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第24話 オサスナ視点 メアリーは、怖い。
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オサスナ視点――メアリーは、怖い。
メアリーは、怖い。
オサスナ=ビジャレナルは、そう結論付けている。
理由は、明確だ。
声を荒げるわけでもない。
剣を抜くわけでもない。
怒鳴るわけでも、睨みつけるわけでもない。
それなのに。
彼女が一言、静かに言うだけで、
なぜか自分の背筋が、無意識に伸びる。
「護衛が切り捨て御免を連発しては、いけません」
低く、落ち着いた声。
だが、そこには一切の妥協がない。
……怖い。
◇
俺は護衛だ。
仕事は単純明快。
ペネロペ様を守る。
危険を排除する。
それだけだ。
感情は不要。
判断は迅速に。
迷いは、死に繋がる。
だから……
ペネロペ様に近づく不審者がいれば、斬る。
迷う理由はない。
それが当然だと思っていた。
だが。
「……やりすぎです」
エマ様が止めに入った後。
「……護衛が切り捨て御免を連発しては、いけません」
メアリーが諭すように言った。
剣を納めた俺を、まっすぐ見て。
責めるでもなく。
怒るでもなく。
ただ、姉が弟に言い聞かせるように。
まるで姉と話している時のように……怖い。
◇
メアリーは、よく見ている。
店内の人の流れ。
客の足取り。
会計の速度。
在庫の残数。
すべてを、淡々と処理している。
だが、それだけではない。
俺の立ち位置。
視線の向き。
剣に手をかける癖。
気づけば、全て把握されている。
「そこですと、入口が死角になります」
ある日、そう言われた。
「……問題ない」
「問題があります」
即答だった。
「ペネロペ様がこちらへ動かれた際、半拍遅れます」
……正しい。
正しいからこそ、怖い。
◇
なぜ、そんなに分かる。
なぜ、そこまで見ている。
彼女は剣を振らない。
護衛でもない。
それなのに。
俺よりも、ペネロペ様の安全を把握している。
俺よりもペネロペ様を理解しているところが、怖い。
◇
そして、もう一つ。
俺が一番、理解できないこと。
メアリーは……
なぜか俺に、冷たい。
「……何か?」
そう聞くと、
「いいえ」
即座に視線をそらす。
声は平静。
表情も崩れない。
だが。
空気だけが、少し冷える。
理由が、分からない。
俺は、何かしただろうか。
職務は果たしている。
無礼も働いていない。
なのに。
彼女の態度が……怖い。
◇
ある日の夕方。
店が落ち着いた頃、入口警戒に立っていた俺に、メアリーが近づいてきた。
「……少し、よろしいですか」
「何だ」
「視線が、偏っています」
「?」
「ペネロペ様ばかり見ています」
当然だ。
護衛対象なのだから。
そう言おうとして……
なぜか、言葉に詰まった。
「……それが、仕事だ」
「承知しています」
即答。
「ですが、周囲も見てください」
その言葉に、なぜか胸がざわついた。
怒られているわけではない。
命令でもない。
ただ、忠告。
それなのに。
なぜか? 彼女の表情が……怖い。
◇
夜。
食堂での会話。
「ペネロペ様は今日も可愛い」
思ったことを、そのまま言っただけだ。
すると、
「だからといって、斬るのはダメです」
メアリーが言う。
「だが――」
「だが、ではありません」
被せるように、ぴしり。
その瞬間、周囲の空気が止まった。
……怖い。
だが。
なぜか、このやりとりが嫌ではなかった。
◇
分からない。
敵意を向けられているわけではない。
軽蔑されているわけでもない。
むしろ……
認められている、気がする。
それが、余計に怖い。
◇
俺は、田舎の子爵家次男で、魔物と戦いながら育った。
敵意も殺気も、分かる。
剣を向けられれば、即座に対応できる。
だが。
メアリーは、剣を持たない。
言葉で、空気で、正論で……
逃げ道を塞いでくる。
それが、怖い。
◇
夜警の時間。
廊下で、すれ違う。
「……お疲れさまです」
メアリーが言った。
「……ああ」
短く返す。
一瞬、視線が合う。
すぐに、逸らされる。
……なぜ、だ。
なぜ、その一瞬が、
こんなにも気になる。
◇
結論は、出ている。
メアリーは、怖い。
だが。
なぜこんなにも、怖いと思ってしまうのだろう。
怖いと思う中でも、彼女に嫌われてしまうことが、
一番、怖いと感じてしまう。
だから俺は今日も、嫌われないように、
少し距離を取りながら行動する。
そして、なぜか? 自然と目が彼女を追っている。
……この「怖さ」の正体を、
