プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!

山田 バルス

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第7話 ベアトリス、お祭りに行く

学院生活二日目。


 ベアトリス=ローデリアは朝から気合いが入っていた。理由はただ一つ――レベル上げの準備を整えるためである。

 とはいえ、彼女の目的は学院の講義でも、貴族の社交でもない。
 目指すは街で開催されている〈春の祝祭〉と呼ばれる季節イベント。王都全体が浮かれた空気に包まれ、露店が並び、学生たちにも特別に外出許可が下りる一大イベントだ。

「シャルル様とデートですか?」
 学院の同級生たちが、いつものように微笑みを浮かべながら声をかけてくる。

 が、ベアトリスはその度に愛想笑いでかわしていた。実際、彼女とシャルル=フォンティーヌの関係は、外聞上の婚約者というだけで、実質的には空気のような存在である。三年前、シャルルが学院に入学してからというもの、手紙はおろかまともな挨拶すらない。彼は王女殿下にべったりで、生徒会でも一緒。関心を向けられることは一度としてなかった。

「ま、いいわ。いまさら期待するだけ時間の無駄」

 そんな男をあてにするより、まずは自分のレベル上げ――そのための装備とアイテム調達が最優先だ。何しろこの世界はゲームと酷似しているのだ。ベアトリスには確信があった。ここはかつて自分がプレイした乙女ゲーム――RPG要素強めの学園育成型恋愛シミュレーション、通称『王冠のラビリンス』の世界そのものなのだと。

「じゃあ、行こうか。運命を変えるお祭りへ!」

 学院の門を抜け、王都の中心部へと向かう。白亜の塔を背にし、ベアトリスは祝祭の喧騒のなかへと足を踏み入れた。

 

 王都の大通りは、屋台と露店であふれかえっていた。香ばしい焼き菓子の香り、魔法使いの芸で湧き上がる歓声、そして恋人同士で連れ立って歩く学生たちの甘い空気――すべてが春らしい賑わいだった。

 そんな中、ベアトリスは一人、足早に歩く。

 目当てはただ一つ。初期イベント限定で手に入る伝説の(?)お笑いアイテム――「会心の万年筆(クリティカルペン)」である。

 見た目はただの黒い万年筆。しかし、5回に1回の確率で会心の一撃が出るというユニーク効果を持っていた。問題はその威力だ。会心が出てもたったの20ポイントしかダメージを与えられない。万年筆であるがゆえの低威力。

 「普通に考えたら、使い道ゼロ。でも……」

 ベアトリスは思い出す。あの攻略スレで議論されていたレアな情報――この万年筆、終盤のある条件下では最強の経験値稼ぎアイテムとなる。敵に致命傷を与えず、かつ連続攻撃が可能なため、育成効率が跳ね上がるという。

「これさえあれば、エンド後のカンスト育成が爆速ってわけ」

 とはいえ、イベントアイテムのため、販売している露店は限られている。マップで言えば中央広場を起点にして、東の区画のはず。

「確かこの辺りだったはず……」

 しばらく歩き続けると、視界に奇妙な光景が飛び込んできた。
 魔女のような帽子を被り、フードを目深にかぶったエルフが、何やら胡散臭そうな露店を開いている。

 「いらっしゃい。あんた、いい目してるわね」

 その声に、ベアトリスはピンと来た。そう、ここだ。正解の店。

 商品棚を見渡せば、あった。黒い軸に銀色の装飾がついた、見覚えのある万年筆。それを手に取り、そっと微笑む。

 「これ、ください」

 「通だね。これの価値、わかってるのかい?」

 「もちろん。最高の経験値アイテムでしょう?」

 「ふふっ、アンタみたいな子、久しぶりだよ」

 やり取りを終えて、ベアトリスは袋に入った万年筆を大事そうに抱えて歩き出す。

「さて、あとは……身代わりのペンダント、があれば完璧なんだけど」

 このペンダントも、ゲーム中では一部のボス戦や危険な罠部屋で非常に有用なアイテムだった。ダメージを一度だけ肩代わりしてくれるという優れものだ。

 露店を次々にのぞき込み、魔法雑貨、アクセサリー、骨董品を売る商人を渡り歩くが、該当する商品は見当たらない。

「やっぱり……これは中盤イベントまで出ないのかしら」

 少し落胆しながらも、万年筆が手に入っただけでも上々。
 あとは学院に戻って、ダンジョンの続きに備えるだけだ。

「ふふ、楽しみになってきたわね。さて、次は……どこから潰していこうかしら、“ラスボスのフラグ”」

 

 その時、祝祭の音楽が一段と高く響き、空に花火が打ち上がった。
 空に浮かんだ光の華を見上げながら、ベアトリスはひとりごちる。

「この世界を、私の手で“再攻略”してみせるわ」

 誰にも頼らず、誰にも縛られず。
 ――乙女ゲームのモブ令嬢などではなく、真の“プレイヤー”として。

 ベアトリス=ローデリアの物語は、ここから始まる。
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