみません……でも、その薬はとんでもない劇薬なんです。そんなに何本も買って使ってたら、すぐに死んでしまいますよ!」
『ライフポーション』や『スキルポーション』の時は、偽物とはいえ所詮、軽度の頭痛や眩暈程度の事だった。しかし、今回のは人命に関わる重大な問題だ。ここで怯んでやり過ごす訳にはいかない。
僕は意を決して弓使い風の男性に訴えかけた。しかし、男性の表情は険しくなるばかり。
「お客様、いくらなんでもそういうのは困ります!」
店員さんが、僕と男性の間に割り込んできた。僕はハッとして、周りを見回す。すっかり注目の的だった。
「あ……、すみません。出ていきますね……」
僕はすごすごと、アイテムショップを後にした。アレは言い過ぎちゃったかもしれない。
「あの、ハルガード君……? どういう事ですか?」
ラディアさんが、困惑しながら聞いてきた。
「ごめん、ラディアさんも目立っちゃったね。でも、コレばかりは見過ごせなくて。はぁ……【薬識】に目覚めてからこんなんばっかりだな……ちょっと、場所を変えて話そう」
僕らは、そのまま噴水のある広場に向かった。ラディアさんとベンチに座る。
「ラディアさん、『エリクシール』は持ってる?」
「はい。一応、一本だけ常にストックしておいてます。私は一度も使ったことがないんですけど、念のためにと思って」
「それは良かった……ちょっと、貸してくれるかな」
僕はラディアさんから『エリクシール』を受け取った。やはり、間違いない。この薬は、使用者の寿命を縮める劇薬だ。こんな危険な薬が、飛ぶほど売れてるなんて……。僕には、そんな現実が信じられなかった。
「ラディアさん、この薬は体力と魔力を全回復する優れた薬なんだけれど……使用者の寿命を縮めてしまう恐ろしい薬なんだ」
ラディアさんが目を丸くして、青ざめる。
今にして思えば、どうして原料である『金包蘭』を見つけた時に気が付かなかったんだろう。もっと言えば、『ライフポーション』や『スキルポーション』を手に取る前。とりあえず『エリクシール』の感覚でコレを手に取っておけば、その時に気が付けたかもしれない。
僕がアカデミーを卒業してもう一週間も経った。ナクトル達も、とっくに次の拠点に行ってしまっただろう。彼らほど優秀で魔力消費も激しいスキル持ちなら、この薬をバンバン使っていてもおかしくない。実際にどのくらいの速度で寿命が縮むかは分からないけれど、こんな薬をガバガバ飲んでたら、ナクトル達も近いうちに死んでしまうんじゃないか。
僕は【薬識】を持つくせに周りを止められない自分の不甲斐なさを自覚して、自己嫌悪した。
「僕って、ホントに駄目な奴だと思う。【S級スキル】を持ってるから、誰よりも活躍して、皆から英雄視されるような冒険者になれるんじゃないかと、心のどこかで考えていたんだけれど……。実際は、こんなにも不甲斐ないんだからさ」
僕は自嘲して、愚痴をこぼした。ラディアさんは、そんな僕の背中にぽんと手を添えて言う。
「……ハルガード君は、立派だと思いますよ。私の時も、『ライフポーション』の件でも……ハルガード君のスキルで問題を解決に導いて来たじゃないですか。まずは、前向きになりましょう。今こうして『エリクシール』が怖い薬だって分かったんですから、これからどうすれば良いか一緒に考えましょう?」
僕はハッとして、ラディアさんの顔を見る。優しく微笑みながら、ラディアさんは僕の顔を覗いていた。
ラディアさんの言う通りだと思う。ここでクヨクヨしてても、この薬の犠牲者は減らない。出来ることからやっていかなきゃ。そのために、僕には【薬識】があるんじゃないか。
「ありがとう、ラディアさん……! よし、今度は『エリクシール』の乱用問題をなんとかしよう!」
「はい!」
僕は拳を握って立ち上がる。隣のラディアさんも一緒に立ち上がった。
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