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第23話 メアリー視点 わたしのことも見て欲しい
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メアリー視点 片想い
……私、メアリー=シエーロは、男爵家の三女として生まれた。
爵位としては取るに足りない家柄。
けれど、だからこそ与えられたものもある。
努力する自由。
そして、評価される覚悟。
スペイラ学院では、必死に勉学に励んだ。
成績だけは、誰にも文句を言わせないつもりだった。
そんな私を見ていたのが、当時の生徒会。
中でも、次代を担う皇女……フィーダ様だったと、後から聞いた。
「妹のために、優秀な侍女が必要になる」
そう考え、候補を何人も挙げていた。
ペネロペは、「ですわ」の使い方がおかしい娘に育ってしまい、
その分、それを手助けできる優秀な侍女が必要だ。
そして、最後の選考は……
妹君、ペネロペ様との面談だった。
「この方が、いいですわ」
そう言われたときのことは、今でも覚えている。
理由は、特別なものではなかった。
「真面目そうで、優しい目をしている、ですわ」
それだけ。
それだけだったのに、私の人生は大きく変わった。
◇
ペネロペ様の侍女となって、しばらくした頃。
彼女には専属の護衛が付いた。
オサスナ=ビジャレナル。
短い青髪に、感情の起伏がほとんど見えない顔。
無口で、融通が利かず、そして……
誰よりも、ペネロペ様を見ていた。
視線が、常に彼女を追っている。
危険がないか、距離は適切か、誰が近づいているか。
それは職務だと、頭では分かっていた。
分かっていたはずなのに。
「……また、ですか」
思わず、冷たい声が出てしまう。
パワーストーン店。
今日も店内は、穏やかな賑わいを見せている。
「いらっしゃいませ、ですわ」
ペネロペ様が、銀髪を揺らしながら微笑む。
その一挙一動に、客の視線が集まるのも無理はない。
……だからこそ。
「近い」
オサスナが、低く言った。
「もう半歩、下がれ」
「……分かっています」
私は会計台の奥で、伝票を整えながら答える。
「ですが、今は接客中です」
「関係ない」
「……」
彼は、ペネロペ様のことしか見ていない。
それが、胸に刺さる。
分かっている。
彼の忠誠は、揺るぎない。
それでも……
「少しは、周囲も見てください」
つい、言ってしまった。
オサスナは、わずかに眉を寄せる。
「……何だ?」
「いえ」
私は視線を落とした。
「何でもありません」
冷たい。
そう、自覚はある。
でも、止められなかった。
◇
昼下がり。
一瞬の油断を突いて、軽薄な男がペネロペ様に近づいた。
手を伸ばそうとした、その瞬間。
剣が、喉元に突きつけられた。
「その汚い手を、放せ」
オサスナの声には、一切の迷いがなかった。
——やりすぎだ。
そう思ったのに。
男が逃げ去ったあと、私は言った。
「……護衛が、切り捨て御免を連発しては困ります」
「だが——」
「だが、ではありません」
強い口調になったのは、嫉妬だ。
分かっている。
分かっているから、余計に苦しい。
彼は、私を見ない。
いつも、ペネロペ様だけを見ている。
◇
夕方。
店が落ち着いた頃、品出しをしながら、ふと気づく。
オサスナが、店の入口に立ったまま、動かない。
「……何をしているのですか」
「警戒だ」
「店内は安全です」
「それでもだ」
即答。
「ペネロペ様が、ここにいる」
それだけで、理由は十分なのだ。
私は、胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた。
「……忠誠心が高いのですね」
「当然だ」
少し、間が空く。
彼が、珍しく私を見る。
「お前も、同じだろう」
「え?」
「ペネロペ様の侍女で、命を張ってる」
淡々とした言葉。
だが、それは――
認められた、ということだろうか。
「……当然です」
私は、そう答えるしかなかった。
◇
夜。
工房併設のダイニングで、皆で食事を囲む。
「ペネロペ様は今日も可愛い」
オサスナが真顔で言う。
「だからといって、斬るのはダメです」
私は即座に返す。
「だが――」
「だが、ではありません」
言い慣れたやり取り。
エマ様が、苦笑する。
「……仲良しですね」
「別に」
「仲良くありません」
声が、重なる。
その瞬間、オサスナがこちらを見る。
ほんの一瞬。
本当に、一瞬だけ。
でも……
胸が、跳ねた。
◇
夜更け。
食後の片付けを終え、廊下で一人になる。
「……はぁ」
小さく、息を吐く。
私は、オサスナが好きだ。
ペネロペ様を、必死に守る、その姿が。
不器用なほど真っ直ぐな、その在り方が。
けれど。
彼の視線の先に、私はいない。
それでも、いい。
今は……
同じ場所で、同じ人を守っていられるなら。
私は、今日も少しだけ冷たい顔をして。
そして、少しだけ期待してしまう。
……彼が、いつか。
私を見る日が来るのではないかと。
