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第一章 いざ、竜狩りへ
016 交渉成立? ただし……
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ネルビスは暫し逡巡すると「ちょっと待ってろ」とマーブルへ告げ、周りの男衆を集めた。
「お前たち、この話どう思う?」
「ワイバーン狩りの報酬としては破格ですよ。かなりの好条件じゃないですか。黄緑色の角がせいぜいな今の流通状況で、琥珀色の角は相当な値打ち品ですよ」
「しかし、せっかく集めた資材はどうする? ダークマターなんて全く要らなくなるじゃんよ」
「旦那、今回の俺たちの報酬はどうなりますか?」
「依頼内容が変わっても報酬を変える気はない。難易度はかなり下がるし、この依頼なら命の危険も少ないだろう」
「いいんですかい? 今回の仕事はリスクに対する補償もあったんでしょう?」
「構わん。もとより、お前たちへの報酬金分はあれを手に入れるために貯めていたものだ。それが手に入るという話なのだから、俺に文句は無い」
「でも、せっかく翡翠竜討伐に向けて準備してたのに」
「旦那が良いって言ってるんだから、良くないか? まるでデメリットが見当たらないと思うが」
「なら、賛成多数という事で良いな?」
ネルビスが、甲冑の輪を外れてマーブルたちのもとへ戻ってきた。
「聞いてのとおりだ。この依頼、受けてやろう」
「ありがとうございます。助かりますわ」
「ただし、報酬は先払いだ。この場で受け取ろう」
「ええ。でもその代わり、もう一ついいかしら?」
「言ってみろ」
マーブルは琥珀色の角を手渡しながら、
「今回の狩りに、ザックスも連れて行ってもらっても構わないかしら?」
受け取ろうとしたネルビスの手が止まる。
「へ?」
ザックスも素っ頓狂な声をあげた。
マーブルは背後のザックスへ首だけ向けると、片目を瞬かせて言う。
「ザックスへの依頼は、もともとワイバーン狩りですもの。それが達成できてこそ、ビゴットさんから初めて認められるでしょう、ねぇ?」
「んー、そうなのか?」
「そうよ。これなら、時間はかかったけれど初依頼はきちんとこなせたと、その事実に変わりないでしょ。そうすれば、ビゴットさんも認めてくれると思ったのよ」
「いやまあ、マーブルがそれで良いっていうんなら、そうなのかもしれねぇけど」
依頼主であるマーブルからの提案に、ザックスが異を唱える理由はなかった。
ザックスは明後日の方向を見ながら「まあいっか」と呑気に呟くが、ネルビスは対照的に固まったまま沈鬱な表情で逡巡していた。
「……いいだろう。その前に、ザックスとか言ったな。表に出ろ」
ネルビスは琥珀色の角を受け取らず、ザックスへ言い放った。
「ちょっと、ネルビスさん。何する気よ」
「力試しだ。こいつがワイバーン狩りについていけるかどうか見極めさせてもらう。Dランクといえど、素人に出られて死者が出るのは困るのでな。それくらい、構わないだろう?」
ネルビスは言いながら、奥に立てかけてあった白銀の剣と盾を持ちだした。
「ここから少し行ったところに、俺たちの訓練場がある。ついて来い」
言って、ネルビスは顎で出入り口を指した。
「ザックス、どうするの?」
「臨むところだ。売られた喧嘩は、きっちり買うぜ」
血の気の多いこと、とマーブルは呆れたようにつぶやいた。
「お前たちは、いつもの準備を進めておけ。日暮れまでには戻る。――いや、もっと早いかもしれんがな」
ネルビスは部下たちに指示を出すと、過ぎざまにザックスを一瞥して冷笑を浮かべた。
「わかってんじゃねぇかよ。お前が思うよりも早く決着がついちまうかもしれねぇな」
左拳を右手で握り、ザックスは愉快そうにシニカルな笑みで返す。
