結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス

文字の大きさ
29 / 53

第24話 オサスナ視点 メアリーは、怖い。

しおりを挟む
 オサスナ視点――メアリーは、怖い。


 メアリーは、怖い。
 オサスナ=ビジャレナルは、そう結論付けている。

 理由は、明確だ。

 声を荒げるわけでもない。
 剣を抜くわけでもない。
 怒鳴るわけでも、睨みつけるわけでもない。

 それなのに。

 彼女が一言、静かに言うだけで、
 なぜか自分の背筋が、無意識に伸びる。

「護衛が切り捨て御免を連発しては、いけません」

 低く、落ち着いた声。
 だが、そこには一切の妥協がない。

 ……怖い。

 ◇

 俺は護衛だ。

 仕事は単純明快。
 ペネロペ様を守る。
 危険を排除する。
 それだけだ。

 感情は不要。
 判断は迅速に。
 迷いは、死に繋がる。

 だから……

 ペネロペ様に近づく不審者がいれば、斬る。
 迷う理由はない。

 それが当然だと思っていた。

 だが。

「……やりすぎです」

 エマ様が止めに入った後。

「……護衛が切り捨て御免を連発しては、いけません」

 メアリーが諭すように言った。

 剣を納めた俺を、まっすぐ見て。

 責めるでもなく。
 怒るでもなく。

 ただ、姉が弟に言い聞かせるように。

 まるで姉と話している時のように……怖い。

 ◇

 メアリーは、よく見ている。

 店内の人の流れ。
 客の足取り。
 会計の速度。
 在庫の残数。

 すべてを、淡々と処理している。

 だが、それだけではない。

 俺の立ち位置。
 視線の向き。
 剣に手をかける癖。

 気づけば、全て把握されている。

「そこですと、入口が死角になります」

 ある日、そう言われた。

「……問題ない」

「問題があります」

 即答だった。

「ペネロペ様がこちらへ動かれた際、半拍遅れます」

 ……正しい。

 正しいからこそ、怖い。

 ◇

 なぜ、そんなに分かる。

 なぜ、そこまで見ている。

 彼女は剣を振らない。
 護衛でもない。

 それなのに。

 俺よりも、ペネロペ様の安全を把握している。

 俺よりもペネロペ様を理解しているところが、怖い。

 ◇

 そして、もう一つ。

 俺が一番、理解できないこと。

 メアリーは……
 なぜか俺に、冷たい。

「……何か?」

 そう聞くと、

「いいえ」

 即座に視線をそらす。

 声は平静。
 表情も崩れない。

 だが。

 空気だけが、少し冷える。

 理由が、分からない。

 俺は、何かしただろうか。

 職務は果たしている。
 無礼も働いていない。

 なのに。

 彼女の態度が……怖い。

 ◇

 ある日の夕方。

 店が落ち着いた頃、入口警戒に立っていた俺に、メアリーが近づいてきた。

「……少し、よろしいですか」

「何だ」

「視線が、偏っています」

「?」

「ペネロペ様ばかり見ています」

 当然だ。
 護衛対象なのだから。

 そう言おうとして……
 なぜか、言葉に詰まった。

「……それが、仕事だ」

「承知しています」

 即答。

「ですが、周囲も見てください」

 その言葉に、なぜか胸がざわついた。

 怒られているわけではない。
 命令でもない。

 ただ、忠告。

 それなのに。

 なぜか? 彼女の表情が……怖い。

 ◇

 夜。

 食堂での会話。

「ペネロペ様は今日も可愛い」

 思ったことを、そのまま言っただけだ。

 すると、

「だからといって、斬るのはダメです」

 メアリーが言う。

「だが――」

「だが、ではありません」

 被せるように、ぴしり。

 その瞬間、周囲の空気が止まった。

 ……怖い。

 だが。

 なぜか、このやりとりが嫌ではなかった。

 ◇

 分からない。

 敵意を向けられているわけではない。
 軽蔑されているわけでもない。

 むしろ……

 認められている、気がする。

 それが、余計に怖い。

 ◇

 俺は、田舎の子爵家次男で、魔物と戦いながら育った。

 敵意も殺気も、分かる。
 剣を向けられれば、即座に対応できる。

 だが。

 メアリーは、剣を持たない。

 言葉で、空気で、正論で……
 逃げ道を塞いでくる。

 それが、怖い。

 ◇

 夜警の時間。

 廊下で、すれ違う。

「……お疲れさまです」

 メアリーが言った。

「……ああ」

 短く返す。

 一瞬、視線が合う。

 すぐに、逸らされる。

 ……なぜ、だ。

 なぜ、その一瞬が、
 こんなにも気になる。

 ◇

 結論は、出ている。

 メアリーは、怖い。

 だが。

 なぜこんなにも、怖いと思ってしまうのだろう。
 怖いと思う中でも、彼女に嫌われてしまうことが、
 一番、怖いと感じてしまう。

 だから俺は今日も、嫌われないように、
 少し距離を取りながら行動する。
 そして、なぜか? 自然と目が彼女を追っている。

 ……この「怖さ」の正体を、
 まだ、理解できないまま。

 パワーストーン店の夜は、
 今日も静かに、警戒の中で更けていく。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

余命3ヶ月と言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!?  今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!

黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。 そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

処理中です...