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第35話 リノ、命を狙われる!
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『旅立ちの旋律 ―灯火の誓い―』
王都に異変が起きたのは、雨が降った夜のことだった。
リノはその日、音楽隊の小さなホールで歌の練習をしていた。マリーナは留守で、隊員たちも散っていたため、建物の中にはリノひとり。
(……変だな)
ずっと胸に引っかかるものがあった。午後から空の様子がおかしく、街では妙に兵士たちの数が増えていた。
ドン――!
そのとき、遠くから何かが爆ぜるような音がした。
「……え?」
振り向いた瞬間、扉が乱暴に開かれ、見知らぬ男たちがなだれ込んできた。顔を隠し、刃物を手にしている。
「この中に“歌姫”がいるんだろうが。どこだ!」
(まさか……わたしを、狙って……!?)
心臓が跳ねた。
言葉も出ないまま、リノは思わず楽屋の奥へ走った。扉を閉め、鍵をかける。その手が震えていた。
(どうしよう、どうして……!)
息を潜めていたときだった。
――「リノ、そこにいるか!?」
聞き慣れた声。
「レオ……!」
外で誰かともみ合う音がして、次の瞬間、鍵が外から開かれた。立っていたのは、濡れたマントを羽織ったレオニス。剣を携え、目は鋭く、けれどどこか安堵の色を浮かべていた。
「間に合ってよかった……!」
彼はすぐさまリノの腕を取った。
「ここは危険だ。外へ出る」
「でも、音楽隊の皆が――」
「もう知らせた。兵が向かってる。今は君の安全が最優先だ」
そう言って、レオニスはリノを抱き寄せるようにしながら建物の裏口へと向かう。
雨の中、ふたりは王都の裏路地を駆け抜けた。
**
やがて、ひと気のない路地裏で足を止めた。
「はあ、はあ……」
リノは肩で息をしながら、ようやく問いかける。
「レオ……いったい、何が起きてるの?」
「まだ確証はないけど……王都の内部に、反王家の勢力が動いてる。ターゲットは“君”だったんだ」
「わたし……?」
「君の歌が、王都中で噂になってる。中には、“民の心を動かす魔術だ”なんて言う者もいる。たぶん、それを利用しようとしたか、あるいは……封じたかった」
「そんな……ただの歌なのに……!」
リノの瞳に、怒りと戸惑いが宿る。
「君の歌は“ただの”じゃない。誰かの心を変える力がある。……だから、守らなきゃいけない」
そう言って、レオニスは剣を抜いた。
だがそのとき、再び足音が聞こえた。黒ずくめの集団が、狭い路地を囲むようにして現れる。
「逃げられると思ったか。王子殿下に、歌姫のお嬢さん」
「……やっぱり、お前ら王宮の動きまで把握して……!」
レオニスはリノをかばい、前に出た。
「リノ、後ろに。絶対に近づけさせない」
「でも……!」
「君が歌うべき場所は、こんな暗がりじゃない。君の声は、希望なんだ」
その言葉に、リノは息を呑んだ。
覚悟を決めたように、目を見開く。
「だったら……わたし、逃げない。歌う。あなたの背中を守るために」
その瞬間、リノはそっと口を開いた。
♪――闇を裂いて 光を運ぶ
心の奥で 灯るものがある――♪
透明な声が、雨音に混じって響いた。
それはまるで、空に射す一筋の朝の光のようだった。
動きを止めた敵たちに向け、レオニスは一気に踏み込む。
剣が閃き、風が切られる。
(この歌は――戦うためじゃない。守るための、祈り)
リノは歌い続けた。声が、レオニスに勇気を与えていると信じて。
やがて、遠くから騎馬の音。援軍が駆けつけてきたのだ。
黒ずくめの集団は押され、散り散りに逃げていく。
勝負は、ついた。
**
「終わった……の?」
ふたりは、肩で息をしながら互いに見つめ合った。
雨は止みかけていた。空の隙間から、月がのぞいている。
「助かったのは……リノが歌ってくれたおかげだ」
レオニスは、そっと微笑んだ。
「君の声は、武器なんかじゃない。光だ。君のその想いが、僕を動かした」
「……ううん、わたしも、あなたがいたから歌えたんだよ」
手を伸ばす。そっと指が触れ合う。
ふたりはただ、静かにその夜を見つめていた。
風の音。雨の匂い。過ぎ去った恐怖と、残る鼓動。
**
ふたりはまだ、未来がどうなるかを知らない。
けれど確かに、この夜を共に越えた。
試練を越えて、繋がった心は――もう、簡単にはほどけない。
闇を超えたその先に、新しい旋律が待っている。
それはきっと、ふたりだけの歌。
そして、ふたりで奏でる物語の始まりだった。
王都に異変が起きたのは、雨が降った夜のことだった。
リノはその日、音楽隊の小さなホールで歌の練習をしていた。マリーナは留守で、隊員たちも散っていたため、建物の中にはリノひとり。
(……変だな)
ずっと胸に引っかかるものがあった。午後から空の様子がおかしく、街では妙に兵士たちの数が増えていた。
ドン――!
