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第129話 王家の血 ……こんなものが、嘆きの谷に?
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嘆きの谷の空は曇天に覆われていた。灰色の雲の切れ間から差し込む光も、谷を照らすには力弱く、どこか薄暗さが漂う。
「気配が消えたな……影の一つもいねぇ」
マスキュラ―が背中に大剣を戻し、深く息を吐いた。
嘆きの谷に入ってから一時間。森から谷底へと降り、廃墟と化した石の祠、崩れかけた祭壇を調べてきたが、“黒き影”の姿はどこにもなかった。いや、それどころか生き物の気配すら皆無だった。
「拙者の直感が正しければ……これは“喰われた後”ですな」
ダリルが地面に落ちた鳥の羽を拾いながら呟く。その羽は、先端が黒く焼け焦げていた。
「魔力反応はある。微弱だけどね。……それも、かなり古い」
アリスターが地面に指を走らせると、土が剥がれ、その下から奇妙な文様の刻まれた石板が現れた。見覚えのある意匠――テオドリック王家の“獅子の印”だ。
「これは……!」
彼はしばし黙し、指を組んで静かに詠唱した。
「《レーヴェ=アーク・イグナス》――王家の紋章よ、真なる血を認じよ」
金色の魔力が彼の掌から放たれ、石板の表面がぼんやりと発光した。すると、地面がかすかに震え、近くの崖壁に埋もれていた岩盤がゆっくりと動いた。
「隠し……通路?」
エリーゼが小さく呟く。
その岩盤の奥に広がっていたのは、苔むした古代の回廊だった。壁には風化しかけた石碑が並び、天井からはつらら状に石が垂れ下がっている。
「……こんなものが、嘆きの谷に?」
マスキュラ―が警戒を強めて剣の柄に手をかけた。
アリスターはゆっくりと通路の前に立ち、懐からひとつの小箱を取り出した。王宮を追われる直前、父王が密かに彼に渡したものだった。
「“王の印”。代々、王家の正統な後継者にだけ与えられる印章だよ」
彼が箱を開くと、中には銀の指輪が収められていた。獅子の紋章と、光を反射する青い宝石が嵌め込まれている。
「……この通路、まさか王家にしか通れないの?」
エリーゼが問いかけた。
アリスターは頷いた。
「“嘆きの谷”の地下には、王家がかつて戦火から秘密を守るために作った逃走路があると、文献には書かれていた。正式には“王道”――王の血族だけが知る、石室への道だ」
彼は静かに指輪をはめ、通路の奥へ一歩、足を踏み入れた。
瞬間、空気が変わった。
奥から吹きつけた風が金の髪を揺らし、壁に刻まれた文字が一斉に淡く輝き出す。
「うわ……魔法が反応してる……!」
「認証の魔術ですな。王家の血を識別しているのでしょう。まさしく正統なる証……!」
ダリルが震えた声で呟いた。
アリスターが振り返り、苦笑を浮かべる。
「これがなければ、この通路はただの崖だったろうね。ボクが王族であることに、ようやく意味が出てきた」
「なーんだ、今まで散々“王子様でした!”って自慢してたくせに、ちょっと照れてるじゃない」
エリーゼがからかうと、アリスターは片目を細めた。
「君が“奥さん”になってくれたからね。あまり威張りすぎると嫌われちゃうかもしれないと思って」
「ふぁ……!? そ、そういうのは、あとで言いなさいよ!」
耳まで真っ赤になったエリーゼが慌てて剣の柄を握り直す。横でマスキュラ―が無言のままため息をついた。
「……バカップルかよ。オレの筋肉がしおれるわ」
「拙者は、ほんとに、独り身でいいのか、時々……不安になりますな……」
「ダリル、お前はまず自分のネガ思考をなんとかしろって」
マスキュラ―がツッコミを入れつつも、足元を確認して通路に足を踏み入れる。
「でもまあ……こっちの道が本命ってことか?」
「そうだと思う。“黒き影”は囮だったのかもしれない。あるいは……この“王の石室”へ何者かが侵入しようとした形跡があるなら、我々の本当の敵はその先にいる」
アリスターの言葉に、空気が張り詰めた。
“スプレーマム”のメンバーは顔を見合わせ、頷き合った。
「――行こう。この先に、何があろうと」
「了解よ、隊長さん!」
「うむ、命の保障はないが……責務は果たしますぞ!」
「行くぜ、オレの剣がまた暴れたがってるからな!」
