サーシェ

天山敬法

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第四章 叛逆の同志

31話 戦いの終わり

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 多くの血が流れた夜、どれだけの痛みや苦しみが交わされていたとしても、やがて素知らぬ顔で太陽は同じように昇る。今日も窓から日の光が差す。ミュロス・サーシェ。
 買い物、情報集め、料理、道具の手入れ、矢造りと、大きな任務がない間にもやるべきことは日常的にある。毎日のように日の出と共に活動を始めていた……その僕は今、眩しい日を見上げても動けないもどかしさの中にいた。
 僕はベッドに横たえられたままじっとしている。ベッドの脇では静かに魔法の施術を行っているジュリがいる。体の下にはもちろん魔法陣が敷かれている。
「調子はどうですか? ヨン」
 術を行いながら、ジュリが聞いてくる。やはり回復魔法というものの効果は目覚ましく、先程まで腹の中に石でも埋まってるかのような異物感と痛みがあったが、それが嘘のように消えていた。
「全く痛くない。もう治ったのか」
 そう言うと、ジュリはぎっと眉を吊り上げて怒りの形相を浮かべた。
「治ってません。痛みがとれているのは魔法の効果が出ているからで、それはいいんですけど。分かってるんですかあなた、腹に穴があいたんですよ? 最初の治療ではほとんど応急的に傷口を塞いだだけです。あんな間に合わせの術だけで元通りになんかなるはずないんですから、そこから無茶して歩き回るなんて……ああいえ、とにかく治療の方針としてはできるだけ自然に近い状態で安静を保つことで元来の再生能力に……」
 くどくどと説教をし始めたのを、半分ぐらいは聞き流した。ともかく魔法といえど、さすがに瀕死の怪我をしたところをすぐに全快というわけにはいかないらしい。
 それにしても術の直後は痛みも違和感もないというのに、安静にしてろと言われるといまひとつ釈然としない。ただ寝ていることしかできないとは……。
 ふと隣のベッドを見ると、ぐっすりと眠っていた様子のパウルがいつの間にか目を開けて、ぼんやりとした顔で僕達を見ていた。
 まだゆめうつつなのか、ぼうっと目を開けているだけで何かを喋ったり動こうとしたりする様子はない。時々寝相のようにごそごそと、布団を引き寄せて体を丸めている。
 ひと呼吸おいて、僕は横目でジュリを睨んだ。
「それで。君はなぜ持ち場を離れて街に出て……、あそこでガロンと何をしていたんだ?」
 本題を切り出すと、ジュリはぴしと体を竦めて、強張った表情を浮かべた。
 フェリアはというと、宿部屋に戻ってきてからも落ち着かない様子できょろきょろと周りを見回したり、立ったり座ったりもぞもぞと動いている。どう見ても様子がおかしい。
 ジュリは難しそうに眉を寄せながらも、細く息を吐いた。
「どう説明したらいいのか分からないんですけど……。私達が王都にいた頃にフェリアと一緒に過ごしていた、もう一体の魔道人形に会ったんです。その……ガロンという人に連れられていた、あの男の子。名前をウィルと言うんですが」
 そう語ったのを聞いて、僕もその姿を見た――人形の顔を思い出した。ガロンの横にずっと突っ立っていた……、それは戦場の中でも同じように。
 ガロンが率いていた他の人形兵と違って、戦いに参加してはいなかったし、額にも魔法陣がなかったから違うのかとも疑ったが……、やはりあの子どもも魔道人形だったらしい。
 額の魔法陣がむき出しでないこと、そしてフェリアと一緒に過ごしていた、という話を聞くに、他の人形とは異なる存在なのだろう。
 そしてその人形は、ズミ人らしい黒い髪に、トレンティア人らしい青い瞳を持っていた。自分の他にそんな血筋の人間を見たのは初めてだったから余計に驚いてしまったが……。
 聞いた話では、魔道人形も元は生きた人間を土台に作られている。その犠牲になったのが、たまたま同じ境遇の子どもだったということだろうか。……ウィルというらしいその人形の姿を思い出すと、余計に胸が苦しい。
「フェリアにとってウィルは……、同じ親に作られたきょうだいです。彼らは互いに“家族”だと認識していて……、その、それでフェリアはウィルに会いに行きたいと、そうなってるみたいで」
 ジュリアもどこか苦しそうに、ぽつりぽつりと説明を続けた。
 魔道人形に関わる話は聞けば聞くほど、そして目にするほどに……、ただただ気分が悪い。人形が“家族”だって? 
