最強竜殺しの弟子

猫民のんたん

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第一章 いざ、竜狩りへ

015 交渉

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「まさか」「翡翠竜ってBランクだぞ」「素人が狩れる竜じゃないだろ」「しかも独りで?」と、甲冑を着こんだ男たちが顔をつき合わせ、口々に驚きの声をあげる。

 そんな中、ネルビスは顔を一層険しくすると、ザックスに尋ねた。

「翡翠竜だと、貴様が?」
「まあな」
「嘘をついても碌なことにならないぞ?」
「証拠ならありますわよ」

 ザックスに代わり、マーブルが背負い袋をつまむ。ザックスに背負い袋を降ろさせ、観衆の注目を浴びる中。おもむろに取り出したのは翡翠竜の角を加工した、琥珀色の四角い棒だった。

「この魔力量を見てくださいまし。これほどの角は、今では絶対に手に入らないレベルの代物ですわ。何を隠そう、これを採ってきたのが、ザックスなのよ」

 わっとあたりが沸いた。「すげぇ!」「何だこの色は!」「これが翡翠竜の角なのか?」「信じられない」ところどころから声が飛び交った。皆がマーブルの持つ角に注目している中、ネルビスだけがそれを一瞥し、苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。

「……マーブル。その角はもしかして、今回出没情報のあった翡翠竜のものか?」

「さあ、なんのことかしら。私はその情報をもらってないけれど……」

 ネルビスはザックスを睨みつけ、忌々しそうに言葉を投げる。

「どこで狩ってきた?」

「森の中にある古そうな遺跡だったぜ。たまたま見つけたんだ」

 ネルビスは舌打ちをし、ザックスへと詰め寄った。

「その翡翠竜の出没は、俺たちが金を出して買った秘匿情報だ。どこで嗅ぎ付けたか知らないが、人の獲物を横取りするとは良い度胸だな」

 ネルビスの物言いに、ザックスは血管を浮き上がらせた。

「あ? 言いがかりはやめろよ。俺は本当にたまたま遭遇しただけだ」

「たまたまで翡翠竜が狩れるか、ボケ。どうやって情報を盗み出した?」

「なんで俺がテメェのものを盗んだ前提なんだ、ふざけんなよ?」

 ザックスが眼下に突き出されたぱっつん前髪に自身の額を突き合わせた。

 ネルビスはそれにひるむことなく、互いに一歩も引く気配がない。

「貴様がビゴットの後継者ってのはどうやら本当らしいな。奴も、いつもそんな感じだったと父上から聞いているぞ。たまたまた、何の準備もなしに、何度でもこの角を持ってきやがる。師弟揃って俺たち一家を馬鹿にしてんのか?」

「何言ってんだクソチビ。知ったこっちゃねぇよ、んなこと」

「口癖までそっくりか。師匠が師匠なら、弟子も弟子だな」

「んだとこの野郎。言うに事欠いて親父まで馬鹿にすんのか、テメェら一家は?」

 売り言葉に買い言葉。額を突き合わせ、ギリギリと音を立てながら歯ぎしりする両者の背後で、ネルビスの部下である男衆は「まあまあ、旦那」「落ち着いてくださいよ」と、ネルビスを諫めるべく努めていた。

「ちょっと、二人とも。どうしてそうなるのよ。落ち着きなさい」

 見かねたマーブルが、二人を引きはがすように間へ割って入る。

「ネルビスさん、ザックスは本当に偶然遭遇してしまっただけなの。この子、最初はワイバーンを狩りに行っただけなんだから」

「ワイバーンの巣は沼地だ。遺跡との距離もあるし、見間違うこともない。ここから行くにしても真逆の方向だ。マーブルも寝ぼけた事言ってんじゃあないぞ」

「私も呆れたけれどね。この子、極度の方向音痴なの」

 マーブルの言葉に、ネルビスが黙る。
 しかしながら、釈然としない様子だった。
 マーブルは言葉を続けた。

「本当は、ザックスにはワイバーンの翼と尻尾を依頼してたの。必要な数も少なかったし、あなた方よりも、こっちに依頼した方が安く済んだから。正確にはビゴットさんに依頼したんだけれど、ビゴットさんは、ワイバーン狩りならザックスの初陣にもって来いと思ったみたいでね。それでこの子に行かせたのよ」

「その結果、狩ってきたのが翡翠竜だったと?」

「……まあ、そういうことですわ」

 ネルビスがため息をついた。

「呆れたやつだな。依頼された仕事をほっぽり出して別なものを納品してくるとか、馬鹿じゃないのか?」

 いや、とネルビスが自身の言葉を否定する。

「馬鹿は失礼だったな、馬鹿に対して。貴様は屑だな」

「んだとこの――」

「だから、そうやって喧嘩を売らないでくださいまし!」

 マーブルの背後で怒りをあらわにするザックスを片手で制しながら、ネルビスを一喝した。

「もうっ、お願いだから話をちゃんと聞いてくださいまし。今回こちらに伺ったのは、あなた方にワイバーンの翼皮八枚、尻尾を四つの採取のお手伝いをお願いしたかったからなのですわ」

「俺たちに、この屑野郎の尻ぬぐいをしろと?」

 ネルビスは露骨に嫌悪の念を込めてザックスを一瞥した。

 ザックスは眉尻を引き攣らせて黙っている。

「悪く言えば、そうですけれど。でも、報酬はこの角でいかがかしら。お話を聞く限り、ちょうどこの角を必要としていたところなのでしょう?」

 マーブルは、すっと琥珀色の棒を両手で差し出す。
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