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第71話 交流都市ロゼリアで運命の買い物
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【冒険の朝、港町でのひととき】
朝日が港町ロゼリアを金色に染めていた。
「はあぁ~、朝ごはんおいしかった~!」
エリーゼが宿屋の玄関前で大きく背伸びをする。湯気の立つパンと魚のスープ、地元産のチーズ。ささやかだが温かい朝食を終えた一行は、これから冒険の準備に向かうところだった。
「ったく……お前、三人前は食ったろ」
黒髪のマスキュラーが、呆れ顔で口を拭くエリーゼを見やる。
「体力使うもん、わたし」
「お嬢さん、"消費量"と"摂取量"のバランスには気をつけるべきだよ?」
金髪のアリスターが、日傘を肩にかけて優雅に笑う。どこかの貴族に見間違えられそうなその姿に、通りすがりの町娘がちらちらと視線を向けていた。
「……さて、まずは補給物資ですな」
眼鏡をかけ直しながら、神官ダリルが帳簿を確認する。手には、昨夜のうちにまとめた買い物リストが握られていた。
「保存食と水袋、油と松明に……エリーゼ殿の栄養補助剤が二袋、アリスター殿の魔力回復薬はいつもの特注品で……」
「わぁ、ダリルすごい! ほんと用意周到だよね!」
「い、いや……拙者はその……役立たずと思われたくないだけで……」
「違うよ! とっても頼りになるってこと!」
エリーゼの満面の笑みに、ダリルは顔を赤らめて俯いた。マスキュラーが「お前、もう少し自信持て」とぼそりと呟くが、それは労いの響きを含んでいた。
「よし、それじゃあ市場に向かおうか」
アリスターの一言を合図に、四人は街の中心にある賑やかな市場通りへと足を踏み入れた。
◆
朝の市場は活気に満ちていた。
漁師たちが獲れたての魚を並べ、香辛料を扱う異国の商人が陽気に声を張り上げる。果物の山に囲まれた少年がエリーゼに試食を勧めれば、彼女はにっこり笑って「ありがとう!」と返していた。
「ふふ、こういうとこ来ると、旅してるって実感わくね」
「商人の値切り交渉は旅より疲れるけどね。さて、魔道具屋はどこだったかな……」
アリスターが道の端にある看板を見上げる。
「この通りの右手奥だ。昨日、宿の親父に聞いた」
と、マスキュラーが手短に答えた。
「……おっ、あの露店のランタン、耐熱ガラス使ってる。火精霊の加護付きなら地下でも安定して灯るぞ」
「お、目利きねえ、マスキュラー」
「元パーティーで物資係だったからな。無駄に経験だけはある」
自嘲気味に笑う彼に、エリーゼはそっと小声で言った。
「でも、わたしはその“無駄じゃない経験”に助けられてばっかりだよ」
「……おう」
そんなやりとりの横で、アリスターが店主と交渉していた。
「この魔力結晶、純度が少し低いね。でも、10個まとめて買えば単価落としてくれるだろ?」
「ほう、兄ちゃん目が利くねぇ! こいつは山の内陸でしか採れないんだ、ちと高いが……10個なら、まぁ……」
「8割でどう?」
「強気だねえ!」
「お代は銀貨で払うよ、今すぐ」
にこやかな笑顔と的確な言葉遣い。まるで舞踏会のパートナーでも誘うように、アリスターは店主の懐に入り込んで値を引き下げていった。
「……あの調子で口説かれたら、落ちない女いないわね」
「……うっかり騙されそうになるから、たちが悪い」
エリーゼとダリルがため息をつく一方で、マスキュラーだけが黙って見ていた。ほんの少しだけ、胸の奥がもやつくのは、気のせいだと自分に言い聞かせながら。
◆
一通りの買い物を終えたころ、四人は広場の石畳に腰を下ろしていた。
「ふぅー、歩き疲れたー」
「やれやれ、荷物は軽くないですぞ……」
ダリルが背負い袋を置いて、肩をぐるぐると回す。エリーゼは紙袋から焼きリンゴを取り出して、嬉しそうに頬張った。
「でも、いい街だったよね、ロゼリア。こうして歩くと、それぞれの町にそれぞれの色があるって、感じるなぁ」
「ま、その色が毒だったりする場合もあるがな」
と、マスキュラーが低く呟く。
「あら、詩人みたいじゃない。……でも、そうね。その“毒”から逃げられず、消えてった人もいた」
アリスターの瞳が一瞬だけ翳った。仲間たちはその言葉の裏にある痛みに触れようとはしなかった。ただ、そっと隣に立ち、沈黙を共有する。
それが、彼らの“強さ”だった。
◆
「さ、戻ろっか。荷造りして、聖教国マケドニアに備えなきゃ!」
エリーゼの一言に、三人が頷いた。
冒険者に休息はない。今日の静けさが、明日の戦場を支える糧になる。
彼らはそれを知っていた。だからこそ、こうして笑い合える時間を何よりも大切にしていた。
潮の香る風が、広場を通り抜けていく。
