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閑話6 ジュリエットの断罪 ペネロペ皇女婚約破棄の原因となった令嬢の末路
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金髪の男爵令嬢ジュリエット=トラップ
わたし、ジュリエット=トラップは、フランセ学院に入学した日のことを、生涯忘れないと思う。
王都の石畳に立ち並ぶ学院の尖塔。
貴族の子女たちが、色鮮やかな制服に身を包み、期待と緊張を胸に門をくぐっていく。
男爵家の娘である自分が、この場所に立っている。
それだけで、胸がいっぱいだった。
「……わたし、頑張らなくちゃ」
そう呟いた直後だった。
「君、書類を落としているよ」
振り返った先にいたのが、フェリップ=フランセ様だった。
第二王子。
王国で知らぬ者はいない尊きお方。
端正な顔立ちと、少し物憂げな笑み。
その尊き方の右手に、自分の入学書類があった。
「あ、ありがとうございます……!」
その瞬間、二人は恋に落ちたのだと思う。
それは劇的なものではなく、
ただ、静かに胸の奥が温かくなる感覚だった。
入学後、ジュリエットは必死だった。
授業も、作法も、礼儀も、人一倍努力した。
その努力が報われ、生徒会に入れたのかもしれない。
王族と身分が近い者たちが将来、国を運営するための練習用の組織。
大きな領地と縁のない自分のような身分の者が入れるとは思っていなかったが、
フェリップ様の推薦で席を得ることができた。
「君は、努力家で真面目なのがいい」
それだけの言葉が、どれほど嬉しかったか。
生徒会室での仕事。
書類整理、行事準備、雑務。
フェリップ様は、いつも忙しそうだった。
皆の前では、完璧な姿を見せていたが、
わたしの前では時折、愚痴をこぼし、いらだち、弱音を吐いたりした。
「ジュリエットといる時が、一番休まる。君は癒しだ」
わたしを必要としてくれているのが、すごく伝わった。
「皇女との婚約なんてしたくない、ただの政略でしかない」
ぽつりと漏らされた本音。
「俺は……心から笑える相手と一緒になりたい」
その言葉を、ジュリエットは信じてしまった。
いつしか、周囲も囁き始める。
「側室候補らしいわよ」
「第二王子のお気に入りですって」
それは、夢のような日々だった。
家に戻って話すと、父トラップ男爵は目を丸くし、やがて破顔した。
「ははは! さすがは我が娘だ!」
「王子妃……いや、側妃でも十分だ!」
母ペリーナも、手を叩いて喜んだ。
「まあまあ、ジュリエットったら!」
「いい? 王族に嫁ぐなら、覚悟が必要よ」
その“覚悟”が、何を意味するのか。
当時のジュリエットは、何も分かっていなかった。
――舞踏会の日。
金色のドレスに身を包み、フェリップの腕にすがった瞬間。
世界が、祝福してくれている気がした。
そして――
彼が、皇女ペネロペとの婚約破棄を宣言した。
その場で、すべてが終わったことに、ジュリエットは気づけなかった。
「これで、わたしたちは……」
甘い期待。
未来への幻想。
だが、それは一夜で砕け散る。
二週間後。
王城から使者が来た。
フォンク=ションネール。
王家の名を背負う、冷たい目をした役人。
「第二王子フェリップ=フランセ殿下は、国王陛下の逆鱗に触れ、現在謹慎中です」
その言葉で、胸が凍りついた。
「そ、そんな……」
「フェリップ様は……」
「そして――」
フォンクは、淡々と続ける。
「スペイラ帝国より、正式な抗議と婚約破棄に伴う慰謝料の請求が届いております」
「金額は――」
紙に書かれた数字を見た瞬間、父が顔面蒼白になった。
「……払えるはずがない」
「当然ですな」
フォンクは、表情一つ変えない。
「よって、トラップ男爵家は、これをもって取り潰しとなります」
「ま、待ってください!」
母が叫ぶ。
「娘は、王子に愛されて――」
「愛?」
フォンクは、冷たく鼻で笑った。
「王国と帝国で決めた約束を簡単に破るような者の言葉など、何の価値も力もありません」
衛兵が、部屋に踏み込んできた。
「拘束しろ」
「いや……! やめて!」
腕を捕まれ、ジュリエットは叫ぶ。
「こんなことして、フェリップ様が黙っていないわ!
