婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第152話 アルスラーン・ヴァン・テオドリック、王叔父の誓い

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『偽りの婚礼』終章:戴冠の暁
破壊された城の大広間に、静寂が戻っていた。

剣戟も、絶叫も、怒号も今はなく、代わりに降り注ぐ陽光が、戦いの終焉を静かに祝福していた。血に濡れた大理石の床には、崩れ落ちた魔方陣の残滓がまだ燻っていたが、それはもはや何の脅威でもなかった。

エリーゼが祭壇に近づき、聖女セレスティアの亡骸にそっと布をかけた。ダリルもまた、祈りの言葉を口の中で紡ぎながらその場に跪く。彼の瞳には涙が滲んでいたが、それは悲しみというより、赦しへの渇望だった。

「アリスター」

マスキュラーが振り返り、金髪の青年に声をかけた。その顔には、いつになく真剣な表情が浮かんでいた。

「お前が、前に言ってたよな。“本当にこの国を変えたいなら、嘘を終わらせる覚悟がいる”って」

「……言ったね」

アリスターは微笑むこともせず、まっすぐに立っていた。彼の外套は戦いで裂け、マントは灰にまみれていたが、金の髪だけは陽光を反射して輝いていた。

その場にいた者たち――エリーゼ、マスキュラー、ダリル、そしてギルドの使節団、王国の残党、そして彼の叔父、アルスラーン・ヴァン・テオドリック公爵の前で、アリスターは一歩、前に出た。

「皆、聞いてくれ」

その声は、かつての王子としてのそれではなかった。失われた立場にすがる少年の声でもない。戦いを経て、幾多の冤罪と追放を超えた者の声だった。

「この国を、今のままにしておくことはできない。グレゴールの策謀に蝕まれ、聖女を利用し、民を欺き、僕らのような“追放者”を生んだこの王国を――もう、許してはならない」

人々は息を呑んでいた。かつての王子が、いま、この地で何を語るのか。

「……けれど、破壊だけでは未来は築けない。だから、僕は――テオドリック王国の次代の王として、この国を正す道を選ぶ。もう一度、すべての民のために」

はっきりと、そして力強く。

「この場をもって、亡き父に代わり、僕が王として立つと宣言する!」

空気が震えた。

だが次の瞬間、アリスターの隣に歩み寄ったアルスラーン公爵が、膝をつき、右拳を胸に当てて宣言した。

「――この身、アルスラーン・ヴァン・テオドリック、我が甥アリスター・ルキウス・テオドリック陛下に忠誠を誓う。かつて疑念を抱いた愚を悔い、今ここに、未来の礎として全力を尽くすと誓う!」

彼の跪礼は、王族としての誇りを捨てたものではなかった。それは、国を思い、そして一人の青年を認めた者の覚悟の証だった。

「叔父上……」

「アリスター。お前はもう“少年”ではない。立派な男だ。そしてこの国に必要な“光”だ。……ならば、私はその道を照らす灯台であろう。かつての過ちを、共に償わせてくれ」

アリスターの瞳に、初めて涙が浮かんだ。

「……ありがとう」

静かに、しかし確かに。

それを皮切りに、次々と人々が膝をつき、手を胸に当てていく。ギルドの代表たち、討伐に加わった兵士たち、魔物に脅かされていた民の代表たち――

「我らが王に、忠誠を!」

「アリスター陛下、万歳!」

王都に、かつての歓呼が戻っていた。

だが、アリスターはそれに酔わなかった。

「……これからが始まりだ。グレゴールの影は消えたが、この国の傷はまだ癒えていない。罪なき者を追放し、虐げ、嘘で国を支えていた日々の代償は重い」

アリスターは祭壇のほうを振り返る。光の輪に包まれたセレスティアの亡骸が、まるで安らかに眠っているように見えた。

「彼女のような犠牲者を、二度と出さないために――僕らが変えるんだ。この国を、本当の意味で、未来へ進ませるんだ」

振り返ると、エリーゼが穏やかに微笑んでいた。

「なら、わたしもついていくよ。剣聖としてじゃない、一人の仲間として。王様を支える、背中の守り手としてね」

マスキュラーがにやりと笑う。

「ま、王になってもオレたちの仲間ってのは変わらねぇよな。無茶な任務にゃ文句言うけどよ」

「拙者も……ようやく、生きる意味を見出せた気がする。この手で誰かを守るために」

仲間たちの言葉に、アリスターは静かに、力強くうなずいた。

「ありがとう。君たちがいたから、ここまで来られた。だからこそ、君たちと共に、新しい国を築いていきたい」

陽光が、瓦礫に差し込む。

その先に広がるのは、荒れた王都――だが、同時に“希望”でもあった。

夜が明ける。

この国にとっての、本当の“夜明け”が。
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