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第61話 引きこもりVER2 ― 甘美なるざまあライフ
引きこもりVER2 ― 甘美なるざまあライフ
王城の外では、またしても「王子の浮気疑惑」が取り沙汰されていた。
だが――そんなもの、ローゼにとってはもうどうでもよかった。
彼女はいま、自室に結界を張ったスキル《マイルーム》の中で、ふかふかのベッドに寝転がり、ホイップクリームたっぷりのショートケーキを頬張っていた。
「ん~~~~っ♡ おいしいぃぃ!」
舌の上でとろける苺の酸味。
口いっぱいに広がる甘さ。
あの冷たい牢の中、涙を流して震えていた頃を思い返すと、まるで夢のようだ。
ローゼはごろんと寝返りを打ち、机の上に積み上げた漫画の山を眺めた。
乙女向け恋愛漫画から冒険ファンタジー、果てはグルメ漫画まで――すべて、この部屋の再現とともに召喚されたものだ。
「はぁぁぁ……現実なんて忘れて、のんびり引きこもるのが一番よね」
甘いケーキと漫画。
そして、アニメ。
ローゼはリモコンを手に取り、DVDプレイヤーを起動させる。
「今日からは、名作アニメの一気見よ! まずは――《あしながおじいさん》!」
画面に映し出されたのは、前世で夢中になった少女と“謎の後援者”との心温まる物語。
全48話。丸ごと一気見だ。
「うふふふ……これを全部見終わったら、次は《二人のルイーゼ》よ!」
その笑顔は、断罪を受けた公爵令嬢のものではなかった。
完全に“趣味に生きるオタク女子”そのもの。
外の世界では、侍女たちが必死に呼びかけている。
「ローゼ様、お食事の時間です!」
「ローゼ様、エリオット殿下が――!」
けれどローゼの耳には届かない。
スキル《引きこもり》の結界が、外の雑音を完全に遮断しているからだ。
「ふふっ。あの浮気男のことなんて忘れて、今はただのんびりするのよ」
ケーキの皿が空になると、ローゼは思い出したようにウィンドウを呼び出した。
【スキルレベル:11】
【機能:《君に宅急便で毎日お届け:プレゼント機能》】
「……そうそう、これよね」
ローゼは興味津々で詳細を確認する。
――理不尽をされた相手に、日替わりで“お返し”を送ることが可能。
「選べるのは……脂肪、請求書、年齢、ね」
スクロールした瞬間、彼女は思わず目を丸くした。
「……ちょ、ちょっと! 年齢プレゼントって何よ!」
説明にはこうある。
『理不尽をされた相手に、相応の“加齢”をプレゼントできます。その分、自分は若返ります。』
「な、なにこれ……! 若返るって……めちゃくちゃ素敵じゃない!」
ローゼは思わず鏡を覗き込み、頬を両手で押さえた。
「このままエリシアが一気に老け込んだらどうなるかしら。想像するだけで笑えるわ」
だが今は試す気はない。
なにせ――ケーキを食べすぎて、すでにお腹まわりが怪しかったからだ。
「とりあえず選ぶのは、脂肪ね!」
ウィンドウのボタンをタップ。
次の瞬間、彼女の腰回りについていた“もちもち”がすうっと消えていく。
代わりに光の粒が飛び、どこかへと消えた。
ローゼは慌ててお腹を触った。
「ぺったんこ……! すごい、ほんとに消えたわ!」
歓喜の声をあげ、ベッドで飛び跳ねる。
「やったぁぁぁぁぁぁっ!!!」
まるで魔法のダイエット。
これでもう、ケーキをいくらでも食べられる。
「ふふふ……聖女エリシア、突然太り始めて悲鳴を上げてるんじゃないかしら。ざまあみろ!」
ローゼはにやりと笑い、ふたたびアニメ鑑賞に戻った。
スクリーンには、純粋な少女が困難に立ち向かう姿。
涙を誘う感動シーンに、彼女も思わずハンカチを握る。
「やっぱり名作は心に効くわぁ……。現実がどうしようと、これさえあれば大丈夫」
甘い物、漫画、アニメ、そして理不尽への“お返し”。
ローゼの新しい引きこもり生活は、最高に楽しく、心地よいものだった。
そして彼女は――外の混乱をまるで知らない。
聖女エリシアが、急激に太り始め、侍女たちが悲鳴を上げていることも。
王子エリオットが、婚約者を慰めようと訪れても、結界に阻まれて近づけないことも。
すべては、ローゼの甘美なる《引きこもり》の中で、どうでもいい些細な出来事に過ぎなかった。
「よし! 次は《二人のルイーゼ》を視聴開始よ!」