 その歪みきった命のあり方におぞましさを感じるばかりで、僕にはそれ以上の何の感慨も持てない。そんな話を聞いたところで、特段何かを言う気にならなかった。
 僕が黙っていると、しかし突然横から、ぼんやりとした声が上がった。
「……同じ親ってことは、やっぱミョーネか。あいつ、何体人形作ってたんだ」
 パウルの声だった。寝ているようにも見えたが、話は聞いていたらしい。
 パウルが起きていたことに驚いたらしい。ジュリはびくりとしてそちらを振り向いたが、すぐにまた悲しそうな顔で目を伏せる。
「私が知る限りでは……、実働していたのはフェリアとウィルの二体だけ、でしたね」
「そういうお前はどういう立場でそれに関わってたんだ。なんでこんな趣味の悪いものをミョーネは作り続けたんだ……、教えろよ、ジュリ」
 パウルはジュリに質問を続けた。その声には次第に、責めるような棘が混じっていく。
「私は家族ぐるみで王宮で働いていた……ただの女官です。子どもの頃、ミョーネ様から人形の身の回りの世話をする役目を言いつけられました。その時私は六歳です。……何も知らなかったんです。人形と人間の違いも、ミョーネ様がやっていたことの恐ろしさも、何も」
 ジュリの声も苦しげな感情に張り詰めていた。事情はよく分からないが……女官だというジュリは、そのミョーネという女に士官するような立場だったのだろう。そしてその命令によって、魔道人形と関わりを持った……。
 ミョーネというのがどこの誰なのか、僕には関わりのないことだが……よほど、気の狂った女が王都にいたのだな、ということだけは伝わってきた。
 ジュリも同じ調子で、苦しそうに言葉を続ける。
「あの方が何を思っていたのかなんて……、今思えば、ただ正気ではなかった、としか……」
 パウルは少し黙ってから、顔を両手で覆うようにしながら大きなため息をついた。
「……ガロンとかいうやつが人形兵を使ってるのもたまげたが、そこにその“ウィル”が伴ってたってことは……、やっぱズミで流通してる魔道人形はミョーネから広がったと考えるのが自然か。しかも当人が死んだあとも生産されているのは厄介だな……」
 そう呟くパウルに、ジュリは同じ表情のまま、少し口を尖らせた。
「……そういうあなたは……、パウルさんは、そのミョーネ様とはどういう関係だったんですか」
 そう尋ねられて、パウルは顔を両手で覆ったまま、ぴたりと黙った。数秒たっても返事がないのを見て、ジュリは小さなため息をこぼす。
「私はフェリアとの付き合いも十年近くになりますが、実際あなたに会うことになるまでパウルなんて名前を聞いたことはありませんでした。でもフェリアが知っているということは、ミョーネ様がなんらかの形で、フェリアの中にあなたの情報を書き込んだのでしょう?」
 どこか詰問するような様子のジュリの言葉を受けて、パウルはやがてだらりと腕を下ろした。その目はしかめっつらで宿の天井を睨んでいる。
「そんなもん俺が聞きたい。俺はミョーネの何だったんだ」
 開き直ったような口調で言った。呆気にとられた様子で、ジュリは無言になってしまう。パウルはやがてベッドから体を起こした。
「まあ、浅からぬ仲だったのは確かだよ。俺は本気であの女を愛していたさ。……だけど結局あいつは俺を捨てた。……俺は捨てられたんだ。そのあとぽっくり死んだかと思えば、何年も経ってからいきなりこんな人形をけしかけてきやがって、どういうつもりなんだ! なあおいフェリア!」
 じわじわと怒りが湧いてきた様子で、とうとう声を荒げながらベッドから飛び起きた。