四人の背に陽が差して、影が交わり、またひとつの形を成した。
その名はスプレーマム――冤罪と追放に抗い、信じたもののために戦う者たちの、ひとときの平穏の記録だった。
朝日が港町ロゼリアを金色に染めていた。
「はあぁ~、朝ごはんおいしかった~!」
エリーゼが宿屋の玄関前で大きく背伸びをする。湯気の立つパンと魚のスープ、地元産のチーズ。ささやかだが温かい朝食を終えた一行は、これから冒険の準備に向かうところだった。
「ったく……お前、三人前は食ったろ」
黒髪のマスキュラーが、呆れ顔で口を拭くエリーゼを見やる。
「体力使うもん、わたし」
「お嬢さん、"消費量"と"摂取量"のバランスには気をつけるべきだよ?」
金髪のアリスターが、日傘を肩にかけて優雅に笑う。どこかの貴族に見間違えられそうなその姿に、通りすがりの町娘がちらちらと視線を向けていた。
「……さて、まずは補給物資ですな」
眼鏡をかけ直しながら、神官ダリルが帳簿を確認する。手には、昨夜のうちにまとめた買い物リストが握られていた。
「保存食と水袋、油と松明に……エリーゼ殿の栄養補助剤が二袋、アリスター殿の魔力回復薬はいつもの特注品で……」
「わぁ、ダリルすごい! ほんと用意周到だよね!」
「い、いや……拙者はその……役立たずと思われたくないだけで……」
「違うよ! とっても頼りになるってこと!」
エリーゼの満面の笑みに、ダリルは顔を赤らめて俯いた。マスキュラーが「お前、もう少し自信持て」とぼそりと呟くが、それは労いの響きを含んでいた。
「よし、それじゃあ市場に向かおうか」
アリスターの一言を合図に、四人は街の中心にある賑やかな市場通りへと足を踏み入れた。
◆
朝の市場は活気に満ちていた。
漁師たちが獲れたての魚を並べ、香辛料を扱う異国の商人が陽気に声を張り上げる。果物の山に囲まれた少年がエリーゼに試食を勧めれば、彼女はにっこり笑って「ありがとう!」と返していた。
「ふふ、こういうとこ来ると、旅してるって実感わくね」
「商人の値切り交渉は旅より疲れるけどね。さて、魔道具屋はどこだったかな……」
アリスターが道の端にある看板を見上げる。
「この通りの右手奥だ。昨日、宿の親父に聞いた」
と、マスキュラーが手短に答えた。
「……おっ、あの露店のランタン、耐熱ガラス使ってる。火精霊の加護付きなら地下でも安定して灯るぞ」
「お、目利きねえ、マスキュラー」
「元パーティーで物資係だったからな。無駄に経験だけはある」
自嘲気味に笑う彼に、エリーゼはそっと小声で言った。
「でも、わたしはその“無駄じゃない経験”に助けられてばっかりだよ」
「……おう」
そんなやりとりの横で、アリスターが店主と交渉していた。
「この魔力結晶、純度が少し低いね。でも、10個まとめて買えば単価落としてくれるだろ?」
「ほう、兄ちゃん目が利くねぇ! こいつは山の内陸でしか採れないんだ、ちと高いが……10個なら、まぁ……」
「8割でどう?」
「強気だねえ!」
「お代は銀貨で払うよ、今すぐ」
にこやかな笑顔と的確な言葉遣い。まるで舞踏会のパートナーでも誘うように、アリスターは店主の懐に入り込んで値を引き下げていった。
「……あの調子で口説かれたら、落ちない女いないわね」
「……うっかり騙されそうになるから、たちが悪い」
エリーゼとダリルがため息をつく一方で、マスキュラーだけが黙って見ていた。ほんの少しだけ、胸の奥がもやつくのは、気のせいだと自分に言い聞かせながら。
◆
一通りの買い物を終えたころ、四人は広場の石畳に腰を下ろしていた。
「ふぅー、歩き疲れたー」
「やれやれ、荷物は軽くないですぞ……」
ダリルが背負い袋を置いて、肩をぐるぐると回す。エリーゼは紙袋から焼きリンゴを取り出して、嬉しそうに頬張った。
「でも、いい街だったよね、ロゼリア。こうして歩くと、それぞれの町にそれぞれの色があるって、感じるなぁ」
「ま、その色が毒だったりする場合もあるがな」
と、マスキュラーが低く呟く。
「あら、詩人みたいじゃない。……でも、そうね。その“毒”から逃げられず、消えてった人もいた」
アリスターの瞳が一瞬だけ翳った。仲間たちはその言葉の裏にある痛みに触れようとはしなかった。ただ、そっと隣に立ち、沈黙を共有する。
それが、彼らの“強さ”だった。
◆
「さ、戻ろっか。荷造りして、聖教国マケドニアに備えなきゃ!」
エリーゼの一言に、三人が頷いた。
冒険者に休息はない。今日の静けさが、明日の戦場を支える糧になる。
彼らはそれを知っていた。だからこそ、こうして笑い合える時間を何よりも大切にしていた。
潮の香る風が、広場を通り抜けていく。
四人の背に陽が差して、影が交わり、またひとつの形を成した。
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