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第二章 工業都市ボルドー
2-5 異形の魔物
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時刻は昼下がり、ボルドー南門から数キロメートルほど離れた森林地帯にて。
「──これか? ……違うか。うーん、ここいらの固有種っぽい……異空間に放り込んでおくか」
組合で薬草採取依頼を受けたロウは、薬草採取に精を出していた。
元より薬師の息子として育ってきたこの少年にとっては、傷薬に使われる薬草の採取など朝飯前である。
「依頼分は集まったか。ククク……ここからは本来のお仕事の魔物狩りタイムだ」
彼が薬草を集めていたのは、冒険者組合で依頼を受けたからに他ならない。
ムスターファへと卸す素材の一部を冒険家組合へ渡すということも考えたロウだったが、それでは魔物素材を集めているということが周囲へ知られると判断。パーティーへの勧誘や討伐依頼などを持ちかけられ面倒事が増える予感がしたため、考えを棄却した。
(難儀なもんだな)
「そうでもないさ。薬草集めも間違い探しをしてる気がしてきて楽しいぞ」
少年自身は回りくどいこの状況をさほど苦とも思っていない。
それもそのはず。採取関連の仕事は幼少期より慣れ親しんだものであるし、目立たず生きるというのもやむを得ずのところもあるが、彼にとって本心でもあるのだ。
仮に自身の有する絶大な力を人目を憚らず行使すれば、自己顕示欲や承認欲求、食欲性欲と、人間の持つあらゆる欲を満たすことが出来よう。
しかしそれは、同時に嫉妬や逆恨みと言った負の感情も惹き付けてしまう。
この悪感情は、人の社会において力を示した場合に必ずついて回るもので、表裏一体だ。人間が他者との繋がりを持って生きていく以上、都合よく切り離すことはできない。
嫉妬や羨望が引き起こす醜い争いの例など、日本人時代の知識を持つロウは枚挙に暇がないほど知っている。誰が好き好んで火に入ろうとするのか。
つまりは、ロウは自身が犯罪者や魔族ではなかったとしても、みだりに力を行使する道を選ばないのだ。それどころか、人並みの欲望を持つ自分を抑え込む防波堤として機能している魔族の血に、感謝している節さえあった。
(──理性だけじゃ英雄的な憧れに抗えなかっただろうし、魔族生まれだったのは幸いだ。男のロマンとは度し難く、抗し難いものなのだから)
(いきなりどうした?)
思考を飛躍させ人間の抱える業を考察していたロウだが、サルガスは思考を読み取れていなかった。彼から見れば少年は何処かから電波を受信したポエマーである。
(サルガス、ロウは人間族の浅ましさについて考えていたのですよ)
「俺がぼんやり考えてたことを一言で言い表すとは……。というか、ギルタブは俺の抽象的な考えも読めるんだな」
いつぞや少年は彼女をポンコツ秘書と扱き下ろしたが、やはり基本的に優秀である。
そうやって曲刀たちと楽しいお喋り(脳内)をしながらも、ロウは手早く薬草を小さめの背嚢へ収納していく。ボルドーに着くまで使っていた巨大なバックパックは、「異空間」を習得したため異空間に放置されている。
薬草をしまい込み、第一目標は達成したロウ。ここからは第二目標、周辺探索や魔物狩猟、そして戦闘技能の修練である。
彼は元々は短剣や長剣の戦闘術を仕込まれていたため、曲刀の扱いにあまり慣れていない。
ならば何故バルバロイ襲撃の後に曲刀へ目を付けたのかといえば、盗賊として生きてきた観察眼が武器としての価値を見抜いたということもあるが、それ以上に中島太郎として曲刀への憧れがあったからだ。要は趣味である。
幸いにして、目を付けた曲刀は意志ある武器であり、極めて高度な技術で作られた逸品だった。しかし適当に振り回すだけでは猫に小判、豚に真珠である。
「──と、言うわけで今回は魔物を相手にするとき、極力魔法を使わない方向で行くのでよろしくな。名のある鍛冶師に打たれた曲刀として、俺に技術指導してくれても良いぞ」
(技術指導ねえ。今まで見てきたが、お前さんは既に基本が身に付いてるからな。将来的な話をすれば、俺が憑依することでハダルの剣技を実演することも出来るだろうが、まだまだ先の話だな)
「憑依!? スゲーな。あれか、剣聖の霊を降ろす的な」
少年漫画で言えばシ〇ーマンキ〇グ的なオー〇ーソ〇ルだろうかと、ロウは心躍らせる。