「うん?」なんて涼しい声で返事をしながら、フェリアはパウルを振り向く。
 パウルは苛立った足取りでフェリアの元へ歩み寄り、まるでやけくそのような仕草で、片手でばちんとフェリアの額を叩いた。見た目は若い女への、酷い暴力の現場だ。
 すぐにフェリアはその場に倒れ、叩かれた額には魔法陣が吹き出るように現れる。
「うわあ! な、なにしてるんですか!」
 ジュリが悲鳴をあげて、慌てて彼女もそこに歩いた。
「とりあえず、こんな、いつ脱走してもおかしくない状態で放っとくわけにいかんだろう。しばらく触ってなかったが、どうにか行動を補正できるよう改造しなきゃならん。……ったく、こんな意味不明なごちゃごちゃしたコードを書きやがって、暴いてみせなさいってか? 言いたいことがあるなら生きてるうちに直接言えよ、くそが!」
 そう恨み言を言いながらフェリアの魔法陣を弄り始めたようだ。その心中たるや僕には全く想像もつかないが、……まあとにかく、失血で死にそうになっていたのにすっかり元気を取り戻したようで良かった。
 ジュリは戸惑いながらも、苛立った気迫で声を荒げるパウルに気圧されて何もできないでいるようだった。

 そうしているうちに、突然無遠慮に部屋の戸が開いた。
「はーいみなさんおはよ! やっぱりここにいたのね、みんな無事で揃ってるみたいでよかったわ~」
 人の宿部屋を勝手に開けて、そう馬鹿みたいに明るい挨拶を繰り出したのはティファだった。パウルもジュリも、さすがに驚いた様子でそれを振り向いた。
「なんだお前、勝手に入ってくんな!」
 パウルは苛立った勢いのままでティファを怒鳴るが、やはり彼女はものともせずに笑っている。
「ごめんごめん、急ぎだったものだから。戦後の処理とか話し合いとかあるから、ちょっと顔出してほしいんだけどー」
 そう言われたパウルは、倒れたフェリアの上にのしかかるようにしてその魔法陣を弄っている最中である。傍から見れば尋常ではない様だが、ティファは……何かを察しているのか詮索する気もないのか、平然とそれを見ていた。
「ええ? めんどくせえな、おいヨン……」
 パウルがこっちを振り向いた。
「駄目です! ヨンはまだ安静!」
 すかさず横からジュリが声を張り上げた。ええ……、とパウルのげんなりした声が返る。残念ながらジュリの言う通り、腹の穴が修復しきっていない僕は動きたくとも動けない状態にある。
 パウルはすぐに諦めて、だるそうにため息を吐きながら、のそのそと身なりを整え始めた。
「仕方ねえな、行ってくる。……あそうだ、食料とか減ってきてるし、ヨンが動けないならジュリ、お前が早い目に買い物しとけよ。フェリアの起動は停止しておくから、勝手につけるなよ」
 まるで平凡な日常でもあるかのように、パウルはのんきな声色でジュリに言いつけて、やがてティファと共に部屋を出ていった。
 騒がしかったパウルとティファが去り、フェリアも失神したままで、急に部屋には静けさが訪れた。ジュリから、疲れた様子のため息を大きくこぼれる。
 そして何を言うでもなく、パウルが寝ていたベッド、そこに敷かれていた血濡れの魔法陣の布をよけて、そのままベッドの上に崩れるように倒れてしまった。
 ……戦いが始まった昨日の夜からずっと張り詰めていたのだろう。それに魔法による治療を何度もさせられ、フェリアと共に町中を走り……、疲れているのも無理はない。
「いいですか、ヨン。あなたも……ちゃんと寝ててくださいね……動いちゃ駄目ですからね……」
 ベッドの上からそう言いつけてくる声は、既にぐったりとしていた。「ああ」と僕は返事をしたが、聞こえたかは分からない。ジュリはすぐに寝息を立て始めた。