それが、叶わないと知りながらも。
パワーストーン店の夜は、静かに更けていった。
……私、メアリー=シエーロは、男爵家の三女として生まれた。
爵位としては取るに足りない家柄。
けれど、だからこそ与えられたものもある。
努力する自由。
そして、評価される覚悟。
スペイラ学院では、必死に勉学に励んだ。
成績だけは、誰にも文句を言わせないつもりだった。
そんな私を見ていたのが、当時の生徒会。
中でも、次代を担う皇女……フィーダ様だったと、後から聞いた。
「妹のために、優秀な侍女が必要になる」
そう考え、候補を何人も挙げていた。
ペネロペは、「ですわ」の使い方がおかしい娘に育ってしまい、
その分、それを手助けできる優秀な侍女が必要だ。
そして、最後の選考は……
妹君、ペネロペ様との面談だった。
「この方が、いいですわ」
そう言われたときのことは、今でも覚えている。
理由は、特別なものではなかった。
「真面目そうで、優しい目をしている、ですわ」
それだけ。
それだけだったのに、私の人生は大きく変わった。
◇
ペネロペ様の侍女となって、しばらくした頃。
彼女には専属の護衛が付いた。
オサスナ=ビジャレナル。
短い青髪に、感情の起伏がほとんど見えない顔。
無口で、融通が利かず、そして……
誰よりも、ペネロペ様を見ていた。
視線が、常に彼女を追っている。
危険がないか、距離は適切か、誰が近づいているか。
それは職務だと、頭では分かっていた。
分かっていたはずなのに。
「……また、ですか」
思わず、冷たい声が出てしまう。
パワーストーン店。
今日も店内は、穏やかな賑わいを見せている。
「いらっしゃいませ、ですわ」
ペネロペ様が、銀髪を揺らしながら微笑む。
その一挙一動に、客の視線が集まるのも無理はない。
……だからこそ。
「近い」
オサスナが、低く言った。
「もう半歩、下がれ」
「……分かっています」
私は会計台の奥で、伝票を整えながら答える。
「ですが、今は接客中です」
「関係ない」
「……」
彼は、ペネロペ様のことしか見ていない。
それが、胸に刺さる。
分かっている。
彼の忠誠は、揺るぎない。
それでも……
「少しは、周囲も見てください」
つい、言ってしまった。
オサスナは、わずかに眉を寄せる。
「……何だ?」
「いえ」
私は視線を落とした。
「何でもありません」
冷たい。
そう、自覚はある。
でも、止められなかった。
◇
昼下がり。
一瞬の油断を突いて、軽薄な男がペネロペ様に近づいた。
手を伸ばそうとした、その瞬間。
剣が、喉元に突きつけられた。
「その汚い手を、放せ」
オサスナの声には、一切の迷いがなかった。
——やりすぎだ。
そう思ったのに。
男が逃げ去ったあと、私は言った。
「……護衛が、切り捨て御免を連発しては困ります」
「だが——」
「だが、ではありません」
強い口調になったのは、嫉妬だ。
分かっている。
分かっているから、余計に苦しい。
彼は、私を見ない。
いつも、ペネロペ様だけを見ている。
◇
夕方。
店が落ち着いた頃、品出しをしながら、ふと気づく。
オサスナが、店の入口に立ったまま、動かない。
「……何をしているのですか」
「警戒だ」
「店内は安全です」
「それでもだ」
即答。
「ペネロペ様が、ここにいる」
それだけで、理由は十分なのだ。
私は、胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた。
「……忠誠心が高いのですね」
「当然だ」
少し、間が空く。
彼が、珍しく私を見る。
「お前も、同じだろう」
「え?」
「ペネロペ様の侍女で、命を張ってる」
淡々とした言葉。
だが、それは――
認められた、ということだろうか。
「……当然です」
私は、そう答えるしかなかった。
◇
夜。
工房併設のダイニングで、皆で食事を囲む。
「ペネロペ様は今日も可愛い」
オサスナが真顔で言う。
「だからといって、斬るのはダメです」
私は即座に返す。
「だが――」
「だが、ではありません」
言い慣れたやり取り。
エマ様が、苦笑する。
「……仲良しですね」
「別に」
「仲良くありません」
声が、重なる。
その瞬間、オサスナがこちらを見る。
ほんの一瞬。
本当に、一瞬だけ。
でも……
胸が、跳ねた。
◇
夜更け。
食後の片付けを終え、廊下で一人になる。
「……はぁ」
小さく、息を吐く。
私は、オサスナが好きだ。
ペネロペ様を、必死に守る、その姿が。
不器用なほど真っ直ぐな、その在り方が。
けれど。
彼の視線の先に、私はいない。
それでも、いい。
今は……
同じ場所で、同じ人を守っていられるなら。
私は、今日も少しだけ冷たい顔をして。
そして、少しだけ期待してしまう。
……彼が、いつか。
私を見る日が来るのではないかと。
それが、叶わないと知りながらも。
パワーストーン店の夜は、静かに更けていった。
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