(今の私たちでは憑依することは難しいですね。指導すること自体は出来るので協力は惜しみませんが、サルガスの言う通りおおよその基本が出来上がってますからね……)
「むう。なら、戦いながら助言を貰う形になるか」
必殺技的な存在が遠のいたことを少し残念に思いながら、彼は身体強化と周囲探知を行い移動準備を整える。近くに隠れていた魔物とも狼ともつかない獣を追い払い、少年は周りに何者もいない状況を作り出した。
「さてさて。それじゃあ早速──」
周囲に目がない事を確認し空間魔法を構築した彼は、突如としてその場から掻き消える。昨夜新たに開発した空間魔法「透明化」を使ったのだ。
空間魔法に分類されるこの魔法は、対象となるものの周囲の空間を歪ませ、電磁波を迂回させるという単純な魔法である。
人にとっての可視光以外にも、波長の長い赤外線や波長の短い紫外線といった様々な波長の電磁波の進路を歪ませているこの魔法。人族以外の眼でも暴くのは難しく、カメレオンのような擬態ではない完全なる不可視を実現している。
視覚による認識が物体からの反射を利用していることを逆手に取った空間魔法だが、一方で──。
「便利だけど、こえーなこれ」
自身を透明化させ、組合から危険地帯と呼ばれている場所へ疾走しながら、ロウは呟く。
──そう。彼の創る魔法は大体欠陥がある。この「透明化」もその例に漏れない。
空間を歪め光を遮断しているこの魔法。使っている当人も何も見えなくなるのだ。
字面を見ればとんでもない欠陥に思えるが、ロウが疾走しているのは無闇矢鱈に走っているのではない。魔力の探知を行い外部から情報を得た上で道を選び、駆け抜けているのだ。
(よくもまあ次から次へと思い付くな……)
「ネタだけならまだまだあるぞ。この『透明化』みたいに、実用化したときに微妙な感じの効果になりそうなものも多いけど」
(少なくとも、この魔法は移動中に使うような効果ではないと思うのです)
などという突っ込みを受けながら走ること十数分。
樹木や野生動物とは明らかに異なる、大きく濃い魔力の気配を少年は察知した。
「流石、冒険者組合をして危険地帯と言うだけはあるな。まだ距離があるのに、圧力をヒリヒリと感じる」
強力な波動は歪んだ空間さえも貫通する。この性質を利用してロウは内部から周囲を探っているし、彼が歪んだ空間の内側で感じている圧力も同様である。
つまりは、透明化を行っている現状でも、この相手には察知される可能性があるということだ。
こうなってしまえばロウの方が不利である。相手からはロウが視覚的に見えないだけだが、ロウは自分以外何も見えないのだ。
「……」
気配を消したまま少年は透明化への魔力の供給を止める。
件の気配はゆっくりと移動中。方向はロウの側ではなく、南へ──山脈方面へ向かっているようだ。
「……ふぅ」
早鐘を打つ心音を聞くこと数十秒、ロウの視界が元へ戻る。しばし光に目を慣らし、彼は標的への接敵を開始した。
音も無く森の中を走り、揺れも無く生い茂る草木の間をすり抜ける。
彼我の距離は確実に縮まり、あと数十秒も経てば接触するというところで──視界にその異形を捉えた。
「──!」
甲殻類のような脚を打ち鳴らし闊歩する、全身が青白い非常に大柄な半人馬。それがロウの感じた第一印象。
より詳細に観察した少年は半人馬などではないと理解する。
まずもって細くも巨大な体躯、体高三メートルほど。
次に腕部。人の上半身のような細身の胴体の肩部から一対、その肩甲骨付近からもう一対。そして頭部下顎あたりから一本。計五本の青白く長い、不気味な腕がするりと生える。
顔はロウの観察する背中側から窺うことができないが、青紫色のたてがみが見える頭部は馬に似ているようだ。首も長い。
下半身を構成する四足獣のサイのような胴体は、上半身の細さと対照的に筋肉質。そこから突き出すように生えた甲殻類の如き八本脚が、歪な印象を見る者に植え付ける。
大型獣のような胴体の臀部からは奇怪な尾も生えており、サソリのようにゴツゴツとしたその尾は、黒く長い槍のようだ。この尻尾だけでも魔物の危険度が窺い知れようものである。
肝心の魔力の色は濃密な紫。ロウが出会った中で最も濃い魔力だった枯色竜ドレイクには及ばないが、かの強敵フードと同程度の濃さはある。
「……」
時を忘れその異形を観察していたロウは正気を取り戻し、曲刀たちに助言を求めるべく脳内で問いかける。
(あれは……なんだ? 例の迷宮で生まれた魔物なのか?)
