時を買う人

I_Ait-bkmJ

文字の大きさ
28 / 47

金の番人

しおりを挟む
「ほんと尊敬するわ。こんな深夜まで、あくせく働いて。そんな安月給じゃ俺なら辞めてるけどな」


各省庁の予算を査定するお役所にお勤めの渋谷光一は、深夜まで行われた仕事の帰りに、民間企業に就職した東大の同級生の麻生涼輔に出くわしてしまいこう言われた。


時代はバブル。若者は皆、煌びやかな格好で、青春を謳歌していた。


涼輔も例外でなく、ラフな服装をして、イカしたスポーツカーに乗り、ハデな女の子をつれて、いかにも羽振りの良さそうな生活を送っている。


「各省庁の予算をしっかり通してあげないと、君たちの生活にも支障がでてしまうから大切な仕事なんだよ。」


くたびれたスーツ姿の光一が少しイラつきながら言うと、


「はーい。優等生さまが配分してくれた予算で提供される行政サービスをしっかり消費することで社会貢献しまーす。」


と煽るような言葉を発して、涼輔は彼女と夜の町へ消えていった。


"大学の劣等生だったあいつがバブルの恩恵を享受しているのに、成績優秀で国民の為に尽くしたいという意欲のある自分がこんな惨めな生活しているのはおかしくないか?"


と思いながら、帰り道の商店街を通っていると、


"時(人生)買います。"


と書かれた札の付いた屋台があることに気付いた。


"もしかして、いそがしく仕事をして寝るだけの毎日を早く終わりにしてくれるんじゃないのか?"


そう思った光一は屋台に寄ってみることにした。


「いらっしゃい。この店はあなたの時間(人生)を売って、それと同等のモノ、経験、契約が手に入る店だよ。」


と店員が言った。


「今、自分が働いているお役所のトップになって民間企業に就職した同級生を見返してやりたいんですができますか?」


と光一がいうと、


「君の勤めているお役所のトップになる年齢は大体55歳位だから、今から23年の人生を売ってもらうことになるけどそれでもいいのかい?」


と店員が尋ねたので、


「売ってしまった時間の思い出はどうなるのでしょうか?」


と光一が質問すると、


「君がやったことは世間の記録としては残るけど、売ってしまった時間の思い出は君の記憶には残らないよ。」


と店員が答えた。


"それじゃあ。23年人生を早送りさせるのと同じだなぁ。ただ人生を売りさえすれば、同期で一人しかなれないトップになれるのだから売ってしまえ"


と思った光一は


「人生売ります。契約させてください。」


といい店員が出した契約書にサインをした。


光一がサインするや否や自身が部下から上がってくる各省庁の予算の査定にダメ出しをしていることに気が付いた。


「この道路は必要ないし、農業は栽培から販売まで自助努力で行わせないとダメじゃないか。他国が軍事進行してきたら傭兵に対応させなさい。」


"各省庁の予算を握るのって楽しい"


光一は、うきうきしてきた。


様々な予算を査定するなかで


"各国民が自主自立し、民間企業中心で生活をなりたたせていることこそが喜ばしいことではないか"


と思い、自己陶酔に浸っていた。


そんなとき


「本日は大学時代のお仲間との同窓会の予定だって言ってたじゃないですか。そろそろ退勤しないと遅刻っすよ。」


と部下から言われたので光一はあくせく役所を後にした。


"なんかよくわからんが、このスマホとやらのいう通りの場所で同窓会があるようだからいってみることにしよう"


なれないスマホ操作に悪戦苦闘しながら会場のホテルに、同窓会開始時刻ギリギリに到着した。


「よう。元気そうじゃないか」


声の方を振り向くと、白髪が目立つようになった涼輔がそこにいた。


「久し振りだな。仕事うまくいってるか?俺、役所のトップまで上り詰めたんだぜ。この国も民間中心でうまく回っているようだし俺の努力の賜物だな」


光一は涼輔に自身の成功を得意そうに語ったところ


「うまく回っているだと。とんでもない。あまりにも予算が絞られ過ぎていて行政サービスがいき届かなくなって、俺は家族で海外に移住したぜ」


涼輔がカリカリしながら言ったのを聞いて、


"ムカつく涼輔を見返してやりたかっただけなのに、どうやら俺はとんでもないことをしでかしてしまったようだぞ。"


と思った光一が、治安の悪くなった街中で強盗に襲われたのはその同窓会の帰り道だったそうですよ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...