そして、冒険者パーティー《スプレーマム》は、古の王家が封じた秘密へと足を踏み入れていった。
その先に待つものが、運命の綾を大きく揺るがす存在とも知らずに――
「気配が消えたな……影の一つもいねぇ」
マスキュラ―が背中に大剣を戻し、深く息を吐いた。
嘆きの谷に入ってから一時間。森から谷底へと降り、廃墟と化した石の祠、崩れかけた祭壇を調べてきたが、“黒き影”の姿はどこにもなかった。いや、それどころか生き物の気配すら皆無だった。
「拙者の直感が正しければ……これは“喰われた後”ですな」
ダリルが地面に落ちた鳥の羽を拾いながら呟く。その羽は、先端が黒く焼け焦げていた。
「魔力反応はある。微弱だけどね。……それも、かなり古い」
アリスターが地面に指を走らせると、土が剥がれ、その下から奇妙な文様の刻まれた石板が現れた。見覚えのある意匠――テオドリック王家の“獅子の印”だ。
「これは……!」
彼はしばし黙し、指を組んで静かに詠唱した。
「《レーヴェ=アーク・イグナス》――王家の紋章よ、真なる血を認じよ」
金色の魔力が彼の掌から放たれ、石板の表面がぼんやりと発光した。すると、地面がかすかに震え、近くの崖壁に埋もれていた岩盤がゆっくりと動いた。
「隠し……通路?」
エリーゼが小さく呟く。
その岩盤の奥に広がっていたのは、苔むした古代の回廊だった。壁には風化しかけた石碑が並び、天井からはつらら状に石が垂れ下がっている。
「……こんなものが、嘆きの谷に?」
マスキュラ―が警戒を強めて剣の柄に手をかけた。
アリスターはゆっくりと通路の前に立ち、懐からひとつの小箱を取り出した。王宮を追われる直前、父王が密かに彼に渡したものだった。
「“王の印”。代々、王家の正統な後継者にだけ与えられる印章だよ」
彼が箱を開くと、中には銀の指輪が収められていた。獅子の紋章と、光を反射する青い宝石が嵌め込まれている。
「……この通路、まさか王家にしか通れないの?」
エリーゼが問いかけた。
アリスターは頷いた。
「“嘆きの谷”の地下には、王家がかつて戦火から秘密を守るために作った逃走路があると、文献には書かれていた。正式には“王道”――王の血族だけが知る、石室への道だ」
彼は静かに指輪をはめ、通路の奥へ一歩、足を踏み入れた。
瞬間、空気が変わった。
奥から吹きつけた風が金の髪を揺らし、壁に刻まれた文字が一斉に淡く輝き出す。
「うわ……魔法が反応してる……!」
「認証の魔術ですな。王家の血を識別しているのでしょう。まさしく正統なる証……!」
ダリルが震えた声で呟いた。
アリスターが振り返り、苦笑を浮かべる。
「これがなければ、この通路はただの崖だったろうね。ボクが王族であることに、ようやく意味が出てきた」
「なーんだ、今まで散々“王子様でした!”って自慢してたくせに、ちょっと照れてるじゃない」
エリーゼがからかうと、アリスターは片目を細めた。
「君が“奥さん”になってくれたからね。あまり威張りすぎると嫌われちゃうかもしれないと思って」
「ふぁ……!? そ、そういうのは、あとで言いなさいよ!」
耳まで真っ赤になったエリーゼが慌てて剣の柄を握り直す。横でマスキュラ―が無言のままため息をついた。
「……バカップルかよ。オレの筋肉がしおれるわ」
「拙者は、ほんとに、独り身でいいのか、時々……不安になりますな……」
「ダリル、お前はまず自分のネガ思考をなんとかしろって」
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「でもまあ……こっちの道が本命ってことか?」
「そうだと思う。“黒き影”は囮だったのかもしれない。あるいは……この“王の石室”へ何者かが侵入しようとした形跡があるなら、我々の本当の敵はその先にいる」
アリスターの言葉に、空気が張り詰めた。
“スプレーマム”のメンバーは顔を見合わせ、頷き合った。
「――行こう。この先に、何があろうと」
「了解よ、隊長さん!」
「うむ、命の保障はないが……責務は果たしますぞ!」
「行くぜ、オレの剣がまた暴れたがってるからな!」
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その先に待つものが、運命の綾を大きく揺るがす存在とも知らずに――
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