時を買う人

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お互いさま

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「子供が熱を出したみたいなので半休をとって早退させていただきます。残りの仕事は各自出来ると思いますので商品はミスのないようお客さまに発送願います。」


そう言って、部長の林香織が会社を後にしていく。


部長がやり残した発送準備の終わっていない商品が大量にあり、その検品と発送準備のために、村中彩はしっくはっくしている。

自分の仕事はあるのだが、部長のやり残した仕事を終わらせないことには自分の仕事に取りかかれない。転職して今の会社に勤めたばかりの頃は、子育てをしている者への支援は必要なものだと思い、部長の突発的な休みにも対応してきたが、最近はそれが当然のことだと言わんばかりに、部長自身の仕事さえも部下に任せるようになり、部署内の他のメンバーの仕事量は増えるばかりだ。さりとて手当てがもらえるわけでなく彩を含んだメンバーの不満はたまる一方である。


"不満はあるけど、また転職するのもなぁ。やっぱり、独身者は気楽でいいよなぁ。とか思われているのかしら。自分で結婚決めて、子供を持つことを選択したに過ぎないのになんか不公平だよなぁ"


そんなことを考えながら、部長の仕事のフォローをしてすっかり遅くなった帰り道の商店街を通っていると、


"あなたの時(人生)買います。"


と書かれた札をつけた普段見かけない屋台があることに気が付いたのでよってみることにした。


「いらっしゃい。ここはあなたの時(人生)や健康を売って、それと同等の契約、もの、こと(体験)が得られる店だよ。」


と店員が言ったので、


「いま上司が子育てのためにちょくちょく休みをとってしまい、部長のできなかった仕事を我々別の社員がフォローすることとなり、不公平感がたまっているんだけど、それを解決する契約を結ぶとしたら、どのくらいの量の人生を売れば済むのかしら?」


と尋ねると、店員は


「それなら5週間の人生を売っていただければ結構です。しかしその期間の経験は、思い出に残らないけど、それでもいいならこの契約書にサインして契約成立です。」


彩が店員が出した契約書にサインすると、場面がかわり、自分が仕事のため会社にいることがわかった。


「村中さん商品を扱うとき身体を痛めないよう気を付けて。」


部長の掛け声が気持ち悪いくらい優しくて、耳を疑った。


しばらくして、休憩時間に同僚の山田早紀が


「部長のやつ、気持ち悪いくらい優しくなってうけるんだけど。やっぱり1ヶ月ほど前、部長以外の全員がインフルエンザにかかって、部長がその間の一週間、一人で仕事をせざるを得なかったのがこたえたみたい。彩にはだまってたけど、私なんて、最後の1日は、インフルエンザは治っていたけど、部長をこらしめるために体調が悪いって連絡してズル休みしたしね。
そのおかげで、月に一日は、部署内の全員が有給をとることが決まったしよかったよ。」


と、話してくれたため、どおりで部長が優しいわけだと理解し


「どんな家庭の人でも、お互いさまに助け合って、不公平感がないっていいよねぇ。」


と彩は答えたのでした。
  
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