 疲れているのは僕も同じなはずだ。何度か回復魔法を受けたせいで変に疲労感が飛んで、まるで快調のような体感だが……まあ、普通に考えれば夜通し戦闘していたのだ、疲れているはずだ。今は言われた通り、大人しく寝ているのが正解だろう。
 差してくる春の日差しは眩しい。目を細めてそれを見て、その光の下で寝息を立てている少女の顔も、なんとなく見た。目の周りには疲れの色が浮かんでいるが、今はもうぐっすりと寝付いているようで、いたって無防備で安らかな寝顔でもあった。
 そんな少女の顔を見ていると、苦さと爽やかさの混ざったような、変な感慨が胸に広がっていく。
 ……まだ分からないことは多い。やらなければいけないこともきっと多い。だけど、ひとまずは……、戦いは終わったのだ、と。

 負傷によってベッドから動けないでいる僕を置いて、町の状況はめまぐるしく動いているようだった。
 その話を、ただひたすらに宿部屋で寝ている僕は、パウルからの報告で聞くことしかできない。
「俺もめんどくさい話には関わってねえからよく分からんが、講和会議をしてるらしいぜ。お互い軍人出すのはやめようっつって、ズミ側はジェス・ドク・ストダルっていう商会の重役……もともとのパーティルで自治会組織の長だったらしい奴で、トレンティア側は町に滞在してた外交官、ロード・レイン・クラネルト様が代表を務めるとかで」
 たまたま、のところを嫌味っぽく強調してパウルはそう教えてくれる。
 戦いから何度かの日の出を迎えた後の夕方、毎日ジュリが僕に治療の魔術を施す、それをいつも通りに受けながら僕はそれを聞いていた。
「両軍の被害は?」
 ベッドの上から聞く。パウルは話しながらも、手元ではフェリアの魔法陣を弄っていた。
「お互いに壊滅状態……と言うのがが近いかねえ。名目上こっちの主将はヒューグだ、ジジイもとうとう悪運つきたし、相手もデニングが死んだから相討ちって見方が強いようだな。シモンの野郎は討ち漏らしちまったし、勝ったとも負けたとも……。講和の場を引き出しただけでも成果といえばそうだが、ま、あとはそこで決まる内容次第かな」
 パウルの口調は軽く、まるで他人事のようだ。……いや、実際他人事だろう。実際の戦いさえ終われば、僕達兵士の出る幕はもう無い。
「それより俺としてはガロンと……そいつが連れてた魔道人形の方が気になる。話を聞きたいんだが、どこへ行ったんだが全く捕まらん。ジジイが死んだせいで他のヒューグ隊の生き残りがどうなってるのかもまだはっきり分からなくてなあ……」
 少しだけ苦そうな声になってパウルはぼやいた。
 確かに隊長を含め、人間も、人形の兵士も多くが死んでしまっただろう。そのまま離散してもおかしくない状況にも思える。
 既にヒューグ隊からは分かれている僕達には、介入できることもあまりないだろう。あったとしてもあまり関わりたくない。
 話してるうちにジュリの施術が終わったらしい。魔法陣から上がっていた光が消えた。
 施術中は寝返りをうつこともできないものだから、体が痛くてしょうがない。術が終わったのを見て、僕はやっと息をついてごろりと布団の上を転がった。
「怪我の具合はどうだ」
 パウルが聞いたのは、僕本人にではなくジュリにである。
「今のところ異常もなく、順調に回復してるみたいですね。まだ跳んだり走ったりは当然だめですけど、ちょっと出歩くぐらいはしてもいいかも」
 ジュリは淡々と言った。その言葉を聞いて思わず気分が浮く。やっとベッドから出られるのか!