必ず助けてくれるはずよ!」
フォンクは、静かに告げた。
「殿下は、すでに外部との接触を禁じられております。
あなた方を救う手段は、存在しません」
その言葉で、すべてを悟った。
――来ない。
助けは、来ない。
「……どうして……」
床に膝をつき、母が泣き崩れる。
父は、力なく肩を落とした。
「わたしが……間違えたの?」
答える者はいない。
数日後。
トラップ男爵家は、奴隷商人に引き渡された。
檻の中。
鎖の音。
かつて夢見た未来は、影も形もない。
「……真実の愛、だったのに……」
呟きは、誰にも届かなかった。
こうして、
金髪の男爵令嬢ジュリエット=トラップの物語は、
静かに、無残に、幕を閉じようとしていた。
わたし、ジュリエット=トラップは、フランセ学院に入学した日のことを、生涯忘れないと思う。
王都の石畳に立ち並ぶ学院の尖塔。
貴族の子女たちが、色鮮やかな制服に身を包み、期待と緊張を胸に門をくぐっていく。
男爵家の娘である自分が、この場所に立っている。
それだけで、胸がいっぱいだった。
「……わたし、頑張らなくちゃ」
そう呟いた直後だった。
「君、書類を落としているよ」
振り返った先にいたのが、フェリップ=フランセ様だった。
第二王子。
王国で知らぬ者はいない尊きお方。
端正な顔立ちと、少し物憂げな笑み。
その尊き方の右手に、自分の入学書類があった。
「あ、ありがとうございます……!」
その瞬間、二人は恋に落ちたのだと思う。
それは劇的なものではなく、
ただ、静かに胸の奥が温かくなる感覚だった。
入学後、ジュリエットは必死だった。
授業も、作法も、礼儀も、人一倍努力した。
その努力が報われ、生徒会に入れたのかもしれない。
王族と身分が近い者たちが将来、国を運営するための練習用の組織。
大きな領地と縁のない自分のような身分の者が入れるとは思っていなかったが、
フェリップ様の推薦で席を得ることができた。
「君は、努力家で真面目なのがいい」
それだけの言葉が、どれほど嬉しかったか。
生徒会室での仕事。
書類整理、行事準備、雑務。
フェリップ様は、いつも忙しそうだった。
皆の前では、完璧な姿を見せていたが、
わたしの前では時折、愚痴をこぼし、いらだち、弱音を吐いたりした。
「ジュリエットといる時が、一番休まる。君は癒しだ」
わたしを必要としてくれているのが、すごく伝わった。
「皇女との婚約なんてしたくない、ただの政略でしかない」
ぽつりと漏らされた本音。
「俺は……心から笑える相手と一緒になりたい」
その言葉を、ジュリエットは信じてしまった。
いつしか、周囲も囁き始める。
「側室候補らしいわよ」
「第二王子のお気に入りですって」
それは、夢のような日々だった。
家に戻って話すと、父トラップ男爵は目を丸くし、やがて破顔した。
「ははは! さすがは我が娘だ!」
「王子妃……いや、側妃でも十分だ!」
母ペリーナも、手を叩いて喜んだ。
「まあまあ、ジュリエットったら!」
「いい? 王族に嫁ぐなら、覚悟が必要よ」
その“覚悟”が、何を意味するのか。
当時のジュリエットは、何も分かっていなかった。
――舞踏会の日。
金色のドレスに身を包み、フェリップの腕にすがった瞬間。
世界が、祝福してくれている気がした。
そして――
彼が、皇女ペネロペとの婚約破棄を宣言した。
その場で、すべてが終わったことに、ジュリエットは気づけなかった。
「これで、わたしたちは……」
甘い期待。
未来への幻想。
だが、それは一夜で砕け散る。
二週間後。
王城から使者が来た。
フォンク=ションネール。
王家の名を背負う、冷たい目をした役人。
「第二王子フェリップ=フランセ殿下は、国王陛下の逆鱗に触れ、現在謹慎中です」
その言葉で、胸が凍りついた。
「そ、そんな……」
「フェリップ様は……」
「そして――」
フォンクは、淡々と続ける。
「スペイラ帝国より、正式な抗議と婚約破棄に伴う慰謝料の請求が届いております」
「金額は――」
紙に書かれた数字を見た瞬間、父が顔面蒼白になった。
「……払えるはずがない」
「当然ですな」
フォンクは、表情一つ変えない。
「よって、トラップ男爵家は、これをもって取り潰しとなります」
「ま、待ってください!」
母が叫ぶ。
「娘は、王子に愛されて――」
「愛?」
フォンクは、冷たく鼻で笑った。
「王国と帝国で決めた約束を簡単に破るような者の言葉など、何の価値も力もありません」
衛兵が、部屋に踏み込んできた。
「拘束しろ」
「いや……! やめて!」
腕を捕まれ、ジュリエットは叫ぶ。
「こんなことして、フェリップ様が黙っていないわ!
必ず助けてくれるはずよ!」
フォンクは、静かに告げた。
「殿下は、すでに外部との接触を禁じられております。
あなた方を救う手段は、存在しません」
その言葉で、すべてを悟った。
――来ない。
助けは、来ない。
「……どうして……」
床に膝をつき、母が泣き崩れる。
父は、力なく肩を落とした。
「わたしが……間違えたの?」
答える者はいない。
数日後。
トラップ男爵家は、奴隷商人に引き渡された。
檻の中。
鎖の音。
かつて夢見た未来は、影も形もない。
「……真実の愛、だったのに……」
呟きは、誰にも届かなかった。
こうして、
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