(あんな異形は見たことも聞いたことも無いな。あれが仮にここいら近辺の固有種なら、とっくに人間族の町など崩壊していそうだし、偶発的に生まれたのかもしれん)
(魔神が作り出した神造魔物かもしれませんね。歪な肉体に濁った魔力の気配、とても自然発生した種とは思えないのです)
三人寄っても答えは出ない。
都市とは反対側へ向かっているため、人里に現れることは無さそうだが──。
(──あれ、倒せると思うか?)
(お前さんならやってやれないことはないだろうが。あの魔力量からして純粋な身体能力だけでも危険、魔法でも使われたら殺されるかもしれないぞ)
(力を試してみたい気持ちがあるのかもしれませんが、あまり良い相手ではないと思うのです。とはいえ、実戦で都合の良い相手とだけと戦えるわけではありませんから、そういった意味では丁度良い“都合の悪い”相手かもしれません)
曲刀たちは戦うべきではないと考えてはいるが、ロウを積極的に止めることは無い。
(……やってみるか)
他方、ロウは戦いたかった。その感情の出所は、過ぎた力を手に入れたひと時の万能感からきているのか、それとも自身に流れる魔族の血が騒ぐのか。
(身体が震えるのは武者震いかただの恐怖か……。間合い外からのギルタブの居合で首を刎ねて終わればいいんだが)
ロウは背嚢とディエラから貰ったローブを異空間へ収納した。あの異形と戦いになれば、ローブの着用や荷物による僅かな動きの制限が致命傷となりかねない。
戦闘状態へと意識を切り替え、少年は音も無く異形の魔物への接近する。
かの異形へ、死角からの致命の一撃を与えるために。
「──これか? ……違うか。うーん、ここいらの固有種っぽい……異空間に放り込んでおくか」
組合で薬草採取依頼を受けたロウは、薬草採取に精を出していた。
元より薬師の息子として育ってきたこの少年にとっては、傷薬に使われる薬草の採取など朝飯前である。
「依頼分は集まったか。ククク……ここからは本来のお仕事の魔物狩りタイムだ」
彼が薬草を集めていたのは、冒険者組合で依頼を受けたからに他ならない。
ムスターファへと卸す素材の一部を冒険家組合へ渡すということも考えたロウだったが、それでは魔物素材を集めているということが周囲へ知られると判断。パーティーへの勧誘や討伐依頼などを持ちかけられ面倒事が増える予感がしたため、考えを棄却した。
(難儀なもんだな)
「そうでもないさ。薬草集めも間違い探しをしてる気がしてきて楽しいぞ」
少年自身は回りくどいこの状況をさほど苦とも思っていない。
それもそのはず。採取関連の仕事は幼少期より慣れ親しんだものであるし、目立たず生きるというのもやむを得ずのところもあるが、彼にとって本心でもあるのだ。
仮に自身の有する絶大な力を人目を憚らず行使すれば、自己顕示欲や承認欲求、食欲性欲と、人間の持つあらゆる欲を満たすことが出来よう。
しかしそれは、同時に嫉妬や逆恨みと言った負の感情も惹き付けてしまう。
この悪感情は、人の社会において力を示した場合に必ずついて回るもので、表裏一体だ。人間が他者との繋がりを持って生きていく以上、都合よく切り離すことはできない。
嫉妬や羨望が引き起こす醜い争いの例など、日本人時代の知識を持つロウは枚挙に暇がないほど知っている。誰が好き好んで火に入ろうとするのか。
つまりは、ロウは自身が犯罪者や魔族ではなかったとしても、みだりに力を行使する道を選ばないのだ。それどころか、人並みの欲望を持つ自分を抑え込む防波堤として機能している魔族の血に、感謝している節さえあった。
(──理性だけじゃ英雄的な憧れに抗えなかっただろうし、魔族生まれだったのは幸いだ。男のロマンとは度し難く、抗し難いものなのだから)
(いきなりどうした?)
