婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第71話 交流都市ロゼリアで運命の買い物

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【冒険の朝、港町でのひととき】

 朝日が港町ロゼリアを金色に染めていた。

 「はあぁ~、朝ごはんおいしかった~!」

 エリーゼが宿屋の玄関前で大きく背伸びをする。湯気の立つパンと魚のスープ、地元産のチーズ。ささやかだが温かい朝食を終えた一行は、これから冒険の準備に向かうところだった。

 「ったく……お前、三人前は食ったろ」

 黒髪のマスキュラーが、呆れ顔で口を拭くエリーゼを見やる。

 「体力使うもん、わたし」

 「お嬢さん、"消費量"と"摂取量"のバランスには気をつけるべきだよ?」

 金髪のアリスターが、日傘を肩にかけて優雅に笑う。どこかの貴族に見間違えられそうなその姿に、通りすがりの町娘がちらちらと視線を向けていた。

 「……さて、まずは補給物資ですな」

 眼鏡をかけ直しながら、神官ダリルが帳簿を確認する。手には、昨夜のうちにまとめた買い物リストが握られていた。

 「保存食と水袋、油と松明に……エリーゼ殿の栄養補助剤が二袋、アリスター殿の魔力回復薬はいつもの特注品で……」

 「わぁ、ダリルすごい! ほんと用意周到だよね!」

 「い、いや……拙者はその……役立たずと思われたくないだけで……」

 「違うよ! とっても頼りになるってこと!」

 エリーゼの満面の笑みに、ダリルは顔を赤らめて俯いた。マスキュラーが「お前、もう少し自信持て」とぼそりと呟くが、それは労いの響きを含んでいた。

 「よし、それじゃあ市場に向かおうか」

 アリスターの一言を合図に、四人は街の中心にある賑やかな市場通りへと足を踏み入れた。

 



 朝の市場は活気に満ちていた。

 漁師たちが獲れたての魚を並べ、香辛料を扱う異国の商人が陽気に声を張り上げる。果物の山に囲まれた少年がエリーゼに試食を勧めれば、彼女はにっこり笑って「ありがとう!」と返していた。

 「ふふ、こういうとこ来ると、旅してるって実感わくね」

 「商人の値切り交渉は旅より疲れるけどね。さて、魔道具屋はどこだったかな……」

 アリスターが道の端にある看板を見上げる。

 「この通りの右手奥だ。昨日、宿の親父に聞いた」

 と、マスキュラーが手短に答えた。

 「……おっ、あの露店のランタン、耐熱ガラス使ってる。火精霊の加護付きなら地下でも安定して灯るぞ」

 「お、目利きねえ、マスキュラー」

 「元パーティーで物資係だったからな。無駄に経験だけはある」

 自嘲気味に笑う彼に、エリーゼはそっと小声で言った。

 「でも、わたしはその“無駄じゃない経験”に助けられてばっかりだよ」

 「……おう」

 そんなやりとりの横で、アリスターが店主と交渉していた。

 「この魔力結晶、純度が少し低いね。でも、10個まとめて買えば単価落としてくれるだろ?」

 「ほう、兄ちゃん目が利くねぇ! こいつは山の内陸でしか採れないんだ、ちと高いが……10個なら、まぁ……」

 「8割でどう?」

 「強気だねえ!」

 「お代は銀貨で払うよ、今すぐ」

 にこやかな笑顔と的確な言葉遣い。まるで舞踏会のパートナーでも誘うように、アリスターは店主の懐に入り込んで値を引き下げていった。

 「……あの調子で口説かれたら、落ちない女いないわね」

 「……うっかり騙されそうになるから、たちが悪い」

 エリーゼとダリルがため息をつく一方で、マスキュラーだけが黙って見ていた。ほんの少しだけ、胸の奥がもやつくのは、気のせいだと自分に言い聞かせながら。

 



 一通りの買い物を終えたころ、四人は広場の石畳に腰を下ろしていた。

 「ふぅー、歩き疲れたー」

 「やれやれ、荷物は軽くないですぞ……」

 ダリルが背負い袋を置いて、肩をぐるぐると回す。エリーゼは紙袋から焼きリンゴを取り出して、嬉しそうに頬張った。

 「でも、いい街だったよね、ロゼリア。こうして歩くと、それぞれの町にそれぞれの色があるって、感じるなぁ」

 「ま、その色が毒だったりする場合もあるがな」

 と、マスキュラーが低く呟く。

 「あら、詩人みたいじゃない。……でも、そうね。その“毒”から逃げられず、消えてった人もいた」

 アリスターの瞳が一瞬だけ翳った。仲間たちはその言葉の裏にある痛みに触れようとはしなかった。ただ、そっと隣に立ち、沈黙を共有する。

 それが、彼らの“強さ”だった。

 



 「さ、戻ろっか。荷造りして、聖教国マケドニアに備えなきゃ!」

 エリーゼの一言に、三人が頷いた。

 冒険者に休息はない。今日の静けさが、明日の戦場を支える糧になる。

 彼らはそれを知っていた。だからこそ、こうして笑い合える時間を何よりも大切にしていた。

 潮の香る風が、広場を通り抜けていく。

 四人の背に陽が差して、影が交わり、またひとつの形を成した。

 その名はスプレーマム――冤罪と追放に抗い、信じたもののために戦う者たちの、ひとときの平穏の記録だった。
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