17 / 38
第一章 いざ、竜狩りへ
017 試験
しおりを挟む
工業都市ドラガリアの中央から西へ行ったところには、石の壁で仕切られた円形の一画があった。そこは、ネルビス一家が管理する土地であり、ネルビスが雇った者達の訓練施設として使われている。先ほどの赭色の建物からは、さほど離れていない。
一画をぐるりと囲う石壁のうち、一か所にだけ人が通れる程度の簡素な扉が備え付けられていた。申し訳程度に鎖と錠前がかけられており、ネルビスは慣れた手つきで解錠し、鎖をほどいた。
ネルビスが先頭を行き、次いでザックスたちが石壁の内側へ足を踏み入れる。
敷地内は荒涼たる様で、手入れが施されている様子もない。まさに、空き地といった景色だが、強いて特徴をあげるとすれば、申し訳程度の掘っ立て小屋が入口の脇に設置されているくらいなものだった。この区画に天蓋はなく、日の光がまぶしい。
「殺風景な場所だな。何にもねぇや」
ザックスが辺りを見回しながら、ぼやく。
「まあな。俺たちが訓練のために剣を振るうためだけの場所だ。資材が小屋の中にあるくらいで、他には何も置いていない」
「なるほど。で、ここなら邪魔も入らずサシでやれるってわけだ」
ネルビスが敷地の中央へ歩きながら、横顔だけを後方のザックスに向けた。
「まあ、そういうことだ」
意気揚々と腕のストレッチを始めたザックスの後ろで、ただついてきたマーブルが小屋の方をみやる。小屋の扉にも鎖がかけてあった。
「ねえ、ネルビスさん。私、暇なんですけど。小屋の中に入れさせてもらってもいいかしら?」
マーブルが小屋を指さしながら、退屈そうに話す。
「だめだ。今日はその中の物を使う予定はないし、勝手に触られても困る。退屈なら、そこで眺めていたらいい」
「……そうさせてもらいますわ」
ネルビスにバッサリと切り捨てられ、観念したようにマーブルはため息をついた。
二人の列からは外れ、ひとりマーブルは小屋へ寄りかかる。
「ザックスぅー、さっさと入団試験を終わらせてくださいましー」
「入団なんてしねぇよ、アホ!」
手をひらひらさせて声をかけてくるマーブルに、ザックスは怒鳴り声で返した。
「……ここらで、いいだろう。さて、始めるか」
先頭を歩いていたネルビスが立ち止まると、ザックスの方へと向き直る。
「へっ、待ちくたびれたぜ。さっさと始めようぜ」
ザックスは言うと、腰のガン・ソードへ右手を伸ばし、ためらいなくホルスターから引き抜いた。銃口をネルビスへ向け、腰のポーチから魔力莢を取り出して装填する。
対するネルビスは体の半分以上を覆う大盾を構え、
「ちょっと待て。先に、ひとつ言わなければならないことがある。重要なルールだ」
ザックスの動きに警戒しながら待ったをかけた。
「んだよ。先に言えよ、そういうことは。なんだ、ルールって?」
水を差されたザックスが構えを緩めると、不機嫌そうにネルビスを睨む。
「この戦いにおいて、一切の魔力の使用を禁ずる」
「あ? 何言ってんだ、おめぇ?」
ザックスの武器は魔力を利用した銃器であり、魔力を使わなければただの鈍器に過ぎない。ネルビスは防御の構えを解くことなく、言葉を続けた。
「ワイバーンの住処である“沼地”では、ほとんどの魔力武器が無効となる。貴様の持つそれがビゴットの扱っていたガン・ソードだというなら、そんなものを持って行っても、唯のガラクタでしかないだろう。それでもなお、貴様が戦えるかを見たい」
ザックスは明後日の方向を見ながら、ビゴットの忠告を思い出した。
「あー、確か親父もそんなこと言ってたな。沼地じゃ不利だとかなんとか……」
「ワイバーンは竜種の中でも、防御力は高くない方だ。魔力も持たない。しかし、それゆえに“沼地”に適合した竜種であり、魔力を使わずに外敵を屠るすべに長けている。そんな奴らの土俵で戦うのだ。貴様に、どんな戦略があるか見せてもらおうじゃないか」
ザックスは、頭を掻きながら答える。
「いやぁ、戦略っていうか……単に、沼地から引き離して、魔力が使えるところにおびき出したら撃ち落とす。これだけだって、教えられたぜ?」
ネルビスが盾の奥で、落胆の表情をのぞかせた。
「なんだそれは。つまり、貴様は奴らの前では手も足も出ないと、そういうことか?」
ザックスはむっとして、ネルビスへ言葉を返す。
「そういう風には言ってねぇだろ」
「じゃあなんだ? 尻尾を巻いて逃げるだけで、奴らが都合よく追ってきて巣から離れてくれるとでも考えているのか? 甘いな。これだから素人は」
ネルビスが呆れたように鼻で笑った。
ザックスのこめかみに血管が浮かび上がる。
「てめぇ、人をおちょくってんのか?」
「その通りだよ、間抜け。つまらない逃げ口上を垂れてないで、さっさと来い」
「てんめぇ……」
ザックスは目を血走らせて、ネルビスを睨みつけた。
ネルビスは、盾の奥で不敵な笑みを浮かべている。
「おい、ルールはそれだけかよ、ネルビス。他に何か言っとくことはあるか?」
「ルールはそれだけだ。分かったら、さっさと始めるぞ木偶の坊」
