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第177話 そして、また旅が始まる――第一部・完
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「そして、また旅が始まる」――第一部・完
戦の喧騒は、春の風とともに遠ざかっていった。
カール=キリト率いるフリューゲル王国の部隊がレインハルトを後にし、瓦礫の残る王都に、ようやく静けさが戻る。焦げた外壁は補修され始め、広場には新たな市場の準備が進められていた。
そんな中、アリスターとエリーゼは、王城の一角に設けられた応接室で最後の見送りをしていた。
「――次は、お前が来い。フリューゲルには、お前の祖母や叔母、それに叔父もいる。会っておくべきだ」
そう語るカールの言葉は、柔らかく、どこか照れくさそうだった。
「わかりました。必ず、行きます」
エリーゼは真っ直ぐに頷き、祖父の手をしっかりと握った。
「楽しみにしている。あの家はな、女たちが強いから覚悟しておけ」
「……そういう家系なのかしら」
アリスターが横で苦笑しながらつぶやくと、カールはにやりと笑った。
「だが、そちらの王様も……なかなかに骨がある。次は一献交わそうではないか。老骨が酔い潰されぬうちにな」
「それは楽しみにしております。剣では敵わないかもしれませんが、酒なら……いえ、それも無理かもしれませんね」
最後の冗談に、短い笑いが交わされる。
その後、カールは一礼し、整列した部隊と共に王都を出発した。
その背を、エリーゼは城壁から見送った。風が金の髪をなびかせ、視線は遠く、地平線の向こうを見つめていた。
「……終わった、ね」
アリスターが、横に立ち、ぽつりとつぶやいた。
「ううん。きっと、まだ途中だよ」
「……やっぱり、そう思うか」
エリーゼは微笑んだ。
「わたしね、この国がどうなるかを見届けたい。レインハルトも、テオドリックも。わたしたちの選んだ道が、本当に正しかったのかどうか――きっと、まだ答えは出てないから」
アリスターは黙ってその横顔を見つめていた。かつて婚約を破棄され、追放され、孤独に剣を振るってきた少女は、いまや国の未来を背負う王妃となっていた。
(この手を、もう離さない)
心の中で、静かに誓った
◇ ◇ ◇
数日後、テオドリック王国への帰還の準備が整い、一行はレインハルトを出発した。
ダリル=ベルトレイン、マスキュラー、そして仲間たち――スプレーマムの面々も共にいる。
道中、草原を抜ける風はどこまでも心地よく、花々が咲き誇る川辺で、彼らは一度、馬を止めた。
「ねえ、アリスター」
「なんだい?」
「幸せって、こういう時のことを言うのかな」
「それとも、こういう時の記憶が、後で“幸せだった”って呼ばれるのかもな」
「……ふふ、アリスターって詩人みたいなこと言うよね。意外と」
「意外は余計だよ」
そんな何気ないやり取りすら、愛おしく思える日々だった。
ダリルは苦笑しながら一行の後ろを歩き、マスキュラーはやや照れくさそうにエリーゼを遠巻きに見つめている。
それぞれが、追放された過去を背負いながらも、“今”を生きていた。
そして――
一行が王都テオドリックに戻ったその夜、王城の広間には静かな祝宴が開かれた。
民たちは歓声を上げ、冒険者たちは酒を酌み交わし、音楽隊が軽快な旋律を奏でる。
だがその最中、エリーゼは静かに窓辺に立ち、夜空を見上げていた。
「……終わったようで、まだ、始まってもいない気がする」
隣に立ったアリスターが、彼女の肩にそっと手を置いた。
「“第一部・完”って感じかな」
「そうだね。でも、“第二部”もすぐ始まりそう」
「始めよう。君と一緒なら、何だってできるさ」
エリーゼは微笑んだ。
「じゃあ、わたしの隣、空けておいてね。剣を振るう時も、手を繋ぐ時も」
アリスターはうなずいた。
――こうして、エリーゼ=アルセリアの一つの冒険が幕を閉じた。
過去を断ち、祖父と和解し、王妃としての新たな立場を得た彼女。
だが、その物語はまだ、物語の“途中”。
時間は止まらない。運命も、歩みも。