「あまりずっと寝てても血の巡りに障害が起きますから。適度な運動はしたほうがいいでしょう……、適度にですよ?」
 ジュリはじっとりとした目で睨んできた。僕は浮かれる気持ちを隠して無表情で見返してやる。
「そんじゃあヨン、適度な運動ついでにひとつ仕事をやろう」
 パウルがそんな声をかけてきた。手元はずっとフェリアを弄っているままで、視線すらこちらには向けていない。
「トレンティアの外交官様から呼び出しを受けててな。まあ俺達の用事はどうせ裏口訪問だが……、内容は報酬金と物資の受け取りだけだ。俺はフェリアの作業を続けていたいから代わりに行ってこい。日が沈んだ後にだ」
 僕は無表情のまま、「分かった」と短く返事をした。その時やっとパウルの目がこちらを見て、何か可笑しそうに、ふっと笑みをこぼす。
 ……やっと外出ができると浮かれていることを、まるで見透かされているようでなんとなく癪に障ったが……、お互いそれ以上は特に何も言わなかった。

 パウルに言いつけられた通りに、日が沈んでから僕は久々に宿屋の外へ出た。次第に冷え込む日も少なくなってきた、春の気配を帯びる外の空気は実に気持ちいい。
 街で起こった激しい戦闘も、その後に続いている貴族たちの駆け引きも、ほとんどの住民にとっては日常からは遠い話だ。不安な空気が立ち込める中でも、人々はそれぞれの生活に勤しんでいる。夜の静かな空気の中、そんな気配が家や路地から微かに漂っていた。
 僕はまたロードの屋敷を裏から訪ねる。そういえば一人で来るのは初めてだった。
 鍵に魔力を流すと、鉄の扉が開くまでにかかる時間は思ったよりも長かった。僕の顔を確かめてから、ロードは中へと手招きする。
 前と変わらない様子の屋敷の中、僕は促されるのを待たずに勝手に長椅子に座る。
 対するロードは柄にもなく、目に見えて疲れきっていた。だらりとした仕草で椅子に座ると、台所の方に声をかけた。
「ティファ、お茶淹れて」
 どうやら今日はティファがいるらしい。ロードの様子はよほど疲れてるようだが、それでも客に茶を出す習慣はきっちり守るらしい。
「見た所相当お疲れのようだ。茶なんてなくても構わない」
 僕が呆れたように言うと、ロードは虚ろな目で首を振った。
「私が飲みたいんです。ついでにあなたも飲んでいってください」
 そう言われれば拒む理由も特にない。仕方なく、僕は黙ってティファが茶を運んでくるのを待った。僕相手では肩肘張る必要もないのだろう、ティファは給仕を終えるなり軽やかな仕草でロードの隣に腰掛けた。
 ロードはぐいと紅茶を飲んで、大きなため息をついた。
「……失礼。こうも立て続けに仕事に追われるとさすがに堪えるものがありましてね。今日はお一人でしたか。レーンさんは?」
 パウルの話を聞くに、ロードはズミとトレンティアの間で交わされている講和とやらの代表者を引き受けているはずだ。その仕事が多忙を極めていることは想像に難くない。
「あいつは別用でいない。僕は受け取りにだけと聞いてきた」
 短く答えながら、僕はまたその紅茶に口をつけた。……さすがにもう、毒の心配はしなくてもいいだろう。
 ミルクや砂糖を入れていない紅茶に甘みはなかったが、その爽やかな香りと品の良い渋みは、そのまま飲んでもそう不愉快なものでもない。こういうものだと思えば慣れてくる味だ。
「ああ、はい。この度は本当に素晴らしい働きをしていただいて、心より感謝しております。お礼と……、あとこちらは、レーンさんから頼まれて仕入れてきたものです。彼にお渡しください」
 そう言ってロードは棚の中に準備していたものを引き出して、机の上に置いた。小綺麗な包に入っているのは金貨だろうものと、小瓶に入った濁った色の液体や粉末がいくつか。纏めて頑丈な鞄に収めてくれている。
 小瓶の方は見た感じ、魔法に使うマナというものだろう。それにしても包まれている金貨の量を見ると、パウルでなくても思わず歓声を上げたくなる。
「確かに。……感謝する」
 僕もそう言って、受け取った鞄の口を閉めた。
「あなたも負傷されたと聞きましたが……、意外にお元気なようでよかったです」
