婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス

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第62話 聖女エリシアの受難 ― 突然の肥満地獄

 聖女エリシアの受難 ― 突然の肥満地獄

 王城の回廊を歩きながら、私はひとり小さく笑みを浮かべた。
 昨夜、殿下とご一緒した光景を――しっかりローゼに見せつけてやったのだ。

「これで、あの子も諦めるでしょうね」

 密会現場を“偶然”目撃させる。
 その効果は絶大だ。
 ローゼは泣き崩れ、殿下も気まずそうにしていた。
 でもそれでいい。
 殿下は私に慰められ、次第に私の存在を“特別なもの”と認めてくださるはず。

 胸を張り、にこにこと歩く。
 私は聖女。
 国にとっても必要な存在。
 そして――未来の王妃にふさわしいのは、間違いなく私。

「ふふふ……これで、私の勝ちね」

 その夜は嬉しさのあまり、鏡の前で何度もくるくると回ってみた。
 ドレスの裾が舞い、輝く自分が映し出される。
 やっぱり私は美しい。
 殿下も、きっとそう思ってくださる。

 そう確信しながら眠りについた。

 ――翌朝。

「……え?」

 鏡の前に立った私は、思わず絶句した。
 お腹が……ぷにっとしている。

 昨夜まで、きゅっと締まっていたウエストライン。
 けれど今は、どう見ても数センチ膨らんでいるのだ。

「ちょ、ちょっと……寝すぎただけよね? むくんでるだけ……」

 自分に言い聞かせながら、侍女にコルセットを締めてもらう。
 だが――。

「……エリシア様。きつくて……締まりません」

「……え?」

 侍女の手は震えていた。
 私は青ざめる。
 コルセットが、これまでの穴に届かない。
 新しい穴を開けなければならないほど、ウエストが太ってしまっていたのだ。

「そ、そんなはずないわ! 昨日まで、ぴったりだったのに!」

 鏡を睨みつけ、両手でお腹を押さえる。
 ぷにっ。
 信じられない感触が返ってくる。

「いやぁぁぁぁぁっ!!!」

 その悲鳴は城中に響き渡った。

 数日後。

「……おかしい。絶対におかしい」

 私は必死にダイエットを始めていた。
 食事制限。運動。聖女の加護による体力増強を活かしたランニングまで。

 けれど――。

「……はぁ、はぁっ……なのに……なぜ……!」

 汗だくになって鏡を見る。
 だが、そこに映るのはますます膨らんだ自分の姿だった。
 腕はふっくら。頬はまん丸。
 ウエストは、もうドレスの新しい仕立てでも追いつかないほど。

「どうしてよぉぉぉぉっ!!!」

 涙を流しながら叫んだ。
 努力が報われない。
 むしろ、日に日に太っていく。

 殿下の隣に並ぶ夢は――日に日に遠ざかるばかりだった。

 侍女たちも困惑していた。

「エリシア様、なぜかお召し物が……」
「また新しく誂えなければ……」
「その……お顔が……以前より……」

 ささやく声が耳に刺さる。
 “聖女は美しい”――それが常識だった。
 なのに私は、日に日に崩れていく。

「いやぁぁぁぁ! 見ないでっ!!!」

 鏡を叩き割った。
 だが映る現実は変わらない。

 それどころか、侍女の噂話まで聞こえてくる。

「どうして急にあんなに太ったのかしら……」
「まるで誰かに呪われているみたい……」

 呪い。
 その言葉に、私はぞくりと震えた。

 ――ローゼ。

 彼女は引きこもり、姿を見せなくなった。
 けれど、もしや彼女が……?

「まさか……そんな……」

 だが否定しようとしても、日に日に増えていく体重が答えを突きつけてくる。

 あの子が……何かをしている。
 私を陥れるために。

「ローゼ……!」

 歯ぎしりをした。
 許さない。絶対に許さない。

 でも、どうすればいいの?
 努力しても痩せられない。
 このままでは――殿下の隣に立つ夢が、完全に潰えてしまう。

 膝を抱え、私は震えた。

「いやぁぁぁぁ……どうして私が……!」

 王城の一室で、かつて“勝ち誇っていた聖女”は、ただ肥満の恐怖に怯える哀れな娘へと変わり果てていた。

 その頃、ローゼがベッドでケーキを頬張りながら、アニメを見ながら楽しそうに笑っているとは――エリシアは夢にも思わなかった。
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