いつか訪れる新たな出会いと、試練と、希望を胸に――
物語は、また始まるのだった。
――第一部・完
戦の喧騒は、春の風とともに遠ざかっていった。
カール=キリト率いるフリューゲル王国の部隊がレインハルトを後にし、瓦礫の残る王都に、ようやく静けさが戻る。焦げた外壁は補修され始め、広場には新たな市場の準備が進められていた。
そんな中、アリスターとエリーゼは、王城の一角に設けられた応接室で最後の見送りをしていた。
「――次は、お前が来い。フリューゲルには、お前の祖母や叔母、それに叔父もいる。会っておくべきだ」
そう語るカールの言葉は、柔らかく、どこか照れくさそうだった。
「わかりました。必ず、行きます」
エリーゼは真っ直ぐに頷き、祖父の手をしっかりと握った。
「楽しみにしている。あの家はな、女たちが強いから覚悟しておけ」
「……そういう家系なのかしら」
アリスターが横で苦笑しながらつぶやくと、カールはにやりと笑った。
「だが、そちらの王様も……なかなかに骨がある。次は一献交わそうではないか。老骨が酔い潰されぬうちにな」
「それは楽しみにしております。剣では敵わないかもしれませんが、酒なら……いえ、それも無理かもしれませんね」
最後の冗談に、短い笑いが交わされる。
その後、カールは一礼し、整列した部隊と共に王都を出発した。
その背を、エリーゼは城壁から見送った。風が金の髪をなびかせ、視線は遠く、地平線の向こうを見つめていた。
「……終わった、ね」
アリスターが、横に立ち、ぽつりとつぶやいた。
「ううん。きっと、まだ途中だよ」
「……やっぱり、そう思うか」
エリーゼは微笑んだ。
「わたしね、この国がどうなるかを見届けたい。レインハルトも、テオドリックも。わたしたちの選んだ道が、本当に正しかったのかどうか――きっと、まだ答えは出てないから」
アリスターは黙ってその横顔を見つめていた。かつて婚約を破棄され、追放され、孤独に剣を振るってきた少女は、いまや国の未来を背負う王妃となっていた。
(この手を、もう離さない)
心の中で、静かに誓った
◇ ◇ ◇
数日後、テオドリック王国への帰還の準備が整い、一行はレインハルトを出発した。
ダリル=ベルトレイン、マスキュラー、そして仲間たち――スプレーマムの面々も共にいる。
道中、草原を抜ける風はどこまでも心地よく、花々が咲き誇る川辺で、彼らは一度、馬を止めた。
「ねえ、アリスター」
「なんだい?」
「幸せって、こういう時のことを言うのかな」
「それとも、こういう時の記憶が、後で“幸せだった”って呼ばれるのかもな」
「……ふふ、アリスターって詩人みたいなこと言うよね。意外と」
「意外は余計だよ」
そんな何気ないやり取りすら、愛おしく思える日々だった。
ダリルは苦笑しながら一行の後ろを歩き、マスキュラーはやや照れくさそうにエリーゼを遠巻きに見つめている。
それぞれが、追放された過去を背負いながらも、“今”を生きていた。
そして――
一行が王都テオドリックに戻ったその夜、王城の広間には静かな祝宴が開かれた。
民たちは歓声を上げ、冒険者たちは酒を酌み交わし、音楽隊が軽快な旋律を奏でる。
だがその最中、エリーゼは静かに窓辺に立ち、夜空を見上げていた。
「……終わったようで、まだ、始まってもいない気がする」
隣に立ったアリスターが、彼女の肩にそっと手を置いた。
「“第一部・完”って感じかな」
「そうだね。でも、“第二部”もすぐ始まりそう」
「始めよう。君と一緒なら、何だってできるさ」
エリーゼは微笑んだ。
「じゃあ、わたしの隣、空けておいてね。剣を振るう時も、手を繋ぐ時も」
アリスターはうなずいた。
――こうして、エリーゼ=アルセリアの一つの冒険が幕を閉じた。
過去を断ち、祖父と和解し、王妃としての新たな立場を得た彼女。
だが、その物語はまだ、物語の“途中”。
時間は止まらない。運命も、歩みも。
いつか訪れる新たな出会いと、試練と、希望を胸に――
物語は、また始まるのだった。
――第一部・完
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