「臨むところだ、クソチビ!」
ザックスはガン・ソードを正面に構え、走り出した。
一画をぐるりと囲う石壁のうち、一か所にだけ人が通れる程度の簡素な扉が備え付けられていた。申し訳程度に鎖と錠前がかけられており、ネルビスは慣れた手つきで解錠し、鎖をほどいた。
ネルビスが先頭を行き、次いでザックスたちが石壁の内側へ足を踏み入れる。
敷地内は荒涼たる様で、手入れが施されている様子もない。まさに、空き地といった景色だが、強いて特徴をあげるとすれば、申し訳程度の掘っ立て小屋が入口の脇に設置されているくらいなものだった。この区画に天蓋はなく、日の光がまぶしい。
「殺風景な場所だな。何にもねぇや」
ザックスが辺りを見回しながら、ぼやく。
「まあな。俺たちが訓練のために剣を振るうためだけの場所だ。資材が小屋の中にあるくらいで、他には何も置いていない」
「なるほど。で、ここなら邪魔も入らずサシでやれるってわけだ」
ネルビスが敷地の中央へ歩きながら、横顔だけを後方のザックスに向けた。
「まあ、そういうことだ」
意気揚々と腕のストレッチを始めたザックスの後ろで、ただついてきたマーブルが小屋の方をみやる。小屋の扉にも鎖がかけてあった。
「ねえ、ネルビスさん。私、暇なんですけど。小屋の中に入れさせてもらってもいいかしら?」
マーブルが小屋を指さしながら、退屈そうに話す。
「だめだ。今日はその中の物を使う予定はないし、勝手に触られても困る。退屈なら、そこで眺めていたらいい」
「……そうさせてもらいますわ」
ネルビスにバッサリと切り捨てられ、観念したようにマーブルはため息をついた。
二人の列からは外れ、ひとりマーブルは小屋へ寄りかかる。
「ザックスぅー、さっさと入団試験を終わらせてくださいましー」
「入団なんてしねぇよ、アホ!」
手をひらひらさせて声をかけてくるマーブルに、ザックスは怒鳴り声で返した。
「……ここらで、いいだろう。さて、始めるか」
先頭を歩いていたネルビスが立ち止まると、ザックスの方へと向き直る。
「へっ、待ちくたびれたぜ。さっさと始めようぜ」
ザックスは言うと、腰のガン・ソードへ右手を伸ばし、ためらいなくホルスターから引き抜いた。銃口をネルビスへ向け、腰のポーチから魔力莢を取り出して装填する。
対するネルビスは体の半分以上を覆う大盾を構え、
「ちょっと待て。先に、ひとつ言わなければならないことがある。重要なルールだ」
ザックスの動きに警戒しながら待ったをかけた。
「んだよ。先に言えよ、そういうことは。なんだ、ルールって?」
水を差されたザックスが構えを緩めると、不機嫌そうにネルビスを睨む。
「この戦いにおいて、一切の魔力の使用を禁ずる」
「あ? 何言ってんだ、おめぇ?」
ザックスの武器は魔力を利用した銃器であり、魔力を使わなければただの鈍器に過ぎない。ネルビスは防御の構えを解くことなく、言葉を続けた。
「ワイバーンの住処である“沼地”では、ほとんどの魔力武器が無効となる。貴様の持つそれがビゴットの扱っていたガン・ソードだというなら、そんなものを持って行っても、唯のガラクタでしかないだろう。それでもなお、貴様が戦えるかを見たい」
ザックスは明後日の方向を見ながら、ビゴットの忠告を思い出した。
「あー、確か親父もそんなこと言ってたな。沼地じゃ不利だとかなんとか……」
「ワイバーンは竜種の中でも、防御力は高くない方だ。魔力も持たない。しかし、それゆえに“沼地”に適合した竜種であり、魔力を使わずに外敵を屠るすべに長けている。そんな奴らの土俵で戦うのだ。貴様に、どんな戦略があるか見せてもらおうじゃないか」
ザックスは、頭を掻きながら答える。
「いやぁ、戦略っていうか……単に、沼地から引き離して、魔力が使えるところにおびき出したら撃ち落とす。これだけだって、教えられたぜ?」
ネルビスが盾の奥で、落胆の表情をのぞかせた。
「なんだそれは。つまり、貴様は奴らの前では手も足も出ないと、そういうことか?」
ザックスはむっとして、ネルビスへ言葉を返す。
「そういう風には言ってねぇだろ」
「じゃあなんだ? 尻尾を巻いて逃げるだけで、奴らが都合よく追ってきて巣から離れてくれるとでも考えているのか? 甘いな。これだから素人は」
ネルビスが呆れたように鼻で笑った。
ザックスのこめかみに血管が浮かび上がる。
「てめぇ、人をおちょくってんのか?」
「その通りだよ、間抜け。つまらない逃げ口上を垂れてないで、さっさと来い」
「てんめぇ……」
ザックスは目を血走らせて、ネルビスを睨みつけた。
ネルビスは、盾の奥で不敵な笑みを浮かべている。
「おい、ルールはそれだけかよ、ネルビス。他に何か言っとくことはあるか?」
「ルールはそれだけだ。分かったら、さっさと始めるぞ木偶の坊」
「臨むところだ、クソチビ!」
ザックスはガン・ソードを正面に構え、走り出した。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる