婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第103話 二人の夜 幸せになろうね。

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灯火が、ゆらゆらと揺れていた。

 教会の離れにある一室。そこは今夜だけ、ふたりのために用意された特別な部屋だった。純白のカーテンが夜風に揺れ、窓辺からは星が見える。祭壇に使われる香がまだほのかに漂っていた。

 エリーゼは、ふわりとしたガウンを羽織り、ベッドの端に腰掛けていた。長い桃色の髪が肩に流れ、頬には朱が差している。

 アリスターは、その姿を静かに見つめていた。

 「……落ち着かない?」

 「う、うん。ちょっとだけ……」

 思わず素直に答えてしまい、エリーゼは自分で顔を覆う。

 「こんなこと、前世でもなかったし……ていうか、なんか夢みたいで……」

 「ふふ、ボクもだよ。まさか、あの池の畔で出会った君と、こんな日が来るなんて思わなかった」

 アリスターは、ベッドの隣に腰を下ろした。ふたりの間には、まだほんの少しの距離がある。

 「でも……嬉しい」

 「うん。……わたしも」

 ぽつりと交わされる言葉が、どちらも照れくさそうに、けれど幸せそうに響いた。

 「……本当に、結婚しちゃったんだね、私たち」

 「うん。もう君は、ボクの妻だ。世界でいちばん愛しいひとだよ」

 「ちょっと、言い過ぎじゃない?」

 「いや。ぜんぜん足りないくらい」

 アリスターが冗談めかして笑うと、エリーゼも小さく笑った。緊張が、少しだけ解けた。

 ふたりは、肩を寄せた。

 しばらく言葉はなかった。ただ、互いのぬくもりが、ゆっくりと染み込んでいった。

 「……アリスター。ねえ、ひとつだけ、聞いてもいい?」

 「なに?」

 「もし……わたしが転生者だってことはどう思う?」

 唐突な問いだった。

 けれど、アリスターはほんの数秒考えただけで、穏やかに微笑んだ。

 「そんなこと、すでに知ってるよ。それに君が君でいてくれるなら。……エリーゼがエリーゼである限り、ボクは君を愛してる」

 「……ずるいなあ、もう」

 エリーゼは、ぽろっと涙をこぼした。それは悲しみではなく、ずっと隠してきた過去を許してもらえたような、安心の涙だった。

 アリスターは、そっと彼女の涙を指先でぬぐった。

 「でも、言ってくれてありがとう。気にしていたのだね」

 「ほんとに、ずるいよ。アリスターってば、ずっと前から私の心の中、見透かしてるみたい……」

 「だって、君のことばかり見てたからね」

 ふたりは、自然と唇を重ねた。

 それは甘く、けれど淡く、静かな祈りのような口づけだった。

 時間は、ゆっくりと流れた。

 ベッドに並んで座るふたりは、やがて言葉少なに、指先を絡め、額を寄せ合った。寄り添う背中には、互いの呼吸が伝わってくる。

 「……ねえ、アリスター」

 「ん?」

 「幸せになろうね。いろんなこと、あったけど……でも、これからは、わたしたちで一緒に未来を作っていこう」

 「うん、もちろん。どんな運命でも、ボクたちならきっと乗り越えられる」

 エリーゼは、ふわっと微笑んだ。

 ――わたしは、もう一人じゃない。

 この人となら、過去の痛みも、冤罪も、すべて乗り越えていける。

 ふたりは、月の光に包まれながら、ゆっくりと寄り添い、静かに夜を迎えた。

 初めての夜は、想像よりも穏やかで、あたたかくて、やさしかった。

 愛を確かめ合うには、言葉すらいらない。

 ただ、手をつなぎ、微笑み合うだけで――世界のすべてがそこにあるように感じた。
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