冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!

山田 バルス

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閑話5 アリータ編 ポーツマス学院に到着する。

 ポーツマス学院にて

 春の終わり、柔らかな陽射しに街路樹の若葉が揺れる季節だった。
 けれど私の心は、花の香りや鳥の声に和らぐことはなかった。
 長い船旅を経てようやくダイエー王国に辿り着いたものの、そこから王都までの道のりは思った以上に遠く、疲労と焦燥で心はすり減っていた。

――リースお嬢様に、早く会わなければ。

 その一心で馬車に揺られ、幾つもの町や村を越え、やっとのことでポーツマス学院の門に立った。
 春の終わりを告げる風が制服姿の生徒たちの裾を揺らし、学院の庭には色とりどりの花々が咲き誇っている。
 けれど、その明るい景色は私の胸に深い影を落とした。
 門番に名を告げ、面会を求めたとき、返ってきた答えは信じがたいものだった。

「リース=グラスゴー嬢は、もうここにはおりません」

 頭が真っ白になった。
 学院を追放された――そう告げられたとき、耳の奥で轟音が鳴り響いたかのように、すべての言葉が遠のいた。
 リースお嬢様が、公爵家の娘である彼女が、なぜ?

 必死に理由を尋ねると、淡々とした声で告げられた。
「グラスゴー公爵家は処刑により取り潰され、後ろ盾を失った令嬢は学院に在籍する資格を失ったのです」
 あまりに冷たい説明だった。

 足元が崩れ落ちるような感覚に襲われ、私はその場で立ち尽くした。
 ここまで来たのに、やっとたどり着いたのに。
 私の役目はどうなるのか。
 お嬢様は今どこで、どんな思いでいるのか。
 涙が滲みそうになるのを必死で堪えた、その時だった。

「あなた、もしかして……アリータさん?」

 振り返ると、一人の少女が立っていた。
 淡い茶色の髪をリボンで束ねた快活そうな少女――彼女は自らをメアリーと名乗った。
 リースお嬢様の友人であり、学院で親しくしていたという。
 メアリーは心配そうに私を見つめ、静かに告げた。

「リースなら……今は学院にはいないけれど、無事よ。騎士団の寮で働いているの」

「……騎士団の寮?」

 思いがけない言葉に、私は息を呑んだ。
 貴族令嬢として扱われてきたお嬢様が、下働きとして寮で暮らしているなんて。
 想像すらできなかった。
 けれど、彼女が生きている。
 それだけで胸の奥にかすかな光が差し込むようだった。

メアリーは私に地図を描き、行き方を丁寧に教えてくれた。
 別れ際、真剣な表情で言った。
「どうかリースを支えてあげて。彼女は今、すごく大変だから」

 私は深く頷いた。
 影武者として生きてきた私に与えられた最後の使命――
 それはお嬢様のもとに辿り着き、彼女を支えることなのだと強く感じた。

 夕暮れが迫る王都の石畳を踏みしめながら、私は騎士団の寮へと歩を進めた。
 胸は高鳴り、不安と期待が交錯する。
 再び会うお嬢様は、どんな姿で私を迎えてくれるのだろうか。
 暖かな春の風に背を押されるようにして、私は騎士団の門を目指した。
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