婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第28話 外遊から戻ってきた国王、激怒する! ……ふざけるな、シャルル

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──王宮・謁見の間。

 いつもなら政務のために使われるこの広間に、今は異様な緊張が張り詰めていた。

 玉座には、金色の装飾を施された長衣を纏う、壮年の男が腰掛けていた。

 レインハルト王国国王──オズワルド=ディアレスト=レインハルト。

 その双眸そうぼうは怒りに燃え、前に跪くひざまず王子とその傍らの令嬢を射抜いていた。

「……ふざけるな、シャルル」

 低く、地を這うような声音が、広間を震わせる。

「何の許可もなく、王命により定めた婚約を破棄し、ましてや国外追放とは。貴様、王の座を継ぐ者として、己の行いがどれほどの意味を持つか理解しておるのか?」

 第一王子、シャルル=レインハルトは、凍りついたようにその場で硬直していた。

「……し、しかし、父上。エリーゼは王家の威信を貶めおとし──」

「黙れ!」

 オズワルド王の怒号が響いた。

「貶めた? 貴様がか? その根拠は、あの女──姉カリーナの讒言のみであろう」

 シャルルは反論の言葉を飲み込む。傍らのカリーナ=アルセリアは真っ青になり、王の怒りに目を伏せた。

「エリーゼ=アルセリア。確かにその名で記録されている。だが、真の名は──エリーゼ=フリューゲル。フリューゲル王国第一王女の娘にして、あの剣聖カール=フリューゲルの孫娘だ」

 広間がざわつく。

 レインハルと王国より遥かに領土も広く、戦力も巨大な西の大国フリューゲル。その王族の血を引く姫君が、この王国に訪れた──それは友好的な外交であった。しかし、策略により、それはレインハルと王国の危機ともなる案件になってしまった。オズワルド王は、フリューゲル王国に真相が知られるのを恐れ、またエリーゼの身柄をこの国に留まらせるためにも公表していなかった。それが裏目にでた。

「貴様は知らなかっただろうな。だがそれで許される話ではない。知らぬならば、なおのこと命令に背いた罪は重い」

 オズワルド王は玉座から立ち上がり、数段を下りてシャルルと向き合う。

「婚姻を通じて、子を成せば、フリューゲル王国の血筋の者がいずれ国王になる。そうなればあの大国との同盟も簡単だったものを。逆にもし、今回のことが知られれば、剣聖カールが動くかもしれないのだぞ。だというのに──」

 王は拳を強く握りしめた。

「貴様は己の浅慮で、国を売ったのだ! もしこの件がフリューゲルに漏れたとき、どうするつもりだ!」

「……それは……っ」

「エリーゼ嬢を黒魔の森に追放したのだな?」

「……はい……兵士が森に入っていく姿までは確認しています。なお、その後の行方は、掴めておりません」

「……目撃者は多いな、ならば、いずれこの愚行はフリューゲルに知れ渡る。戦となれば我が国に勝ち目はない。貴様の気紛れで、国を滅ぼす気か!」

 シャルルは言葉を失った。

 王は深く息を吐くと、ゆっくりと宣言した。

「フリューゲルの怒りを少しでも避けなければなるまい。ならば、王命に背き、国益を損ねた貴様に、以下の処分を命じる」

 場に、深い沈黙が落ちた。

「第一王子シャルル=ディアレスト=レインハルト。王位継承権を剥奪。以後、レインハルト王家の者として扱わぬ」

「なっ……! 父上、それはあまりにも──!」

「聞け!」

 オズワルド王はシャルルの声を押し潰すように叫んだ。

「そして貴様には新たな身分を与える。カリーナ嬢と添い遂げる貴様の意思を尊重しよう。『アルセリア家』へ婿入りするのだ」

「そ、そんな……っ、な、なぜ、アルゼリア家!?」

「当然だ。これは貴様の招いた結果。娘を奪われ、領地を失うアルセリア家への、わずかな償いでもある」

 オズワルドは冷酷な目でカリーナを睨む。

「なお、アルセリア侯爵夫妻──貴様らの爵位は子爵へと降格。領地はすべて王領とする。理由は言うまでもない」

 カリーナが顔を真っ青にし、ガタガタと震え始める。

「これは、陰謀でございます、陛下……わたくしは、ただ──!」

「わしの名を騙り、フリューゲル王国の王女の娘に濡れ衣を着せた。重罪以外の何物でもあるまい」

「ひっ……!」

「さらに言おう。エリーゼ嬢が見つからぬまま、この件がフリューゲル王国に露見した場合──」

 オズワルド王の声が、一段と鋭くなる。

「その時は、婿養子となったアルセリア子爵シャルル=アルセリアを、王国の全責任を負う者として、フリューゲルに差し出す」

「ッ──!」

「戦となれば、王家の誰一人も助けぬ。それが、貴様の報いだ」

 シャルルは、立ち尽くしていた。

 高貴な第一王子だった男は、今や王家の庇護も失い、罪人同然の存在となったのだ。

 王は玉座に戻ると、最後に静かに言い放つ。

「……国とは、愚か者の道具ではない。貴様がそのことを骨の髄まで思い知ることを願う」

 静寂が訪れた広間で、シャルルは崩れるように膝をついた。

 その瞳からは、初めて「王子」としての誇りが崩れ去る音が聞こえるようだった──。
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