アンフェア・ゲーム ~傲慢上司は生意気なインターンに勝てない~

つむぎ薫

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「すごい大差だね」
 
美和が言う。
 
スコアは110vs69と、とてもひっくり返りそうにない点差だ。

「負け戦だけど、せめて一矢報いてこい」

ベンチで監督に声をかけられている小柄な少年が目に入った。黒髪でびっくりするほど生っ白い。

美和の隣でに二階席の手すりに肘をついた男が鼻で笑う。 「……あんな細いので、何ができるんだよ」 言葉とは裏腹に、その視線は少年の白い脚を執拗に追っていた。
 
「浩二、パスくれ」

バッシュが床と擦れるキュッという高い音が体育館にこだました。二回、ゆっくりドリブルすると……反転。吸い付くようなボール捌きで一人目を剥がすと、白すぎる項(うなじ)が跳ねた。負け戦を楽しんでいるような、不敵なステップ。
二人目は、踊るような抑揚をつけて抜き去った。 視線だけでフェイクを入れ、逆を突く。重心を崩した相手の真横を通り過ぎる瞬間、少年の口元が微かに弧を描いた。 必死に食らいつく周囲とは明らかに違う、彼だけの優雅なリズム。床を蹴るたびに、さらりとした黒髪が汗を撒き散らして躍動する。

その瞬間、明確に「危険分子」だと判断されたのだろう。目の前に壁のような大男が二人、覆いかぶさるようにマークについた。

強引に突っ込むかと思いきや、少年は視線すら合わせず、背後へ鋭いパスを放った。ノールック。完全に意表を突かれた相手ディフェンスが棒立ちになる。

ガラ空きの浩二が放った三ポイントシュートが、美しい弧を描いてネットを揺らした。

歓声が上がる中、少年はガッツポーズもせず、乱れた前髪を無造作にかき上げた。汗で透けたユニフォームが細い肩に張り付いている。

「……へぇ」

ギャラリーからそれを見ていた男――遊佐(ゆさ)が、低く独り言を漏らした。 自分で決められたはずだ。それをあえて他人に譲る余裕が、猛烈に鼻につく。同時に、その傲慢なまでの「白さ」を今すぐコートから引きずり出して、汚してやりたいという衝動が内に熱く宿った。

ふいに、その透き通ったカフェオレ色の瞳が、流れるように会場の上を見渡した。 刹那、視線が交錯した――。 途端、遊佐の胸が強く拍動する。だが、少年の視線はすぐに逸れ、隣にいた家族へ向けて小さく手を振った。

「あの子、隠し球だったのかな。あたし、ちょっとタイプかも」

隣で美和が浮足立った声を出す。

「あ”ぁ?」

「やだ! 妬かないでよ遊佐ぁ」

甘ったるい香水と媚びた声を出す女に、遊佐は「もうこいつは潮時だな」と冷めた思考を巡らせた。

遠ざかる背中、ユニフォームには MASHIBA と書かれていた。



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