「はぁ……こんな事になるはずじゃなかったのに……」
マーブルはひとり頭を抱えて、二人の後について行った。
「お前たち、この話どう思う?」
「ワイバーン狩りの報酬としては破格ですよ。かなりの好条件じゃないですか。黄緑色の角がせいぜいな今の流通状況で、琥珀色の角は相当な値打ち品ですよ」
「しかし、せっかく集めた資材はどうする? ダークマターなんて全く要らなくなるじゃんよ」
「旦那、今回の俺たちの報酬はどうなりますか?」
「依頼内容が変わっても報酬を変える気はない。難易度はかなり下がるし、この依頼なら命の危険も少ないだろう」
「いいんですかい? 今回の仕事はリスクに対する補償もあったんでしょう?」
「構わん。もとより、お前たちへの報酬金分はあれを手に入れるために貯めていたものだ。それが手に入るという話なのだから、俺に文句は無い」
「でも、せっかく翡翠竜討伐に向けて準備してたのに」
「旦那が良いって言ってるんだから、良くないか? まるでデメリットが見当たらないと思うが」
「なら、賛成多数という事で良いな?」
ネルビスが、甲冑の輪を外れてマーブルたちのもとへ戻ってきた。
「聞いてのとおりだ。この依頼、受けてやろう」
「ありがとうございます。助かりますわ」
「ただし、報酬は先払いだ。この場で受け取ろう」
「ええ。でもその代わり、もう一ついいかしら?」
「言ってみろ」
マーブルは琥珀色の角を手渡しながら、
「今回の狩りに、ザックスも連れて行ってもらっても構わないかしら?」
受け取ろうとしたネルビスの手が止まる。
「へ?」
ザックスも素っ頓狂な声をあげた。
マーブルは背後のザックスへ首だけ向けると、片目を瞬かせて言う。
「ザックスへの依頼は、もともとワイバーン狩りですもの。それが達成できてこそ、ビゴットさんから初めて認められるでしょう、ねぇ?」
「んー、そうなのか?」
「そうよ。これなら、時間はかかったけれど初依頼はきちんとこなせたと、その事実に変わりないでしょ。そうすれば、ビゴットさんも認めてくれると思ったのよ」
「いやまあ、マーブルがそれで良いっていうんなら、そうなのかもしれねぇけど」
依頼主であるマーブルからの提案に、ザックスが異を唱える理由はなかった。
ザックスは明後日の方向を見ながら「まあいっか」と呑気に呟くが、ネルビスは対照的に固まったまま沈鬱な表情で逡巡していた。
「……いいだろう。その前に、ザックスとか言ったな。表に出ろ」
ネルビスは琥珀色の角を受け取らず、ザックスへ言い放った。
「ちょっと、ネルビスさん。何する気よ」
「力試しだ。こいつがワイバーン狩りについていけるかどうか見極めさせてもらう。Dランクといえど、素人に出られて死者が出るのは困るのでな。それくらい、構わないだろう?」
ネルビスは言いながら、奥に立てかけてあった白銀の剣と盾を持ちだした。
「ここから少し行ったところに、俺たちの訓練場がある。ついて来い」
言って、ネルビスは顎で出入り口を指した。
「ザックス、どうするの?」
「臨むところだ。売られた喧嘩は、きっちり買うぜ」
血の気の多いこと、とマーブルは呆れたようにつぶやいた。
「お前たちは、いつもの準備を進めておけ。日暮れまでには戻る。――いや、もっと早いかもしれんがな」
ネルビスは部下たちに指示を出すと、過ぎざまにザックスを一瞥して冷笑を浮かべた。
「わかってんじゃねぇかよ。お前が思うよりも早く決着がついちまうかもしれねぇな」
左拳を右手で握り、ザックスは愉快そうにシニカルな笑みで返す。
「はぁ……こんな事になるはずじゃなかったのに……」
マーブルはひとり頭を抱えて、二人の後について行った。
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