まだ、理解できないまま。
パワーストーン店の夜は、
今日も静かに、警戒の中で更けていく。
メアリーは、怖い。
オサスナ=ビジャレナルは、そう結論付けている。
理由は、明確だ。
声を荒げるわけでもない。
剣を抜くわけでもない。
怒鳴るわけでも、睨みつけるわけでもない。
それなのに。
彼女が一言、静かに言うだけで、
なぜか自分の背筋が、無意識に伸びる。
「護衛が切り捨て御免を連発しては、いけません」
低く、落ち着いた声。
だが、そこには一切の妥協がない。
……怖い。
◇
俺は護衛だ。
仕事は単純明快。
ペネロペ様を守る。
危険を排除する。
それだけだ。
感情は不要。
判断は迅速に。
迷いは、死に繋がる。
だから……
ペネロペ様に近づく不審者がいれば、斬る。
迷う理由はない。
それが当然だと思っていた。
だが。
「……やりすぎです」
エマ様が止めに入った後。
「……護衛が切り捨て御免を連発しては、いけません」
メアリーが諭すように言った。
剣を納めた俺を、まっすぐ見て。
責めるでもなく。
怒るでもなく。
ただ、姉が弟に言い聞かせるように。
まるで姉と話している時のように……怖い。
◇
メアリーは、よく見ている。
店内の人の流れ。
客の足取り。
会計の速度。
在庫の残数。
すべてを、淡々と処理している。
だが、それだけではない。
俺の立ち位置。
視線の向き。
剣に手をかける癖。
気づけば、全て把握されている。
「そこですと、入口が死角になります」
ある日、そう言われた。
「……問題ない」
「問題があります」
即答だった。
「ペネロペ様がこちらへ動かれた際、半拍遅れます」
……正しい。
正しいからこそ、怖い。
◇
なぜ、そんなに分かる。
なぜ、そこまで見ている。
彼女は剣を振らない。
護衛でもない。
それなのに。
俺よりも、ペネロペ様の安全を把握している。
俺よりもペネロペ様を理解しているところが、怖い。
◇
そして、もう一つ。
俺が一番、理解できないこと。
メアリーは……
なぜか俺に、冷たい。
「……何か?」
そう聞くと、
「いいえ」
即座に視線をそらす。
声は平静。
表情も崩れない。
だが。
空気だけが、少し冷える。
理由が、分からない。
俺は、何かしただろうか。
職務は果たしている。
無礼も働いていない。
なのに。
彼女の態度が……怖い。
◇
ある日の夕方。
店が落ち着いた頃、入口警戒に立っていた俺に、メアリーが近づいてきた。
「……少し、よろしいですか」
「何だ」
「視線が、偏っています」
「?」
「ペネロペ様ばかり見ています」
当然だ。
護衛対象なのだから。
そう言おうとして……
なぜか、言葉に詰まった。
「……それが、仕事だ」
「承知しています」
即答。
「ですが、周囲も見てください」
その言葉に、なぜか胸がざわついた。
怒られているわけではない。
命令でもない。
ただ、忠告。
それなのに。
なぜか? 彼女の表情が……怖い。
◇
夜。
食堂での会話。
「ペネロペ様は今日も可愛い」
思ったことを、そのまま言っただけだ。
すると、
「だからといって、斬るのはダメです」
メアリーが言う。
「だが――」
「だが、ではありません」
被せるように、ぴしり。
その瞬間、周囲の空気が止まった。
……怖い。
だが。
なぜか、このやりとりが嫌ではなかった。
◇
分からない。
敵意を向けられているわけではない。
軽蔑されているわけでもない。
むしろ……
認められている、気がする。
それが、余計に怖い。
◇
俺は、田舎の子爵家次男で、魔物と戦いながら育った。
敵意も殺気も、分かる。
剣を向けられれば、即座に対応できる。
だが。
メアリーは、剣を持たない。
言葉で、空気で、正論で……
逃げ道を塞いでくる。
それが、怖い。
◇
夜警の時間。
廊下で、すれ違う。
「……お疲れさまです」
メアリーが言った。
「……ああ」
短く返す。
一瞬、視線が合う。
すぐに、逸らされる。
……なぜ、だ。
なぜ、その一瞬が、
こんなにも気になる。
◇
結論は、出ている。
メアリーは、怖い。
だが。
なぜこんなにも、怖いと思ってしまうのだろう。
怖いと思う中でも、彼女に嫌われてしまうことが、
一番、怖いと感じてしまう。
だから俺は今日も、嫌われないように、
少し距離を取りながら行動する。
そして、なぜか? 自然と目が彼女を追っている。
……この「怖さ」の正体を、
まだ、理解できないまま。
パワーストーン店の夜は、
今日も静かに、警戒の中で更けていく。
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