思考を飛躍させ人間の抱える業を考察していたロウだが、サルガスは思考を読み取れていなかった。彼から見れば少年は何処かから電波を受信したポエマーである。
(サルガス、ロウは人間族の浅ましさについて考えていたのですよ)
「俺がぼんやり考えてたことを一言で言い表すとは……。というか、ギルタブは俺の抽象的な考えも読めるんだな」
いつぞや少年は彼女をポンコツ秘書と扱き下ろしたが、やはり基本的に優秀である。
そうやって曲刀たちと楽しいお喋り(脳内)をしながらも、ロウは手早く薬草を小さめの背嚢へ収納していく。ボルドーに着くまで使っていた巨大なバックパックは、「異空間」を習得したため異空間に放置されている。
薬草をしまい込み、第一目標は達成したロウ。ここからは第二目標、周辺探索や魔物狩猟、そして戦闘技能の修練である。
彼は元々は短剣や長剣の戦闘術を仕込まれていたため、曲刀の扱いにあまり慣れていない。
ならば何故バルバロイ襲撃の後に曲刀へ目を付けたのかといえば、盗賊として生きてきた観察眼が武器としての価値を見抜いたということもあるが、それ以上に中島太郎として曲刀への憧れがあったからだ。要は趣味である。
幸いにして、目を付けた曲刀は意志ある武器であり、極めて高度な技術で作られた逸品だった。しかし適当に振り回すだけでは猫に小判、豚に真珠である。
「──と、言うわけで今回は魔物を相手にするとき、極力魔法を使わない方向で行くのでよろしくな。名のある鍛冶師に打たれた曲刀として、俺に技術指導してくれても良いぞ」
(技術指導ねえ。今まで見てきたが、お前さんは既に基本が身に付いてるからな。将来的な話をすれば、俺が憑依することでハダルの剣技を実演することも出来るだろうが、まだまだ先の話だな)
「憑依!? スゲーな。あれか、剣聖の霊を降ろす的な」
少年漫画で言えばシ〇ーマンキ〇グ的なオー〇ーソ〇ルだろうかと、ロウは心躍らせる。
(今の私たちでは憑依することは難しいですね。指導すること自体は出来るので協力は惜しみませんが、サルガスの言う通りおおよその基本が出来上がってますからね……)
「むう。なら、戦いながら助言を貰う形になるか」
必殺技的な存在が遠のいたことを少し残念に思いながら、彼は身体強化と周囲探知を行い移動準備を整える。近くに隠れていた魔物とも狼ともつかない獣を追い払い、少年は周りに何者もいない状況を作り出した。
「さてさて。それじゃあ早速──」
周囲に目がない事を確認し空間魔法を構築した彼は、突如としてその場から掻き消える。昨夜新たに開発した空間魔法「透明化」を使ったのだ。
空間魔法に分類されるこの魔法は、対象となるものの周囲の空間を歪ませ、電磁波を迂回させるという単純な魔法である。
人にとっての可視光以外にも、波長の長い赤外線や波長の短い紫外線といった様々な波長の電磁波の進路を歪ませているこの魔法。人族以外の眼でも暴くのは難しく、カメレオンのような擬態ではない完全なる不可視を実現している。
視覚による認識が物体からの反射を利用していることを逆手に取った空間魔法だが、一方で──。
「便利だけど、こえーなこれ」
自身を透明化させ、組合から危険地帯と呼ばれている場所へ疾走しながら、ロウは呟く。
──そう。彼の創る魔法は大体欠陥がある。この「透明化」もその例に漏れない。
空間を歪め光を遮断しているこの魔法。使っている当人も何も見えなくなるのだ。
字面を見ればとんでもない欠陥に思えるが、ロウが疾走しているのは無闇矢鱈に走っているのではない。魔力の探知を行い外部から情報を得た上で道を選び、駆け抜けているのだ。
(よくもまあ次から次へと思い付くな……)
「ネタだけならまだまだあるぞ。この『透明化』みたいに、実用化したときに微妙な感じの効果になりそうなものも多いけど」
(少なくとも、この魔法は移動中に使うような効果ではないと思うのです)
などという突っ込みを受けながら走ること十数分。
樹木や野生動物とは明らかに異なる、大きく濃い魔力の気配を少年は察知した。