 まだ紅茶は飲みきっていない。淹れたての茶で暖を取りながら、なんとなくロードは話を続けた。僕も社交は得意ではないが、今日は一人で来ているのだし、仕方がなく付き合うことにする。
「まあなんとか。急所は外れたみたいだったから、運が良かった」
 飾った話はできないから、どうしても生々しい話題が出てしまう。ロードはやや困ったように眉を寄せた。
「なんでも、クラウスと交戦したとか。不謹慎ですが、彼と剣を交えて生きて帰っただけで驚きです」
 ロードもいつもほどは笑顔を作ってる様子もない。涼しげな、淡々とした調子で話している。
 彼が言ったクラウスというのは、たぶんあの夜対決した魔剣士のことなのだろう。戦闘のさなかで名乗られた長い名前は、もう忘れたが。
「彼がパーティルの近くまで来ているらしいという話は聞いていたのですが……、あの当日まで、明確な情報は掴めていませんでした。フォス・カディアルの魔剣士はたった一人で戦場を覆す猛者です。レジスタンス側にもああまで甚大な被害を出してしまったのは……、ひとえに彼の参戦を予期できなかった私の失態です。……申し訳ありませんでした」
 ロードはカップを手に持ったまま、目を伏せて重たい声色で言った。そこにどれほどの感情がこもっているのかは分からないが、今更僕が口を出すことはない。
「戦いは終わった。死んだ人間は帰らない。後から何を言っても仕方ないさ」
 無言でいるわけにもいかず、適当に捻った言葉には感情が乗らない。ロードは「ふ」と疲れた様子の笑みを零した。
「手厳しいですね。……せいぜいこれからできることに、最善を尽くすことにします」
 そこで会話が途切れる。僕から話すことは特に無いし、さっさと紅茶を流し込んで切り上げるか、なんて思ったところ、ロードの隣にちょこんと座っていたティファが口を開いた。
「ねえヨン、不躾かもしれないけど聞いていいかしら?」
 僕は思わずむっと眉を寄せてティファを睨んだ。この女からの不躾な質問なんて、嫌な予感しかしない。
 しかし視線の先のティファの顔には、不安のような影が少しだけあるように見えた。
「……フェリア。あの子は一体何なの」
 思わずカップに手を伸ばしていた手を止めた。釣られるようにしてロードの目の色も冷たくなった。
 パウルがいない中でどう答えるべきなのか判断には迷うが……、あの戦闘のさなかや戦後の片付け中に、人形として動くフェリアを目の当たりにする機会がティファにもあっただろう。今更変な嘘で取り繕うのは無理がある。
「……魔道人形。魔法によって動いている、人ならざる……兵器だ」
 僕は率直にそう言った。ティファは息を詰まらせるような素振りを見せて、目を伏せた。初めてその存在を知ったなら、当然楽しい気分にはならないだろう。
「ガダンで会った時、確かに変わった子だなとは思ったけど……。あんなに人間にそっくりで……そんなことがあるのね。ジュリは違うわよね……?」
 怯えるような口調で聞いてくる。僕はできるだけ表情から力を抜いて頷いた。
「あれは人形の世話係、普通の人間だ」
 答えると、ティファは少しだけ安心したように小さな息を吐いた。そんなやりとりを見ていたロードが、静かに口を開く。
「……そんなものをあなた達は一体どこで手に入れたんです?」
 そう怪しむのも当然かもしれない。しかしどこまで話していいものか、と迷う。
「レーンが拾ってきたものだ。僕は詳しい経緯は知らないが」
 この場にいないのをいいことに、とりあえずパウルに話を押し付けておくことにした。ロードは手で自分の顎を触りながら、ふむ、なんて嫌な相槌を打った。
「そのレーンさん……、やはり興味深いですね。単刀直入に聞いてもいいでしょうか? 彼は一体何者なんです」
 そして真っ直ぐ聞いてきた。思わず僕は顔をしかめる。
 たぶん、僕が知ってることを――本名を確かパウル・イグノールと言って、トレンティアでは死刑に値するようなお尋ね者らしい、なんてことを――ここで話すわけにはいかないのだろう、たぶん。そんなことにいちいち気を使うのが面倒で仕方がなかった。