そのとき、遠くから何かが爆ぜるような音がした。
「……え?」
振り向いた瞬間、扉が乱暴に開かれ、見知らぬ男たちがなだれ込んできた。顔を隠し、刃物を手にしている。
「この中に“歌姫”がいるんだろうが。どこだ!」
(まさか……わたしを、狙って……!?)
心臓が跳ねた。
言葉も出ないまま、リノは思わず楽屋の奥へ走った。扉を閉め、鍵をかける。その手が震えていた。
(どうしよう、どうして……!)
息を潜めていたときだった。
――「リノ、そこにいるか!?」
聞き慣れた声。
「レオ……!」
外で誰かともみ合う音がして、次の瞬間、鍵が外から開かれた。立っていたのは、濡れたマントを羽織ったレオニス。剣を携え、目は鋭く、けれどどこか安堵の色を浮かべていた。
「間に合ってよかった……!」
彼はすぐさまリノの腕を取った。
「ここは危険だ。外へ出る」
「でも、音楽隊の皆が――」
「もう知らせた。兵が向かってる。今は君の安全が最優先だ」
そう言って、レオニスはリノを抱き寄せるようにしながら建物の裏口へと向かう。
雨の中、ふたりは王都の裏路地を駆け抜けた。
**
やがて、ひと気のない路地裏で足を止めた。
「はあ、はあ……」
リノは肩で息をしながら、ようやく問いかける。
「レオ……いったい、何が起きてるの?」
「まだ確証はないけど……王都の内部に、反王家の勢力が動いてる。ターゲットは“君”だったんだ」
「わたし……?」
「君の歌が、王都中で噂になってる。中には、“民の心を動かす魔術だ”なんて言う者もいる。たぶん、それを利用しようとしたか、あるいは……封じたかった」
「そんな……ただの歌なのに……!」
リノの瞳に、怒りと戸惑いが宿る。
「君の歌は“ただの”じゃない。誰かの心を変える力がある。……だから、守らなきゃいけない」
そう言って、レオニスは剣を抜いた。
だがそのとき、再び足音が聞こえた。黒ずくめの集団が、狭い路地を囲むようにして現れる。
「逃げられると思ったか。王子殿下に、歌姫のお嬢さん」
「……やっぱり、お前ら王宮の動きまで把握して……!」
レオニスはリノをかばい、前に出た。
「リノ、後ろに。絶対に近づけさせない」
「でも……!」
「君が歌うべき場所は、こんな暗がりじゃない。君の声は、希望なんだ」
その言葉に、リノは息を呑んだ。
覚悟を決めたように、目を見開く。
「だったら……わたし、逃げない。歌う。あなたの背中を守るために」
その瞬間、リノはそっと口を開いた。
♪――闇を裂いて 光を運ぶ
心の奥で 灯るものがある――♪
透明な声が、雨音に混じって響いた。
それはまるで、空に射す一筋の朝の光のようだった。
動きを止めた敵たちに向け、レオニスは一気に踏み込む。
剣が閃き、風が切られる。
(この歌は――戦うためじゃない。守るための、祈り)
リノは歌い続けた。声が、レオニスに勇気を与えていると信じて。
やがて、遠くから騎馬の音。援軍が駆けつけてきたのだ。
黒ずくめの集団は押され、散り散りに逃げていく。
勝負は、ついた。
**
「終わった……の?」
ふたりは、肩で息をしながら互いに見つめ合った。
雨は止みかけていた。空の隙間から、月がのぞいている。
「助かったのは……リノが歌ってくれたおかげだ」
レオニスは、そっと微笑んだ。
「君の声は、武器なんかじゃない。光だ。君のその想いが、僕を動かした」
「……ううん、わたしも、あなたがいたから歌えたんだよ」
手を伸ばす。そっと指が触れ合う。
ふたりはただ、静かにその夜を見つめていた。
風の音。雨の匂い。過ぎ去った恐怖と、残る鼓動。
**
ふたりはまだ、未来がどうなるかを知らない。
けれど確かに、この夜を共に越えた。
試練を越えて、繋がった心は――もう、簡単にはほどけない。
闇を超えたその先に、新しい旋律が待っている。
それはきっと、ふたりだけの歌。
そして、ふたりで奏でる物語の始まりだった。
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