「流石、冒険者組合をして危険地帯と言うだけはあるな。まだ距離があるのに、圧力をヒリヒリと感じる」
強力な波動は歪んだ空間さえも貫通する。この性質を利用してロウは内部から周囲を探っているし、彼が歪んだ空間の内側で感じている圧力も同様である。
つまりは、透明化を行っている現状でも、この相手には察知される可能性があるということだ。
こうなってしまえばロウの方が不利である。相手からはロウが視覚的に見えないだけだが、ロウは自分以外何も見えないのだ。
「……」
気配を消したまま少年は透明化への魔力の供給を止める。
件の気配はゆっくりと移動中。方向はロウの側ではなく、南へ──山脈方面へ向かっているようだ。
「……ふぅ」
早鐘を打つ心音を聞くこと数十秒、ロウの視界が元へ戻る。しばし光に目を慣らし、彼は標的への接敵を開始した。
音も無く森の中を走り、揺れも無く生い茂る草木の間をすり抜ける。
彼我の距離は確実に縮まり、あと数十秒も経てば接触するというところで──視界にその異形を捉えた。
「──!」
甲殻類のような脚を打ち鳴らし闊歩する、全身が青白い非常に大柄な半人馬。それがロウの感じた第一印象。
より詳細に観察した少年は半人馬などではないと理解する。
まずもって細くも巨大な体躯、体高三メートルほど。
次に腕部。人の上半身のような細身の胴体の肩部から一対、その肩甲骨付近からもう一対。そして頭部下顎あたりから一本。計五本の青白く長い、不気味な腕がするりと生える。
顔はロウの観察する背中側から窺うことができないが、青紫色のたてがみが見える頭部は馬に似ているようだ。首も長い。
下半身を構成する四足獣のサイのような胴体は、上半身の細さと対照的に筋肉質。そこから突き出すように生えた甲殻類の如き八本脚が、歪な印象を見る者に植え付ける。
大型獣のような胴体の臀部からは奇怪な尾も生えており、サソリのようにゴツゴツとしたその尾は、黒く長い槍のようだ。この尻尾だけでも魔物の危険度が窺い知れようものである。
肝心の魔力の色は濃密な紫。ロウが出会った中で最も濃い魔力だった枯色竜ドレイクには及ばないが、かの強敵フードと同程度の濃さはある。
「……」
時を忘れその異形を観察していたロウは正気を取り戻し、曲刀たちに助言を求めるべく脳内で問いかける。
(あれは……なんだ? 例の迷宮で生まれた魔物なのか?)
(あんな異形は見たことも聞いたことも無いな。あれが仮にここいら近辺の固有種なら、とっくに人間族の町など崩壊していそうだし、偶発的に生まれたのかもしれん)
(魔神が作り出した神造魔物かもしれませんね。歪な肉体に濁った魔力の気配、とても自然発生した種とは思えないのです)
三人寄っても答えは出ない。
都市とは反対側へ向かっているため、人里に現れることは無さそうだが──。
(──あれ、倒せると思うか?)
(お前さんならやってやれないことはないだろうが。あの魔力量からして純粋な身体能力だけでも危険、魔法でも使われたら殺されるかもしれないぞ)
(力を試してみたい気持ちがあるのかもしれませんが、あまり良い相手ではないと思うのです。とはいえ、実戦で都合の良い相手とだけと戦えるわけではありませんから、そういった意味では丁度良い“都合の悪い”相手かもしれません)
曲刀たちは戦うべきではないと考えてはいるが、ロウを積極的に止めることは無い。
(……やってみるか)
他方、ロウは戦いたかった。その感情の出所は、過ぎた力を手に入れたひと時の万能感からきているのか、それとも自身に流れる魔族の血が騒ぐのか。
(身体が震えるのは武者震いかただの恐怖か……。間合い外からのギルタブの居合で首を刎ねて終わればいいんだが)
ロウは背嚢とディエラから貰ったローブを異空間へ収納した。あの異形と戦いになれば、ローブの着用や荷物による僅かな動きの制限が致命傷となりかねない。
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