「そんなこと僕も知らん。あいつとはヒューグ隊で出会って、目の色を気に入られて同行しているだけだ。ズミの女に惚れて軍を抜け出した脱走兵なんじゃないのか?」
 そう適当にあしらおうとすると、ロードは可笑しそうに笑みを零した。
「……まあ、トレンティア人でありながらズミの部隊で戦っているんですから、語るに尽きない紆余曲折はあったことでしょうね。それにしても興味深い」
 ロードは楽しそうにさえなって微笑んだ。おもむろに、机の脇によけていた資材の中から丸めた紙を手に取り、それをひらりと広げてみせた。
 釣られて視線をやると、パーティルの市街地の地図に、何やら図形やトレンティアの文字が細かく書き記されている。
「彼が調べてくれた市街地の魔法陣の情報です。正直、本当に驚きました。ただ隠し陣を見つけるというだけでなく、ここまで細かい術式を外部からの干渉だけで読解できるなんて並の芸当ではありません。軍の魔道指南を受けただけでは到底無い……、専門的な機関で学術経験を積んでいるのでしょう」
 そう語る声には興奮の色が見てとれる。僕は黙ってその地図を睨んでいた。……そんなことを言われても、魔法の知識の少ない僕にその凄さは分からない。
「トレンティア人の中でも……ここまで専門的な魔道に携われるとすれば、彼は間違いなく貴族階級の出身でしょう……あまり、そのような態度には見えませんが。貴族の身に生まれながら軍を脱走してズミで傭兵をやっているなんて、こんなに面白い人はなかなかいませんよ」
 その言葉を聞いて、僕は眉を寄せてパウルの顔を思い浮かべた。……貴族? あれが?
 同じことを思ったのだろう、ティファが楽しそうに目を丸めて感嘆の声を上げている。
「そんな凄い人だったの? ああそういえばロスロさんから聞いたけど、彼、魔法の知識ならトレンティア人の中でも誰にも負けない、なんて自信満々に胸張ってたらしいじゃない。もしかして大袈裟じゃないのかしら」
 そういえば開戦前の顔合わせの時にそんなことを言っていた気がするな、と思い出した。楽しそうな興奮を見せるロードとティファを前に、僕は白けてさえいた。
「あれだけの魔道の知識、戦闘力、純血のトレンティア人でありながら国への反逆も厭わない肝の太さ……、本当に得難い逸材です。できることなら私の腹心の私兵として生涯雇い入れたいのですけどね」
 本気なのか冗談なのか、ロードは上機嫌な様子でそんな軽口を言う。呆れた顔で眺めていると、紅茶のカップから少しだけ唇を離して笑った。
「……今の仲間と離れる気はないと、ふられてしまいましたよ」
 どうやら本気だったらしい。ロードがそんな話をパウルにしていたとは初耳だし、さすがに僕も少し驚いた。……仲間と離れる気がないからと断ったというのは、本当かどうか分からないが。
「ふふ、彼ってすごく仲間思いなのね。わたしと二人でいても、ずっとヨンくんの心配してたわよ」
 ティファが楽しそうな笑顔のまま言う。何気なく、僕もロードも彼女の方を見る。なにか、紅茶で温められていた空気が、急に凍っていくような感じがした。
「……ティファ。あなたレーンと寝たんですか?」
 無表情になったロードがぽつりと聞いた。思わず僕は紅茶を喉に引っかからせてむせこんだ。ティファは目を丸くしてすっとぼけている。
「え? それはまあ、企業秘密ってやつかも」
 彼女はレジスタンスの密偵であるが、もう一つの職業は娼婦である。
 ……パウルとティファが? 思わず僕はその様を想像してしまって、うっと呻き声を上げた。ロードも額を片手で押さえて、やれやれとでも言いたげに顔を俯けていた。
「……すっかり長話をしてしまったな。夜も遅いし、今日はここで失礼する」
 初めて社交的な枕詞を盛り込んで、僕はそう言った。

 宿に帰ると、机に突っ伏したまま寝息をたてているジュリと、意識を奪われたまま壁に寄せられているフェリアと、ベッドの上で酒を呷っているパウルの姿があった。
 その姿を見ると、さきほど聞いた話を思い出してティファとのあれこれを想像してしまい、思わず目を逸らした。