そう宣言すると、ローゼはケーキの二皿目を取り出し、アニメの世界に没頭するのだった――。
王城の外では、またしても「王子の浮気疑惑」が取り沙汰されていた。
だが――そんなもの、ローゼにとってはもうどうでもよかった。
彼女はいま、自室に結界を張ったスキル《マイルーム》の中で、ふかふかのベッドに寝転がり、ホイップクリームたっぷりのショートケーキを頬張っていた。
「ん~~~~っ♡ おいしいぃぃ!」
舌の上でとろける苺の酸味。
口いっぱいに広がる甘さ。
あの冷たい牢の中、涙を流して震えていた頃を思い返すと、まるで夢のようだ。
ローゼはごろんと寝返りを打ち、机の上に積み上げた漫画の山を眺めた。
乙女向け恋愛漫画から冒険ファンタジー、果てはグルメ漫画まで――すべて、この部屋の再現とともに召喚されたものだ。
「はぁぁぁ……現実なんて忘れて、のんびり引きこもるのが一番よね」
甘いケーキと漫画。
そして、アニメ。
ローゼはリモコンを手に取り、DVDプレイヤーを起動させる。
「今日からは、名作アニメの一気見よ! まずは――《あしながおじいさん》!」
画面に映し出されたのは、前世で夢中になった少女と“謎の後援者”との心温まる物語。
全48話。丸ごと一気見だ。
「うふふふ……これを全部見終わったら、次は《二人のルイーゼ》よ!」
その笑顔は、断罪を受けた公爵令嬢のものではなかった。
完全に“趣味に生きるオタク女子”そのもの。
外の世界では、侍女たちが必死に呼びかけている。
「ローゼ様、お食事の時間です!」
「ローゼ様、エリオット殿下が――!」
けれどローゼの耳には届かない。
スキル《引きこもり》の結界が、外の雑音を完全に遮断しているからだ。
「ふふっ。あの浮気男のことなんて忘れて、今はただのんびりするのよ」
ケーキの皿が空になると、ローゼは思い出したようにウィンドウを呼び出した。
【スキルレベル:11】
【機能:《君に宅急便で毎日お届け:プレゼント機能》】
「……そうそう、これよね」
ローゼは興味津々で詳細を確認する。
――理不尽をされた相手に、日替わりで“お返し”を送ることが可能。
「選べるのは……脂肪、請求書、年齢、ね」
スクロールした瞬間、彼女は思わず目を丸くした。
「……ちょ、ちょっと! 年齢プレゼントって何よ!」
説明にはこうある。
『理不尽をされた相手に、相応の“加齢”をプレゼントできます。その分、自分は若返ります。』
「な、なにこれ……! 若返るって……めちゃくちゃ素敵じゃない!」
ローゼは思わず鏡を覗き込み、頬を両手で押さえた。
「このままエリシアが一気に老け込んだらどうなるかしら。想像するだけで笑えるわ」
だが今は試す気はない。
なにせ――ケーキを食べすぎて、すでにお腹まわりが怪しかったからだ。
「とりあえず選ぶのは、脂肪ね!」
ウィンドウのボタンをタップ。
次の瞬間、彼女の腰回りについていた“もちもち”がすうっと消えていく。
代わりに光の粒が飛び、どこかへと消えた。
ローゼは慌ててお腹を触った。
「ぺったんこ……! すごい、ほんとに消えたわ!」
歓喜の声をあげ、ベッドで飛び跳ねる。
「やったぁぁぁぁぁぁっ!!!」
まるで魔法のダイエット。
これでもう、ケーキをいくらでも食べられる。
「ふふふ……聖女エリシア、突然太り始めて悲鳴を上げてるんじゃないかしら。ざまあみろ!」
ローゼはにやりと笑い、ふたたびアニメ鑑賞に戻った。
スクリーンには、純粋な少女が困難に立ち向かう姿。
涙を誘う感動シーンに、彼女も思わずハンカチを握る。
「やっぱり名作は心に効くわぁ……。現実がどうしようと、これさえあれば大丈夫」
甘い物、漫画、アニメ、そして理不尽への“お返し”。
ローゼの新しい引きこもり生活は、最高に楽しく、心地よいものだった。
そして彼女は――外の混乱をまるで知らない。
聖女エリシアが、急激に太り始め、侍女たちが悲鳴を上げていることも。
王子エリオットが、婚約者を慰めようと訪れても、結界に阻まれて近づけないことも。
すべては、ローゼの甘美なる《引きこもり》の中で、どうでもいい些細な出来事に過ぎなかった。
「よし! 次は《二人のルイーゼ》を視聴開始よ!」
そう宣言すると、ローゼはケーキの二皿目を取り出し、アニメの世界に没頭するのだった――。
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