 パウルは酒を飲みながらぼんやりとこちらを見た。
「ん、戻ったか。変わったことはなかったか?」
 何気もなく聞いてくる。僕はとりあえず当初の任務で受け取った鞄を突き出す。なんとなく返事はしなかった。
 パウルは鞄を受け取って中を検める。やはり金貨袋を見ると喜んだらしく、ひゅうと口笛を吹いてみせた。
「で、これが注文してたマナか。まあレーヴァーが精製した新鮮な奴よりは劣るだろうが……、ま、仕方ないな。なんせお前の治療に全部使っちまったからなあ……」
 小瓶を弄りながらそんなことをぼやく。「はあ」なんて気の抜けた返事はしておいた。
「まあとりあえず今日は寝よう。俺は床でいいからお前はまだベッドで寝てろ。……ってか金が手に入ったんだし、明日部屋借り直すか……」
 そうぶつぶつと独り言を言いながらパウルはベッドから立ち上がる。そして机の上で寝落ちてしまったジュリの体を、躊躇いがちにもそっと抱きかかえてベッドへと移してやっていた。
 いつもはフェリアの仕事だが、今は人形が動いていない。少女の体を抱きかかえるパウルの姿を見て、なんとも言い難い気分の悪さを覚えた。
 僕は装備を外して寝支度を整えながら、床の上に寝具を広げるパウルの背中を見つめた。
「お前さ……」
 ぽつりと声をかける。余計なことを言わない方が良いような気もしたが、つい口をつくように尋ねてみようという気になってしまった。
 パウルは、ん、と短く相槌を打って眠たそうな顔で振り向いた。
「ティファと寝たのか?」
 単刀直入に聞くと、パウルはすぐに呆れたような表情を浮かべた。
「はあ? ロードのとこでそんな話してきたのか? 口の軽い女だな」
 その口ぶりからするに、本当のことだったらしい。僕は浮かべる表情も分からず、ただパウルを凝視していた。
「別にあの女と個人的にどうこうなったわけじゃねえよ。女買いに行ったらそこにいたから、誰でもよかったし抱いただけだ」
 あっけらかんとした調子で言う。……やっぱり余計なこと聞くんじゃなかった、なんて後悔をした。
「買いに行ったのか……」
 僕はパウルに視線も向けず、げんなりとした声で言った。
 仲間が退屈に耐えながら療養に徹している間に一体何をしているんだ……。そんなことを思ったが、パウルは全く悪びれもしない。
「長いことやってなかったからな。お前も体が治ったらたまには毒抜いとけよ。町でこんなにのんびりできる日もいつまで続くか分からねえんだから」
 僕は返事もせずに布団の中に潜り込んだ。しかしパウルは酒に酔っているせいもあるのか、蝋燭の火を消した後もぶつぶつと喋っていた。
「そいえば童貞だって言ってたな。まったく、酒も飲まない女もやらないってお前、坊主にでもなるつもりか?」
「うるさいな……」
 思わず文句の声を上げた。女はともかく、酒を飲まないのにはそれなりの理由がある。
 ……故郷の村にいたころ、養父が断酒をしていたためだ。酒は体に毒だ、飲んでもいいことなんてひとつもない、なんてよく零しているのを聞いていた。
 実際のところはどうなのか知らないが、幼い身には酒というものがひどい猛毒であるかのように聞こえて、その習慣がなんとなく続いて、今も飲む気にならない。
「父の教えなんでね」
 僕はそう言った。厳しく言いつけられていたわけではないけど、それを守ることが、離れ離れになった養父との繋がりであるかのような、そんな感じがして。
「父……?」
 火が消えて暗闇になったところから、パウルの変な声が聞こえてきた。孤児じゃなかったのか、とでも言いたいのだろうか。
「育ての親だよ」
 そう付け加えると、返事は返ってこなかった。しばらくの沈黙の中、会話は終わったと思って眠りかけていたところに、ぽつりとパウルは言った。
「それは……立派な父親に育てられたんだな……」
 それはいつもの憎たらしい皮肉だっただろうか。顔は見えないからいまいち分からないが、気にもせずそのまま僕は眠りに入った。
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